1998年2月1日(通巻95号)

目   次
巻頭言まちづくりに住民の声を…八幡一秀
論 文2交替長時間夜勤で増大する看護婦の疲労…田村昭彦
97年度第3回常任理事会報告ほか

まちづくりに住民の声を

八幡一秀

 1997年12月初旬、全国中小企業団体連絡会主催の「中小企業問題視察団」に加えていただき、イタリア・ドイツの3都市で政策担当者、中小企業経営者と懇談する機会を得ました。ちょうどクリスマス商戦のまっただ中で、ミュンヘンの広場にはクリスマス商品をあつかう露店であふれ、イタリアの諸都市のアーケードには電飾が輝き、たくさんの市民や観光客でごったがえしていました。空が日本より広く感じたのは、建物の高さが統一されているためでしょうか。フィレンツェ、ボローニアの美しい歴史的街なみや個人商店の活気あふれる様子は、日本の大型店進出・撤退に揺れる中心商店街とは対照的なものでした。
 イタリア・ドイツは日本に比べ地方自治制度が歴史的にも早くから確立しており、まちづくりや中小企業政策も地方自治体の権限が大きいことに改めて驚かされました。自治体の政策担当者も地域内の商業、工業の実態を良く把握しており、まちづくり、産地や中心商店街の新興政策に住民や中小業者の声を反映させることの必要性を十分認識していました。また、住民の声を自治体政策に反映させる制度として、イタリアには「地区住民評議会」があります。地域ごとに直接選挙で選ばれた住民が自治体政策の審議権を持ち、住民にその決定過程を明らかにしていくことが制度的に保証されています。政治制度の違いといってしまえばそれまでですが、まちづくり、中小企業政策をはじめとした地域経済振興、社会保障など地域が政策対象となっている問題に住民の声を反映させることが民主主義の基本原則であることを考えれば、ある国のように住民投票で地域住民が反対とした意志表示に反する決定を平気でする首長は民主主義を否定しているとしかうつらないことになります。日本で進められている規制緩和・廃止政策は消費者・国民のためと喧伝されているようですが、地域が破壊されていく政策は国民全体にとっても好ましいものとはならないことをあらためて教えてくれたイタリア・ドイツ視察でした。

(会員・作新学院大学経営学部助教授)


2交替長時間夜勤で増大する看護婦の疲労

田村昭彦

【はじめに】

 96年12月15日の兵庫中央病院をかわきりに厚生省は国立病院・療養所71施設123病棟(1997年9月末現在)に2交替夜勤制度を導入した (表1)。 これは最長16時間(拘束時間17.5時間)にも及ぶ長時間の夜勤労働に加えて、日勤労働も10時間労働など変形時間ともいえる労働時間である (図1) 。このような労働は、看護婦の健康悪化や患者に対する看護労働の質の低下が大いに懸念され、当該労働組合の全医労のみならず多くの労働組合や患者、地域からの反対運動が大きく拡がった。しかし、当局は「看護の質の向上につながる」「ライフスタイルにあった勤務体制」として強行導入を行った。2交替夜勤制が看護婦の健康や家庭生活に及ぼす影響について、全医労九州地方協議会とともに3交替勤務時及び2交替導入後約1〜2ヶ月の時点で調査した。

【高い疲労感】

 12〜16時間の長時間夜勤の勤務直後の疲労感としては65%(とりわけ勤務が多忙であった看護婦では8割)が「できることならすぐ眠りたい」と答えていた。「ほとんど疲れを感じない」「疲れを少し感じるが気にならない」という人は7%にすぎなかった。勤務後の疲労感が高いということが言える。
 日本産業衛生学会の産業疲労研究会が作成した「自覚症状しらべ」を用い2交替勤務前後の自覚症状の訴え率の変化を 図2図3図4 に示している。この調査票は産業疲労を調べる最も標準的な質問として広く使われている。

【眠気とだるさ】

  図2 のT群の10項目は「眠気とだるさ」を表している。2交替夜勤後には「眠い」「頭がぼんやりする」「横になりたい」という訴え率は8割以上に上り、「足がだるい」という回答は実に9割近くになっていた。その他「頭が重い」「全身がだるい」「眼が疲れる」などほとんどの項目が7割以上の訴え率になっていた。このT群の10項目の平均訴え率は勤務前の24.6%から勤務後には74.1%へと急激な上昇をしていた。

【注意集中の困難】

 次のU群10項目は「注意集中の困難」に関するものである (図3) 。勤務後には「考えがまとまらない」「物事に熱心になれない」「根気がなくなる」と答えた人が7割以上にも上っていた。「話をするのがいやになる」「ちょっとしたことが思いだせない」という人も6割を超えていた。この10項目は、精神的な疲労を良く反映する項目である。T群と同様に夜勤後の平均訴え率55.6%と勤務前の14.0%と比べて非常に高くなっていた。

【局在した身体違和感】

 最後の10項目はV群「局在した身体違和感」に分類されている (図4) 。勤務後「肩が凝る」76%、「腰が痛い」65%、「頭が痛い」43%などの訴え率が高くなっていた。このV群もまた夜勤前の14.4%から33.5%へと訴え率が上昇していた。

【3交替時と2交替夜勤との比較】

 以上の自覚症状を同一職場の2交替夜勤の導入される前、すなわち3交替の時と比べてみる。2交替夜勤、3交替準夜勤、3交替深夜勤の勤務前後のT〜V各群の訴え率の変化を 図5図6図7 に示している。
 T群「眠気とだるさ」では2交替夜勤の勤務開始時の訴え率は、ほぼ同時刻に勤務開始していた3交替準夜開始時の訴え率とほぼ同じだが、勤務終了時には3交替深夜勤務終了時よりも訴え率が高くなっていた。U群「注意集中の困難」でも同様の傾向を示した。V群「局在した身体異和感」では、勤務開始時の訴え率はほとんど差がなかったが勤務後は2交替夜勤の訴え率が3交替の準夜、深夜と比べ高くなっていた。これらの結果から2交替夜勤が従来の3交替よりも疲労度が激しいものであることがいえる。

【仮眠の効果】

 夜勤労働では、仮眠をとることによって疲労回復を行うことが多くの産業で行われている。2交替夜勤の看護婦の実質的仮眠時間と疲労度との比較で、仮眠の効果について検討してみる。全く仮眠がとれなかった者を仮眠度0とし、以下45分刻みで仮眠度1〜3とした。この仮眠度と夜勤後の疲労感の関係を 図8 に示した。この結果からは仮眠の長さと疲労回復効果の関連は認められなかった。「自覚症状しらべ」からも同様に効果が認められなかった。そもそも当局が仮眠を公式には認めず仮眠時間が短いこと、2人夜勤でバックアップ体制がないこと、仮眠場所がナースコールや心電図モニターの音が聞こえる労働現場に密接した場所であることなどの要因で疲労回復につながっていないものと考えられる。

【ストレス関連疾患の増加】

 2交替制が導入されて約1ヵ月間の疾病状況の変化について 表2 に示している。「腰痛」や「頚肩腕障害」などの疲労性の疾病が導入前と比べて2〜3倍増加していた。症状があるが未治療の者63人を加えると84人、45.9%もの看護婦が腰痛を訴えていた。頚肩腕障害についても導入前後で治療中のものが、7人から18人に2倍以上に増えていた。これらは肉体的疲労が極めて大きいことを反映していると思われる。
 胃炎、胃十二指腸潰瘍は2交替の導入前後前に治療中の看護婦が8人から20人へと2.5倍に増加していた。自律神経失調症で治療を開始した人もいた。また生理痛や生理不順を訴える看護婦も多くなっていた。生理痛は導入前後で32人から49人へと増加し、生理不順も7人から19人へと倍以上になっていた。今回の2交替制は肉体的疲労や精神的疲労に加えて人間が本来持っているリズムに反したものとなっているため、1ヵ月ぐらいの短期間でもこの様にストレス関連疾患を中心として増加したものと考えられる。

【家庭生活の変化】

 最後に、2交替制度が導入後の、家庭内の変化について検討する。厚生省は2交替制の利点として「休みが増え家庭生活も十分できるようになる」と宣伝していたが実態はどうであっただろうか。
  図9 に示すように家事に割く時間が増えた者は2割弱であった。逆に5割近くの人が家事に割く時間が減っていた。家族と一緒にいる時間が増えた者はほとんどなく、約三分の二は減ったと回答していた。小さな子供や病人と介護が必要な家族に対する介護の時間についても半数以上の人が減っていた。「家庭内のトラブル」は3交替のときと比べて増加したと答えたものが1/3にも上っていた。この様に家庭内に対する影響も大であった。
 さらにこの2交替制導入により長時間夜勤と同時に平行して、変形労働時間制としての10時間勤務の日勤なども導入されており、この勤務の健康への影響も見逃すことはできない。またほとんどの看護婦が2交替を行っている2交替制導入病棟における3交替勤務を行っている看護婦への影響も重要である。今後総合的に検討を進める必要がある。

【燃え尽き症侯群・メンタルヘルス】

 看護労働は病んでいる人間を対象としている。したがって看護婦には患者の訴えに素直に耳を傾け必要な介護を行う技術と豊かな人間性が求められている。ところが2交替夜勤導入後、多くの看護婦がゆとりある看護を行うことができなくなったと感じている。そして「患者さんにやさしく接することが出来ない」という段階から「自分の到らなさに対して自分自身を責め始めて」いる段階になってきているようである。これは看護婦の精神的状況としての『燃えつき症侯群』の問題としても、また看護の質の問題としても重要である。

【疲労困憊と看護の質の低下】

 このような疲労困憊している職場では、看護の質や看護婦の労働意欲の低下にも繋がっていくのではないかと思う。
 看護は患者の状態の的確な把握が必要である。そのためには集中力が必要である。ところが採血や巡視などの作業の集中する明け方の状態は「頭がボーとして採血に失敗した」「考えがまとまらない」など疲労により集中力が低下していることを示している。最近、科学誌「nature」(1997年7月17日発行)にオーストラリアのDrew Dawsonらが疲労による作業能力の低下とアルコール摂取による低下と比較した論文が掲載された。これによると10〜26時間の覚醒中は作業能力が時間に比例して低下し、覚醒後17時間の作業能力の低下は血中アルコール濃度0.05%の作業能力に相当し、これは多くの先進国で車の運転が禁止されているレベルであると報告している。この様に長時間労働は集中力の低下、ひいては事故につながる危険性すら指摘できる。

【まとめ】

 今回の2交替制は昨年通常国会において撤廃された女子保護規定や今年の国会上程が予定されている1年単位の変形労働時間制、ホワイトカラーへの裁量労働制の導入など社会的規制を取り払う一連の労働法規の改悪の中で導入されたという側面も重要である。
 ところがILOは看護職員が住民の健康及び福祉の保護及び向上において果たす重要な役割から「看護職員の雇用、労働条件及び生活状態に関する勧告(第157号条約、1977年)」を決定している。この中で1日の労働時間を超過勤務を含め12時間を超えないものと定めている。またこの勧告に先立ち1973年ILO、WHO合同会議の「看護職員の労働条件と生活」報告書で、日本について「夜勤の回数をもっと少なくし、休日をもっと多くしようという考えで、夜勤時間を延ばして12時間〜16時間にしようという実験は、その結果増大した疲労によって、この制度の利点は大部分帳消しになってしまった」と述べている。国立病院に導入された2交替制はこれら国際基準に照らしてみても明らかに逸脱している。
 以上のように今回、国立病院に導入された2交替制は、看護婦自身の疲労状態の悪化が著しいことに加えて、看護の質の問題、看護・介護される患者にとって良い看護・医療を受ける権利が十分行使できるかという点でも重大な問題があるといえよう。

(会員・九州社会医学研究所所長・医師)


第19回研究例会

「金融ビッグバンと国民生活」
テーマで開催

 去る1月21日、「金融ビッグバンと国民生活」をテーマで第19回研究例会を東京で開催した。野田正穂法政大学教授(労働総研理事)と松井陽一全証労協事務局長の報告を受けて、質問・討論を行った。参加者は18人。次のような事項をめぐって交流が行われた。主に@海外へ進出した大企業の資金調達方法について、A日本の金融機関の国際競争力について、B橋本首相が言う「日本発の世界恐慌の引き金は引かない」の意味について、C不良債権の総額とその処理、回収努力について、D中小企業への貸し渋りについて、E山一の破たんと「市場の判断」の作用についてなど。


1月の研究活動

 
1月19日 賃金・最賃問題研究部会=報告・討論「男女賃金格差と人事考課−『コンパラブル・ワース』論争によせて」
  21日 中小企業問題研究部会=部会として研究例会「金融ビッグバンと国民生活」に参加後、次回研究テーマと日程等の打合せ
  23日 関西圏産業労働研究会=報告・討論「日本経済の現局面と財界の乗り切り策」及び「世界の失業問題と日本の労働制度改革」
  27日 女性労働研究部会=報告・討論「労基法「改正」法案について」
  28日 生計費研究プロジェクト=報告・討論「ナショナルミニマム確立のために(ナショナルミニマム問題懇談会世話人団体の提言的文書責案)について」
 29日 国際労働研究部会=全労連編「1997年版/世界の労働者のたたかい」編集作業

寄贈・入手図書資料コーナー


97年度第3回常任理事会報告

 97年度第3回常任理事会は、98年1月17日午後1時半〜5時半、東京で開催。構成員20人中11人出席、他に事務局から出席した。内容は次のとおり。

1.研究報告・討論
 「98国民春闘をめぐる情勢の特徴」をテーマに辻岡常任理事から報告があり討論を行った。討論のなかでは、とくに深刻な雇用・失業問題をめぐって意見が交流された。

2.加入・退会の承認について
 個人会員6人の加入申込みを承認。これにより個人会員は314人、団体会員67となった。

3.97年度事業計画の重点の推進状況について
 @個人会員の拡大の状況、A「労働総研クォータリー」の拡大の状況、B調査研究事業の状況、C研究例会等の推進状況を確認し、引き続き推進していくことを申し合わせた。

4.個人会員入会に関する内規改正について
 個人会員の入会申込書及び内規が、発足当時のままで不備・不十分な点があるので若干補充することを申し合わせた。

5.全労連との定期協議報告と当面の連携事項について
 12月12日に行われた全労連との定期協議(労働総研側は代表理事中心にした企画委員が出席)の報告と当面の連携事項等について協議した。

  1. 8年間の両者の連携の経過(略)
  2. 今後の連携
    1. 成果をあげている事項については、引き続き充実発展させていく。
    2. 雇用・失業問題、ナショナルミニマム問題など、重要課題についての両者の連携を強化していく。
  3. 当面の連携のテーマ
    1. 地域政策研究交流集会の充実をはかる。
    2. パート問題の実践的研究
    3. 労働者総合意識調査
    4. 最賃闘争の強化(そのための生計費・ナショナルミニマム研究の積上げなど)

6.その他(略)


1月の事務局日誌

1月8日 全労連98年旗びらき(草島、宇和川)
10日三重県労連98春闘学習会(「情勢と課題」について草島)
17日97年度第3回常任理事会(別項参照)
21日第19回労働総研研究例会「金融ビッグバンと国民生活」(別項参照)
23日郵産労第16回中央委員会へメッセージ、1997年度教育研究集会へメッセージ
24日「労働総研クォータリー」編集会議(責任者・加藤常任理事ほか)、愛知県日本共産党労働者後援会「労働運動シリーズ/社会保障」学習会(草島)
27日愛知県民主医療機関労働組合「能力主義賃金」学習会(宇和川)
28日自交総連第20回中央委員会へメッセージ、自交総連結成20周年記念レセプション(春山常任理事)