2001年4月1日(通巻133号)



目   次
巻頭言

 リストラでは、企業も日本経済も再生しない……………生熊 茂実

論 文

緊急経済対策で不良債権は処理できるか………………今宮 謙二 
研究部会プロジェクト活動報告A
  女性労働研究部会について……………………………川口 和子 




リストラでは、
企業も日本経済も再生しない

生熊 茂実

 「リストラでは、企業も日本経済も再生しない」、これはJMIU2001年度運動方針のスローガンの一節である。いま、このスローガンのもつ意味について、あらためてかみしめている。
 「コスト削減のために、船の鉄板を1ミリ、2ミリ薄くしてきた。ところが、ある客船の振動が激しくなり、置いている自動販売機にお金がはいらない、新聞が読めない状態まで起こった。」これは、1月28日におこなわれたシンポジウム「いまものづくりの現場はどうなっているか」(JMIU・金属労働研究所共催)での造船大企業の職場からの発言だが、このような事態が日本の製造業に蔓延している。
 リストラは、不況や企業の経営状態とは無関係に、「国際競争力強化」「より利益の上がる企業体質」をめざしておこなわれている。それは、すべての産業で「リストラ法制」を活用し、持株会社、営業譲渡、合併・統合などの企業組織再編による解雇や労働条件の大幅ひき下げなど、労働者とその家族を犠牲にして、大企業のみが大もうけをするしくみをつくりあげている。
 いっぽうでは、雇用不安をも利用しながら、「成績主義賃金」の強化で労働者どうしの競争をあおり、「不払い残業(サービス残業)」という企業犯罪行為までおこなっている。
 リストラの横行する日本社会に、労働者は「このままでいいとは思っていない」。にもかかわらず、勇気をもって資本とのたたかいに立ちあがる労働者は、増えてはいるがまだそう多くはない。
 しかしリストラ社会の破綻の一部が、ものづくり現場で「クレーム・技術低下」としてあらわれ、日本の「ものづくり」に深刻な問題をもたらしている。「技術の継承ができない」、「後輩に仕事を教えない」、「現場の経験の蓄積が技術開発に生きない」、「もうからないから、検査をしない」、「材質がひどい」など、リストラや労働者いじめが、産業・企業基盤に重大な悪影響をあたえかねない事態がある。
 私たちは、「いいものをつくりたい」という労働者の要求を土台にして、「もうひとつの団結の軸」となる「クレーム・技術低下」をどう解決するかにとりくみはじめた。大企業と中小企業の不公正な取引関係は、この問題でも中心をなす。
 「少子化」にしろ「クレーム」にしろ、労働者のおかれた事実そのものが、資本と鋭く対立する矛盾をつくりださざるをえない。

(会員・全日本金属情報機器労働組合書記長)




緊急経済対策で
不良債権は処理できるか

今宮 謙二 


はじめに

 「死に体」となった森首相は、3月20日日米首脳会議でブッシュ大統領の強い要請のもと不良債権処理を早急におこなう国際公約をした。アメリカ新政権は現在北朝鮮、中国などに対して軍事・外交面で強硬な政策をとる方向に変わりつつある。そのさいアジア戦略を支える日本の役割の重要性を考え、安全保障問題と日本経済は直結しているとアメリカはとらえている。その日本経済が長期不況のままでいれば、この役割が十分に果たせない懸念が生ずる。また急激に悪化したアメリカ経済を回復させるためにも、日本の景気回復は何よりも必要であり、不況の元凶とみられている不良債権処理をもっとも重要課題とブッシュ大統領は位置づけたのである。
 たしかに不良債権処理は重要な課題ではあるが、アメリカの強い圧力のもと短期間に処理を強行しようとする日本政府の方針は国民にとって納得できない。4月6日決定の緊急経済対策は、国民側からだけでなく、政界、財界などからもさまざまな意見が出され、4月4日決定の予定が2日も遅れ、また、当初の与党案から内容が若干変わったのもそのためである。不良債権処理など金融問題を中心にこの対策について検討してみたい。

一、緊急経済対策の内容

 対策は主に@不良債権処理、A株式買上げ機構創設、B証券市場活性化、C都市再生・土地流動化、D雇用対策などに分れているが、特徴的なのは金融再生と産業再生を一体化して進めようとしている点である。その意味で自公保政権の目ざす「構造改革」への第一歩といえる側面もある。ここでは主に不良債権処理と株式買上げ機構の二つの問題にしぼってその中身を紹介しよう。
 不良債権処理については、その期限を設定し、既存分は2年以内、新規発生分は3年以内としている。また銀行による不良債権の直接償却をはやめるため、産業再生法を拡大して適用し、債権放棄の企業には税金免除や企業活動への便利を提供することとなっている。
 つぎに株式買上げ機構については、対象を銀行保有株のみとすること、機構の資金は預金保険機構の活用で政府保証も考慮、銀行の株式保有額の総量規制として例えば自己資本の範囲内などが決定された。すでに合意されていた与党案と比べると、おおくの点が曖昧になっている。機構の存続期間を五年、機構資金を政府保証付きの社債や日銀特融でおこなう、売却損は政府の責任のもと税金で穴埋めする、機構への出資は3分の1政府が負担すること、などが与党案にもりこまれていた。これらの点に関して政界、財界、日銀などを含めた各方面から変動リスクの負担をどこがもつのか、すべて税金だよりはあまりにも問題だ、銀行優遇にかたむきすぎている、株式市場をゆがめるなどなどの意見が出され、これらの議論をふまえて対策では削除され、すべてが玉虫色となってしまっている。
 このほかにも証券市場活性化には、金庫株解禁、株式投資単位の引下げなどがもりこまれ、また雇用創出としてIT、医療、介護などの分野での規制緩和がうたわれている。この雇用対策は従来の対策をそのままくり返したにすぎず、何の新味もない。

二、日本銀行による新金融緩和政策の実施

 このような緊急経済対策提案には一つの前提があった。それは日本銀行による新しい金融緩和政策である。不良債権処理を早急にすすめれば後にふれるように、日本の景気はさらに悪化する可能性がたかい。政府もそれは十分にわかっている。この景気悪化の防止の一つの手段として日本銀行の金融緩和政策がどうしても必要となる。
 最近の日銀の金融政策は、99年2月短期金融市場金利誘導目標の引下げ(0.25%から0.15%)、2000年8月には0.25%にもどす措置、2001年2月二度にわたる公定歩合引下げ(0.5%から0.25%)と目まぐるしく変わっている。一貫して異常低金利政策をとっているものの、その間立場は微妙にゆらいでいる。
 3月19日に発表された新しい量的緩和政策はこれまでの政策とおおきくちがっている。第一に従来の金融政策手段は金利を目標としていたが、今回は資金量そのものを対象にした点である。これはすでに長年金利をゼロにしても効果がなく、金融政策として完全に手づまりになったことを意味している。金融政策として資金量を対象とした例は、79年から82年ごろまでアメリカの例はあるが、これは金融引締め対策としておこなったのであり、日本のように逆に緩和策として採用した例はほとんどない。具体的に日銀にある民間金融機関の当座預金残高を現在の4兆円から5兆円までふやそうというのである。そのために日銀による国債購入も月4000億円から5000億円にする方針である。第二はこの量的緩和政策を消費者物価が安定的に上昇するまでおこなうという異例な条件をつけた点である。
 この新しい日銀の政策は効果があるだろうか。第一に量的緩和でもゼロ金利政策でも、金利が無限にゼロに近づく点ではまったく同じである。すくなくとも金利はゼロ以下にならない。したがってゼロ金利をいくらつづけても効果がなかったことから今回も期待はできない。第二にそれではゼロ金利とのちがいはどこにあるか。それはつぎの点にある。@量的緩和はいくらでも資金供給が可能な点である。いま5兆円を目標としているが、将来この額はいくらでも引上げられる。不良債権処理をすすめる場合にあるいは効果がある面も考えられる。A消費者物価上昇までとの期限をきめたため、長期間つづくとの見込みから企業の投資誘因になるとの期待感が生まれる。Bインフレーション促進のための条件づくりである。日銀による巨額の資金量の供給はインフレ発生への重大な要因となる。

三、緊急経済対策の特徴点

 つぎに経済対策のいくつかの特徴をみよう。  第一は不良債権問題と日本経済の関係がはっきり解明されないまま、不良債権処理を最重要課題とした点である。不良債権処理はたしかに重要な問題であるが、いまの日本経済の状況からみて最大課題として位置づけられるだろうか。政府・財界などから不良債権の存在そのものが、長期的不況の最大原因であり、その処理によってのみ日本経済再建が可能という見解はたしかに広まっている。しかし、巨額な不良債権があるために日本は長期的不況におちいっているのだろうか。けっしてそうではない。誤った視点から不良債権処理を前面におし出したのが、この緊急対策の最大の特徴である。
 第二の特徴は不良債権の内容をキチンと整理せずに、二年間、新規については三年間と期限をつけて処理をするやり方である。政府の求めている「破たん懸念先」などの不良債権は、大手銀行で約13兆円に達する。これらのうち約8割が建設、不動産、ノンバンク、生保、流通、サービス業で占められている。処理の方法としては三つ考えられている。それは@会社更生法、民事再生法などによる法的整理、A債権放棄(借金棒引き)、B外部への売却である。これらのやり方をすすめた場合3つの状況が生まれる。
 一つは大銀行・大企業の再編成促進である。すでに大銀行は四大グループに再編され、規模はそれぞれ巨大となったが、具体的な経営方針などはっきりと確定されてなく、今後の発展は不透明のままである。そのなかでそれぞれのグループ内での指導権争いが参加の企業再編とからんで激しい動きを示している。不良債権処理はこれらの企業再編と深く結びついて展開されるであろう。そのなかでももっとも利用されるのが、債権放棄=借金棒引きである。すくなくとも参加企業の育成のための手段として利用される可能性がある。ここで問題となるのが先にもふれたように産業再生法との結合である。産業再生法適用を拡大しつつ大規模な首切り、税金軽減などを通じて、大企業は生き残りをはかろうとしている。それに金融庁が計画している会社分割方式が適用されることも予想される。優良部分を切り離し、不採算部分を切りすてる方式である。これらの方式は大手ゼネコンに適用する可能性がたかい。
 二つめはこの結果、系列に属さない中小企業が完全に切りすてられる恐れのある点である。不良債権のなかで中小企業の占める部分もかなりあると推定されるが、それが大銀行によって容赦なく切りすてられてしまう危険性が強い。
 三つめは債権売却に関する問題である。このような不良債権売買市場はアメリカでは発展しているが、日本ではほとんど整備されていない。大銀行が中心となって売買のルールやデータづくりなどをようやくおこないはじめた段階である。アメリカ中心の外資はこの債権売却によって莫大な利益をあげようとしている。いわゆる「ハゲタカ・ファンド」のねらいである。日本の資産が安く買いたたかれるわけであるが、日本の大銀行や日銀はこのような外資の介入によって債権売買市場がよりよく発展するのではないかと期待している面がある。
 第三の特徴は株式買上げ機構にかかわる問題である。この設立については早急におこなうとなり、いつになるかははっきりとさせていない。なぜか。先にふれたように自民党や財界のなかでも意見がわかれたからである。そもそも株価維持対策としての政治介入は、これまで市場原理をとなえ、規制緩和、自由化が構造改革の中身と主張してきた政府の立場そのものを否定することとなる。柳沢金融担当相がその設立を9月ごろと消極的であり、その推進者である亀井自民党政調会長に対立したのも理由がある。それは市場原理優先という立場からだけでなく、金融界にも消極的な意見があったためである。当初銀行と企業の持ち合い株解消売りによる株価下落を防ぐ意味をもっていたが、その後銀行保有株のみに限定され金融システム安定を目的とした点とかかわっている。
 そのために、銀行に対して自己資本額約35兆円の枠内で株保有を認める制限条件をつけた。現在銀行保有額は約45兆円あり、そうなると超過分の約10兆円を売らねばならない。ここで銀行が問題にしたのは、時価が薄価を下回る場合にはっきりと損失が出ること、逆に利益が出れば株譲渡益へ課税される点である。要するに銀行にとって機構に売っても市場で売っても同じならば強制的な売却は望まず、もっとも好条件の時に株売却をおこないたいわけである。3月に全国銀行協会会長行の三井住友銀行が機構は銀行にとって必要なしとの文書を与党側に提出したのもそのためである。
 逆にいえば、銀行側にとって株売却の利益に対する税金の優遇策が実施されれば良いとの考えにもなる。ただそうなると銀行以外の企業との税制上の不公平が生まれる。銀行と企業の株持ち合い総額は、銀行約18兆円、企業側は16兆円とほぼ匹敵している。これを銀行だけに優遇すれば当然問題となり、銀行への批判がたかまるのは必至である。さらに問題は買上げ機構への税金投入について非常に曖昧な点である。与党案でははっきりと機構に対して3分の1の政府出資、損失には税金投入とあったが、これらが削除された。しかし、結局最終的には税金投入の方向で決定されるにちがいない。これでは「国の資金を気前よく投じよう、経営責任は問わないという『アメとアメ』政策を続ける限り、人々の銀行不信は消えず、日本の金融システムはひ弱なままだろう」(「朝日新聞」4月7日付社説)

四、経済対策のもつ問題点

 つぎにこの経済対策への問題点をまとめよう。
 第一にこの対策は日米首脳会議におけるアメリカの強い圧力のもとでまとめられたものであり、日本経済の実情とかけ離れている点である。
 第二にとはいえ、この対策は日本経済の体質変化を自民党なりに受けとめようとした点が見受けられる。その体質変化とは@土建国家解体化、Aアメリカ依存の輸出主導型構造の変質、B金融システムの再編(地域経済との密着型)、C国民購買力中心の経済構造の確立があげられる。このなかで、とくに土建国家解体化の方向を自民党なりに受け止めて新しい道を打出そうとした点が注目される。しかしいぜんとして本質的に大手ゼネコン救済であり、旧来と同じである。借金棒引きをした大手ゼネコンをそのまま存続させ、しかも緊急対策には技術力あるゼネコンなどに公共事業を優先的に発注できる仕組みがとりいれられた。産業再生法の拡大適用による優遇や政府系金融機関から低利融資などなど、形はすこし変わったといえども、これまでと同じように大手ゼネコン中心の土建国家への道を再び歩もうとしている。建設族をめぐる自民党内の金権政治や派閥争いがすこしも変わらないのは当然である。
 第三に一方でこの対策は大銀行中心の優遇策が目立っている。その点で政界・財界から異論が生まれたわけであるが、日本経済再生には効果がなくとも大金融機関を中心とする新しい産業再編、新しいグループづくりの最終的仕上げ段階への政策と位置づけられよう。
 第四に不良債権処理を早急にすすめる結果、失業者は新たに130万人ふえるとの試算もあり(ニッセイ基礎研究所)、国内総生産は0.3%から1%も下がると見込まれ、不況はますます深まり、国民の犠牲はより強まるのは確実である。そのうえ先にふれたように買上げ機構については、巨額な税金が使われ、国民へのしわ寄せは一段とたかまるにちがいない。

おわりに―不良債権処理はどうすべきか―

 それでは国民の立場からみて不良債権処理問題をどのように考えたらよいだろうか。おわりにかえて、その点を思いつくまま指摘しよう。
 第一に不良債権処理を本格的におこなうには日本経済を良くすることが大前提となる。
 しかし、この緊急対策は先にのべたように景気を悪化させる。現在景気を良くするには日本経済の体質変化の方向にそって冷えきった国民の購買力をたかめる道しかない。そのためには日本共産党が3月23日に提案したように消費税率の引下げ、社会保障負担増凍結、雇用危機の克服をおこない、国民の生活不安をなくし、中小企業の営業も活発化させる以外にない。このことはすでに海外のエコノミスト達などおおくの専門家からも指摘されている。
 第二は不良債権処理を側面から援助するため銀行による金融仲介機能=貸出し機能を早急に回復させることである。最近銀行の仲介機能は失われつつあるとの議論があるが、これは誤りである。中小企業などにとって、この機能は現在も非常に重要である。4月3日に発表された民主党の経済対策は不良債権があるため、銀行の貸出しがふえないと指摘しているが、これは間違いである。いまは先にのべたように金融機関には資金が豊富にある。銀行がこの豊富な資金を国債などの購入に向け、貸出しに使わないところに問題がある。いわば銀行の社会的責任の放棄であり、無責任な行動の結果である。日経金融新聞(3月27日付)のコラムは、現在の不良債権はバブル時のものでなく、その後の銀行経営者と政界の無責任な行動で積みあがったものであり、その責任をとって経営者は退陣すべきと指摘している。
 それでは銀行本来の業務をどのようにして回復すべきか、つぎの点があげられる。@全面的な情報公開(不良債権の実態、貸倒れ引当金などの内容、借金棒引きの実情、保有する株式や土地などの資金内容など)、A経営についての透明性の確保(融資条件の公開、とくに、中小企業などへの貸出し条件の公開、資産運用の公開など)、B健全な経営のための透明な人事管理と民主的労働組合の確立、C労働条件の公開(差別賃金、残業・サービス労働の実態の公開など)要するに銀行は国民に奉仕し、預金者保護、信用秩序を守り、適切な資金を配分して地域の中小企業、商店などと密接な関係を保ってこそ信頼が得られるのである。
 第三に不良債権処理は、まずその実態を完全に公開したうえで、大銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合などそれぞれの条件に応じてさまざまな方法を通じて自己責任を原則として処理をすべきである。日本経済の軸となっている国民生活や中小企業を犠牲にするようなやり方での不良債権処理をすべきではない。さらに不良債権処理の基本は、政・官・財癒着をやめさせ、国民が参加できる民主的な金融監視委員会などをつくり、国民の理解のもとで大企業などに社会的責任を守らせながら進めるべきである。毎日新聞は4月7日付社説で、つぎのように指摘している。「銀行の不良債権、ゼネコンなどの過剰債務のいずれも、処理は自己責任が原則だ。それこそが経済再生への早道である」。国民の監視のもとで大金融機関や大企業は自らの手で不良債権の処理をおこなうべきである。  不良債権の根本的解決は、アメリカのいいなりにはならない、大金融機関・大企業の利益を守るのではなく、国民生活を重視する民主的政権をつくり、国民購買力をたかめ経済回復をすすめながらおこなうのが本筋である。

(会員・中央大学名誉教授)




研究部会プロジェクト活動報告A
女性労働研究部会について

川口 和子

 女性労働研究部会は労働総研発足と共に設置され、「男女平等社会をめざす賃金、生計費、生活時間調査」(92年)、『現代の労働者階級』(労働総研の共同研究)のデーターに基づく「ジエンダー分析」(96年)などをまとめた。その後主力メンバーの多忙、病気などにより休会が続いた一時期を経て、97年10月からメンバーを再編して再開し今日に至っている。

(一)部会の構成と特徴

 現在の部会は、外部の「女性労働問題研究会」「銀行労働問題研究会」に所属する者など在野の研究者4名、弁護士、国会議員秘書、そして全労連女性部長と同元部長の8名(女性7名、男性1名)のメンバーで構成している。加えて再開後は、全労連女性部からの運動に役立つ部会にとの要望もあって、希望する女性部役員等にもオブザーバーとしての参加を認めているので、研究会には3〜4人のオブを含めて参加しており、毎月研究会をおこなっている。
 こうした構成メンバーであることが当部会の特徴であり、そのため部会の研究テーマの設定も、全労連女性部が直面している問題、課題を配慮するなど、連携強化を意識した運営に努めている。もともと女性労働問題の領域は幅広く、部員各自の関心も多様である。それだけに研究界での討議は、それぞれの領域から、労組運動や職場の現状、男女差別等に関わる裁判事例、財界や労働行政における女性労働力政策、部員が所属する学会や研究会などの動向、国会における各政党の政策動向など、幅広い問題提起がされ、討論は活発である。しかしその反面、一つのテーマをしぼって多角的、体系的に、とくに理論的に深め、部会の共同研究としてまとめるには至っていないのが現状である。とりわけこのところ労働諸法制の改悪をはじめ女性労働にかかわる政府・財界からの「提言」「報告書」などが相次いで出されていることもあって、研究会はこれらの検討に追われがちである。

(二)総会後の研究状況

 昨年の総会には、21世紀初頭の当部会の研究活動方針として、@グローバル化等に対応する財界・政府の「新戦略」と女性労働に係わる動向。Aそれに伴う女性労働の多様な変化と、内包する矛盾の検証。B運動の現状と、政策的課題、展望。などを挙げた。総会後の研究会はこれらを大筋ではふまえながらも、年間の具体的な計画を立てるには至らず、毎回話し合ってテーマ、研究素材、報告者(外部から招請を含む)を設定してきた。その一部は研究部会員の小論文として「クォータリー」に掲載された。

1、今年度研究会でとりあげてきたテーマ
@改正された男女雇用機会均等法施行(99年)の後の政府、財界の動向について。
・労働省「男女雇用機会均等法基本方針」、「雇用均等政策研究会報告」。
・総務庁「男女共同参画社会基本法“基本計画”」。
・日経連「平成13年版、労働問題研究委員会報告」。
・厚生労働省「個別労働関係の紛争の解決促進法案」。
・「育児・介護休業法の一部改正案」。
A同じく改正法施行後の裁判の動向等、男女差別問題について。
・日本航空スチュワーデスの調停申請と、東京女性少年室の調停案(担当された大森夏織弁護士を招請して)
・芝信用金庫、日立製作所(勝訴)、シャープ、住友電工、商工中金(敗訴)の判決。
・人事考課と性差別について(「男女差別賃金をなくす連絡会」の報告、討議から)
B不安定就業に関わる新たな動向について。
・労働省「パートタイム労働に関わる研究会報告」。
・労働省「在宅就労問題研究会報告」。
・正社員とパートの均等待遇について(高知大学助教授中川香代氏を招請、高知県での企業調査を中心に)
・パート労働法の改正についての政策的検討。
・「オランダモデル」について(長坂寿久著『オランダモデル』を素材に)。
C女性労働とフエミニズムについて。
・賃金、社会保障、税制等の「世帯単位」から「個別単位」への転換論について。
・なお次期総会までの間に、「階級関係とジエンダー視点」「フエミニズムと労働組合など、最近のいくつかの論文を素材に討議することを予定している。

2、主な討議の状況
 改正均等法施行を契機に、財界、政府は、「性別によらない雇用管理」「個別、多様な働き方、それに対応する適性な処遇」など「男女機会均等」施策を一段と強める方向が、相次ぐ提言に共通して見られる。しかしその実態は、「競争原理」によって一方では男性なみの「企業戦士」として、他方では多様な不安定就業で、女性労働力を徹底的に利用する方向に進んでおり、それはグローバリゼーションに対応する国際競争力強化戦略の一環にほかならない。
 とりわけ個別・成果主義管理による性差別の手法の「間接差別」への再編は、賃金、昇進などの性差別是正の運動に立ちはだかる新たな障壁であり、それは調停や裁判にも端的に現れている。それだけに、東京高裁でこれまでの判例を越える判決によって勝訴した芝信用金庫(会社側は最高裁へ停提訴)の女性達と労組(全労連加盟)を是非とも勝たせたいとの想いも語りあった。
 なお、財界、政府のこうした戦略的意図をふまえると共に、タテマエではあってもこれらの施策が含む一定の積極面(矛盾)を運動にどう生かすかも、常に論点になっている。
 なおこのところ、フエミニズムの視点からの問題提起や諸論文が、反論も含めて数多く出されている。当部会では再開後の研究会で、何か提起されているのか、どう受け止めるかなど検討したが、最近の政府・財界の文書にもフエミニズムの主張を取り入れる傾向も見られることから今年度も改めてとりあげた。しかし特に賃金、社会保障、税金などの「世帯単位から個人単位へ」の転換の問題は複雑で、長期的、短期的政策として、また運動としてどう対応すべきか、充分な結論を得るには至っていない。

(三)課題

 研究部会員のなかには「面白い」「勉強になる」という声と共に、「これでは勉強会で研究会とは言えないのではないか」との疑問もある。法改定や政府や財界の提言などについても議論するだけに終わらず、労働総研・女性労働研究部会の「提言」としてまとめ発表してはどうかとの意見も出されている。
 男女平等の実現など女性の問題が21世紀国際社会の不可避的課題と認識されるに至った今日、当部会が労働総研の一部会としてどのように研究活動をすすめ、どのような役割を果たせるのか、次期総会までに改めて議論したいと考えている。
 なお女性労働問題は学際的であり、前にも述べた「世帯単位から個人単位への転換」の問題にしても賃金、社会保障など他の部会とも係わる問題は少なくない。そのため他の関連する部会での研究の状況を知りたい、共同して検討する機会でほしいとの要望もあり、労働総研としてのご検討もお願いしたい。

(常任理事)




 3月の研究活動
3月2日  労働時間問題研究部会=出版企画について
  10日  政治経済動向研究部会=報告・討論/最近の労働者状態
      社会保障研究部会=報告・討論/「21世紀に向けての社会保障」の問題点
  23日  女性労働研究部会=報告・討論/個別労働紛争処理の解決の促進に関する法律案/育児・介護休業法の一部改正案
      関西圏産業労働研究部会=日本経済再生の方策をめぐって
      地域政策研究プロジェクト=調査の具体化について



 3月の事務局日誌
3月3日 第5回企画委員会
  11日 電機ユニオン・東京電機懇学習会(草島)
  24日 研究部会・プロジェクト代表者会議
  31日 第4回常任理事会




 第4回常任理事会協議メモ
1 研究報告
 相沢常任理事より『グロ−バリゼイションと日本的労使関係』(新日本出版社刊)の報告を受け意見交換がおこなわれた。
2 報告事項
(1) 1月19日(金)18時より北とぴあにおいて金田常任理事が報告者で「2001年労問研報告と成果主義賃金」をテーマにした研究例会の報告がおこなわれた。
(2) 各研究部会・プロジェクト研究の開催状況が報告された。
   3月24日に開催された研究部会等代表者会議についての概要が報告された。
(3) この間の企画委員会・事務局会議の開催状況が報告された。
(4) 「ナショナルミニマム各界懇談会世話人会」の状況について報告された。
(5) 熊谷常任理事から最近の全労連を中心にした労働組合運動の活動状況の特徴が報告された。なお、日産自動車の黒字問題の実態解明をおこなうことが提案され、了承された。
3 協議事項
(1) 加入・脱退について承認した。
(2) 2001年度労働総研定例総会を8月4日(土)に「北とぴあ」でおこなうことを承認した。
(3) 研究活動について、@地域政策プロジェクト、A国際労働部会について協議され、B会員アンケートの早急実施が承認された。
(4) 政府・自公保与党が決定する緊急経済対策をうけ、緊急研究例会をおこなうこととした。
(5) 総会までの各種会議日程が承認された。



 緊急研究例会のご案内
緊急経済対策・国家的大リストラにどう立ち向うか
主報告者:今宮謙二(中央大学名誉教授)
コメンテーター:
熊谷金道(全労連副議長)
国吉昌晴(中小企業家同友会専務理事)
原 紀昭(銀行産業労組・横浜銀行)
コーディネーター:
大木一訓(労働総研代表理事) 日時:4月28日(土)午後1時〜5時
場所:東京グリーンホテル御茶ノ水
  東京都千代田区神田淡路町2−6
  地下鉄丸の内線・淡路町駅から徒歩2分
  JR御茶ノ水・神田ともに徒歩5分
電話:03−3255−4161
 会員以外の参加も歓迎します。会場の関係で入場は先着順とさせていただきます。