2004年度労働総研プロジェクト・研究部会代表者会議は、3月26日午後1時から4時30分まで、唐鎌直義常任理事の司会により、平和と労働センター・全労連会館3階会議室で開催された。
I 開会の挨拶
大須眞治事務局長が、以下のような開会の挨拶をおこなった。
当研究所の調査研究・政策提言活動の基本方向は、2000年度定例総会で提起された「21世紀初頭における情勢の特徴と研究課題」によって確認されている。これの実践的具体化・改善を保障するため、03年度定例総会は、「研究部会のあり方についての検討を開始する」ことを確認し、04年度3月の「プロジェクト・研究部会責任者(代表者)会議」で、一定の結論を出すことを確認した。04年度定例総会は、その一定の結論を、「05年度定例総会で具体化する方向で、検討する」ことを確認している。
これらの確認に基づき、常任理事会のもとに、大木一訓代表理事を責任者とする「研究所活動のあり方検討委員会」が、03年10月開催の03年度第1回常任理事会で確認された。この「検討委員会」は、第4回常任理事会(04年1月)へ「第1次検討素案」を提出し、04年度第2回常任理事会(04年12月)へ、「中間報告」をおこなった。この常任理事会の確認に基づき、「研究部会の現状と研究計画についてのアンケート」をプロジェクト・研究部会責任者に対しておこない、それらをも考慮して、05年3月7日に開催された「検討委員会」は、「検討委員会」報告を作成し、3月12日の04年度第4回常任理事会へ報告した。
今日、大木一訓代表理事がおこなう「検討委員会報告」は、そのような経緯と内容を含んでいる。
次いで、大木一訓代表理事は、04年度プロジェクト・部会代表者会議での討論の柱として、「研究所活動のあり方検討委員会」がまとめた以下のようなの「報告」をおこなった。
II 会議への報告と提案
本「検討委員会」は、04年度定例総会の方針にもとづき、労働総研の調査研究活動の実態と問題点を洗い出し、必要な改善・改革課題を明らかにする作業をおこってきた。プロジェクト・研究部会責任者へのアンケートや常任理事会での討議をも参考に、検討を進めた結果、05年度定例総会には、大筋以下のような報告・提案をおこないたいと考える。
1 「研究所活動のあり方」検討の基本的視点
労働運動の期待に応え、労働総研の調査研究活動の力量を高めるためには、次のような諸点に留意して、ブロジェクト・研究部会の改善・再構成に取り組む必要があろう。
(1) 情勢の推移・変化に対して鋭敏に反応しつつ労働組合運動が直面している調査・政策上の課題にたいし留意した調査研究をすすめる必要がある。(たとえば、全労連が今日すすめている「求心力ある政策委員会」の活動や、各種審議会、労働審判制度、労働委員会、ILO代表などの課題に留意した活動をすすめる。)
(2) 労働総研の主体的諸条件をリアルに認識し、限られた人的財政的資源を効果的に活用する方法を追究する。
(3) 労働総研の調査研究・政策提案活動は、研究者と運動家が共同ですすめる事業であることを明確にする。この点で、研究部会の設定・運営は、できるだけ運動課題と緊密にむすびついた形で、たとえば全労連の各種対策委員会・闘争本部などと連携する形ですすめる。
(4) 研究計画を重視し、研究計画にふさわしい人員構成にする。その際、青年・女性の参加を重視する。
(5) 可能な限り研究所の会員全体に(さらには広く労働運動の活動家等に)開かれた研究所活動を組織化していく。また、研究成果は必ず会員に還元していく。
(6) 限られた財政は、調査研究・政策提案活動そのものの充実に重点的に充当していく。
2 プロジェクト・研究部会再構成の方向
上記の観点から、研究部会等を次のような方向で発展的に再構成していく。
(1) これまでのプロジェクト・研究部会等の活動を、以下の3つに分類し、再構成してはどうか。
1)常任理事会の決定する重点研究課題にしたがって設置されるプロジェクト研究
2)全労連等の実践的要請に対応しておこなうプロジェクト研究部会活動
3)研究所会員が常任理事会に提出し承認を得た研究計画にしたがっておこなう、常設的な研究部会活動
(2) 常設的な研究部会は、できるだけ総合化し圧縮する。
(3) 3)グループの研究調査活動としては、a)当面の運動課題にかかわる研究テーマ、b)例えば、イデオロギー・理論問題など、直接運動課題とはかかわりないが、研究所活動として重要なテーマ、c)地域での運動にかかわる重要なテーマ、などが考えられる。
(4) いずれの研究グループも、2年単位の研究計画と、その研究スタッフを常任理事会に提出し、その承認を得なければならない。
(5) 今後は各研究部会等に対し、あらかじめ予算規模を明示して支給することにする。
(6) 2006年度の定例総会では、新たに構成される1)2)3)研究部会等について方針を決定する。現行の研究部会等は、05総会での方針決定後、1年間で終了する。
3 新たに構成される研究部会等の試案
アンケートなどによる各研究部会責任者の意見や常任理事会の意見を参考に、検討委員会で試論的に議論されている今後の研究部会等を提示し、ご意見をいただきたい。
(1) 現行の賃金・最賃問題研究部会と労働時間問題研究部会を土台に、賃金・労働条件研究部会を構成できないか。そこでは、安全衛生問題などもふくめ、職場の労働生活全体を総合的に問題にできないか。
(2) 現行の不安定就業研究部会、労働法制研究部会、青年問題研究部会を土台に、新たに労働政策研究部会(仮称)を構成できないか。
(3) 労働組合運動の研究は、現在、創設15周年記念行事の一つとして全労連と共同して大規模な調査研究として、プロジェクト研究がおこなわれている。今後もこのプロジェクトは、全労連と共同で、具体的にテーマを絞ったプロジェクト研究として位置づけ、追究していきたいい。
4 「調査研究活動」活性化のための関連施策
「調査研究活動」の活性化のためには、各種の施策が必要であるが、さしあたり可能でもあり必要でもある施策として、次のような諸事業の継続的発展をはかりたい。
(1) 部会研究会等の研究成果は、単行本だけでなく、研究所発行の「ディスカッション・ペーパー」などとして、できるだけ敏速に発表していくようにしたい。また、常任理事会は、研究成果全体を一覧できる「アニュアル・リポート」をまとめ、対外的に発表するようにしたい。
(2) 諸外国の研究所にくらべ、日本の労働問題関係研究所は、教育機関としての機能をもたないこと、また、国際的な視野が希薄なことが指摘されるが、労働総研は今年度「English
Writing School」をスタートさせた。この事業を、調査研究活動とも有機的にむすびつけて発展させていくことが重要である。
(3) 今年度はまた、初めて海外調査団を派遣し、海外労働運動との交流への一歩を踏み出した。部会研究会等とむすびついて、内容のある国際的な情報・意見交換や共同研究をすすめることのできるよう、着実で継続的な努力をすすめたい。
(4) 公開研究会の開催、研究部会相互の交流・共同などを一層推進していきたい。
大木一訓代表理事の報告と提案の後、各プロジェクト・研究部会代表者等からの発言と討議がおこなわれた。
III 討議
大江洸代表理事 総評時代には調査マンが大勢いた。調査研究や政策活動で全労連と協力・共同と簡単に言うが現実的には困難な課題である。労働総研の設立趣意書や規約にも、全労連の「運動の発展に積極的に寄与する調査研究・政策活動をすすめる」と明記されている。具体的には、調査研究を政策活動に結実させことが重要である。研究所の研究活動は研究のための研究ではない。このことは意識的に追求されてきたと思う。10年前、5年前、1年前の研究所の活動を比較して見ると、研究所活動は確実に前進してきている。しかし、情勢が急激に変化しているから、それにどう対応するかが問われている課題である。
大木 総評の頃は、単産の枠をこえた調査・政策問題を専門的に検討する場があった。たとえば、各単産の調査部長や賃金対策部長があつまる賃金問題専門委員会のようなものがあった。また、組合の幹部・活動家がひろく集まって行われる調査政策学校のようなものも多く開かれていた。全労連とも相談して、これからは、そうしたものも労働総研の課題の一つしとて考えていかなければならないかも知れない。
大江 労働総研の任務の一つに、調査研究活動を通して、研究者の意欲や熱意を刺激し、発展させるということも重要だ。
川口和子理事 大木提案には賛成である。それとの関係で、大江代表理事の2点の提案は、今後の発展にとって重要である。後者の提案に関して言えば、労働総研は会員が研究所に何を求めているかについても積極的に掌握すべきだと思う。例えば、どういう研究テーマが求められているのか。現在は、具体的テーマは各部会に任されており、また、メンバーも固定されているが、会員の参加の方法についてももっとオープンにする方向で検討すべきではないか。研究費支給の関係もあると思うが、部会の運営に携わるコアの会員以外に、希望者は研究費を支出しないオブザーバーとして登録し、随時参加を認めるとか、工夫の余地はあるのではないか。また、女性労働研究部会では、例えば、成果主義賃金など共通するテーマでの他の研究部会との共同研究会の希望もある。その公開研究部会など、例会のほかにも広く会員の参加機会、相互研鑚の機会を検討して欲しい。
斎藤隆夫常任理事 大木提案には賛成である。大木提案は、労働総研の調査研究活動が、体制批判的研究は多いが、労働者と国民諸階層の実態や運動の現状から出発した調査研究、政策提案活動が弱いということを指摘していると思う。抽象的でなく具体的な政策が求められていると思う。そうした弱点を克服する意味でも、各研究部会の活動を総括する「ディスカッション・ペーパー」や「アニュアル・リポート」を刊行して、労働総研の活動を全会員に配ると同時に、関係者からも意見を聞くシステムをつくることに賛成である。労働総研設立15周年記念行事の一環として、ドイツ・フランス・イタリアの3ヵ国を調査研究訪問した。この調査団の「報告会」と「報告集」を出す予定である。
西村直樹理事 大木提案には基本的に賛成である。大江代表理事は激変する情勢に機敏に対応することの重要性を指摘された。日産リバイバルプランの時には、労働総研は全労連やJMIUとも協力して、リバイバルプランに対抗する政策をつくった。小泉内閣の郵政民営化攻撃に対抗する国民的な政策づくりに、労働総研は至急取り組むべきではないのか。トヨタ・シンポやトヨタ総行動・トヨタ攻めの政策についても同じことが言えるように思う。体制ができてから取り組むのでは遅すぎるのではないか。
松丸和夫理事 大学院生や若手研究者の参加を重視する必要がある。そのためには、減額会費の処置などを考えるべきではないか。プロジェクト・研究部会代表者会議は年度中に1回だけ開催するのではなく、少なくとも2回ぐらい開いてもいいのではないか。そうしないのであれば、研究委員会などで練り上げて、一般会員の関心に応えたテーマで、研究会全体で合同の研究会をおこなうとか、研究交流集会をもっと頻繁にやったらどうか。そろそろ、外部からの研究資金導入についても検討すべき時期にきているのではないかと思う。
天野光則常任理事 労働総研の活性化をはかる上でも、若返りをはかることは重要な課題の一つになっていると思う。労働総研活動の活性化の要素とし、大江氏の発言にもあったように全労連の運動と政策活動を意識した調査研究と政策提言活動があることはまちがいない。具体的な再編の提案を持ち合わせていないが、各プロジェクト・研究部会活動と全労連のそうした活動との位置関係を明らかにしながら、プロジェクト・研究部会の再編をすすめるべきだと思う。大木提案には大筋賛成である。
藤田実常任理事 大木提案に賛成である。同じ研究部会に同じ人間が長く所属していると、どうしてもマンネリ化に陥りやすい。設立15周年を記念して、労働総研を新しい段階に発展させうるような研究部会の再編であるべきだと思う。討議の中でも出ているが、創設の原点に立って、全労連との協力・共同を新たな段階に引きあげていく上でも、全労連や加盟単産がどのような政策的課題を抱えているかを早急に調べた上で、どのような恒常的研究部会をつくるかを、今日の討議をも踏まえて、「あり方検討委員会」においても常任理事会でも具体化していくできだと思う。若手研究者を会員になってもらう上では、研究部会への参加や報告の発表や論文執筆の機会など、メリットとなるようなことも考えるべきではないだろうか。
唐鎌 労働総研の会員は300名を超えてはいるが、政策課題別に分類すると当然のこととして、少なくなる。社会保障研究部会のことだけを言っているのではないが、全労連や単産などから、個別的にというか、「一本釣り」的に声がかけられて政策立案活動に狩り出されているというのが実状である。こうした状況は労働総研だけの問題ではないと思う。労働総研が、全労連や単産の政策活動を視野に入れた研究部会の再編をするのであれば、そうした弊害を少なくすることはができるかもしれない。その上で矛盾が出た場合には、常任理事会の調整能力に期待したいと思う。
討議終了の後、大木一訓代表理事がまとめの発言をおこなった
IV まとめ
院生会員の会費については既に減額会費の処置を取っている。外部からの資金の導入については、法人格の問題など複雑な問題もあり研究中である。「会員が研究所になにを求めているのか」という指摘は重要である。会員の意向を掌握する努力をしたい。恒常的な研究部会へのオブザーバー参加というアイデアについても、財政再建問題と併せて研究したい。今日の討議で出された意見を、「あり方検討委員会」はもちろんのこと、常任理事会でもよく検討して、7月の定例総会への提案を具体化したい。
最後に、大江洸代表理事が閉会挨拶をおこなった。
V 閉会挨拶
冒頭の発言でも述べたとおり、研究所の活動は大変前進していることは間違いない。第1回プロジェクト・研究部会代表者会議で、川口さんは「この会議は何のための会議か」といわれたが、今回は欠席された方も含めてアンケートが出ており、全体の研究部会内容を理解し、討議できるようになった。大木提案の「調査政策学校」については全労連と相談して小規模なものからでも開く価値が十分あると思う。郵政民営化問題に関わって出された意見についても「政策ボランティア」的な関わり方もあるのではないかと思う。いずれにしても、設立15周年年にあたる「プロジェクト・研究部会代表者会議」で出された意見を労働総研の新しい飛躍のために、全労連との協力・共同を強化する方向で活用したい。
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