労働総研ニュース

研究・調査活動
研究・調査活動

研究部会

会員からの提案に基づいて調査・研究活動を行う場として、「研究部会」が設置されています。研究部会の設置期間は1年(継続可)で、設置を希望する会員は研究計画書を研究委員会に提出し、理事会の承認を受けて活動を行います。2025年度は7つの研究部会が設置されており、希望する会員は研究部会の活動に参加することができます。

【2025年度の研究テーマ】
雇用におけるジェンダー平等の実現―女性が自立して人間らしく生き、働く
 
【2025年度の研究計画】
「少子化」や「労働力不足」が社会問題になる下で女性の労働参加が課題になっているが、性別役割分担を背景にして、女性労働者の過半数が低賃金・不安定雇用の非正規労働者であり、高齢女性の低年金、貧困などの実態がある。女性が自立して生き、働くことができるジェンダー平等社会の実現に向けて労働政策について検討する。
*ジェンダー平等実現と労働時間―長時間労働の改善、労働時間の短縮
「労働基準関係法制研究会報告書」がねらう労働法制改悪の動きと女性労働者
*非正規女性労働・雇用形態差別の是正、最低賃金の引き上げ、ケア労働者の処遇改善
*男女賃金格差の是正、同一価値労働同一賃金の実現
*女性の自立にむけて―「年収の壁」と税制・社会保障制度の個人単位化
*セクハラ・マタハラをはじめあらゆるハラスメントの根絶
*政府・財界の女性労働政策の分析と世界の水準・制度(国連・ILO・EUなど)
*諸外国のジェンダー平等と女性労働者の現状

【2025年度の研究テーマ】
公正取引実現に向けた下請取引の改善と中小企業労働者の地位改善に関する研究

【2025年度の研究計画】
公正取引委員会が設置した企業取引研究会報告書(2024年12月)にパブリックコメントとして寄せられた意見は、今年予定されている下請法の改正に対して影響力を持つものと予想される。
これまでも大企業による優越的地位の濫用について、公取は個別の事例を発表して是正・改善指導をしてきてはいるが、重層下請構造の最末端までは、改善が行き届いていない。他方、中小企業家団体や業者団体、労働組合などが公正取引や中小企業支援策の拡充を求めて取り組みを強めているが、理論政策の面でさらに研究を深める必要がある。
特に地域の中小企業が繁栄するための前提として、人口減少地域の課題、災害復興途上の地域の課題、そして衰退する地方自治体の行政力の再生、新しい公共の再確立等課題は山積している。
本研究部会は、長年にわたる研究の蓄積を生かしながら、これらの課題に応えるべく、公開研究会を開催し、そこでの討議をふまえて、労働総研の刊行物にその成果を公表していく。

【2025年度の研究テーマ】
①労働時間の実態とその要因、労働時間法制と労働時間の国際比較と国際労働基準
②労働時間短縮の意義といのちと健康を守る労働安全衛生活動
③労働時間短縮運動と労働時間要求・政策と課題
④研究所プロジェクト・課題別プロジェクト研究に関わる労働時間問題

【2025年度の研究計画】
①2~3カ月に1回の研究会と年1回の公開研究会を行う。
②研究会では上記の研究テーマをもとに、部会の参加者からの報告と討論を行う。さらに、これらをとりまとめた公開研究会で進めていく。
③研究活動の成果は、『労働総研クォータリー』をはじめ、協力団体の機関紙・誌で公表する
④公開研究会の共催・協賛団体の金属労働研究所、(公財)社会医学研究センターと研究会協力団体の「働くもののいのちと健康を守る全国センター」、全労連などと共同して活動を進める。
⑤これまでの労働総研研究所プロジェクトとの共同研究活動をふまえ、今後の研究所プロジェクト・課題別プロジェクト研究テーマも視野に活動を進めていく。

【2025年度の研究テーマ】
職場闘争、産別闘争、春闘再生―労働運動の階級的強化のための回路、諸条件の検討

【2025年度の研究計画】
〇職場闘争、ストライキ
・事例検討 教訓の整理-医労連、JMITU、全労連・全国一般、福祉保育労
〇産別統一闘争。春闘論
・産別統一闘争 事例検討-日本医労連、JMITU
・全国的闘争
・ナショナルセンターの役割
・産別と地域の連携  事例検討
○エッセンシャルワーカーの労働運動
▽公務労働組合、自治体、教育労働、医療労働
〇組織づくり。組織化論。非正規組織化
・事例検討 教訓の整理
〇最賃闘争
・大衆的な最賃闘争をどうつくるか。そのための条件。事例検討
○政策制度闘争と対使用者闘争

 

【2025年度の研究テーマ】
社会保険制度のしくみに隠されている格差、分断、税制を可視化する

【2025年度の研究目的】
 我が国の社会保障制度改悪の中で、労働組合運動が社会保障制度の改善に向けた情報発信の一助に資するために、社会保険制度のしくみに隠されている格差、分断、税制を可視化することを目的とする。
 医療保険制度、介護保険制度、年金保険制度について一定期間ごとに見直しされているが、その見直しのたびに、①格差の拡大、②組合の分断、③所得の再分配機能の低下、が進んできていることを明確にし、労働組合運動に活用できるような資料を作成する。2024年度の研究を継続していきたい。

【2025年度の研究目的】
 今年度は、部会構成員による報告と討議を4回程度開催し、その成果をまとめる。
 ・介護保険制度における格差、分断、税制の現状
 ・1年間の総括

【2025年度の研究テーマ】
AIが変える労働世界と労働運動の再構築

【2025年度の研究計画】
人工知能(AI)による変化する労働世界への注目が集まっている。2025年現在では、AIを活用している分野として、Amazonの配送と、ウーバー・イーツ(以下、ウーバー)に代表されるフード・デリバリーを指摘できる。この両者は配送業務に係わる業務指示をAIによって行い、その指示に従って、配送員は業務を遂行する。
通常、業務指示、指揮・命令は人間によって行われ、その指示に従って労働者は仕事をする。よって、両者の関係は、使用者と労働者の労使関係となり、法的には民法でなく労働法によって規制される。ただ、Amazonもウーバーも、AIによって配送員を指揮・命令するので、労使関係の成立を否定している。そのため両者は、配送員を雇用労働者でなく個人事業主と主張している。
 このようにAIによって変化する労働世界は、従来の労使関係に大きな変容を迫りつつある。本研究では、AIが労働世界をどのように変えるのか、その実態把握と、その変化に対抗する労働組合への調査を通して、労働運動の「変化」について明らかにしたい。
また、研究会として、若い大学院生の育成にも力を入れたい。

【2025年度の研究テーマ】
今日における支配層の対労働戦略の批判的検討

【2025年度の研究計画】
本研究部会は労働者、労働組合をめぐる階級対抗が政治や法のレベルにどのように現れているかを主たる研究対象とする。
本年度は引き続き「労働基準関係法制研究会報告」等を検討する。厚労省に2024年1月に設置された「労働基準関係法制研究会」は荒木尚志を座長として、水町勇一郎、山川隆一ら労働法学者を交えて議論を重ね、25年1月に報告書を出した。しかし、この間の組織率の推移に示されるように労働組合の力は総体的に低下しつつあり、それを反映するように毎年出されている日経連『経労委報告』は労働組合に対する警戒感も緊張感も希薄である。
こうしたなかで支配層はどうして「労働基準関係法制研究会」を立ち上げ、労働基本法の「デロゲーション」をわざわざ俎上に載せなければならなかったのか、またその中でとくに「過半数代表」について警戒を抱くのか。支配層の対労働戦略に法改正ないし権利制限の意思がなぜ登場したのか、どのような課題意識に基づくのかを明らかにする。
前年度に実施した基本的資料や文献の検討を踏まえて、労働組合関係者や労働法研究者等をゲストに招き、現場の実態や諸外国の法制度との比較など、多角的な視点から議論を行う。

課題別プロジェクト

「課題別プロジェクト研究」は、労働者をめぐる情勢や雇用・労働法制をめぐる動きなどについて、全労連、地方労連、単産その他関連団体と共同して調査・研究を行っているものです。研究期間は原則として1年で、研究成果は『労働総研クォータリー』、ホームページ等で発表することとしています。

1 研究テーマ

日本におけるジョブ型雇用・ジョブ型賃金の実態とその対抗策についての研究(2024年度からの継続)

2 研究計画

(1)研究期間
 2025年6月〜2025年12月

(2)研究目的
 2024年6月より日本におけるジョブ型雇用・ジョブ型賃金について、実態面の調査研究を進めてきたが、研究期間を半年延長する。
現在まで、ジョブ型雇用の実態について日本IBM、NEC、富士通、NTTについて、組織している労働組合から報告を受け、把握に努めてきた。その結果、日本企業のジョブ型雇用・賃金は、職務等級と評価によって賃金が決定される制度であり、従来の役割等級制と基本的には同一である、ことが明らかになった。
 同時にジョブ型にすることによって、高能力者、高評価者に高い賃金を支払い、低評価者は昇給しない、賃金格差を拡大させる制度であることが明らかになった。
 ただ、実態調査は電機・情報通信企業に止まっており、他の企業の動向はまだ明らかになっていない。また政府の労働市場改革と財界の自社型雇用システムとの関係や狙いとの関係については、十分な分析をしていない。そこで、残された課題を調査研究し、出版に向けて、研究を継続したい。

(3)研究計画(残された課題)
①電機・情報通信企業以外でのジョブ型雇用システムの導入の実態調査
・トヨタなど自動車産業での動き
・公務での導入の動き
・金融での人事処遇制度改革の動きの調査研究
②労働市場改革とジョブ型雇用についてのマクロ分析
・降格・降給制度の実態と流動化
降格・降給→解雇・退職→他企業・産業への移動となるのか
・ジョブ型とリ・スキリング(能力開発)との関係
③ジョブ型雇用は日本的雇用システムを変えるのか?
・一時的な流行なのか、ジョブ重視への変更につながるのか
④労働組合の対抗軸

1 研究テーマ

マイクロデータを使った雇用・就業構造の変化に関する研究

2 研究計画

(1)研究期間
 2025年6月〜2026年5月

(2)研究目的
 1990年代半ば以降、雇用の弾力化を追求する企業の雇用管理と、これを支援する労働法制の規制緩和によって、正規雇用が削減される一方、非正規雇用が顕著に増加した。ところが、2010年代に入って、この基調に変化が見られるようになった。とくに女性についてこの傾向がよりはっきり現れている。この変化の実態と要因について、「就業構造基本調査」(2012年、17年)のマイクロデータの分析をとおして明らかにする。
 非正規雇用が増加した要因として自営業層の減少が指摘される一方、フリーランスやギグワーカーと言われるような自営的就業者が増加しており、雇用と自営の境界が曖昧になり就業構造の多様化は複雑さを増している。このような就業構造の変化について「就業構造基本調査」(1997年、2007年、2017年)の比較により明らかにする。
 「国民生活基礎調査」によると、相対的貧困率と子どもの貧困率は2012年をピークに低下傾向にある。本研究では、貧困率の低下要因を解明することを目的とする。その際、特に、2008年に改正最低賃金法が施行されて以後の最低賃金の高まりに注目する。

(3)研究計画
・2012年から17年にかけて非正規雇用から正規雇用に転換したのはどのような労働者か、また、非正規雇用に滞留しているのはどのような労働者か、などについて、職業(現職、前職)、年齢、学歴、配偶者の状況などの分析をとおして明らかにする。
・1997年から2017年にかけて、正規雇用、非正規雇用、自営業として就業している労働者の分布の変化について、業種別・企業規模別、学歴・年齢別、配偶状況別の分布などの分析をとおして明らかにする。
・「就業構造基本調査」(1992年~2022年)のオーダーメード集計で得られたデータから都道府県別の貧困率と子どもの貧困率を推計する。これらの貧困率を従属変数として、都道府県別の最低賃金額、失業率、三世代同居率、非正規率、共働き率、労働組合組織率などを独立変数として、重回帰分析を行う。各独立変数の回帰係数が有意か非有意か、標準化回帰係数の大きさ、さらに年代別の比較を通して、貧困率に影響を与える要因や、その変遷を解明する。

研究所プロジェクト

労働総研は定款第3条および第4条にもとづき、調査研究活動の中心に「研究所プロジェクト」を据えることとし、「研究所プロジェクトは、労働・社会運動の必要に応え、国民生活の充実向上に資し、誰もが安心して働き、生活できる社会の形成に寄与する経済・社会・労働問題に関する調査研究、労働者の要求実現のための政策・提言に関して、研究所として取り組むべき課題について研究する」としています。研究所プロジェクトの研究期間は原則2年とし、その研究成果は『労働総研クォータリー』やホームページで発表することとしています。

1 研究テーマ
最低賃金の大幅引き上げと全国一律制の実現が地域経済、雇用格差是正、ワーキングプア解消に与える影響にかんする調査研究

2 研究計画

(1)研究期間
 2024年6月〜2026年5月

(2)研究目的
 2015年に安倍政権が「全国加重平均1,000円」の目標を掲げて以降、ほぼ毎年3%以上の最低賃金の引き上げが続いている。また、国政選挙では各党が最低賃金の改革を公約に掲げるようになり、重要な政治の争点となっている。このように最低賃金が引き上げられ、改善が進められている一方で、一部の中小企業はこのような動向に抵抗している。中小企業団体はたびたび最低賃金に関する意見書を公表し、引き上げや改革に対してブレーキとなっている。
 本研究は、最低賃金の大幅な引き上げや全国一律制により、日本の社会経済に与える影響を多方面から分析し、最賃運動に資するエビデンスを提供することを目的とする。

(3)研究計画
・最低賃金を1500円(1700円)に引き上げた際の経済波及効果について産業連関表を用いて分析するとともに、分析方法の手引きを作成し、地域組織への普及をめざす。
・近年の最低賃金引き上げが与えた影響や取引先との関係について、労働者、経営者双方への聞き取り調査を行い、実態を把握するとともに、労使それぞれへの必要な支援策について考える。
・最低賃金の全国一律制とともに、特定最賃(産業別最賃)や企業別最賃などを含めた賃金規制全般のあり方について研究を進める。