宿題を抱えてヨーロッパへ
労働総研は、設立15周年記念行事の一環として独仏伊3カ国へ、職場労働者の交渉権と機能、企業の社会的責任についての調査研究チームを派遣しました。団長は斉藤隆夫常任理事・国際労働研究部会責任者(群馬大学教授)で、調査団は大木一訓代表理事を含む8人です。
調査対象になった企業がいずれも自動車で、独・ダイムラークライスラー、仏・トヨタ・ヴァランシエンヌ工場、ルノー、伊・フィアットとなったこともあって、現場サイドからダイハツの柴田さんとマツダ出身の松本が参加させていただきました。
調査主題のまとめは、諸先生、労働総研として検討されているようですので、私は見たまま、感じたままの「見聞記」として報告します。私にとっては大変重い責任を感じながらの訪問でしたが、大変有意義な体験をさせていただき感謝しています。
調査は、2月16日出発して、26日までの10日間に7つの団体と懇談するというハードな日程で行なわれました。
成田16日12時45分発、16日17時25分パリ・ドゴール空港着、リール19時38分着、リール泊、17日8時39分発、ヴァランシエンヌ9時25分着
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フランス・トヨタヴァランシエンヌ工場CGT代表訪問(17日10時〜12時、昼食を挿んで懇談) |
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フランス・ヴァランシエンヌ・地域労組懇談(17日14時〜16時)、ヴァランシエンヌ17時31分発、パリ・ドゴール空港駅19時20着、パリ・ロッシー泊。18日ドゴール空港7時25分発、シュトゥットガルト空港8時45分着。 |
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ドイツ・シュトゥットガルト・ダイムラークライスラー・ジンデルフィンゲン・ダイムラークライスラー従業員代表委員会訪問(18日10時〜12時、昼食を挿んで懇談〜13時30分)、シュトゥットガルト泊。19日、20日は土日のため大木先生の妹さんの案内でボルドー・サンテミリオンの休日。19日、ボルドー泊。20日、パリ泊。 |
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フランス・パリ・ルノーCGT代表訪問(21日10時〜12時、アペリチェフをとりながら懇談〜13時)、ドゴール空港16時発、トリノ空港17時25分着、トリノ泊。 |
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イタリア・トリノ・フィアットミラフィオリ・FIOM−CIGIL・RSU(統一労働組合代表)訪問(22日10時〜12時、ティータイムを挿んで懇談〜13時)、トリノ空港16時35分発、ローマ空港17時50分着、ローマ泊。 |
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イタリア・ローマ・フィアットFIOM−CIGIL・RSUコーディネーター訪問(23日10時〜12時)。 |
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イタリア・ローマ・フィルカム(FILCAMS)国際部長訪問(23日14時〜16時30分)、ローマ泊。24日、ローマの休日、「総括会議」。25日、ローマ空港10時10分発、ドゴール空港で乗り継ぎ、26日、成田空港9時15分着。 |
私は、調査団に加わるにあたって次のようなことを注目したいと思っていました。
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経済のグローバル化がすすむなかで、とりわけ競争の激しい自動車産業において、トヨタが仏に進出して生産を拡大しているのはどういう状況なのか、労働者のたたかいはどんな状況なのだろうかということ。 |
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激しい国際競争のなかで出発前に知ったフイアットとGMの提携が破綻したことはどんな背景があるのだろうかということ。 |
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ヨーロッパの労働者が獲得しているルールは、労働者の家庭生活や社会保障、子供たちの教育環境など生活ベースで日本とどんな違いがあるのだろうかということ。訪欧にあたって援助いただい皆さんから、「女性にとってのヨーロッパはどんなものか」の宿題をもらいました。
注目点や宿題に答えるには私自身の限界もありますが、「見聞記」に生かしてまとめたいと思います。 |
仏トヨタ・ヴァランシエンヌ工場=
トヨタ方式の浸透と労働者との矛盾の激化
トヨタ・ヴァランシエンヌ工場では、CGT役員のエリックさん(38歳)ら3人の方々が対応してくれました。
この工場は、2001年から生産を開始し、毎年生産を拡大、現在は3交代制で24万台/年の生産を行うまでにいたっています。労働者数は、3,200人、その内500名は臨時工(1年半の有期雇用)です。
生産車種はヤリス(日本名ヴィッツ)で、欧州各地で見られましたから生産の拡大はうかがえます。生産のライン・タクト(一工程の作業時間、何分に一台生産されるかの時間に相当。労働者数や一行程にどれだけの作業が組みこまれているかによるので、日本と単純比較は難しいが目安にはなる)は、72秒、トヨタは60秒を目標にしているといいます(日本では50秒から60秒くらい)。ドアーのとり付け部門では44秒程度といいますから、全体の印象からもトヨタ方式が日本に近い状況まできているように見えます。その労働実態のすさまじさの紹介は、『前衛』2005年2月号の「グローバル企業トヨタに見る労働条件の日仏格差」高岡論文に示されています。
生産開始からこの数年のうちに、退職した労働者は1,000人前後(処分や解雇も多数)労働者の入れ替わりで工場の平均年齢は20歳代といいます。
この地域は炭鉱の閉山などで失業率も高く、国と地方からの手厚い援助と保障などから、まだ労働者への過酷な労働実態への批判が押さえこまれていますが、一方でたたかう労働組香i4)GT組合員を目の仇にした差別攻撃があるなど矛盾のするどさは隠せません。工程の標準化・作業の時間測定に「早すぎる」と文句をつけると「処分」のおどしがかけられるといいます。
仏では週35時間労働が法制化されていますが、国際競争力強化をたてにした弾力条項が組み込まれてきています。これを活用してこの工場では週39.4時間/週にされています。残業の延長もたくらまれていますが、日本の長時間労働・「週50から60時間は当たりまえ」「土曜日の休日出勤も多い」と言うと、各氏は驚き手をほほに当て「いつ寝るのか」「家庭生活の破壊は許されない」「そこは譲れない」ときっぱり。
企業代表委員会選挙では、CGTは、2年前には45%の支持を獲得したが次の選挙では14%に押し込まれたこと、労働者と組合の分断攻撃の激しさもしめされました。
修理部門の労働者が職場で脳死、放置されていたことに労働者が怒り、自然発生的なストが起こり、経営者を震撼させたことも起きています。
ヨーロッパの労働者が永年にわたって築き上げてきた「ルール」を守りながら大企業、多国籍企業の横暴を規制する新たなたたかいに直面していることを感じました。私たちは、たたかうCGTの皆さんへの激励として、批判的検討も含めてトヨタとマツダの労働協約、たたかう労働者の宣伝ビラを渡して連帯の意思を示しました。
日産とともに国際競争力強化を進めている
ルノーと労働者のたたかい
日程では独・ダイムラークライスラーになるのですが、同じ仏・ルノーを先に報告します。
ルノーCGTのアルメイダ氏ら3名の方々たちと懇談しました。彼らは、日産との関係や今日のルノーの戦略について、「雇用悪化と労働条件の悪化であるとしたわれわれの警告が実証された」「現在のルノーは、企業の分社化をすすめながら再編し歴史的利益をあげている。労働者は削減されている」と告発、不安定雇用労働者の拡大も指摘しました。この不安定雇用労働者というのは多分有期雇用(トヨタ・ヴァランシエンヌ工場の1年半の有期雇用と同じものと思われる)は、製造部門の熟練工、技術者のなかで17%、単純工の場合44%いるといいます。労働協約の規制は50%とされているそうですが、日本の劣悪な非正規労働者の状況と違う状況のようで比較しにくい点もあります。技術者のなかでも人材派遣がふえており、CGTは雇用の安定化を求めていています。この問題では青年労働者の雇用拡大とも関係もあり、法的問題も含めて新しい問題になっているようです。
日本の労働実態との比較で生産計画にどの程度の欠勤率を見るか、要員計画の関係ですが、「欠勤率3%程度で、休んでいると、『なまけている』として厳しくなっている」といいます。しかし有給休暇を含めた出勤率、要員計画の比較は、はっきりとした比較はできませんでした。それにしても日本の生産計画が98%の出勤率で立てられている状況は異常です。
フランスでは、5つ代表的組合があり、「CGTは一致点での共同を重視している」ことを強調しましたが、資本の分断攻撃は激しいようです。CGTの代表は「ルノーは法すれすれのことをやっている。それをやるために労資協調組合を必要としている」と語り、「CGTは獲得した権利をまもること、新しい権利を獲得することだ」と語りました。
企業の社会的責任問題については、「ヨーロッパの企業の社会的責任についての文書はルノーの喜ぶ文書がちりばめられている」「企業のプロパカンダだ」といい、「企業の社会的責任はもともとわれわれが提案していたもので、ルノーは都合のいいように使っている。実態はそうではない」と批判しています。
経済のグローバル化のなかで企業の社会的責任問題の受け止め方にもいろいろのようです。
しかし、CGTの方々は労働者の国際連帯が必要であり、「日本の労働者との共同が必要」と強調しました。そして全世界のルノーで働く労働者の最低限の基準づくりとそのための取り組みをすすめていることを強調しました。
独・ダイムラークライスラー
労使ともに企業の社会的責任をかかげる
ダイムラークライスラーは、「ダイムラークライスラーの社会的責任原則」を発表し、シュレンプ社長は「国際的人権について興味をもっている。グローバルコンパクトとして、人権を尊重しようということで考えられたもの」と言明しています。この内容と評価、実態などの検討は今回の調査団のテーマでもあり検討が必要ですので主報告でまとめていただいて、私は、「見聞記」の先にすすみます。
今回懇談に応じていただいた方は従業員代表委員会の責任者のガブリエルさんとクレム氏で、クレム氏は世界レベルの従業員代表委員会の代表です。
独・ダイムラークライスラーも週35時間ですから労働者のゆとりは日本とはくらべものになりません。技術部門などの職場では一日8時間労働にして一時間の多い労働時間を「貯金」して一日休みを取る方法もできるとのことでした。金曜日の午後が休みになる場合もあるようです。新聞報道では国際競争の激しくなるなかで独でも週35時間が目の仇にされ、旧東欧諸国への工場移転が言われていましたからせめぎあいもあるようです。非正規労働者の雇用と条件についても同一労働同一賃金がつらぬかれているようです。
要員計画と欠勤率では、「生産計画や要員計画に従業員代表として関与している」こと、欠勤率には季節の変動もあるが、「5%から7%」「われわれとしては4%が理想」といいます。病気療養で長期療養の場合は6週間100%の賃金保障があるとのことです。夏休みなどの長期休暇も合わせれば日本と格段の差があります。公平・公正な競争の条件を備えないと日本は孤立するとしたソニーの盛田元会長の言葉が実感されました。
昼休み休憩に入り、クレム氏の案内で社員食堂に昼食をたべにゆきました。2階建ての広い食堂で1階が労働者の食堂、2階がお客さん用の食堂でした。私のような田舎ものには、工場の食事、お客との食事でも、食事が前菜とメイン、デザートと3回に分かれて食べるとは思ってもみませんでしたから、前菜のところで、サラダなどいろいろなものと合わせてフランスパンなどのパン類があったこともあって「これで全部の食事かな」と思って、必要なだけとって食べたところ、クレム氏いわく「ではメインにゆきましよう」というのでびっくり。そこにゆくと肉料理、魚料理とそれこそメイン料理が並んでいて、食べないわけにはゆかず、「満腹のおなかに押し込み」さらにはデザートでアイスクリームまで食べましたが、「これも日本とヨーロッパの違い」と自分を慰める一こまもありました。
昼食時の対話のなかで「改善提案」が話題になり、クレム氏は「改善でも人を減らす提案はダメ」と否定しました。提案表彰は提案によってあがった利益の30%が与えられるとのこと、発明報酬の最高額は20万ユーロということでした。
そこで私は「日本では改善提案で競争させられている」と言うとクレム氏は「それは学校教育からの違いがあるのではないか」と切り込まれてしまいました。日本で言えば小学校になるのでしようか、午後の授業に自習が多くとりいれられ、一人一人を伸ばすことが重視されているとのことでした。
グローバル化の中でゆれる
フィアットとたたかう労働者
アルプスの雄大な山々を越えてイタリアの北部トリノ市にあるフィアットの工場・ミラフォーリを訪ねました。フィアットは国際競争の激しい荒波に遅れをとり、経営危機のなかにありました。フィアットの全体の労働者数は97年に6万4700人余でしたが、2004年には2万1800人余にまで大幅減少しています(切捨て、子会社化、売却も含むもの)。
フィアットの国際競争力の低下についてCGILの代表は「日本や韓国の車に市場を奪われている。ヤリスに対抗できる状況にない。ヤリスは9万ユーロで安い(日本円で約126万円、日本のヴィッツ新型車は125万7000円)労働コストが問題ではない。永年にわたってフィアットの創業家が開発投資をさぼってきたことだ。要求にあった質の高い製品がもとめられている。環境技術も車メーカーにとっては重要課題だ。工場の移転や緊縮政策では解決しない。われわれは早くから指摘してきたが、現在も会社も国も応えていない。不安定雇用の拡大にもわれわれは反対している。打開のために労働組合が力をつけ力関係をかえることだ」と強調しました。
ローマで、フィアットのRSUの全国コーディネーターのレルロ・ラッフォ氏は、明日の一時帰休への対応や3月11日に統一ストライキとローマでの集会を準備するなど、大変多忙な中にもかかわらず、私たちとの懇談に応じてくれました。
懇談の途中、各地から再三にわたって携帯電話がかかってきます。「一時帰休が提案されてきた、どう対応すればいいのか」という問い合わせに、「落ち着きなさい、心配することはない。同意のサインをしてはいけない。サインをすると大変なことになるからね」と答えます。また電話です。「会社への交渉申し込みは朝にしなさい。飛行機が遅れ、午後になって交渉ができなくなるということのないようにしなさい」と懇切に回答します。
レルロ氏は、「事業継続が不透明になっていることに対して、経営の見通しを明らかにするように求めているが、フィアットグループは、車部門の経営責任者を解雇しただけ。これまで車部門で儲けた利益を他の部門の投資にふりむけ、開発投資をおこたってきた。フィアットの経営陣は労働コストを削減するためにヨーロッパ外に組み立て部門を移している。我々には労働コストの削減の繰り返しで年間労働日を230日から280日にするというきちがいじみた提案をしている。週6日働けということだ。三大労組はともに反対している。トリノ市長は工場が閉鎖されるというのなら「『鉄道の線路に座って抗議する』と言っている」と述べ「イタリアの自動車産業は危機になっているが、われわれは危機を乗り越えていく」と決意も示しました。
3月11日から13日、トリノ市で労働研究所が主催し、トリノ県、イタリアの3大金属労組(FIOM‐CIGL、FIM‐CISL、UILM)やドイツの金属労組・IGメタル、ヨーロッパ金属連盟、ポーランドのナショナルセンター連帯など国際組織も参加して、「ヨーロッパ自動車産業における革新的技術、組織、労働の質および労使関係を発展させる自動車産業の革新的役割についての提案」をテーマに「ヨーロッパ会議」が開催されるようです。レルロ氏は、このような国際会議をも活用して、フィアットへの社会的規制、企業の社会的責任の追及を模索しているようにも思われました。
組織を増加させるフィルカムス
フィアットの困難なたたかいとは別に、サービス産業、第三次産業に働く労働者、不安定雇用労働者を結集して組合員を年々拡大しているフィルカムス(日本の全国一般労組のような個人加盟労組)の活動は目を見張るものでした。組合員数は拡大を続け、30万人にまでになっているとのこと。さらに重要なのは女性幹部の育成を重視し、現在幹部のなかで女性幹部の比率は42%におよんでいるといいます。
活動内容も大変注目すべき内容を含んでいるように思われました。賃上げ闘争の成果などとともに、労働者と中小企業の会社と共同の組織をつくり、お互いの情報を交換して、雇用確保と仕事確保を援助しあっていること、地域を広く移動しても情報提供を受けて雇用が確保でき、労働者にとってはなんとも頼りになる組織です。
また女性労働者にとっては、本工で働き産休で休んでも、その後の育児に必要な期間をパートとして働き、安定したところで、またもとの職場に復帰して働ける制度を獲得しているなども優れています。イタリアの労働運動にはこれまでの蓄積と困難はあるけれども新しい課題への挑戦に満ちたものを感じました。
「私たちは現実の変化を重視して、組合の要求・政策、組織拡大戦略を模索しており、今度お会いするときには現実の変化に対応して異なる戦略をとっているかもしてない」という言葉は、フィルカムスの実績に裏打ちされて大変印象深いものでした。
「総括会議」での論点
訪問がすべて終了し、明日は帰国という24日夜、斉藤団長の部屋で、「総括会議」との連絡です。部屋に入ると、斎藤先生のマティーニ(?)を飲みながら、すでに「会議」は始まっていました。激論になる場面もありましたが、それぞれ出された論点は、今後、労働総研としても深められていくことを期待して、論議の柱になったテーマだけを記しておきます。
(1)多国籍企業が展開するグローバル化戦略の下で、各国の労働者・労働組合は大きな困難に直面しているにもかかわらず、奮闘している。(2)その根底には各国の労働者・労働組合が勝ち取ってきた労働者保護のさまざまな「ルール」がある。(3)したがって、(1)と(2)の関連をわかりやすく解明することが重要である。(4)3国の自動車産業労働者のたたかいの困難の土台にトヨタのグローバルな蓄積戦略があることは間違いない。この蓄積戦略を分析、糾弾していくことが重要ではないのか。(5)フィルカムスについては特別に注目した分析が必要ではないのか。
(6)大企業に「企業の社会的責任」を果たさせるたたかいは、各国の労働者・労働組合が取ってきた歴史的な運動・政策路線とも関わって、さまざまな評価が行われている側面もあるようであるが、日本の労働者・労働組合が直面している経済民主主義、大企業の横暴を民主的に規制するという運動・政策路線との関連で、運動・政策の共通点について改めて深めていくことが重要であるという新鮮な刺激を、私は受けました。
確立された「ルール」は家庭生活重視の
基盤を広く強いものにしている
最後に、私たちが目標にしている「ヨーロッパなみの働くルールの確立」の問題ですが、訪問の端々で聞いたり見たりの範囲からの事例にかぎられますが、独、仏、伊の訪問で案内役と通訳をしていただいた3人の女性、大木和子さん、葉子ケイザーさん、佐藤みつこさんは一致して「女性にとってヨーロッパは安心して生活できるところ」と胸をはって答えられました。内容には深いものがあるのでしょう。
大木さんは、フランスでの社会保障の詳しい内容をパンフレットにしたものを紹介してくれました。いずれ翻訳されて紹介されると思います。
フランス・ボルドーに住む大木さんは「いろいろ税金など多くとられているようだけれども、計算してみると私の生活にちゃんともどってきている」「不満があればみんなたたかう。たたかえば要求が実現できる。これは皆の確信になっている」といいました。「子どもがたくさんいると子どもの手当で家族全体の生活が支えられる。アラブ系の移民の人が子沢山でも生活が同じように保障されるので、移民がふえているけど…」と語ります。
独のケイザーさんは「教育費が保障され、のびのびそだてられるのがいい」といいます。イタリアに住む佐藤さんは、23日、世界的に有名なピアニスト、ポリーニの演奏会があると紹介してくれました。数千人の大きな演奏会場での演奏会で、満席でチケットは売り切れ。大木先生はキャンセル待ちに2時間並び、14人目に開演5分前に幸運にも入場できましたが、その演奏会の開始時間が夜の9時からというのです。労働者が働き終わって家族と夕食を食べて、それからゆっくり演奏を楽しめるために開演時間が9時になっているとのことです(年金生活者など高齢者向けには午後のプログラムが用意されているようです)。しかも、チッケトは10ユーロ(1,400円)と安く、終了時間が遅くなるために会場から近くの駅までは無料の特別バスが運行されています。文化豊かな国ならではの事例でしょうが、うらやましいことです。
それぞれの国の文化遺産には目を見張らせるものでした。長いたたかいの歴史も感じました。何よりも今回の訪問を通じて、経済のグローバル化のなかで日本の労働者のたたかいの重要性が位置づけられたことでした。奮起を決意させられる訪問になったことに関係者の皆さんに改めて感謝します。
私の貴重な体験を通していえることですが、活動家の皆さん、とりわけ若い皆さんが、積極的にヨーロッパ・世界に出かけ見聞を拡げて、日本のたたかいに生かしていただくことを期待します。(2005年3月15日記)
(まつもと みのる・会員・マツダ革新懇)
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