最低賃金の引き上げは日本経済再生の第一歩

(全文→PDF)

2012年5月24日
労働運動総合研究所

○厚労省の『賃金構造基本統計調査(2009年)』の対象労働者(回収ベース1587万人)を前提に、最低賃金を、全国一律で時給1000円に引き上げた場合の経済効果を試算した。
 最低賃金の時給1000円への引き上げによって、約2252万人の労働者の賃金が月平均2万4049円上昇し、全体の賃金支払総額が年間6兆3728億円増加し、それに伴って内需(家計消費支出)が4兆5601億円増加する。産業連関表を利用してその生産誘発効果を試算すると、各産業の国内生産が7兆7858億円拡大し、GDPを0.8%押し上げる効果をもつことがわかった。
 その結果、約41万人の雇用と7231億円の税収増が期待される。(表1)

表1 最低賃金引き上げの経済効果
−時給1000円に引き上げた場合−

効  果 単位
現金給与総額の増加 (全対象労働者) 億円 63,728
内需(家計消費)の増加 億円 45,601
国内生産の増加(生産誘発効果 億円 77,858
GDPの増加(付加価値誘発効果 億円 40,734
雇用の増加 (注1) 410,565
税収増 (注2) 億円 7,231
生活保護費の支出減 億円 約3800
物価上昇 0.68

<参考>
2010年の内部留保額 兆円 461.0
内部留保に占める必要経費の割合 1.43

(注1) 「雇用の増加」は、内需の拡大に誘発された生産の増加によってこの人数に相当する仕事量が増えることを意味する。もし、残業等によって労働時間が増えれば、その分雇用は増加しない。
(注2) 国税と地方税を合わせた税収である。なお、地方税分は約43%。
[資料] 総務省「家計調査」、「平成17年産業連関表」
財務省「法人企業統計」、税務関係資料等から作成。

○生活保護世帯が急増し、財政負担が国・地方合わせて約3兆円に達しているが、被保護世帯の12.9%は世帯主または世帯員が働いている世帯である。最低賃金を時給1000円に引き上げれば、この人たちを生活保護から解放することが出来、それに伴って約3800億円の財政支出削減となる。
 さらに、1998年以降生活保護世帯が急増しているが、その原因の多くは、定年・失業、老齢、倒産、および、転職等に伴う収入減であり、この間の労働者、中小企業に対する犠牲転嫁がなければ、生活保護世帯もそのための財政支出も約半分になっていたはずである。

○最低賃金引き上げの対象となる低所得者層は、収入増加分の約70%を消費し、内需(家計消費)を拡大するが、高所得者層の消費は50%強にすぎず、最低賃金の引き上げは、内需拡大効果が大きい。また、それによって誘発される国内生産は、商業、不動産、食料品、教育、通信、飲食店等々の中小企業分野により強く表れる。したがって、最低賃金引き上げによる中小企業の生産コスト増を心配する声があるが、積極経営の立場に立ち、当面の苦しさはあったとしても、最賃引上げに賛同し、労働者と力をあわせて、単価引上げや取引慣行の改善、中小企業支援策などを大企業と政府に対し、要求していくべきである。

○日本経済は、20年を越える長期不況が続いている。その原因として内需不足(デフレギャップ)による価格低下、円高による輸出採算の悪化と安値輸入品の急増、産業空洞化などが言われているが、それらは、目先の利益ばかりに目を奪われてリストラ競争に明け暮れてきた日本企業、それを推奨した新自由主義的経済政策、煽りたてたマスコミ等に原因があり、このままでは、やがて日本は“高度に技術の進歩した貧困国”になりかねない。最低賃金の時給1000円への引き上げは、日本経済の方向転換・再生の第一歩となるものである。

○最低賃金を時給1000円に引き上げたとしても、該当する労働者の賃金は、月平均12.2万円から14.6万円へ2.4万円アップするに過ぎない。日本の企業が民事再生法による18歳単身世帯の最低生活費の全国平均18万0245円や生活保護基準の全国平均15万0157円程度の賃金を支払えないはずはない。

○最低賃金を時給1000円に引き上げるためには、企業全体で6兆5841億円の原資が必要になるが、その額は、2009年度末における内部留保441.0兆円の1.49%、大企業のみで負担するとしても、内部留保257.7兆円の2.55%にすぎない。