2001年5月1日(通巻134号)



目   次
巻頭言

 グローバリゼーション攻勢対抗の民主的な保護統制の政策戦略を……………相澤 與一

報 告

緊急研究例会
  緊急経済対策・国家的リストラにどう立ち向うか

4月の研究活動ほか



グローバリゼーション攻勢対抗の
民主的な保護統制の政策戦略を

相澤 與一

 規制緩和と市場開放、構造調整とリストラの攻撃は、経済と生活を破壊している。それがネオ自由主義政策思想を振りかざし国際金融資本と多国籍企業が覇権国家アメリカとそれに追随する日本政府等を通じて強行していることは、周知のとおりである。
 それによる生命と生活と社会の破壊は、連日報道されている殺人、強盗、児童虐待、少年・少女犯罪の激増、自殺の激増などにも現れている。それらの仕事の破壊、生命と生活の破壊には、きめ細かな個々の対策が必要である。ただ、それだけでは、この大波に対抗できないだろう。それらのおおもとにかみ合う政策戦略を出し合い、国民的および国際的な合意と共同行動を強める必要が大きい。NGOなどによる国際統一行動など、すでにその萌芽は各分野で試みられている。労働運動も各所で多国籍企業の無法なリストラなどと戦っている。ただ、分散的であり、多くの問題で主役になり得ていないうらみがある。少なくともその一因は政策戦略の停滞と混迷にあるのかもしれない。
 そのごく一端であるが、たとえばナショナル・ミニマム(NM)政策なども古典のアイデアを活用して政策戦略に発展させる必要を感ずる。一般にはウエップ夫妻のNM論の部分的な亜流論であるベヴァリッジの低い最低保証生活費をNMとする理解が国際的に普及しているが、原点であるウエップのNM論を活用し展開すれば、第一次的には労働基準および最低賃金、第二次的には生活保護基準と生活のNM論、第三次的には生活環境のNM論を含む営利事業民主統制の包括的NM論を、そしてそれらを基礎としてのグローバル・ヒューマン・スタンダードによる国際資本活動の規制論を体系的に再構成することができると筆者は考えている(『賃金と社会保障』掲載の拙稿参照)。ご参考までに。

(常任理事)




緊急研究例会

緊急経済対策・国家的リストラ
          にどう立ち向うか


 労働運動総合研究所は、4月28日、東京・御茶ノ水で「緊急経済対策・国家的リストラにどう立ち向うか」をテーマに緊急研究例会をおこなった。会議には、労働総研会員はもとより、労働組合幹部、市民団体役員、マスコミ関係者、一般参加者など50名の参加者によって、さまざまな角度からの討論が活発におこなわれ、成功した。この緊急研究例会は、3月31日の常任理事会で決定たれた。4月6日、自民党・公明党・保守党による経済対策閣僚会議が「緊急経済対策」を発表し、「日本経済再生」にむけた「構造改革断行」のためには「国民への痛み」は必要と公言する小泉内閣が26日に発足するという情勢のもとで開催されたという意味でも、まさに緊急研究例会の名にふさわしい討論集会となった。本号で緊急研究例会の大要を特集した。

牧野富夫(労働総研代表理事)開会あいさつ

 今日のフィナンシャルタイムスは各国の経済・景気を天気予報のような表示で予測している。欧米の国々は晴れや曇りだが、日本だけは唯一雨マークである。新たに登場した小泉内閣がおこなう政策が、国民にとって土砂降りにならざるをえないという情勢のもとで開催する緊急研究例会が大きな成功を収めるように期待する。


「緊急経済対策」の特徴の問題点

今宮 謙二 (中央大学名誉教授)


アメリカの強い要請で

 はじめに4月6日に発表された政府の緊急経済対策の印象を二つ指摘します。
 第一はこの対策はアメリカの強い圧力のもとでとりまとめられた点です。新しいブッシュ政権は以前のクリントン時代とちがって、日本に対して強い圧力をおこなっていないとみる見方も一部にあります。たしかに2月17日に開かれたG7(イタリア・ペレルモ)でもそれほど日本への風当りは強くなかったとの報道もありました。しかし、これは表面的なことであって事実はその裏で非常に強い圧力があったようです。G7の共同声明では日本の景気回復必要であり、そのためには金融緩和をいっそうすすめること、金融センターのさらなる強化がうたわれていますが、その背後にアメリカ財務省が日本に対して強く不良債権の直接処理を速やかにおこない、アメリカの対日直接投資をふやせという構造改革論をおしつけたとみられています。これに対応して日本の動きをみると柳沢金融担当相は2月16日、銀行に不良債権直接償却を促す方針を明らかにし、G7終了後の20日にはこの方針を正式に発表しています。22日には東京市場の株価が1万3千円台を割るなどもあって、あらためて不良債権処理問題とからんで株価対策もおおきく前面にでてきています。92年以降金融機関の不良債権処理を段階的にすすめるという方針を政府はおおきく転換させたのです。アメリカがこの要求を強くだした理由は@世界戦略の一環としてアメリカの安全保障問題として対日関係を考慮していること、Aアメリカ経済の急速な悪化、Bアメリカ金融機関の対日市場侵出のいっそうの促進などがあげられます。このように強いアメリカの圧力のもとで小泉新内閣はできるかぎり緊急対策を実行しようとするでしょう。
 もう一つの印象は言論の圧力があった問題です。「週刊朝日」4月27日号が「日本経済新聞社恐怖の人事」という報道でこれが明らかになりました。それによると3月9日に自民党・公明党・保守党による緊急経済対策(政府の原案にあたるもの)が発表された翌日の3月10日日本経済新聞の社説「どさくさ紛れの緊急対策」がのりました。この内容は与党のこの案は急づくりで内容も粗雑、実行責任者も不明などをあげ、たんに森内閣の延命策にすぎないとの指摘でした。これをみた日経の鶴田社長は激怒し、これを書いた論説委員を日経産業消費研究所にとばしたというのです。当時の自民党亀井静香政調会長が直接鶴田社長に電話した結果ではないかとこの記事はかいています。真相は不明ですがこのような言論弾圧が経済対策をめぐって生じているのは最近の混迷している日本経済のシンボルみたいでもあり、非常に危険なことと思います。

対策の内容

 さて本題に入りますが、まずこの対策の内容を示しましょう。全体として2章に分かれ、主なのは第2章の具体的施策です。これも5つに分かれ、@金融再生と産業再生、A証券市場の構造改革、B都市再生・土地流動化、C雇用の創出とセーフティネット、D税制となっています。今日は時間の関係もあり、主に@を中心に話をいたします。@も2つに分かれ、一つは、金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決であり、もう一つは銀行の株式保有の制限についてです。要するに不良債権処理をどうすすめるか、株式買上げ機構をどうつくるかの二つがこのなかで重要な問題としてでています。
 では第一の不良債権処理についての内容をみると二つの特徴があります。一つは期限付で直接償却をすすめること、もう一つは産業再生法を拡大解釈し、この処理に適用しようという点です。期限についてはすでに不良債権処理と認めたものについては2年以内、これから新たに発生するのは発生時点から3年以内に処理するとしています。新たに発生するのはどのくらいかとみれば、例えば東京三菱証券の推定によればこの3年間で年平均7兆円になるとされ、昨年9月期でみると年間約3.6兆円の不良債権が新たに生れています。いずれにせよ、これから発生する不良債権の内容は銀行がはっきりと開示していないため、どの程度になるかはよく分かりません。4月16日の「日本経済新聞」は政府がこの不良債権の内容開示を義務づけるよう検討をはじめたと報道しています。
 つぎの銀行の株式保有制限についても二つの特徴があります。一つは銀行の保有株の総量規制問題です。それは銀行の株保有をリスク管理能力の範囲内に限るとして、具体的に例えば自己資本の範囲内としています。もう一つは株式買上げ機構設立問題です。ここでは仮称として銀行保有株式取得機構としたように買上げ対象を全産業ではなく銀行の保有株に限定したこと、この資金には預金保険機構の活用も含め政府保証など公的支援を検討するとなっています。この機構についての具体案を確定するにはその他法的手当ても含めてきめるとなっており、株式売買損がでた場合には政府支援、つまり税金投入もあり得るとの含みがあります。
 以上主に金融関係を中心に対策の内容を話しましたが、3月9日に発表された与党案とのちがいについてふれておきます。
 基本的には与党案と同じですが、いろいろな点でちがっているのもあります。もともと与党案は簡単であり、大雑把なものですが、この案をもとに3月15日政府・与党の緊急経済対策本部の初会合がおこなわれ、その後さまざまな政府構想が打ちだされます。この会合のなかででた政府構想などとこの対策はかなりちがったものがあります。例えば買上げ機構の存続は5年にすること、買上げ資金は日銀特融や政府保証社債、機構への出資3分の1は政府の負担などが示されていましたが、対策ではこれらの問題はすべてなくなっています。これらについては今後の検討という形でぼかされています。これは後にふれるように、政界や財界からもさまざまな意見がだされ、まとめきれなかったからなのです。

対策の特徴

 つぎにこの対策の特徴についていくつかのべます。
 第一は不良債権問題が前面にでてきたのは92年以降10回以上も実行されてきた緊急経済対策と内容的におおきく変わっています。これまでの対策は公共事業中心に予算措置も含めたものでしたが、今回はその点でまったくちがいます。しかし、不良債権処理を問題とするならば、日本経済と不良債権の関係をキチンとつめておかねばなりません。しかし対策ではこの問題がまったくふれないまま処理のみを強くおしだしています。これがおおきな特徴です。不良債権処理をというには、日本経済との関連をどうみるかが基本になります。いま政府は巨額な不良債権があるため、銀行の貸出しが低下し、その結果景気が悪化してるとみています。不況が長びいているのもそのためで、だから不良債権処理を急速にやるべきだというのです。しかし、よく考えてみると不良債権があるために銀行貸出しが低下するというのはおかしなことです。ある意味では社会の必要性があって銀行の貸出しが要請されるのが不良債権あるなしの問題ではないのです。その点最近だされた小林慶一郎・加藤創太『日本経済の罠』(日本経済新聞社)では、負債があるため銀行貸出しができないのではよく、不良債権があるため企業間のネットワークの信頼の欠如が生じ、その結果不況が長期化しているという見方をしています。つまり不良債権→貸出し低下→不況長期化ではなく、不良債権→企業間信頼欠如→不況長期化というのです。いずれにせよ、長期不況の源は不良債権にあるとの見方は同じです。
 本当に長期不況の原因が不良債権にあるのでしょうか。私は逆だもとています。90年代の長期不況の原因は、明らかに自民党政権の失敗にあります。浪費型公共投資中心のバラマキ政策、その結果として財政危機の深刻化、異常低金利による金融市場の麻痺と国民からの収奪、消費税率アップや社会保障費負担増など国民生活の犠牲、大企業のリストラ、賃下げ、首切りなどが長期不況の要因なのです。その結果として不良債権問題があります。しかも、バブル崩壊以降10年財界・政界は真剣に不良債権処理に取りくんできていません。本気で処理をすすめるならば現在のような巨額な不良債権は存在しなかったと思います。その意味でいまの不良債権はバブル後遺症のものではなく、10年間の大金融機関・大企業の無責任な無能な経営の結果ともいえます。しかも、政府は70兆円というムダな税金投入の枠組みをつくってもこの状況なのです。
 対策の第二の特徴は先にもふれましたが、不良債権の内容や実態が不明のまま期限付で直接処理をおこなう点です。不良債権の中身については現在3つの方法があります。@銀行法にもとづくリスクの管理債権、A早期是正措置にもとづく自己査定、B金融再生法による開示債権です。リスク管理債権によれば、2000年9月期全国で31兆円、大銀行で19兆円あります。大銀行をみればそのうち破綻先と延滞債務で約13兆円あります。これを2年以内で処理するというのです。この破綻先は主に不動産、建設、流通、サービスなどで約6割占めており、その多くは中小企業です。急激な直接処理をおこなえば倒産は必至です。しかし、なぜ直接処理を急ぐのか、その理由はありません。92年以降全国銀行で約68兆円の不良債権処理をすすめてきましたが、そのうち直接処理は約54兆円も処理の8割も占めています。これまで直接処理をそれほどしてこなかったというのは誤りです。
 つぎに直接処理の方法についての問題です。これにはつぎの3つの方法があります。@法的処理(会社更生法、民事再生法など)A債権放棄(借金棒引き)B債権売却(証券化など)この3つの方法のうちどれをとっても以下の3つの事態が発生します。第一は大銀行・大企業の再編がいっそう促進されます。すでに銀行は4つの大グループに編成されましたが、今後どう発展するかは現在まだ不明です。それぞれの大銀行は、銀行間の激烈な競争に突入するのは当然ですが、それよりもいま問題は合併した銀行内部の経営や人事などをめぐる抗争が激しくなっていることです。それは銀行系列の参加企業も同様です。不良債権処理を急速にすすめるには、このような大グループの再編のために利用されるのは明らかです。産業再生と一体化しつつ、首切り、リストラを通じて減税、低金利融資、会社分割法の利用などで企業再編はいっそう加速されるでしょう。第二は先にふれましたが、系列外となった中小企業はどしどし切りすてられる問題です。この結果日本経済の地盤そのものも崩壊する危険性が生じます。第三は債権売却によってこれも先にふれましたが、アメリカ金融機関がより積極的に日本市場に参入してきます。すでに日本の企業が外資に安く買われていますが、この傾向は今後さらに強まるに間違いありません。いわゆる「ハゲタカ・ファンド」は日本市場を喰い物にしようとねらっているのです。
 対策の第三の特徴として株式買上げ機構についての問題をみます。これもすこしすでにふれましたが、政界・財界から実に多くの意見がだされ、対策では非常に曖昧なものとなっています。なぜ多くの意見がでたのか。それは政府の基本的原理としての市場万能論と矛盾しているからです。規制緩和、自由化だといいつづみながら株価を人為的に支えようとするのですから、矛盾ができるのは当然です。ですから今回はたんなる株価維持ではなく、金融システム安定のためということを持ちだしていますが、結果が同じです。しかも株保有を大銀行の自己資本以内の制限をすると、約10兆円売却せねばなりません。(大銀行保有株約45兆円、自己資本35兆円)この株売却の中身をどうするか、買却時の損失や利益がでた場合どうするか、など数限りなく問題があります。速水日銀総裁も出資、損失負担など問題がおおすぎると発言しています。これはあまりにも大銀行優遇すぎる、税金のムダ使いなどの批判がでているのも当り前です。

対策の問題点

 つぎにこの対策の問題点をのべます。第一はすでに指摘したようにアメリカの強い圧力で日本の従属性がめだっている点です。第二は同時に日本経済の体質変化を自民党なりに対応しようとした点が注目されます。つまり土建国家の解体化に対応しつつ、これまでのような浪費型大手ゼネコン型公共投資中心ではない体制づくりをしようしている点です。しかし、この対策のなかに建設産業再編の促進がもりこまれたように、形が変わったとはいえ、従来の大手ゼネコン体制を再編させながら生き残らせようとしている点がおおきな問題です。自民党の古い政治体質が危機におちいり、小泉内閣が新しく生まれても自民党そのものの体質が基本的に変わらないとまったく同じなのです。第三の問題はすでにのべたようにこの対策は大金融機関・大企業再編のためのもので、今後いっそう大企業中心体制を強化するに役だつものにすぎない点です。第四にこの対策を実行しようとすれば、失業者はさらにふえ、企業倒産のいっそうの増加のもと国民生活はますます苦しくなり、不況はいっそう深まるばかりで、日本経済そのものが崩壊への道をたどるでしょう。
 これとの関連で日銀の量的緩和対策に一言ふれておきます。緊急対策はこの金融緩和なくしては実行できません。量的緩和政策は日銀として初めての政策ですが、この意味は三つあります。@資金量はいくらでも供給できること、A消費者物価上昇までの期限をつけたことで企業の投資誘因の可能性、Bインフレーション発生の条件づくりです。国民生活にプラスになるものは何もありません。
 最後に国民の立場から経済対策をどう考えるかの問題を話したいのですが、時間がなくなりましたので、くわしくは「労働総研ニュース」133号の私の論文を参照して下さい。基本的にはつぎのように考えています。@現在何よりも必要なのは長期的不況からの脱出が必要なこと。そのためには国民の購買力向上が絶対に必要です。A銀行の金融仲介機能の回復を早急におこなうこと。それには銀行の全面的情報公開が前提になります。同時に銀行の経営内容の透明性も欠くことができません。B不良債権処理はこのような全面的情報公開を前提に、銀行の自己責任を原則としてそれぞれの立場を考慮しながら、国民の監視のもとですすめるべきです。それに国民の信頼をえた民主的政権の樹立が必要です。

働くルールの確立の攻勢的な運動を

 熊谷金道(全労連副議長) 全労連も連合も緊急経済対策が、深刻な雇用情勢をさらに悪化させ、労働者・国民の将来不安をさらに拡大させる一方で、銀行などに国民の税金を使うことは許しがたい内容だという共通の認識に立って事務局長談話を出している。
 全労連は5月2日、「経済政策の抜本転換で労働者・国民の生活不安、雇用不安の解消を」、小泉首相に申し入れる。緊急経済対策は、不良債権の直接償却で、いままで以上に露骨にリストラ・労働者への犠牲転嫁を強行する内容だ。3月の失業率と2月の労働力特別調査で見ると、失業者は前月と変わらないが、失業率は増大している。労働力特別調査は、1年以上にわたる長期の失業者が83万になるとしている。特別調査で、非労働力人口中、仕事がないので就職活動をあきらめている労働者が420万いる。これは完全失業者数をはるかに超えている。両者を合計すると完全失業率は10%以上になる。
 大量首切り・人べらし・リストラ攻撃のもとで、完全失業者320万人、完全失業率4.2%と、当たり前のようにいわれているが、70年代の2度の「オイルショック」後に徹底した「減量経営」、大量人べらしをおこなったが、78年の年間の完全失業者数は124万人、失業率で見て2.2%である。78年と比べて失業者数が200万人増加している。北海道の労働者がそっくり失業者になるという異常な状態が発生している。
 政府はリストラ推進を前提に、雇用の創出とセーフティーネットを打ち出しているが、財政出動を伴う対策は、今年の5月15日までの期限でつくられた緊急雇用特別奨励金を9月30日まで延長するだけだ。これは、全国平均で完全失業率が5.2%を超えた場合に発動するとか、中高年の非自発的離職者を雇い入れた企業に対して1人30万円の奨励金を支給するというものであるが、実際に600億円の基金から2月末までに支出されているのは16億円に過ぎない。ベンチャーなどに対する雇用特別奨励金の期間も延長するというが、これも、2月末までに基金から支出されたのは900億円の1割ぐらいである。このように雇用特別奨励基金は実際に使えない、実態にあわない。後は職業訓練だとか既存の政策を並べただけである。緊急経済対策が実施されると、ニッセイ基礎研究所の試算で130万人の失業者がさらに増加するという。
 政府はバブル崩壊後十数次の緊急経済対策を繰り返し、130兆円もの税金をつぎ込んできたが、なんら効果をあげていない。大銀行には70兆円もの公的資金を投入し、労働法制の全面的な改悪をあいついで強行し、労働力のジャストインタイム、正規労働者を不安定労働者へ置き換える、企業の再編を自由自在に一貫してすすめられてきた。緊急経済対策の中でも、産業再生法、会社分割法制の活用を強調している。
 緊急経済対策とどうたたかっていくのかが、いま労働組合に課せられている。全労連、春闘共闘は世界で当たり前の働くルールを確立する大運動を今年を出発点に3年くらいの見通しで展開している。日本と同じように規制緩和、市場経済主義万能ですすんできたイギリスでも、あるいは80年代の半ばにヨーロッパのいくつかの国が保守党政権から労働党政権、社会党政権やあるいは連立政権、中道左派政権に政権を交代させる中で、リストラ・解雇規制の強化するようなUE指令の見直しだとか、国内法の改正の方向が強まっていている。最近ではイギリスのスーパーに対する店舗閉鎖に反対するフランスの裁判所が差し止めを認める決定を下している。フランスの議会では解雇規制・リストラ規正法案が新たに提案されている。
 日本では、大企業が勝って気ままに労働者を職場から追い出す、低賃金・長時間・無権利状態に追いやる法制度があいついで90年代半ば以降推進されてきた。全労連は、裁判所の判例で確立している解雇規制の法制化、あるいはタダ働き・時間外労働をなくして、雇用を維持・拡大していく、増大するパート労働者の労働条件を少なくともILO基準やヨーロッパ各国でやっているような均衡待遇を実現していくための国内法の見直し、すべての労働者に共通する切実な要求を土台にして、守りから攻めに転じていくような運動をいま本格的に強めていきたい。

金融問題緊急提言と検査マニュアル

 国吉昌晴(中小企業家同友会全国協議会専務幹事) 緊急経済対策に対する率直な感想は、経済政策の視点を何処に置くかである。日本の企業の99%は中小企業で、そこで勤労者の8割が働いている。そこに視点をあてた政策を展開するかが何よりも大切だ。2000年度の倒産件数は戦後3番目の2万件に近づき、不況型倒産が7割である。中小企業同友会の会員は地域においてはかなり優良・健全な企業が多い。前向きに勉強しいい会社にしていこうとしており、倒産は他団体と比較して少ないが、ここ2、3年、40代、50代の経営者がある日突然なくなる。過労の果ての戦死が増えている。ここに中小企業の厳しさが現れている。
 4半期ごとに会内で景況調査をしている。経営上の問題の第1は、民間需要の停滞、市場が大変狭くなって、売るのに苦労している。2点目は常に販売先から値下げを要請される。3点目は競争がメチャメチャに激化している。4点目はすべての業種がユニクロ化現象している。ユニクロ化現象は日本対日本の競争である。われわれは、アジアとの共生をどうつくりあげるかという課題に直面している。
 ネット取引で世界から調達するというが、取引の中で値下げを要求する、いわば中小企業の弱みを見越した、詐欺的な受発注の契約がまかりとおるという恐ろしい事態になっている。したがって、市場競争のルール構築していくために、独禁法の強化、公正取引委員会の機能の強化が大切である。
 もう一つ力を入れているのは、金融問題に関する要望・提言活動である。今年1月23日に「金融問題に関する中小企業家の緊急要望・提言」を出した。数年前から、金融ビッグバンによる金融機関の大変質、貸し渋りと貸し剥がしがひどくなった。中小企業は間接金融に頼らざるを得ないが、金融大手4行は海外の金融機関と競争するために中小企業などは相手にしない。一般に、中小企業のメインバンクは地銀、第2地銀、信金、信組である。東京など大都市の中小企業は都市銀行と取引しており、大都市ほど貸し渋るの影響は深刻である。
 同友会の緊急要望は3点ある。1つは検査マニュアルの作成である。検査マニュアルで都市銀行、地銀、第2地銀、信金、信組も同じ基準で健全性を試される。これによって中小企業金融を人為的に不安定化させることを防止する。第2点目は地域金融機関の存立を危うくするペイオフ解禁の延期である。3点目は金融アセスメント法の制定である。あらゆる金融機関は社会的使命がある。金融機関が地域にどれだけ円滑に資金供給をしているかなど、一定の基準で評価しようとするもので、考え方としては1977年にアメリカで制定された地域再投資法と共通するものがある。金融機関と借り手との取引慣行のゆがみを是正する。現行の裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に転換するなどである。各政党・国会議員にも要請している。

銀行労働者の立場から

 原紀昭(銀行産業労組・横浜銀行) 現場で働く銀行員の立場から率直で具体的な発言をする。第1は金融業界の再編である。7兆円の公的資金を導入して経営健全化計画を金融庁に提出し、リストラを公約した。第2はメガバンクづくりの中で当初の経営健全計画でのリストラ計画が大幅に上乗せされた。
 都銀、地銀などどこの銀行にも共通していることは、国の政治に翻弄されながら自行だけ生き残るために、国民、銀行利用者と銀行従業員に犠牲を転嫁して、経営の効率化、収益力のアップ、財務体質の強化で、より儲けのあがる銀行をめざしてということである。
 経営の効率化、収益力の強化の具体例として、貸出金利の引き上げ、融資先の選別などがある。融資ランク上位のには積極的に融資し、下位からは積極的に資金を回収する。細かい融資は手数がかかって儲からないからやめる。帝国データ−バンクの評価のよい優良企業をターゲットにして融資を働きかけるが、どこの銀行もターゲットにするので、新規が増えず、貸し剥がしが横行する結果になる。そこで、振込手数料や口座維持手数料の新設など手数料収入を強化している。投資信託などリスク商品の販売に猛烈に力を入れ、成果を給与や賞与に反映させ、従業員競争を激化させている。
 地域の中心店舗に融資業務や渉外業務を全部集中し、人員も引き上げて、無人店舗に切り換えるなど店舗の統廃合をすすめているので、商店主が融資の相談もできなくなり、利便性が著しく損なわれている。
 人員削減は、中高年の役職者を中心に、都銀では48歳くらいから、横浜銀行でも50歳前後から出向・転籍させられる。部門ごと分社化、採用の抑制し、女子社員が辞めると補充せず、パートを採用する。正規女子社員1000人に対し、パートが3500〜4000人。いる賃上げは6年間連続ゼロ。ボーナスも1〜1.5ヵ月と減額されたままで、住宅ローンが払えないで、銀行から借金し、多重債務者になる従業員もいる。成績に連動して下がる成果主義賃金体系への改悪がすすんでおり、生活不安がひろがっている。
 金融労働者は雇用と生活をまもる要求実現で自ら立ち上がり、経営に対するチェック機能強化、国民のための銀行、銀行の社会的責任を果たさせるために、金融機関の民主化などの課題で各省庁にも連帯して運動を強化している。

討論T

 大木一訓(労働総研代表理事) 4つくらいの論点で率直に討議したい。1つは今回の緊急経済対策はこれまでのものと性格が違うという点である。会社分割や不良資産の直接償却を無理やり推進して大量倒産、在職中から余剰人員化して排出し、大失業をつくりだす。小泉内閣が断行する緊急経済対策・国家的リストラ攻撃が、それがわれわれの労働と生活、労働組合運動にどういう形であらわれてくるかという点をリアルに論議したい。  2番目は、その中で焦点となってくる地域擁護、地域経済を守るという課題である。この運動でこれまでにない全体的な取り組みがあれば経験交流したい。3つ目は、雇用を守る課題である。解雇を規制する。失業者の生活や権利を守る、雇用を保障する課題。最後は、大恐慌時代における失業反対闘争をどうすすめるかといった戦略課題をも視野に入れた提言や運動をすすめる経験についても議論したい。
 松井陽一(全国金融共闘事務局長) 4月18日、金融庁で金融検査マニュアル問題で交渉した。金融共闘も中小企業家同友会と同じ議論をしている。ダイエーが駅前に店舗をもっているが、破綻すれば銀行の管理地になる。こんな不良債権には実際買い手がつかない。日本企業、日本株の大バーゲンになる。買うのは外資である。第2、第3の日産が出てくる。本気でビッグバンをすすめれば、株持合で系列を破壊して、数年先には日本も韓国や東南アジアと同じ状態になるだろう。
 これはデフレ効果があるから、財政を投入しなければ日本は恐慌状態になるので、財政危機にもかかわらず、財政投入を続けるだろう。そうすると国債が反落する。国債を一番多く持っているのは銀行だから、銀行は経営破綻の道をすすまざるをえない。東洋経済などは日本経済の地獄の釜のフタが開いたといっている。個人資産1300兆円も外資に吸い上げられる。このまますすんでいけば、日本はアメリカの植民地か、IMFの管理下におかれることになる。この本質を国民に知らせることが大切だ。
 岸部弘(ゼネコン首都圏連絡会事務局長) ゼネコンの中でリストラ反対、特に解雇の情報など情報を交流する運動をしている。いま20、30年来の政治経済問題が噴出している。バブルはまだ終わっていない。不良債権問題も含めて20年、30年単位で考えないと、われわれが政権を取ったとしても急に解決できない問題であり、われわれのグランドデザインが必要だ。この点で国民にわかるように全労連がグランドデザインと当面の問題とを両建で出すことを期待する。それを末端の労働者がキチント学習できるように、人を育てる上でも役割を果たしてほしい。
 吉谷泉(消費税をなくす全国の会) 85年のプラザ合意で、なぜ日銀とドイツ連銀のスタンスが違ったのかを日銀を辞めた大学時代の友人に話を聞く機会があった。金融政策問題など議論した後、友人は最後に日銀の態度を最終的に決定したのは日米安保だ、この点でドイツと日本政府のスタンスは違うといった。彼の言葉を頭におき、財界幹部やキャリヤ官僚、政治家の友人の話を聞くと、経済政策でも日本とか日本国民とかを視野に入れていないことが分かる。まさに従属国の支配層である。このことを国民に知らせ、日本経済の困難を打開する方向を国民の共同した力で前進させなければならない。
 消費税問題は経済・財政戦略上の要となっているだけではなく、軍事戦略とも連動している。小泉首相はブッシュ政権の要望にしたがって、憲法を改悪し集団自衛権を行使してアメリカの戦争に参加するといっている。こうなると、現在の軍事予算5兆円を倍加しても足りない。日本の戦後の繁栄を支えた根幹には憲法9条の規程があった。憲法改悪反対と消費税を3%に引き下げなど、消費税をなくす会も労働組合と連携して大いに運動していきたい。
 生熊茂美(JMIU書記長) 緊急経済対策は、日本産業を国際的規模で大再編成するための大リストラ攻撃推進の土台となっている。造船は、瀬戸内海の造船所を4つくらいに集約し、つくる順序を変えていく。建造がはじまったらそこに人を集中し、擬装がはじまればそこに人を移動する。瀬戸内海の中を一定の労働者が移動していくシステムを考えている。九州に1つ。瀬戸内海に1つ。東海に1つ。関東に1つくらいに集約するともいわれている。
 これまでの緊急経済対策は公共事業で需要を創出して乗り切ろうとした。今回は金も引き上げ、縮小した市場のもとで、無理やり倒産させるといった決定的違いがある。緊急経済対策とリストラ法制がセットになっている。不良債権を処理して、中小企業を倒産させ、生き残れる強い力をもった企業で強い日本資本主義を再構築しようとしている。高見沢電機では、富士通の部品をつくっている子会社で、富士通と共につくった合弁会社と高見澤電機が持ち株会社をつくって、持ち株会社を統括会社にする。高見澤電機が持っていた技術・営業・管理部門を全部持ち株会社に持っていく。残った製造部門だけを高見澤電機にする。高見澤電機は月3000万円の赤字、年間3億6000万円の赤字を出すからなりたたない。これまで分社化とか今度の会社分割の時には、本人同意の転籍とか労働組合・労働者との協議があった。今回の場合は、つぶれる会社に労働者を置き去りにするから、本人同意はいらない。緊急経済対策のもとで、設備廃棄、不採算部門の切り捨て、労働者の切り捨てなど、すさまじいリストラが起きてくる。労働者・国民の生活と権利を守る立場から、日本経済再生のたたかいを強化しなければならない。

討論U

 大木 いまの討議について報告者の方から発言を求めたい。今宮さんから。
 今宮 松井発言と生熊発言の内容は一体的に理解すべきである。いま、銀行にはいくらでも金はある。銀行は預金を受け入れて、それを貸し出す預貸の差で儲かる。これが銀行の純益であるというのが銀行経営の本道であった。最近、アメリカの真似をして、銀行経営の手法が大きく変わってきている。買収・合併の口利きやシンジケートローンの幹事行になることや国際投資信託で莫大な手数料収入を得ることを中心に考えている。この方向はうまくいかない。ドイツ銀行がアメリカの真似をして、アメリカの銀行を買収したがうまくいかない。イギリスの銀行は国際的な投資信託業務から手を引きはじめている。国際投資信託業務をやってみたが、儲けるのはアメリカの銀行だけで、そのおこぼれにありつくだけというのが実態だからだ。
 銀行には、地域経済と密接にし、個人の財産を預かるという役割がある。われわれは、アメリカの銀行を大手金融機関としか考えていないが、それは間違いだ。1万くらいあるアメリカの銀行の90%以上が中小金融機関である。この中小金融機関はコミュニティー銀行といわれ、地元の経済と一体化している。これがアメリカ金融機関の特徴である。1977年に地域再投資法ができたのも、地元の住民と一緒になって地域経済を支えてきたコミュニティー銀行の伝統があるからだ。アメリカのコミュニティー銀行の多くの経営者は大手銀行がやるグローバリゼーションに反対している。いまのグローバル化はアメリカ型のグローバル化であって、本当の意味でのグローバリゼーションではない。本当の意味でのグローバリゼーションとは、それぞれの国の制度や習慣、システムを尊重しながら、共通したグローバル化を追求することだ。だからヨーロッパでも反対しているし、日本で反対するのは当たり前である。
 小泉人気で自民党は盛り返しているように見えるが、緊急経済対策の内容を国民が知れば、自民党は決定的ダメージを受けることになる。
 熊谷 全労連は、21世紀を攻勢的に運動をつくり上げていく必要があるということで、昨年の大会で「21世紀初頭の目標と展望」という提言案を出した。これは多国籍企業化した大企業の勝手な横暴と規制緩和などの流れに対して、3つの柱で提起している。1つは多国籍企業化した大企業の民主的規制と働くルールを確立。2つ目は国民生活を下支えしていく最低賃金制など国民生活に関わるナショナルミニマムの確立。3つ目はその実現のためにも政治の流れを変えていくという提起である。今年の秋に全国的に大規模な討論集会を開き、さらに練り上げていくことにしている。
 日産闘争に関わって痛感することは、日本の財界、官僚が日本の労働者・国民という立場にたっていないとということだ。日産がルノーの事実上の子会社になった。その後発表されたリバイバルプランの内容は、日産の技術・生産設備・販売網を使って、ルノー車をつくって、ルノー車を販売するというのが一連の流れである。アジアにある日産の工場でルノー車をつくる。アフリカにある日産のトラック工場でルノーのトラックをつくる。日産の販売網でルノーを販売する。日産の再生といっているが、ルノーの利益のために日産を使っているのが実態である。ルノーは国営企業であったから、筆頭株主はフランス政府だが、2位の大株主はアメリカの年金基金だ。日産で吸い上げた利益がルノーにいって、フランス政府とアメリカの年金基金に回っていく。日産の再生や雇用を守るためにリバイバルプランがあるのではない。
 同じように、今回の緊急経済対策も、日本の労働者の雇用を拡大するとか生活を守るためという立場ではない。国内で生産する必要はない。売れなくてもいい。海外で生産し儲ければいいという立場だ。いまのままでいいのかという声が財界の中からも出はじめている。今回の自民党総裁選のときに、商船三井の生田会長が構造改革は痛みをともなう、守るべきは企業ではない、雇用であるといっていた。こういう声は大勢ではない。だからこそ、政治の流れを変えるということと経済の仕組みを変えているという関連が非常に大事になっている。
 国吉 中小企業家の中で、日本はあまりにもアメリカのいいなりになりすぎるではないかという批判の声がかってなく出てきている。ビル・トッテンというアメリカ人の経営者は、中同協の講演で、日米安保条約の条文をコピーして全員に配る。かれが、日米安保のもとで日本はアメリカのいいなりになっている、もっと自立すべきだと話すと、「そうだな」と大変受ける。内橋克人氏は、大量にモノを生産して、大量に同質のモノが流通して、その結果、大量に廃棄物を産み出す大企業型の生産システムは完全に行き詰まり、消費者は自分が好むモノ、質的に高いモノ、食品であれば安全で安心なモノを欲する賢い消費者になってきているという。
 こうした消費者の要求に応えることができるのは地域で経営している中小企業家である。賢い消費者と賢い生産者がどう日本の地域社会を健全で豊かにしていくかという社会的使命があると内橋氏は強調している。これはわれわれの理念と合致する。中小企業の大きな使命の一つに地域の雇用を守るということがある。個々の企業では、リストラをやらざるを得ないという問題が起こるが、消費者の新しいニーズに応えてマーケットを創造していくことが、雇用を守り、地域を豊かにしていくことにもつながる。
  平の取締役がこういう時代になったから適当な着地点を見つけてソフトランディングするしかないといっていた。いまの銀行経営者は確固たる展望を持っていない。三井住友銀行は今年の4月から看板を変えているが、技術的に至近距離に複数ある店舗を整理できないでいる。みずほフィナンシャルも来年の4月に店舗の整理は間に合わないといっている。政府の方針と銀行の対応にはズレがあり、地方金融機関を巻き込んでやっていこうとしているが矛盾や困難性がある。

討論V

 大木 経営者の中からもいまのやり方はおかしいという批判的な意見が出はじめている。こうした声も巻き込んでどう大きな世論構築をすすめるかも含めて討論をつづけたい。
 松岡勉(年金者組合) 変人小泉は何をやりだすか分からない。野垂れ死する前にアメリカに約束させられた森政権の約束・緊急経済対策の内容を国民の間に知らせる必要がある。そのための全労連の役割はきわめて大きい。学者・研究者も国民の立場、民族の立場に立った宣伝をしてもらいたい。地球規模の競争に日本の産業が飲み込まれる過程がはじまっている。日本の経済は中小企業で成り立っている。それをどう守るのか、地方の経済を支える金融機関をどう残すのかを国民的に議論する時期にきている。
 労働者に大恐慌的な実態をキッチリ理解させれば、労働者は動く。企業が消えるような時代に企業組合主義ではだめだ。まず産業別に結集する。すぐナショナルセンターが共同できなくても、そのための努力をする必要がある。
 坂田晋作(建交労副委員長) 中小企業はどうしても不良債権化せざるを得ないから、不良債権化させない対策が重要だ。70年代、80年代銀行融資を受けた場合、繋ぎ資金成、企業運営資金に当てられた。いまは融資を受けても消費税や社会保険料の負担増で、これに充当せざるを得ない。延滞資金は14%だから雪達磨式に膨れ上がる。消費税や社会保険料の増大が消費を冷やしているだけでなく、中小企業の経営を直撃している。公共事業に対しては消費税の納税証明を出さないと入札資格を与えない。税務署は3%の時は、トラック協会が消費税3%を受け取れといった。5%になって業界ぐるみでそれを受け取ると公正取引委員会にひっかかるという。消費税の納税義務は課せられて、転嫁の権利は保障されずに徴税権が強化されたという事態を重視しなければならない。
 銀行は朝支店が決済して5000万円貸すといっても、夜になると本店決済でダメになるという事態が起きている。最近は手形の割引もしないから、即倒産となる。銀行と税務署に生きた企業が潰されている。1回不渡りを出すと民事再生法云々というが、それを検討しているひまもなく売掛金が押さえられてしまう。
 運動の戦略的方向についていえば、不況とリストラと悪政が中小企業の労使を直撃しているから、労働条件の面からリストラ・企業間競争を規制していくことが重要だ。関西の生コン・セメント労働者は連合を含め、5つの組合が共闘している。大阪と兵庫だけで組織率は約40%、事業者の協同組合の組織率は90%、賃金・労働条件では統一できないけれども、年間125の休日は業界が守る。年休の完全取得。この2つの労働条件を守るだけで、日々雇用労働者の雇用が確保される。1台の車に1.1人の要員をという要求がとおる。だから、労働条件の面からの規制が非常に重要になってきている。どの分野でも安全・安心が大きな問題になっている。最近では、監督官庁だけではなしに、発注官庁がこの問題を重視せざるを得ない状況も生まれている。大阪と京都の労働局はわれわれの運動の成果として、労働条件と発注条件とは切り離せないと業界に通達を出した。これまで、運輸部門の関連省庁は運輸省だけであった。今度、国土交通省になったら発注官庁の建設部門が動かざるを得ない。こういう新たな状況が生まれているだけに大いに分析もし、そういう課題を取り上げて運動をすすめたい。
 竹内真一(労働総研理事) 80年代のヨーロッパやアメリカの文献を見ると非常に暗い。労働組合は生き残れるのかといった問題で議論していた。かれらはいろいろ失敗しながらも立ち上がってきたということを感じる。現在、コラボレーション、共同の研究が非常に多くなっている。AFL・CIOの組合が中南米の労働者のたたかいに参加して、アメリカの労働者と中米の労働者の共同を具体的に分析した報告が出ている。アメリカに進出してきた自動車企業に組合をつくろうとAFL・CIO呼びかけたら、ドイツやフランスの組合からは好意的な返答がきたが、何もいわなかったのが日本の労働組合だと書いてある。いまのたたかいを一つ一つお互いにまとめあげながら、交流して下から力をつくっていく以外に方法はない。インターナショナリズムという言葉に十何年間こだわってきたが、最近のアメリカの組合の文章にグローバリゼーションとたたかうのは、国境を越えた労働者の積極性にあると書いてある。何十年間の冷戦を超えて、新しいインターナショナリズムをつくりあげる条件ができているし、現にその実践が一つひとつなされている。
 大島昇(群馬県労会議) 小泉首相の人気は高い。現状を打ち破って何とかしてほしいという国民の一般的な願いとすりかえる形で、いままでの自民党ではやりきれなかったことを断固としてやろうとしている。国家的リストラの問題を考えるうえで、本当の意味でのグローバリゼーションという面でどう運動すべきかを考える時にきている。働くルールの確立ということではヨーロッパに目が向くが、経済問題ではアジアの国々とどう労働者が連帯していかなければならないのかという問題が重要ではないか。
 鈴木正彦(千葉自治労連) 千葉県は、アメリカやフランスの商業資本に賃借料を5年間は大幅に引き下げるなどの条件を提示して招聘した。国政もひどいが県政もひどいのでどう変えるかという問題を知事選でも大いに議論した。選挙では多国籍企業の進出が地域の経済をどうするか、地域の経済を活性化させるために果たす県の役割などの政策を積極的に提起した。残念ながら支援した候補者を当選させることはできなかったが、自民党県政を辞めさせたという点では大きな前進である。当選した堂本知事は自民党の与党にいたこともあり、自民党に巻き込まれる要素もあるが、県民は自民党県政を変えたいと投票したのだから、公約を守らせる運動や県民の期待に応えるような運動を強めたい。
 牧野 情勢が情勢なものだから、定期の研究例会とは違った形で参加を呼びかけたところ、多くの参加で成功したことを感謝したい。大変活発な議論を今後の研究所の糧としていく。報告者に再度感謝したい。

(文責編集部)




 4月の研究活動
4月2日  国際労働研究部会=活動計画について
  4日  労働時間問題研究部会=ワークシェアリングについて他
  9日  賃金最賃問題研究部会=地域最賃引き上げ問題について
      青年問題研究部会=「21世紀初頭の情勢と研究活動の基本視点」と部会活動
  21日  政治経済動向研究部会−アジア地域の産業連関分析他
  27日  女性労働研究部会=ジェンダー、フェミニズムと労働運動
  28日  緊急研究例会(本号特集参照)



 4月の事務局日誌
4月14日 第7回企画委員会
  21日 通信労組結成20周年レセプション(大須常任理事)
  24日 猿橋真さんの出版を祝う会(草島事務局長)