政府や財界の攻撃自体が、
彼らの基盤を突き崩している
開始から50年の節目を迎える05春闘は、久々に「闘えば前進する」条件が大きく高まっている。その根拠の第一は、政府・財界の攻撃自体が彼らの基盤を突き崩していることである。三菱自動車、新日鉄、関西電力、西武鉄道、日本銀行、NHK。日本を代表する企業・経営が、脱税、株のインサイダー取引、欠陥製品、番組改ざんなどのモラルハザードや不正を繰り返し、マスコミで毎週のように謝罪会見をせざるを得ないことが象徴的だ。強気一辺倒だった小泉内閣も綻びが目立ち始め、首相自身が「改革の本丸」と位置づけた郵政民営化、三位一体改革、定率減税廃止などをめぐって与党の中からも反乱が広がっている。
政府や財界に対する全労連の影響力は、決して十分ではないが無力でもない。半年前の全労連大会では、プロ野球選手会労組の闘いに話題が沸騰していた。巨人の渡辺オーナーが『たかが選手のクセに』の暴言を吐き、西武の堤オーナーと手を組んで1リーグ制・10球団を画策していた。全労連は、読売新聞の不買運動も視野に入れた応援運動を展開した。「全労連の抗議など怖くない」と嘯いたナベツネは間もなく辞任し、堤も失脚した。もちろん全労連が行なった運動の影響だけではないが、この経過も「闘えば前進する」ことを証明している。問題は、闘う我々の側が春闘方針の一つひとつに気合を込めて、単産・地方組織の総力を結集して実践できるかどうかにかかっている。
「闘えば前進する」ことは、
私たち自身の運動が証明している
「闘えば前進する」ことの第二の根拠は、この間の私たち自身の闘いが示している。最低賃金闘争では、財界は『労働者全体の賃金が下がっているから地域最低賃金も下げるべきだ』との攻撃をかけてきた。我々は1000人の最賃生活体験運動、最賃額の全国平均額にちなんだ664分のハンガーストライキ、政府交渉、自治体決議、署名運動などを展開した。結果はどうか。44都道府県で、1円の引き上げをかちとった。「たった1円」ではあるが、日本には最賃スレスレのボーダーラインで働いている仲間が約1,000万人いる。1円上がればl,000万円、8時間で8,000万円、300日で240億円の影響を与える。
「合理化」反対闘争では、政府は一昨年の国会に労基法改悪案を提出し、労働者を保護することを目的につくられた法律に、「使用者は労働者を解雇することができる」との解雇自由条項を盛り込もうと画策した。我々は27日間にわたる国会前座り込み、署名、宣伝、集会、ストライキなどを展開し、結果として解雇条項を削除させ、逆に「正当な理由のない解雇は無効」であると明記させた。サービス残業問題でも、白木屋・魚民の居酒屋チェーン店やサラ金の武富士などに全労連の組合をつくって、裁判闘争をふくめて闘った。それを背景に政府に改善通達や指針を出させ、年間230億円をこえる不払い残業代を払わせた。
医療や年金改悪反対の運動は、残念ながら法案が国会を通ってくい止めることができなかった。国民にお詫びしなければならない。しかし運動的には、医療では自民党の支持団体である日本医師会などをまきこんだ国民的な運動を前進させ、年金では100万人が参加した年金ストライキを成功させ、法案阻止の−歩手前まで追い詰めた。
最近の大きな前進として労働審判制度がある。未組織労働者の解雇や賃金未払いなどの紛争を迅速に解決するための制度だ。政府は、結成以来いっさいの審議会に全労連代表を任命せず、連合独占を続けてきた。ところが、労働審判制度では連合と全労連が話し合って、双方の組織人員を基準に数を割り振ることで合意し、51人の全労連推薦の労働審判員が誕生する。全労連と連合が一定の基準で委員推薦に合意したことは、今後の中労委、最賃審議会の任命にも影響を与えることになる。
「もう一つの日本は可能だ」
のスローガンに込められた意味
全労連の05春闘のスローガンは、「もう一つの日本は可能だ」「安心・平等・平和な社会へ」だ。これは、世界社会フォーラム運動の「もう一つの世界は可能だ」からとったものだ。グローバル化が進むなかで、富める者と貧しい者のとてつもない差別が広がった。アフガニスタン、イラク、パレスチナ、チェチェン。世界中でテロや戦争が勃発している。競争と差別、失業と貧乏、戦争は人間社会の避けられない必然性なのか。決してそうではない。もう一つの世界がきっと可能だ。世界中の人々が一人ひとりの地球市民として、それぞれの国・職場・地域で手をとりあい、もう一つの世界を求めて闘うことが求められている。
2001年11月に開催された北東アジア国際会議の「仁川宜言」に注目しよう。「仁川宣言」は、20世紀と対置しながら、21世紀の特徴を次のように述べている。『二つの大戦を通して人類の破壊的な力を確認し、ソ連の崩壊を通し理念の試行錯誤を経験した20世紀は、他方で経済力の増加による物質文明の全地球的拡散の時代であった。21世紀はグローバル化、知識情報化・およびポスト資本主義社会の加速的に進展する時代であり、西欧的近代理念に代わることのできる真の代案を模索するための新しい精神と思想の探求が要求されている時代である』
全労連の春闘スローガンには、競争と差別ではなく安心と平等の社会を、テロと戦争ではなく平和な社会をめざして、世界の仲間とも連帯して05春闘を前進させようという決意が込められている。
新しい社会状況と切り結んだ
春闘が求められている
第三に強調したいのは、新しい社会状況と切り結んで闘うことの重要性である。新たな社会状況とは何か。これまで労働者は、定時で仕事を終わって真っ直ぐ家に帰るとか、土日・週末を暦どおり休むことはもってのほか、ライバルを蹴落とし、自分の寝首を掻かれないように虎視眈々と目を光らせ、上司の酒の相手、盆暮れの付け届け、引っ越しの手伝いなど、ゴマをすりながら働いてきた。一方、企業は終身雇用、年功序列、社宅や寮、企業年金、福利厚生制度など、労働者を企業の内側に囲む制度をつくって搾取してきた。
そのもとで、企業への忠誠を何より大事にし、自主的に残業や休日出勤するような日本人労働者像がつくられてきた。ところが今は、終身雇用も年功序列賃金もなくなり、300万人をこえる失業者が生まれた。仕事があっても、パート、アルバイト、派遣、請負などしかない。これらの多くは年収200万円、300万円の低賃金労働者である。森永卓郎が「年収300万円時代を生き抜く経済学」で、やがて日本の約90%の労働者が年収300万円以下、そのうち約半分は年収100万円以下になると言っていたが、それは脅しではない。日本の民間労働者の平均年収は448万円だが、ILOはその国の労働者の平均年収の半分以下を貧困ラインと呼んでいる。すでに、平均年収の50%以下・230万円以下の労働者は4人に1人にのぼっている。
こうした状況が企業への忠誠心を変化させている。どんなに会社の言いなりになって働いても、賃金は下がり、仕事は変えられる。会社とどう向き合って行けばいいのか。自分の将来はどうなるのか。誰もが不安と悩みを持っている。ところが、我々はそういう労働者の不安や悩みに、すぐに理屈で答えを出してしまうクセがある。日本政府が悪いからだ。大企業が悪いからだ。連合の組合がだらしないからだ。政治を変えなければ問題は解決しない。皆さん、ともにがんばりましょう。
自分たちの価値観を押し付けるやり方では、新しい社会状況に対応できない。例え人生の価値観が異なろうが、政治的に保守的な考えを持つ者であろうが、当面する要求で共同する春闘を探求する必要がある。失業者、非正規、未組織労働者に光をあてる春闘を重視することが必要になっている。
ホンネの要求を確立し、
執念をもった要求闘争に取り組もう
第四に強調したいことは、ホンネの要求で執念をもった要求闘争をやることである。倒産・失業、賃下げ、労働者の状態がこんなに悪くなっているのになぜ反乱が起きないのか。アジアでもヨーロッパでも労働者の反撃が起きているのに、日本の労働者はなぜ大人しいのか。我々の運動に何か問題はないのか。私は悶々と悩んできた。そして、自分なりの一つの考えを持つようになった。それは、要求闘争の構えの問題である。労働組合の命は、言うまでもなく団結である。団結の土台は要求である。ところが我々は、「要求とはこうあるべきだ」と最初から理屈やタテマエで考えて、上から伝達する傾向があったのではないか。その結果、職場の要求討議が少しおざなりになっていないだろうか。そのことを考えてみて欲しい。
要求闘争はどうあるべきか。正しい要求を掲げて、やるだけやれば結果はどうなろうと仕方ない。それでいいのか。そうではない。要求は、決めた以上は一歩でも前に動かす。石にかじりついても実現する。そういうものでなければいけない。要求は他人まかせの願望ではない。みんなのカを合わせて闘いとるものでなければならない。労働者が腹の底から必要性を感じている要求。組合員が、頑張れば実現できると信じている要求、信じているがゆえに、自分も闘いに参加しよう。動員力をもつ要求が必要だ。
大幅賃上げを掲げても結果は定昇廃止、賃金カット、賃下げ。なのに組合は平然と妥結する。これでは、労働組合に信頼がなくなるのも仕方ない。要求闘争の結果論を言っているのではない。要求闘争の構え方を言っている。ホンネの要求で執念をもった闘争を組織しよう。それは賃金に限らない。ある職場は人手の問題、ある職場は健康や安全問題かも知れない。各組合がこれだけは絶対に譲れないという要求を設定して、執念を持って闘う。結果として要求が取れないこともあるだろう。でも、組合がどんな構えでどこまで闘ったか。組合員の目に見え、心を捉える要求闘争をやるなら、労働者は労働組合ご苦労さん。また頑張ろうということになる。そんな春闘を追求しよう。
地域に団結の拠点を築いて、
運動と組織化を前進させよう
第五に強調したいのは、団結の拠点を地域に築いて闘うことだ。普段は、地域や未組織のことなど忙しくてそれどころじゃない。そういう態度をとっていて、いざリストラ、倒産、解雇、困ってから助けを求めても手遅れになりかねない。普段からどれだけ地域と結びつきを強めておくか。産別タテ線も大事だが、21世紀の労働運動は地域運動の強化が決定的に重要だ。その重要性を肝に銘じなければならない。
地域には膨大な未組織労働者がいる。その多くが中小零細企業で、雇用労働者の半分以上が従業員99人以下の中小零細企業で働いている。残念ながらここには殆ど労働組合がなく、従業員99人以下の中小・零細企業の組織率は1.2%にすぎない。注目すべきことは、そういう中小企業の組合や未組織の職場でも、急激な労働者の意識変化がおきていることだ。
去年の春闘で、全労連のパート・臨時労組連が未組織労働者のアンケートをやった。「今すぐ組合に入りたい」という人が2.4%いた。未組織労働者は全国で4100万人にのぼる。4100万人の2.4%。計算上では、100万人が「今すぐ組合に入りたい」と思っている。チャンスがあれば加入したい人は34.6%、1300万人以上にのぼる。これは何を示しているのか。我々の働きかけが決定的に足りないということではないか。この頃は、マスコミが労働組合を好意的にとりあげることはほとんどない。だから、労働者は労働組合に関心をもっても、どうすれば労働組合に出会えるのか、その手段さえ知らない。組合運動をもっと企業内から社会に目に見えるように引き出していくことが大切だ。
改憲策動が着々と進められており、
労組のとりくみ強化が必要だ
最後に憲法問題について訴えたい。財界が、政治献金という懸賞金付で9条改悪に乗り出し、自民・公明・民主が国民投票法案で同調するなど、改憲勢力の準備は着々と進んでいる。これに対して、改悪反対運動はどうか。確かに9条の会の集会には人が集まっているが、多くは戦争体験者で若者と現役労働者にはまだ運動の波が起きていない。憲法が改悪されれば、労働者の働く権利も、労働組合に団結することも、労働組合が闘うことも、基本的人権や民主主義も、この国の形が根底から変えられてしまう。
対話、宣伝、署名、集会など、いろんな行動が提起されているが、憲法改悪を阻止するたたかいはあれこれの課題の一つではない。一人ひとりが声をあげ、行動に参加することを心から訴えたい。
(ばんない みつお)
|