労働総研ニュースNo.174・175合併号 2004年9・10月



目   次

[1] 9/16「憲法改悪反対共同センター」発足
[2] アメリカのリビング・ウェイジ運動に学ぶ
[3] プロ野球選手会・NPBの実りある団体交渉のために
[4] 2004年度第1回常任理事会報告
[5] 2004〜2005年度役員・名簿
[6] 6〜9月の事務局日誌・研究活動




9/16「憲法改悪反対共同センター」発足

 労働総研は、全労連、全商連、全日本民医連、新婦人、民青、農民連の6団体が呼びかけた「憲法改悪反対共同センター」(略称共同センター)に参加しました。9月16日夜の発足会には50団体から108人(労働組合は16単産4首都圏組織48人)が参加して全労連会館2階ホールで開かれました。
 憲法改悪共同センターの発足集会で確認した「申し合わせ」では、「9条の会」の呼びかけに賛同するとともに憲法改悪を許さない運動を全国各地の草の根から発展させることを基本に、草の根の運動を激励し、各分野の運動を交流し、必要に応じて緩やかな行動を呼びかけることを確認しました。
 また、共同センターとしての統一的な署名用紙は作らず、各団体が既に取り組んでいる署名用紙を活用し、各団体の署名運動を通じて国民過半数の意思を結集すること、を確認するとともに、若干の団体による運営委員会を設置し、事務局を全労連に置くことも確認しました。
 具体的な取り組みとしては、以下を確認しました。
(1)地方・地域、職場・学園での網の目の学習運動を推進します。
(2)各団体は、全国、地方・地域、職場・学園で、各界・各層の幅広い人々と「憲法懇談会」を積極的に開催します。この「懇談会」を通じて「9条の会」の呼びかけへの賛同を広げ、草の根の共同を進めます。
(3)それぞれの団体は、創造的な宣伝活動を推進します。毎月9日を全国一斉宣伝行動日に設定します。
(4)多くの団体による署名運動を通じて、国民過半数の意思を結集します。
(5)運動推進のため、共同センターのニュースを発行します。
 中央段階での共同センターの発足により全国各地の運動を激励・交流する場が持たれたことは、全国的な憲法改悪反対、9条を守る運動をスタートさせたことになり、改憲勢力に対する反撃の第一歩を記すものとなりました。
 なお、当日夕方、新宿駅西口で6団体代表を先頭にした宣伝行動をおこない、7団体から28人が参加し、83筆の署名を集約しました。


アメリカのリビング・ウェイジ運動に学ぶ

全労連副議長 大木寿

 これは、9月17日、労働総研・賃金最賃問題研究部会公開研究会での発言に、当日の質疑応答を考慮して加筆したものである。

はじめに

 1980年代からアメリカ、イギリス、日本は新自由主義による「構造改革」で所得格差が拡大し、貧困層が急増した。1999年度ユニセフ年次報告による相対的貧困率(平均所得の半分以下)はアメリカ22.4%で先進国中最悪であった。米国勢調査局の2003年報告では貧困ライン以下の貧困層は12.5%で、医療保険未加入者は4,500万人(15.6%)いる。貧困ラインは1人世帯9,393ドル(102万円)、4人世帯18,800ドル(205万円)である。
 アメリカは80年代に連邦最低賃金が凍結された。最低賃金の水準は1981年の平均賃金の41.9%が1989年には31.9%と10%も低下した。この間の物価上昇は36%もあり、そのために貧困層が急増した。最低賃金引き上げのたたかいが行われ、クリントン政権は96〜97年に時給4.25ドルから5.15ドルにし、2000年までに6.15ドルにする公約をしたが、ブッシュ政権は最低賃金を凍結した。98年の最低賃金闘争は財界の圧力で敗北し、地域で生活できる賃金を実現するリビング・ウェイジ(以下LWという)運動が全米に広がった。
 イギリスは、保守政権のもとで1993年に最低賃金制が廃止されたが全国一律最低賃金制の運動が行われ、1999年に制定した。最低賃金額は時給3.6ポンド(平均賃金の36%)であったが、2004年10月に4.85ポンド(825円)になった。(参照:藤本武著「アメリカ貧困史」、「イギリス貧困史」新日本出版社)
 日本は、90年代後半に財界の産別最賃廃止と地域最賃引き下げの圧力が強まり、2001年から引き上げゼロで平均時間額664円(平均賃金の30%)であったが、たたかいが強化され、2004年は平均1円引き上げられた。
 「構造改革」は、表のように労働組合の組織率を激減させた。1980年以降20年間の減少比率は4割前後で他のEU諸国に見られない現象である。
 社会進歩の担い手である労働組合の弱体化は深刻であり、貧困化は経済と社会の基盤を崩す。人間らしく生活できる「賃金と社会保障」が求められている。EU諸国などは最低賃金が平均賃金の約5割で社会保障として家族手当、住宅手当があり、教育費無料の国もある。EUと日米は国のあり方が違う。市場万能社会のモデルであるアメリカで成果を上げているLW運動から学ぶべきことは多い。

一、LW運動の起因と成果

1,LW運動の起因と目標
 LW運動は「94年のボルティモア市から」が定説となっている。98年の最低賃金闘争の敗北後にLW運動が注目されたのは、「財界の影響力が弱い。住民の声が届きやすい。小選挙区制のため議員が市民の声に敏感」という 自治体に着目し、自治体に関わる企業に働く労働者の賃金を生活できる賃金にしたことである。LW運動を可能にしたのは、1960年代の人種差別撤廃の公民権運動以降、宗教団体や120万を超える住民団体(NPO)が貧困を改善する多彩な活動をし、「貧困をなくす」「公正な雇用」を求める運動が行われてきたことにある。
 連邦最低賃金は5.15ドル(平均賃金の25%)だが、時給8ドルでも生活は困難である。2000年当時、時給8ドル以下の労働者は全労働者の25%、女性労働者は31%でその内配偶者なし、医療保険無しが65%いる。貧困層は黒人、中南米移民、女性が多く、ダブルワークが多くなっている。
 LW運動の目標の第一は、自治体条例をつくり、自治体の委託や助成を受けている企業及び大学に働く労働者の賃金を「4人世帯の貧困ライン18,000ドル(時給8.5ドル)以上」にすることである。研究者は「まともに生活するには、貧困ラインの1.5〜2倍が必要」と指摘し、世論調査でも「4人世帯で25,000ドルは必要」となっている。
 LW運動は生活賃金の自治体条例だけではなく、自治体条例運動を他地域に広げたり、州の最低賃金の引き上げ、市の最低賃金条例、未組織労働者の組織化、労働組合の闘争支援、都市再生など、地域によって多様である。マサチューセッツ大学のルース助教授はLW運動を「公正な経済構築」へのステップとしている。

表 労働者の組織率の推移
  1980年 1990年 1995年 2002年 減少
(02年−80年)
減少比
(02年/80年)
イギリス 50.0 43.0 36.8 30.0 ▲ 20.0% ▲ 40%
アメリカ 22.6 15.8 14.5 13.2 ▲  9.4% ▲ 42%
日  本 30.8 25.2 23.8 20.2 ▲ 10.6% ▲ 34%

2,LW運動の成果とその要因
(1)賃金の最低保障と組織化

 生活賃金条例の自治体数は、2003年現在で121の市・郡・学校で制定しており、2004年も約70の自治体で取組中である。貧困層が集中するニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどの大都市から、地方都市に広がった。条例制定は自治体決議が圧倒的だが、デトロイト市(人口100万人)などは住民投票で決めている。また、条例制定で同業種の労働者の賃上げがされたり、失敗しても要求に近い賃上げを実現している地域もある。
 全米には約2万の自治体があり、制定数は0.6%しかないが大都市の制定によって社会的な影響力が大きく、マスコミも大きく取り上げている。景気後退、自治体の財政危機、政治の保守化のもとでも成果をあげており、運動の力量はたいしたものである。
 各条例で決められた賃金は、医療保険有りが時給8.5ドル以上、保険無しが10ドル以上である。最高はカリフォルニア州フェアファクス市で保険有13ドル、保険無14.8ドルで貧困ラインの1.7倍、連邦最賃の2.9倍となっている。
 賃金以外にも医療保険、疾病休暇、有給休暇、年金を付加したり、労働法違反企業とは契約しないとか、入札・請負契約や補助金交付の情報公開を付加した条例にしている。また、ロサンゼルス市、アレクサンドリア市は条例履行の監視システムを決めている。
 さらに、最低賃金引き上げの運動を進め、12州(6.15ドル〜7.15ドル)で成功している。市の最低賃金条例の運動も進め、ワシントン特別区、ニューオリンズ、マディソン、サンフランシスコが住民投票で決めている。
 LW運動は組織化も進めている。組織化は認証選挙で労働者の過半数の賛成が必要なために大変な困難が伴う。ロサンゼルス空港などいくつかの地域で成功したが大きな成果を上げてはいない。しかし、労働組合がLW運動で存在感を示し、独自の組織化を地域の支援によって成果をあげている。
(2)成果をあげた要因
 LW運動は住民運動になっており、人口100万人の都市で住民投票によって賃金の最低保障を決めていることは驚きである。なぜ、このようなことができたのであろうか。
 第一に、生活できない賃金の実態を市民に知らせ、共感を得たことである。市民は税金の使い方に対する関心が高く、市の税金で委託した企業の労働者の賃金が貧困ライン以下はおかしいという主張が広く理解されたことである。
 第二に、宗教団体、市民団体、学生団体と労働組合が共闘組織を作り、運動を進めたことである。例えば、ロサンゼルス市では、LAANE(新しい経済政策を求めるロサンゼルス連合)は多数の宗教団体、40の市民団体、30の労働組合が共闘して運動を進めている。大きな役割を果たしているのは市民団体であり、その中心的な役割を果たしているACORN(即時改革要求住民団体)は全米45都市に600支部12万人おり、専従者は30歳前後で女性が中心である。市民団体の活動資金は自治体の助成金、企業や財団からの寄付である。
 ルース助教授は「LW運動が未組織労働者の組織化や賃上げにつながったことは事実だが、これがLW運動の大きな成果であるとは思わない。この運動の一番の成果は、労働運動に間接的な貢献となる連合の構築という点にある」と述べている。
 第三に、多数派戦略と綿密な計画にある。戦略の重点は「調査、教育、運動の組織化」であり、要は「教育」にある。調査は貧困な労働者の実態、自治体財政、条例対象企業と労働者数、自治体と企業のコスト負担の影響、労働組合の組織化戦略と計画などである。教育は30分間の市民にわかりやすく、楽しいオルグのための教材で多数のオルグを養成し、小グループの学習会を行っている。運動の組織化はまず共闘組織づくりからはじまり、戸別訪問して市民の支持を広げ、議員への働きかけなどを行い、運動がつぶされないように浸透度を見て、6ヶ月から1年かけて運動を表面化する。市民と議員、自治体に大きな影響力を与えるために、マスコミ対策を重視している。重要なことは、調査、理論・政策面で重要な役割を果たしているのが研究者である。
(3)労働組合の果たしている役割
 自治体条例ができれば「組合員の労働条件が悪化する」とか「組織化にマイナスになる」など反対する労働組合もあるが、積極的にLW運動を推進した労働組合は、国際サービス従業員労働組合、アメリカ州市郡従業員労働組合、ホテルレストラン労働組合、合同食品労働組合、アメリカ電気・ラジオ・機械労働組合などである。
 アメリカは組織率が急減し、組織拡大が最重点課題となっていた。95年に選出されたAFL-CIO(米労働総同盟産別会議)の新指導部“ニューボイス”はLW運動に着目し、「本格的な組織化に取り組む。すべての労働者の賃上げの実現。そのために、労働運動を転換して、労働運動が活気溢れる社会運動の支柱としてコミュニティの諸組織と連携し、LW運動への積極的な支援」を地域組織に呼びかけた。AFL-CIOはビジネス・ユニオニズムからソーシャルユニオニズムへの転換を求めたのである。

二、日本の労働運動にどう生かすのか

1,貧困化の増大と公正な賃金を求める流れ
  LW運動で学ぶことは、貧困な労働者をなくすために広範な団体の共同で、「生活できる賃金(最低賃金)」の自治体条例を基本政策が同じ二大政党制の下で実現していることである。まず、日本の勤労者の現状と公正な賃金を求める動向を見てみる。
(1)勤労者の現状
 日本は「貧困」という言葉をあまり使われないが、生活困難な勤労者が増大し、アメリカの状態に近づいている。失業者は就職断念者を含め10人に1人、不安定雇用は10人に3人で女性と24歳以下の若年者は2人に1人となつている。失業者の半数以上が雇用保険が切れている。不安定雇用労働者の賃金は、長時間のパート・アルバイトは年収150万円前後、契約・派遣は年収200万円前後が多数を占め、自立した生活は困難である。
 正規労働者は年収が減少し続け、生活を悪化させている。とりわけ若年者は低賃金で賃金がほとんど上がらず、生活苦と将来不安は深刻である。とりわけ、中小企業に働く労働者は低賃金のもとでの年収減少である。企業規模29人以下の労働者は民間労働者の46%を占め、年収300万円以下が半数おり、生活は厳しい。
 また、2003年「中小企業白書」によれば、中小業者の所得は年収300万円以下が5割を超え、60歳以上は7割を超えている。国民年金は平均5万円であり、無年金者も増大している。被生活保護139万人、自己破産24万人、自殺3.4万人、ホームレス2.4万人、刑法犯369万件と貧困化は急速に増大している。
(2)生活できる最低賃金と均等待遇を求める動向
 連合は、最低賃金引き上げ(時給840円以上)、均等待遇、公契約を求めている。2003年最低賃金方針で「現行の上げ幅準拠による水準引き上げは限界であり、生活賃金の理論構築をし、水準論による改善が必要」として、さいたま市の最低生計費調査をし、必要最低生計費を18歳単身14万6千円としている。
 連合評価委員会報告は「新しい賃金」論を提起し、第一に「均等待遇」をあげ、さらに「同一価値労働同一賃金をもとに、正社員と非正社員の枠をこえた『公正な賃金』が必要とし、生活を保障する全国一律のミニマム基準について、社会保障制度等との関連も含めて検討が必要」としている。
 また、政府の「最低賃金制度のあり方に関する全員協議会」で、連合委員は「最低賃金の水準は中間賃金や平均賃金に対してどの程度であるべきか。必要な生計費を担保することも大きな要素」と発言し、ある地方最低賃金審議会の会長は「生活保護よりも最低賃金が低いとの労組側(全労連)の主張に、明確に応えられる論理が見あたらない」と発言している。
 さらに、「生活保護基準以下の最低賃金はおかしい」というマスコミ報道がされるようになり、研究者も指摘しはじめた。政府の男女共同参画会議議員の橘木俊詔京都大学大学院教授は「所得格差の是正が必要。低賃金の根源は低すぎる最低賃金にあり、生活保護基準以下の最低賃金はおかしい」(岩波新書「家計から見た日本経済」)と指摘している。
 このように、「生活できる最低賃金と均等待遇は当然」という流れが大きくなっている。

2,「最低賃金と均等待遇、公契約」運動の到達点と課題
(1)新自由主義による「構造改革」の対抗軸に
 不安定雇用と生活困難な勤労者が増大しており、「生活できる最低賃金と全国一律最低賃金制、均等待遇、公契約」を実現することは賃金闘争の環であり、新自由主義による「構造改革」の対抗軸となる。
 LW運動に学び、勤労者の支持を得る要求を掲げ、労働組合と諸団体の共同で政治的な力関係を変え、要求を実現していくことが必要である。運動を成功させていくためには、調査・政策・理論について研究者の協力が不可欠となっている。
(2)生活できる最低賃金と全国一律最低賃金制
 この2年間「民間賃下げ、最賃と人勧のマイナス」阻止と賃金底上げを求めて、公務と民間の労働組合、地方労連、パート・臨時労組連絡会が共同して賃金闘争を進めてきた。
 全労連は最低賃金(時給1000円・月額15万円以上)と全国一律最低賃金制を求めて、2004年春闘で「1000人最賃生活体験、1000自治体決議」を呼びかけた。生活体験は22地方565人で昨年の2倍となり、マスコミに取り上げられ反響を呼んだ。自治体決議は21地方180自治体で昨年までの6倍となり、政府・財界への圧力となった。福島県では42自治体に要請し、県議会も含めて39の自治体で意見書が採択されたように、地域経済疲弊のもとで生活できる最低賃金は保守系の議員も支持することを示している。
 このような運動で2004年は財界の圧力をはねかえし、地域最低賃金を44地方で1〜2円の引き上げを獲得した。連合委員も奮闘し、18地方で経営側委員も引き上げに賛成したことは注目される。とりわけ、地域最低賃金の限界と問題点が明らかになり、生活できる最低賃金とナショナルミニマムの基軸となる全国一律最低賃金制確立を求める意見が広がりだしている。
 その実現をめざす全国的な運動と多数派戦略が求められている。勤労者の支持をうる「最低賃金要求」が重要となる。最低生計費にもとづく最低賃金要求と全国一律最低賃金制に連動したナショナルミニマムの総合的な制度、賃金と所得の底上げによる経済効果などの検討が必要だと思う。様々な団体との共同、住民・自治体・議員の支持を得るためにも必要である。また、労働組合、様々な団体との広範な共同をつくるために、「わかりやすいテキストと学習」で大量の活動家づくりが求められている。このことは、公契約と均等待遇の運動も同じである。
(3)公正な労働条件を求める公契約
 「官から民へ」の構造改革で公務の外部化・民間委託化が拡大し、不安定雇用が急増している。ILOは公契約(第94号条約)を定めているが、日本は批准していない。公契約条例、さらに公契約法を実現していくことは急務の課題となっている。
 全建総連は全国で公契約条例の運動を進め、全労連も運動にとりくみ、自治体決議も広がりはじめている。自治体決議は大阪・千葉の府県議会など7地方23自治体で行われ、「下請指導要項や指針」などが4地方6自治体で行われている。
 公契約運動を全国的に発展させていかねばならない。公契約を実現するために、現行入札制度の「総合評価、最低限価格」、さらに公契約条例、公契約法で生活できる賃金と社会的に公正な労働基準を認めさせることが必要となる。その具体的な検討が必要である。また、労働組合の共同、発注・委託に関係する業界団体との共同が必要であり、最低賃金の運動とともに進めていくことが必要だと思う。
(4)雇用形態による差別をなくす均等待遇
 パートの均等待遇はILO第175号条約で定められているが、日本は批准せず、均衡処遇の努力義務である。均等待遇の運動は、全労連パート・臨時労組連絡会が地方労連とともに取り組んできた。自治体決議は大阪府議会など5地方26自治体で行われ、国会内に超党派の「均等待遇を求める議員連盟」が結成されている。
 問題は最低賃金や公契約と同様に、正規労働者の理解や支持が極めて弱いことにある。また、パートだけでなく、契約、派遣、請負などの不安定雇用労働者が増大している。EU諸国のようにパートの均等待遇とともに、同一労働同一賃金を原則にし、不安定雇用労働者の雇用形態による差別をなくしていくことが求められている。
(5)国際労働基準を守る日本に
 正規から不安定雇用へ転換させられている時代である。グローバル化のもとで、「企業の社会的責任(CSR)」、「社会的責任投資(SRI)」が国際的に問われており、人権や公正労働基準などが求められ、国際標準化機構(ISO)でCSRの規格化も検討されている。政府と大企業に国際労働基準であるILO条約を批准させ、守らせることが必要である。安心して働き生活できる社会にするために、「生活できる最低賃金と社会保障、均等待遇、公契約」のルールをつくる大切さを勤労者に広げ、広範な共同の力で政治的な力関係を変えて、実現していくことが求められている。
 LW運動の活動家が「地域を変えることで、国全体を変える。国が変わらなければ、地域も変わらない」と語っていた。同感である。


プロ野球選手会・NPBの実りある団体交渉のために

2004年9月21日  労働運動総合研究所
事務局長 大須真治

 これは9月21日に厚生労働省クラブ・三田クラブにて記者発表しました。また、日本プロ野球選手会にも送付しました。

 2日間にわたる史上初の日本プロ野球ストを経て、労働組合・日本プロ野球選手会と日本プロ野球組織(NPB)との団体交渉が、明22日にも再開されようとしている。団体交渉をつうじて、選手やファンの切実な願いが認められ、プロ野球の明るい将来への一歩が踏み出されることを、国民はみな期待をこめて注視していると言ってよいであろう。労働運動総合研究所に結集するわれわれ研究者も、多くのファンや国民とともに、その動向を見守っているところであるが、この際、研究者の立場から、実りある団体交渉のために若干の発言をさせていただきたいと思う。

(1)球団関係者のなかには、いまだに選手会を労働組合として認めない人々がいるようである。しかし、プロ野球選手会は、1986年1月の結成いらい、東京地方労働委員会、東京地裁、東京高裁によって、繰り返し労働組合法上の労働組合であると認定されてきている。そうした事実も承知せずに選手会を労働組合として認めようとしない関係者は、客観的には法治主義を否定するものであると言わねばならない。

(2)選手会とNPBの交渉を見ていると、それが必ずしも社会的ルールに則った団体交渉として行われていないように見受けられる。NPBのなかには、選手会と「折衝」しているのであって団体交渉をしているのではない、という主張があるようである。こうした言動は、団交拒否の不当労働行為として現行労働法に抵触するものであり、「謙虚な気持と真摯な姿勢で」選手会と話し合うというNPBの立場にも相応しくないものである。互いに相手の立場を尊重しつつ、責任のある建設的な交渉をすすめるためにも、正規の団体交渉という認識をもち、ルールに従ってすすめられる必要がある。

(3)これまでの交渉過程で係争点の一つになってきたものに、オリックスと近鉄との合併が経営事項なのか団体交渉事項なのか、という問題があった。この種の問題は、抽象的な言葉のうえで争うのではなく、具体的に検討する必要がある。経営者が検討し決定できる事項であるという意味では、たしかに合併問題は経営事項であるが、同時に、合併に必ず付随する移籍、解雇、失業、再就職、労働条件変更、等の問題が、団体交渉事項であることは誰でも認めざるを得ないであろう。したがって、選手会が合併問題に関わる要求を提出し、その要求の実現をめざしてストを実施するとしても、そこには何の違法性も存在しない。

(4)また、合併の1年凍結問題はもちろんのこと、新規参入要件の緩和やドラフト改革、収益分配策など、プロ野球界の将来にかかわる改革諸課題についても、それらが将来にわたってプロ野球界の盛衰にかかわる問題であり、ひいては選手たちの労働・生活条件にもかかわってくる問題であるから、選手会がそれらを団交事項としても取り上げるのは当然である。

(5)NPBは、選手会によるスト実施に対して損害賠償請求を行うとしているが、労働組合は民事免責および刑事免責を保障されており、そうした請求権は存在しない。実際にそうした請求を行うとすれば、それは、初めから裁判所によって棄却されることが明らかな請求を行うという、極めて異常な行動をとることになる。そして、場合によってはその行為は、労働組合に不当な圧力を加えるために行われた行為であると見なされ、労働組合法第7条3号の禁止する「支配介入」違反に問われることになろう。また、もし選手会の活動にかかわっていた選手会役員や選手に不利益な取扱をするとするなら、労働組合法第7条1号の禁止する「不利益取扱」違反に問われることになろう。いずれにせよ、相手を脅迫しながらの交渉からは、建設的な成果を期待することはできない。

(6)ところで、選手会とNPBとの団体交渉は、その内容からして、労使関係にとどまらない、国民的課題の解決にむけた交渉と話し合いの場となっている。問われているのは、国民共有の文化財産であるプロ野球を、どのように守り発展させるのか、という課題である。そして、すでにこれまでの国民的討議をつうじて、(1)球団数を減らさないこと、(2)そのためにも、来期からの新規参入を実現すること、(3)交流試合の実施や地域に密着したファンサービスの組織化などをつうじて、プロ野球の活性化をはかること、(4)一部の球団に偏在する歪んだ収入構造を是正すること、などが、ほぼ国民的合意として形成されつつある、と言ってよいであろう。選手会はもちろんNPBも、その国民的合意実現のために、一致して協力し努力してもらいたい。

(7)しかし、危惧されるのは、一部の球団が、球団経営の目先の利益から、球団数を減らすことに依然として固執していることである。このような考えは、プロ野球の発展を願う国民の考えに反するものである。選手会とNPBとの団体交渉が実りあるものになるためには、プロ野球の発展を願う国民の声に誠実に応えていくことが必要である。日本プロ野球の将来の発展をも見据えたプロ野球選手会の要求は、理不尽なリストラに苦しめられているサラリーマンをはじめ多くの国民から支持されており、プロ野球の今後の発展に国民の英知を結集していく土台となるものである。春闘50周年を迎えようとしている労働運動も、プロ野球の改革に大いに関心を持ち、選手やファンとともにたたかっていくことを期待するものである。

 今回のプロ野球における団体交渉およびストライキの帰趨は、日本の労使関係を健全に発展させるうえで、さらには日本の民主主義を充実させていくうえで、非常に重要な問題である。われわれ労働問題研究者も、選手会、球団関係者、ファンのみなさん、そして広範な国民のみなさんとともに、わが国プロ野球の発展のために微力をつくす決意であることを申し上げて、意見表明を終わりたいと思う。


2004年度第1回常任理事会報告

 第1回常任理事会は、8月19日(木)午後1時半から5時まで、大木一訓代表理事の司会で、労働総研2階会議室で開催された。
 大木一訓代表理事が開会の挨拶を行った後、各常任理事の自己紹介が行われ、審議に入った。

I 報告事項:事務局活動報告およびプロジェクト・研究部会活動報告について、藤吉信博事務局次長より報告され、了承された。

II 協議事項:1)2004年度定例総会報告について、藤吉信博事務局次長より提案があり、討議の結果、『労働総研ニュース』に、決定された2004年度定例総会方針、2003年度第7回常任理事会報告、同第2回理事会報告、および定例総会報告を掲載することが確認された。
 2)入会・退会の承認について、大須眞治事務局長より死亡および退会届のあった会員が報告され、討論の結果、退会を承認した。
 3)2004年度中の常任理事会の日程調整について、大須眞治事務局長より提案され、討論の結果、常任理事会の開催月を10月、12月、05年2月、4月、6月に開催すること、開催日と時間は原則として第1土曜日の午後1時半から5時までとする事が確認された。ただし、10月は「学会開催月」の関連で9日に変更し、12月は原則通り4日を確認した。
 4)不安定プロジェクト報告の取扱について、大須眞治事務局長より提案があり、討論の結果、発表にあたっては、(1)常任理事会の見解ではないこと、プロジェクトの責任で発表すると同時に個人責任を明確にする、(2)伍賀、大須、萬井3氏で最終改善の協議を行う、ことが確認された。
 5)15周年記念行事について、大須眞治事務局長より提案があり、討議の結果、(1)全労連と早急に調査のための協議を行い、(2)何を明らかにするかを確定し、(3)調査票を完成させるなど、具体的な実務を確実に実行していくことが必要であることを確認し、提案は基本的に了承された。
 6)『2005年春闘白書』について、藤吉信博事務局次長より、労働総研側編集委員として、大木一訓・牧野富夫両代表理事、金田豊常任理事、辻岡靖仁理事、藤吉信博事務局次長でのぞみ、全労連の新体制が確立次第共同編集委員会を構成し、早急に編集実務に入ることが提案され、討議の結果、確認された。
 7)プロジェクト・研究部会について、大須眞治事務局長より、(1)不安定就業労働者の実態と人権プロジェクトとの関係で、不安定労働者・失業問題研究部会と労働法制研究部会が休眠状態にあったが、これらの研究部会をどうするか、との問題提起があり、討論の結果、今後のあり方について、早急に関係者と協議することが確認された。また、(2)研究部会メンバーの承認について、大須眞治事務局長より、当該研究部会から推薦があったので、ア)労働運動史研究部会とイ)政治経済動向研究部会のメンバー補強の提案があり、了承された。
 8)大須眞治事務局長より企画委員会を、大江洸・大木一訓・牧野富夫3代表理事、大須眞治事務局長、岩田幸雄常任理事、唐鎌直義常任理事、藤吉信博事務局次長で構成したいとの提案があり、了承された。
 9)大須眞治事務局長より編集委員会を、責任者を藤田実常任理事とし、編集委員を小越洋之助常任理事、金沢誠一理事、川口和子理事、松丸和夫理事、藤吉信博事務局次長で構成したいとの提案があり、承認された。編集方針については、早急に具体化することを確認した。
 10)「研究部会のあり方検討委員会」のすすめ方について、大木一訓代表理事より、当該委員会の作業を進める上でも、各研究部会の現状や問題点などを把握する必要があり、アンケートを行い、それに基づいて具体的に討議を進めていきたい、また直接当該委員会がヒヤリングをする場合もあるので、その際には協力をして欲しいとの提案があり、了承された。
 11)その他の事項として、藤吉信博事務局次長より、2004年度定例総会方針案に対して事務局に寄せられた文書による意見については、常任理事会、理事会、総会議案に関するものを含めて、文書発言として処理したとの報告があり、確認された。


2004〜2005年度役員・名簿

代=代表理事・常=常任理事
<理事>
相澤 與一 (高崎健康福祉大学教授)
天野 光則 (千葉商科大学教授)
一ノ瀬秀文 (大阪市大名誉教授)
伊藤 セツ (昭和女子大教授)
井筒 百子 (全労連調査政策局長)
岩田 幸雄 (全労連事務局次長・
総合労働局総合局長)
上田 誠吉 (弁護士)
内山 昭 (立命館大教授)
内山 昂 (元国公労連委員長)
宇和川 邁 (労働問題研究者)
江口 英一 (中央大名誉教授)
江尻 尚子 (元日本医労連委員長)
大江 洸 (元全労連議長)
大木 一訓 (日本福祉大教授)
大須 眞治 (中央大教授)
小川 政亮 (日本社会事業大名誉教授)
小越洋之助 (國學院大教授)
小沢 辰男 (武蔵大名誉教授)
小田川義和 (国公労連書記長)
角瀬 保雄 (法政大教授)
上条 貞夫 (弁護士)
金澤 誠一 (佛教大教授)
金田 豊 (労働問題研究者)
唐鎌 直義 (専修大教授)
川口 和子 (女性労働問題研究者)
儀我壮一郎 (大阪市大名誉教授)
木元進一郎 (明治大名誉教授)
黒田 兼一 (明治大教授)
草島 和幸 (労働問題研究者)
伍賀 一道 (金沢大教授)
木暮 雅夫 (日本大教授)
小林 宏康 (労働者教育協会)
齊藤 園生 (弁護士)
斎藤 隆夫 (群馬大教授)
桜井 徹 (日本大教授)
椎名 恒 (北海道大教授)
塩田庄兵衛 (都立大・立命館大名誉教授)
島崎 晴哉 (中央大名誉教授)
下山 房雄 (九州大名誉教授)
清山 玲 (茨城大助教授)
芹沢 寿良 (高知短大名誉教授)
高木 督夫 (法政大名誉教授)
竹内 真一 (明治学院大名誉教授)
辻岡 靖仁 (労働者教育協会)
永山 利和 (日本大教授)
西岡 健二 (自治労連中央執行委員)
西村 直樹 (金属労研事務室長)
長谷川正安 (名古屋大名誉教授)
浜岡 政好 (佛教大教授)
浜林 正夫 (一橋大名誉教授)
日野 秀逸 (東北大教授)
藤田 実 (桜美林大教授)
藤吉 信博 (労働総研)
前川 昌人 (日本医労連副委員長)
牧野 富夫 (日本大教授)
松丸 和夫 (中央大教授)
八幡 一秀 (中央大教授)
吉田 敬一 (駒沢大教授)
吉田 健一 (弁護士)
萬井 隆令 (龍谷大教授)

<監事>
谷江 武士 (名城大教授)
宮垣 忠 (全労連事務局次長・
総合総務局総合局長)

<顧問>
黒川 俊雄 (慶応大名誉教授)
戸木田嘉久 (立命館大名誉教授)

<事務局長>
大須 真治

<事務局次長>
藤吉 信博

6〜9月の事務局日誌

6月 1日 全労連との懇談(大江・牧野・大須・藤吉)
12日 2003年度第6回企画理事会
2003年度第5回常任理事会
22日 事務局会議
25日 栃木県労連とシンポジウム打ち合わせ(藤吉)
7月 1日 2003年度会計監査
3日 2003年度第6回常任理事会
2003年度第1回理事会
13日 事務局会議
22日 顧問との懇談(黒川・戸木田・大江・大木・牧野・大須・藤吉)
日本医労連第54回定期大会へのメッセージ
23日 全教第21回定期大会へのメッセージ
25日 東京靴工組合結成50周年記念レセプション(大須)
29日 全労連第21回定期大会あいさつ(大木)
31日 2003年度第7回常任理事会
2003年度第2回理事会
2004年度定例総会
8月 12日 事務局会議
19日 2004年度第1回常任理事会
25日 国公労連第50回定期大会へのメッセージ
27日 全労連全国一般第16回定期大会へのメッセージ
28日 建交労第6回定期大会へのメッセージ
9月 6日 全労連との懇談(大江・大須・藤吉)
13日 全運輸第43回定期大会へのメッセージ
16日 憲法改悪反対共同センター発足総会(1面参照)
17日 生協労連第37回定期大会へのメッセージ
18日 2004年度第1回企画委員会
福祉保育労第20回定期全国大会へのメッセージ
22日 全損保第61回定期全国大会へのメッセージ
24日 国民春闘白書編集委員会

6〜9月の研究活動

6月 3日 基礎理論・理論問題プロジェクト─ナショナルミニマム問題の整理と検討
11日 賃金最賃問題研究部会─財界の賃金政策の現段階と当面の課題
女性労働研究部会─労働総研「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」報告書について
15日 青年問題研究部会─若者自立挑戦プランの全貌
中小企業問題研究部会─書籍「中小企業問題と労働運動」の執筆分担について
27日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト─報告書について
7月 3日 基礎理論・理論問題プロジェクト─ナショナルミニマム問題の整理と検討
不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト(公開)─報告書について
9日 賃金最賃問題研究部会─04年年金改革法をどうみるか
10日 政治経済動向研究部会─中国経済の発展と今日の産業空洞化問題他
関西圏産業労働研究部会─今日の資本蓄積と社会保障制度改革
13日 青年問題研究部会─日独社会教育学における青少年自立援助の比較研究
14日 女性労働研究部会─女性労働に関する政府審議会文書について
21日 労働時間問題研究部会─出版書の構想提案と討議
労働運動史研究部会─ヒヤリングについて
22日 国際労働研究部会(公開)─変わる韓国-変化を生み出した国民の動向を中心に
30日 中小企業問題研究部会─書籍「中小企業問題と労働運動」の執筆分担について
8月 19日 女性労働研究部会─厚生労働省均等政策研究会報告書について
31日 基礎理論・理論問題プロジェクト─ナショナルミニマム問題の整理と検討
9月 2日 青年問題研究部会─青少年自立援助政策の検討課題
6日 労働運動史研究部会─ヒヤリング
7日 労働時間問題研究部会─出版書の検討
9日 関西圏産業労働研究部会─総額人件費管理と高齢期の生活不安ほか
15日 労働運動史研究部会─ヒヤリング
17日 賃金最賃問題研究部会(公開)─アメリカのリビングウェイジ運動に学ぶ
21日 中小企業問題研究部会─書籍「中小企業問題と労働運動」について
22日 女性労働研究部会─石川康宏「現代を探究する経済学」について
25日 基礎理論・理論問題プロジェクト─ナショナルミニマム問題・年金者組合の最低保障年金について
30日 国際労働研究部会(公開)─最近の中国の状況について