2013年春闘提言の発表にあたって
労働総研(労働運動総合研究所)は12月26日、2013年春闘提言「賃上げと雇用の改善で『デフレ不況』の打開を―外需依存型から内需充実型に転換し経済基盤を再構築―」(全文・PDF)を発表した。以下は、そのポイントである。
【労働総研の主張】
日本経済は1990年代初頭のバブル崩壊後、“失われた20年”といわれる深刻な長期不況に陥っている。その背景には、目先の利益ばかり追求する財界・大企業の『新時代の「日本的経営』」戦略がある。国際競争力強化を名目として人件費の削減や下請け単価の切り下げなどによる徹底したコスト削減を図り、海外進出を本格的に開始した。その結果、大企業は、「売り上げが伸びなくても利益が上がる経営」を手にしたが、日本経済は賃金の低下を主因とする内需の縮小に見舞われ、それが日本経済のマイナス成長の直接・最大の原因となった。
提言では、こうした状況を踏まえ、(1)日本経済の今日の「デフレ不況」を打開するためには、日本経済を外需依存型から内需充実型に転換し、経済構造の基盤をしっかりと再構築する必要がある、(2)そのカギは、目先の利益ばかり追い求め国内経済を省みない企業経営を、国民生活重視、従業員重視の方向に転換することであり、労働者の賃金引き上げと深刻な雇用・失業問題の解決が第一歩となる、(3)そのために、これまでに溜めこんできた膨大な内部留保を社会的に還元・活用することは、極めて有効である――という見地から、賃上げと働くルールの厳守による雇用創出と、それによる経済効果について試算した。
【試算内容と結果】
今回の試算は、2013年春闘の当面する課題として、(1)働くルールの確立――(1)不払い労働(サービス残業)の根絶、(2)年次有給休暇の完全取得、(3)週休2日制の完全実施、(2)最低賃金を時給1000円に引き上げ、(3)賃金水準を1997年のピーク時まで回復――(1)3年計画で回復、(4)非正規雇用労働者の正社員化(正社員を希望する非正規雇用労働者の全員正社員化)の4つにしぼって、産業連関表を活用して計算した。ただし、賃金については、(2)と(3)で重複する労働者がでてくることから、全体の経済波及効果においては、(3)のみをとりあげることにした。
その結果、(1)働くルールの確立、(3)賃金の引き上げ、(4) 非正規雇用の正規化による経済波及効果は表のようになる。国内需要が34.6兆円拡大し、その需要が国内生産を55.9兆円誘発する。それに伴って、GDP(枢t加価値)が30.4兆円拡大し、新規雇用が736万人増える。税金も、国・地方合わせて4.8兆円の増収になることが分かった。それに必要な原資は55.94兆円であり、2011年度末の内部留保の12.2%を取り崩せば済む。
2011年のGDPは470兆円だから、GDP(経済成長率)が6.47ポイント上昇することになる。
内部留保の活用による労働条件の改善こそデフレ不況から脱出の道
――国内総生産(GDP)が30.4兆円、雇用が736万人増加し、税収も4.8兆円増――
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現金給与総額の増加 |
国内需要(家計消費支出)の増加 |
国内生産誘発額 |
付加価値吹iGDP)誘発額 |
税収増(国・地方) |
新規雇用 |
雇用誘発 |
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(兆円) |
(兆円) |
(兆円) |
(兆円) |
(兆円) |
(万人) |
(万人) |
1 働くルールの確立 |
11.17 |
6.69 |
11.84 |
5.91 |
0.93 |
420.6 |
71.7 |
1-1 不払い労働根絶 |
7.47 |
4.47 |
7.92 |
3.96 |
0.62 |
281.3 |
47.9 |
1-2 年休完全収得 |
3.47 |
2.08 |
3.68 |
1.84 |
0.29 |
130.8 |
22.3 |
1-3 週休2日制完全実施 |
0.23 |
0.14 |
0.24 |
0.12 |
0.02 |
8.5 |
1.4 |
2 最低賃金を時給1000円に引き上げ |
6.52 |
6.02 |
10.58 |
5.25 |
0.82 |
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66.5 |
3 賃金水準を97年ピーク時まで回復 |
36.07 |
21.6 |
32.96 |
18.97 |
2.98 |
|
174.7 |
3-1 同上を3年計画で回復 |
12.02 |
7.2 |
10.99 |
6.32 |
0.99 |
|
58.2 |
4 非正規雇用の正規化 |
8.7 |
6.3 |
11.07 |
5.49 |
0.86 |
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69.6 |
合 計 (1+3+4) |
55.94 |
34.6 |
55.9 |
30.4 |
4.8 |
420.6 |
316 |
(注) 「新規雇用」は、施策の実施によって新たな増員が必要となる雇用者の数」、「雇用誘発」は、国内生産の増加に伴う労働量の増加を、雇用者数に換算したものである。
資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査」、「就業構造基本調査」、2012年版「労働経済の分析」内閣府「労働力調査」、総務庁「家計調査」、「平成17年産業連関表」等から作成した
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