労働総研ニュースNo.201号 2006年12月
目 次 |
・労働政策審議会労働条件分科会に提出された「報告案」についての見解 |
労働総研の牧野富夫代表理事・萬井隆令常任理事は、12月19日、「労働政策審議会労働条件分科会に提出された『報告案』についての見解」を発表した。以下はその全文である。 |
2006年12月19日 |
ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代不払い制度)
導入による残業代横取り額=個人モデル試算 |
牧野富夫労働総研代表理事が、2006年11月8日、ホワイトカラー・エグゼンプションについての労働総研見解を、記者発表したことについては、既に前号で報道(『労働総研ニュース』2006年10月・11月号、No.199・200)したとおりである。 この労働総研見解で試算した残業代横取り額が1年間で総額11.6兆円、個人平均で114万円になるということについて、数多くの新聞、テレビ、ラジオ、雑誌が報道した。いくつかの報道機関から、たとえば、年収500万円のホワイトカラーは、どれだけの残業代が横取りされるのかを具体的に知りたいという要望が出された。 そうした要望に応えて、年収と残業時間とを個人モデルで試算した(表1)。以下がそのモデル試算である。ここでの試算に当たっては、不払い残業(サービス残業)代は除外している。 モデルの試算に当たっては以下の条件を前提にして計算している。ここでは、試算の過程を、年収総額500万円のホワイトカラーで見てみよう。 年収総額には、日本経団連調査によると、2005年度の場合、夏季・年末一時金がそれぞれ2.4ヵ月、合計4.8ヵ月含まれているという。そこで、年収総額500万円を16.8(月給12ヵ月分+一時金月給の4.8ヵ月)で割って、1ヵ月の収入を求め、これを12倍して年収を求めた。厚生労働省調査によると、月給には15%の諸手当が含まれているとされている。したがって、諸手当の15%を差し引き、残業代に反映する年収(303万5,714円)を求めた。 厚生労働省の調査により、2005年の平均月間所定内労働は156時間、所定外労働は13時間、総労働時間は169時間としている。所定外労働時間には最低25%の残業割り増し賃金が支払われることになっているので、所定外労働13時間を1.25倍しなければならない。こうして、総労働時間169時間は、賃金計算上は156+13×1.25=172.25となる。 この172.25で年収を割り、さらにそれを12ヵ月で割ると、1時間当たりの賃率(1,469円)が求められる。この時間賃率に1ヵ月の残業時間、たとえば、80時間だとすると、年の残業時間は960時間となるので、この数字を1.25倍して、年の残業代(176万2,389円)を求めた。ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代不払い制度)が導入されると、年収総額500万円・月間残業時間80時間のホワイトカラーは、年間で176万円の残業代を横取りされることになる。この横取りされる残業代は、残業代を含む年収の26%に当たる。このことだけからしても、ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代不払い制度)が導入されるならば、ホワイトカラーは、無制限の長時間・超過密労働を強制され、メンタルヘルスを含む精神と肉体破壊と生活破壊が深刻となることは明らかでろう。ホワイトカラー・エグゼンプション導入は廃止する以外にないのである。 表1 残業代の横取り額
労働者と中小企業の強搾取と収奪で増加する内部留保 小泉「構造改革」は、大企業・財界の横暴極まりない大量首切り・人減らし・リストラ「合理化」を積極的に促進してきた。その結果、大企業は未曾有の利益を謳歌している。しかし、労働者・国民の状態は、小泉「構造改革」を引き継ぐ安倍自民党・公明党連立内閣のもとで、深刻な貧困化と格差の拡大にあえいでいる。 2007年国民春闘では、連続する賃金切り下げ・生計費の低下に歯止めをかけるうえでも、日本経済を国民購買力の向上によって引き上げる意味からも、国際的に見て異常で巨額の内部留保の一部を取り崩し、賃金を引き上げることが切実な課題となっている。 内部留保は、「費用化された利潤」の一部であって、「隠し利益」とも呼ばれている。この内部留保は、第1に低賃金・長時間労働によって、また第2に下請・中小企業への低下請工賃など強搾取と収奪によって蓄積されているのであって、労働者の生活と権利を破壊し、中小企業の経営基盤を破壊している。また、正常な資本と生産の循環をはるかに超えて巨額になっている内部留保は、国際的な投機やバブル、腐敗を生み出し、正常な再生産構造を破壊しているのである。そのような意味からも、巨額な内部留保は、ステーク・ホルダー(利害関係者)に、社会的に還元されなければならない。
表2は、全産業の内部留保総額と資本金10億円以上企業の内部留保の推移を見たものである。この表から、日本企業は景気変動に左右されることなく、不況期でも一貫して内部留保を増大させていることがわかる。全企業のわずか0.6%に過ぎない資本金10億円以上企業が、内部留保の60%を蓄積している。これは、大企業が下請・関連中小企業を低下請単価・工賃で強収奪している反映である。これがまた、中小企業労働者と大企業労働者との賃金格差の原因ともなっている。この賃金格差を解消するためにも、中小企業の経営基盤を安定させるだけの下請単価・工賃を、大企業は支払うべきである。 内部留保の一部を取り崩して、1万円賃上げを実現する 大企業に社会的責任を果たさせ、内部留保を3%取り崩させることができるならば、2007春闘では、すべての労働者の賃金を月1万円引き上げることが可能である(夏季・年末一時金6ヵ月)。4,185万人の労働者に年間180万円の賃金引上げをおこなえば、7兆4,852億円の原資が必要になる。これは、全内部留保総額340兆円の2.2%である。資本金10億円以上の労働者674万3,324人の1万円賃上げ原資1兆2,138億円は、10億円以上企業の内部留保のわずか0.59%に過ぎない。 10億円以上企業に、内部留保の3%、6兆1652億円を取り崩させることができれば、賃上げ原資1兆2,138億円との差4兆9,514億円を下請・関連中小企業へ適正な下請単価・工賃を支払うなど、社会的に還元させることができる。 それがどのように社会的に還元されていくかの様子を見てみよう。つぎに、資本金1億円〜10億円未満企業の内部留保2.5%を取り崩し、賃上げ原資1兆0,158億円を支払うと983億円が残る。この残余と10億円以上企業の残余と合算されて5兆0,497億円となる。この資金は、資本金5,000万〜1億未満企業の内部留保を2%取り崩し、賃上げのための原資として5,387億円が作り出されるが、賃上げ必要額7,779億円に2,481億円不足するため、1億円以上企業の内部留保5兆0,497億円が活用される。これは下請・関連中小への適切な下請代金として循環することになる。このような資金の回転によって、中小企業の経営基盤を安定させ、賃上げも実現していくことが可能となろう。 このように、賃上げと中小企業の経営基盤の安定化させるたたかいとを結合して大企業の社会的責任を追及する国民的運動が重要な課題である。 表3 1万円賃上げに必要な内部留保取崩額
労働運動総合研究所第2回常任理事会が、2006年12月2日(土)午後1時30分〜4時まで、労働総研2階会議室で、大木一訓代表理事の司会で開催された。 会議に先立ち、代表理事と常任理事の希望者で、午前11時30分より30分間、故神尾京子会員から労働総研に遺贈されたマンション(千代田区平河町1−9−3)を見学した。 冒頭研究会で、丹野弘全労働省労働組合中央執行委員から「労働政策審議会労働条件分科会の現状について」の報告を受け、討議した。今後この課題を重視して、憲法を基礎として働くルール確立の研究を深めていくことの重要を確認した。 I 報告事項について、藤吉信博事務局次長より、1)「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する労働総研の見解について」の記者発表およびその後の反応について、2)労働政策プロジェクトの活動状況について、3)労働組合研究プロジェクトの活動状況について、4)『ナショナル・ミニマムプロジェクト報告』を12月中に発行することについて、5)11月30日〜12月1日に開催された07国民春闘討論集会の特徴と『2007年国民春闘白書』発行について、6)11月23日におこなわれた、研究員と代表理事、事務局長等との懇談について、7)恒常的政策委員会の活動について、8)編集委員会の活動について、9)研究部会と事務局の活動について、それぞれ報告され、討議の結果、それぞれ了承された。 II 協議事項について、事務局次長より、1)入会予定者について提案があり、討議の結果、早急に入会手続きを取ることが確認された。2)事務局次長より労働総研を紹介するためのわかりやすい「枕詞」として、「民間シンクタンク」を使用してはどうかとの提案があり、討議の結果、了承された。3)事務局次長より、故神尾京子会員の財産遺贈にともなう一連の処理と法人化に向けての提案があり、討議の結果、了承された。4)事務局次長より、労働政策プロジェクトが起案した、12月21日に予定されている労政審会労働条件分科会「建議案」に対する労働総研見解案が提案され、討論の結果、12月8日の厚生労働省案に基づいて修正した上で、できるだけ早く、発表することが確認された。5)大須眞治事務局長より、研究交流集会の開催とテーマ設定について提案があり、討議の結果、次回の常任理事会で決定することが確認された。6)事務局長より、プロジェクト・研究部会代表者会議について提案があり、討議の結果、2007年3月31日におこなうことが確認された。7)事務局次長より、第3種郵便物の取扱いについての提案があり、討議の結果、提案が了承された。
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