労働総研ニュース�Y215・216　2008年2・3月

　これは、2008年１月22日午後６時半より９時まで、東京都文京区・全労連会館２階ホールで開催されたシンポジウムでの発言を整理したものです。シンポジウムには120人が参加しました。

司会（宮垣忠労働法制中央連絡会事務局長）
　労働法制中央連絡会と労働総研共催、新日本出版社協賛による「労働ビッグバンの狙いは何か――それをどうはねかえすか」のシンポジウムに、お忙しい中、多くの皆さんが参加していただきましたことに、心から感謝申し上げます。主催者を代表して労働総研代表理事の熊谷金道さんからご挨拶をいただきます。

主催者挨拶（熊谷金道労働総研代表理事）
　今日のシンポジウムは、コーディネーター、シンポジストの皆さんのご発言を通して、「労働ビッグバン」の狙いが何処にあるか、その攻撃をはねかえすにはどのようなことが必要かについて問題提起をも含めて解明していただき、「労働ビッグバン」攻撃をはねかえしていく運動の発展方向を、皆さんとともに考え、大きな世論をつくっていくことを目的に開催しました。
　12月に発表されました、日本経団連の『経労委報告』では、私たちのたたかいで引っ込めさせた残業代ゼロ法案・ホワイトカラー・エグゼンプションには口をつぐみ、「ワークライフバランス」論を展開しています。その狙いは何処にあるのかの解明も含め、皆様方のご協力により、今夜のシンポジウムを成功させてただくことをお願いして、主催者を代表してのご挨拶とさせていただきます。

　司会　本日のシンポジウムには、協賛社であります新日本出版社から編集長の田所稔さんが出席されていますので、ご挨拶をいただきます。

　田所　シンポジウムの主題である『労働ビックバン』という書籍を、コーディネーターの牧野先生、シンポジストの今村先生、生熊さん、会場にお見えの藤田宏さんに、執筆していただき、昨年10月出版させていただきました。読者の方から、非常に分かりやすい本だという反響をいただいております。これからも労働問題の本を積極的に刊行していきたいと考えておりますので、いろいろな形でお力をお貸しくださることをお願いして、挨拶といたします。

　司会　コーディネーターとシンポジストの皆さんにご登壇いただきます。
コーディネーターは、労働総研代表理事・日本大学名誉教授の牧野富夫さんです。シンポジストは、新日本婦人の会会長の高田公子さん、全労連副議長でJMIU中央執行委員長の生熊茂実さん、自由法曹団前事務局長の今村幸次郎弁護士です。よろしくお願いします。

　労働者は自分の労働力を売って、その対価としての賃金で生活しています。ところがこのところ、労働力がなかなか売れない、売れても非正規だとか、派遣だとか、とにかく希望した形で売れない。賃金も９年間下がりっぱなしで非常に安い。賃金を考えるうえで一番大事な「生計費」原則が融解し、「食えない賃金」という、賃金の名に値しない賃金が広まっています。
　労働時間も心身の健康を害する長時間過密労働が問題になっています。労働時間概念が裁量労働制化で希薄になっています。モノサシが時間から「成果」にシフトしているのです。
　もし日米財界のねらうホワイトカラー・エグゼンプション制の導入を許すなら、労働時間概念がまったく消え去り、残業代が支払われないだけでなく、「残業」という概念そのものがすっ飛んで「過労死型労働」が野放し状態になるでしょう。
　雇用も量・質ともに悪化・劣化しています。非正規は、90年代の中ごろでは20％ほどの比率でしたが、いまや34％です。間接雇用である派遣労働者は3.5倍にも急増し、そのほとんどが「ワーキング・プア」であります。
　いま述べたようなことがここ10年余り、特にここ数年ひどくなっている。理由は大小いろいろありますが、直接最大の原因は「労働ビックバン」です。「労働ビックバン」という言葉を公式に経済財政諮問会議などで使うようになったのは2006年ですから、名前は新しいのですが、「労働ビックバン」と呼ぶべき内実は90年代の半ばからドンドン進んできていると理解するべきです。
　95年に日経連が「新時代の『日本的経営』」というとんでもない「報告書」を出しました。これは労働力の流動化、多様化、成果主義賃金などを全面化するという財界新戦略であり、要するに労働市場を資本のために、より安く、より効率的に機能させることを目的としています。この財界新戦略をどんどん実現していく上で、労働者保護法制が邪魔になるので、これへの破壊攻撃を強めるようになった。
　たとえば、派遣法でいえば、85年に13の業務だけ例外として派遣労働を認めるということで始まったにもかかわらず、その後すぐ16業種に広がり、96年には26業種に拡大され、99年には原則自由化し、04年３月からは製造現場でもよろしいということになりました。その結果、違法派遣・偽装請負が横行するに至っています。これがワーキング・プアを急増させ、重大な貧困化をもたらしています。労働者保護法の破壊攻撃によって雇用の質的破壊を加速している、これが現状です。
　そこで、今日のシンポで明らかにしたいのはふたつです。ひとつは「労働ビックバンの狙いは何か」、どんな影響がでているか、これらを検証することです。３人のシンポジストに深めていただく。ふたつは｢それをどうはねかえすか｣であり、運動のポイント・方向をはっきりさせることです。
　通常、サブタイトルはタイトルより一段小さく書くものですが、ご覧のように本日の場合、メインタイトルと同じ大きな字で書かれています。ここにもシンポのねらい・意気込みがよくあらわれているではありませんか。今後の取り組み・運動に重点をおいたシンポにしたい、ということです。
　久々に元気な春闘が始まっています。意気盛んな春闘と結んで、「労働ビックバン」とのたたかいを強めたいと思います。舌足らずですが、以上、本日のシンポの趣旨・ねらいを申し上げました。
　最初に、高田さんからご発言いただきたいと思います。

　新婦人の会は、平和から暮らし、子どもと女性の権利向上など５つの目的で多彩な活動を行い、男女がともに仕事と生活を両立させて、人間らしく働ける世の中にしようと運動を続けています。

《１万の班と３万の小組で生き生き成長》
　新婦人は約１万の班と約３万のサークルを持っています。地域班は学校区単位に、職場班は職場単位に組織されています。職場班は1,100あります。約３万のサークルを小組といっています。会員は、班と小組の活動を通じて日常的に、いろんなつながりをつくり活動しています。
　20代から30代の働く息子や娘を持つ会員さんから、わが子の帰宅がいつも遅い、帰宅時間が午前様だ、顔を合わせることができない、むちゃくちゃな働かされ方をしている、こんな働かされ方でほんとうに体が持つのだろうか、彼女や彼氏をつくる暇もないので、結婚などはできない、いつまで親のすねをかじっているのか、などの悩みを班や小組で、いっぱい出されます。
　働いている会員さんは、この10年間は本当にゆとりのない生活を強いられ、新婦人の活動に時間をとるのが大変です。女性や若者を初め、非正規雇用やワーキングプアーの広がり、異常な長時間労働が横行して、命と健康、家庭生活を脅かされていることを、班や小組の集まりを通じて改めて実感しています。
　３万のサークルの中で2,000近くの乳幼児を持つお母さんたちが「赤ちゃんや乳幼児のリズム」というサークルをつくって、毎週親子で集まって一緒に赤ちゃん体操をしたり、リズム体操をしたりしています。
　多くの方が、私たちがまいた１枚のチラシを通じて入会されますので、無党派層の方が多いです。入会した時にはお互いに緊張しており、本音が出ませんが、サークルの中心的な先輩会員のサポーターやベテラン会員の援助で、何回か会を重ねて、お互いに親しくなると本音が出て、夫の働かされ方、やりくりの大変さの悩みがいっぱい出されます。
　正規で働いている夫たちは、まったくといっていいほど、子育てに参加が出来ないという不満がたくさん出されます。お休みの日には終日寝ていて、やっと目が覚めると、子どもと向き合ってほしいと思うのに、テレビゲームに夢中になって子どもの顔も見ない、自分が人間として夫と会話がしたいのに、自分とも向き合ってくれない、孤立した子育てを強いられているので、些細なことでも、子どもが思うように行かないとつい手を出していたなど、お母さんたちの悩みが出されます。
　新婦人のサークルに来て初めて大人としての会話が出来た、抑えきれないような毎日を過ごし、夫に対しては憎しみがいっぱいだった、といっています。そういう会員さんたちが、サークルの中で新婦人しんぶんを読み合い、先輩会員から、今の社会の動きを聞く中で、本来わが子はかわいい、子育てに参加したいはずなのに、子どもと遊ぶ心のゆとりもなくして、無機質な機械のゲームに興じないと自分が保てない夫は、今の社会の犠牲者なのだということを理解していくのです。
　妻が夫の悩みに共鳴し、夫の苦労も一緒に抱えて生活をしていくことが大事なのだということが、小組の中で話し合われて、改めて今の社会というのは人間そのものを壊し、社会の中で一番愛されなくてはいけない子どもたちが犠牲になっているということを、活動を通じて実感し、理解を広げています。

《２つの調査で明らかになった異常な実態》
　新日本婦人の会は３月８日の国際婦人デーから４月10日の女性参政権の期間を男女平等、女性の地位向上を目指す春の行動として、毎年積み上げてきました。去年の春の行動は政府・財界が狙っている、ホワイトカラー・エグゼンプション法案をきっぱりと断念させる運動の一環としてアンケートを行いました。レジュメに書きましたし、資料の10ページに調査結果も載せさせていただいておりますが、「残業代ゼロ！過労死も自己責任なんて許せない！　私と家族、娘や息子、職場の若い人の働き方アンケート」を行い、1,205人から回答が寄せられました。
　回答を読んでいると、男女を問わず過労死ラインを超える働き方が蔓延していることがよく分かります。兵庫の20歳の製薬会社勤務の女性は、「外資系で競争が激しく、成果主義で夜は毎日11時過ぎ」、「土日は接待や講演会などでサービス出勤が多くくたくた、休みはずっと眠り姫のよう、生理も不順」という声を寄せています。宮城の30歳の女性は、「グループホームの管理職として働くが20時間限度で出ていた残業代はゼロになり、4,000円の手当がつくだけになった。早番であろうと遅番であろうと帰宅は深夜１時から２時。途中眠気に耐え切れずコンビニの駐車場で寝る」といった過酷な状況を訴えています。
　若い男性が長時間過密労働を強いられている実態も浮き彫りになっています。30代、40代の子育て世代の働かされ方が、「子育てと仕事の両立が大変で、子どもと接する時間がない」という夫の声も寄せています。「休めば首になる」、「仕事が忙しくて離婚した」という深刻な状況も起きています。これらは過労死ラインを超えた働かされ方から生み出されているのです。
　このアンケートに回答した３割の方が、残業代すら支払われていません。こんな深刻な労働実態のままで、政府・財界が「ワークライフバランス」の実現といっているのは他に企みがあるとしか思えません。労働時間を短縮し、労基法に明確に違反した企業には罰則を科さない限り、人間らしく生きられないことは明白です。労働時間短縮と併せて、所定労働時間内の労働で生活できる賃金が保障されなければ、生活できないこともアンケートから明らかです。
　「ダブルワークをして家計を支えているが、併せて月の手取りが20万円にもならない」、「正規との均等待遇を何としてもしてほしい」、「深夜残業代なし、休日は月に１度、アルバイトで福利厚生制度もない、正職員と同じ仕事をしているのにあまりにもおかしい」という、非正規の労働者の切実な声がいっぱいきています。
　15ページの資料は、「母子所帯の就労、子育て実態調査」です。559人から回答がありました。今離婚が非常に増えて、母子所帯は123万世帯といわれています。母子所帯の母親は85％が働いています。年間収入は212万円、一般所帯の４割、ワーキング・プアの状態で、女性の貧困化が広がる一つの原因になっています。85％が「生活が苦しい」と回答し、200万円以下の生活費が過半数です。ダブルワークの人が67人、12％もいます。
　不安定な非正規になるほどダブルワークの比率が高いのです。夜間・深夜・早朝勤務で、回答者９割以上が子どもだけを残して勤務しています。数時間も子どもだけを残して働いている人が28％います。「熱のある子を残して勤務にいく時の気持ちは言葉では表せない、文章には書けない」といっています。
　正規になりたいと思い56回職場訪問した人は「子どもが病気になったら誰が面倒をみるのか」という理由で断られ続け、時給は650円、１日５時間で月７万円のパートと深夜のコンビの弁当屋に勤めて、合計でやっと12万円、「本当に自立できる仕事に就いて子育てと両立させたい」、「リストラ２回、アルバイト、パートの経験を９回繰り返してきた」など読んでいると、胸が痛くなります。
　以前は、パートや派遣といえば、女性とか娘、息子たちの若い世代と思っていましたが、今では自分たちの周りにドンドン増えています。「私の隣には元会社の社長の優秀な50歳の男性が、時給880円のアルバイトで働いている」、「国家公務員の職場で、官から民への流れのすさまじい流れの中で、残っている正規労働者は平均80時間近い残業を強いられ、民間委託された労働者が、自分がやっていた仕事を時給645円でしていたのに驚いた」といっています。
　男女間の格差や正規・非正規の格差は、結局全体の労働条件を、女性の賃金は男性の半分以下という女性のところに引き下げていくという深刻な実態が、今回の２つの調査ではっきりしました。

　レジュメに労働者状態の悪化が日本社会の中心問題になっていると書きました。今こういっても、皆さん何の違和感もないですよね。でも私が、このことをいいはじめたのは2006年です。その時に今日本社会の中心問題は憲法問題であるということは簡単にいえたのですが、日本社会の中心問題は労働者状態の悪化だといい切るのは、勇気が必要でした。
　私は全労連の副議長で、労働法制改悪関係の仕事をやってきました。労働契約法は強行されましたが、2003年以来、労基法や労働者派遣法改悪の問題でたたかってきて、「この攻撃をいったいどうやったらはねかえすことが出来るのだ」と問われる。そういう視点から考えたのです。「格差社会」とか「少子化」という言葉が語られていました。「少子化」って若者が子どもを産めないということですよね。若者って何だろうかと考えると、若者は、圧倒的に労働者です。若者が子どもを産み、育てることが出来ないという問題は、結局労働者の問題ではないのかと私は感じたのです。
　「格差社会」とか「少子化」の問題は、日本社会の将来を考える非常に大きなテーマですが、突き詰めて考えれば、日本の労働者の状況があまりにもひどいということが日本の将来に重大な影響を与えているのではないのかと、私はいいはじめたのです。その目で日本社会を見ると物事がすっきりと見えるようになった。
　レジメに書いたように、一昨年の流行語大賞にノミネートされたのが「格差社会」です。もうひとつは「偽装請負」です。去年の流行語大賞にノミネートされたのが「ネットカフェ難民」です。「ワーキング・プア」はNHKの番組から来ている言葉ですが、この言葉は流行語大賞にはノミネートされませんでしたが、小学生でも知っている。今小学生が「僕はワーキング・プアになりたくないよ」と話すそうです。
　こういう労働者状態の悪化を表す言葉が流行語になる時代は、終戦直後はあったと思うのですが、それ以降はなかったと思います。それが今労働者状態の悪化を表す言葉が流行語大賞にノミネートされるというのは、労働者状態の悪化が日本社会の中心問題になっていて、この問題を解決しないかぎり日本社会の未来はないという世論が生まれているのだと、私は考えています。
　労働者状態悪化の問題のひとつは明確に所得格差の拡大です。よく二極化というのですが、私は『労働ビッグバン』の中でも書いたのですが、二極化と単純にいえない。年間所得1,000万円以上の人がわずかに増えていますが、年間所得300万円以下がウワッと増えている。確かに二極化に見えますが、1,000万円から300万円までの中間層の所得が地すべり的に減っているのです。だから私は、単なる二極化ではなくて低所得層が雪崩を打って増大していると見るべきではないかと思っています。

《原因は雇用と時間の破壊》
　その原因は雇用破壊が一番の中心問題だと思います。『雇用崩壊』とか、『雇用融解』とかいろんな状態悪化の本が出ていますが、雇用形態を変えることが賃金を下げるもっとも有効なやり方だからです。正社員の雇用形態のままで賃金を下げることは簡単ではない。ですから、正規雇用をやめる、あるいは正規雇用を減らして非正規雇用を増やすことを通じて圧倒的に所得の低い労働者を作り出してきたのです。
　もうひとつは、労働者状態の悪化が労働時間の破壊によって進められていることです。非正規労働者は去年の10月に33.4%になりました。労働者全体の1/3を超えました。20代では50％という状況です。それほど非正規労働者が増大する一方で、正規労働者は人減らしの下で、成果主義によって競争を激化させられ長時間労働、メンタル不全の激増、過労死、過労自殺という問題が起きているわけです。今の労働者問題の中心問題は、不安定で低賃金の非正規労働者の増大と正社員の成果主義による長時間労働と競争激化の二つだと、私は思っています。
　私も過労死事件、過労自殺事件の支援をしていますが、過労自殺や過労死する労働者は30歳代が多いのです。30歳は下級管理職、もしくは下級管理職一歩手前の労働者です。彼らが成果主義で駆り立てられ、仕事が自己責任で押し付けられて、ものすごい長時間労働で自らに鞭打って働かされるのです。過労自殺する労働者は会社の中で首を吊る、あるいは会社から見える所で飛び降り自殺をしているのです。
　次に、「労働ビックバン」は何を狙ってきたかの問題です。「労働ビックバン」で、労働者保護法たる法制が次々に改悪されてきました。どういうことを狙われてきたのかというと、私は二つの方向があると思っています。

《労働ビッグバンの２つの狙い》
　１つは国際競争力に勝てる安い労働力をどうつくるかです。既に述べたように、「雇用破壊」という形で正規から非正規への置き換えで、それは進められてきました。ひとつは仕事の量に合わせて出し入れ自由な労働力をどれだけつくるかという問題です。正規雇用の場合、そう簡単に首を切れません。それでもリストラでずいぶんやられました。パートタイマーも、調節弁の役割を果たさせようとしてきましたが、パート労働者が頑張ったたたかい、今簡単にパートだからと辞めさせるわけにはいかないでしょう。そこで狙われているのが、間接雇用の派遣労働、請負労働、契約社員など、契約期限が切れたらばっさり切り捨て可能な労働者を増やし、仕事量にあわせて労働力を自由に調整することです。
　一方で、労働時間法制の改悪、コスト削減も含めて進められました。労働基準法の労働時間改悪はひどいものです。労働基準法を今見ても、労働時間の問題はよくわかりません。何々を見ろとパズルみたいです。その中に変形労働時間制があります。仕事の量にあわせて、年間とか月間とか、あるいは一日の労働時間を変えていくやり方です。それから裁量労働がある。これは残業代も払わずに、仕事の量は上から決めて「自分の裁量でやれ」といって、仕事が終わるまでタダ働きさせる仕組みです。この行き着く先は、今は阻止しているホワイトカラー・エグゼンプションです。これは、裁量労働はいろんな制限があり、使いにくいので、残業代を払わずに仕事に合わせて労働時間を無限に延長するシステムです。
　契約社員もそうです。今までは臨時工の契約期間は１年間でした。2003年の改悪で３年になったのです。経営者にとっては、１年というのは使いにくいのです。１年というのは、よっぽど単純労働でない限り仕事を覚えられないでしょう。３年あればある程度仕事を覚えて使えるのです。1985年に労働者派遣法がつくられ、派遣労働者が増大しています。一方では労働者、労働組合の権利の破壊・攻撃が組み合わされて、経営者にとって使いやすい安くて仕事の量にあわせて、仕事がなければポイと切り捨て可能な労働力が増大しているのです。
　最近、ネットカフェ難民という言葉が流行っています。この多くの労働者は日雇派遣です。これは、昔の日雇労働者がドヤ街に住んでいるのと同じだと思います。何が変わったのだろうかと考えると、今の日雇派遣は昔の日雇労働者よりも難しいのです。携帯電話で仕事を請けるコミュニケーション能力がないと日雇派遣にもなれないのですから。ではその労働者は今どういう風に働いているか。例えば品川駅、蒲田駅へ朝の何時に集まれといわれて、交通費は自分の負担で集まってくるのです。そしてマイクロバス、ひどい時にはトラックの荷台に乗せられて現場に運ばれる。現場の労働はいろいろありますが、倉庫とか肉体労働が多いのです。１日働いてよくて8,000円です。
　しかも考えてほしいのですが、日雇派遣は今日やった仕事と明日やる仕事が場所も内容も違うのです。仕事を覚えることが出来ません。人間関係も出来ない。だから名前も覚えられないから名前があるのに、「派遣君」と呼ばれるのです。労働条件だけでなく、人間らしい扱いがされないという問題が起こっているわけです。
　私が直接関係したのは、徳島の光洋シーリングテクノというトヨタの孫会社の争議です。ここでは偽装請負から直接雇用させて、今やっと14人を正社員にさせました。日亜化学でも直接雇用を約束させたが、これは裏切られて、約束を守らせるために今たたかっています。
　なぜこの仲間たちがたたかいに立ち上がったのかといえば、例えば光洋シーリングテクノでいえば、６年も７年も働いているのに時給は1,100円で、その労働者が正社員に仕事を教えるのです。だけどいつまでたっても1,100円のままで、３ヵ月契約で展望がない。３ヵ月契約というのは重要な問題なのです。いつも「おまえはもういらないから辞めろ」といわれるのが怖いから本当に一生懸命働くというのです。背中に刃を突きつけられているようなものです。無理して無理して働くわけです。ボーナスなし、退職金もなしです。将来が見えな。これでいいのか、もうこんな労働は耐えられないということでたたかいが始まるのです。
　もう１つ実態について述べます。労働条件だけでなく命にも格差があるという問題です。やはり光洋シーリングテクノの例ですが、何百トンというプレス機で型をつくるのです。新しい機械が来たので労働者が手を突っ込んで調べていたら、プレスが急に降りてきた。慌てて手を引きぬいたから無事だったのですが、普通そんな重大なことがあったら、ヒヤリとしたハットしたことを「ヒヤリ、ハット」といいますが、すぐ職場に伝えて、二度とこうしたことが起こらないように注意するのです。ところがこの事故は正社員の事故ではないから伝えられなかった。だから私は命にも格差をつけるのかと怒りを持ったのですが、そんな状況が今非正規の仲間たちの間ではたくさんあるのです。

　私は昨年の10月まで自由法曹団で労働法制改悪阻止の仕事をしておりました。生熊さんと一緒に労働法制改悪阻止の仕事をやったつながりで、今回『労働ビッグバン』の執筆者の一員にさせていただいたのかなと思っております。
　「労働ビックバン」の流れや労働者・国民の現状については、皆さんから非常に生々しいお話がありましたので、私は、現在財界がとろうとしている労働政策についてお話をします。
　レジュメの最初の所に数字を書いておきました。最近10年間の変化を見た数字です。非正規雇用労働者は1,700万人で、この10年間に70％増加しています。派遣労働者は321万人で、3.5倍増加している。年収200万円以下の労働者は1,000万人、25％の増加です。生活保護世帯は100万世帯、66％増加しています。他方、大企業の営業利益は27兆円で、50％増加しており、大企業の株主配当は8.5兆円で３倍増です。年収2,000万円以上の人は21万人いて、31％増えています。
　このように10年の変化を見ると、「労働ビッグバン」の結果が改めてよく分かります。この10年間の「労働ビッグバン」の流れの中で労働者・国民は大きな被害を受けていますが、その対極で大企業は大きな利益を上げており、最近特に株主配当が増えている。従業員に給料を払うよりも株の配当に向けられているということも、見ておかなくてはいけないと思います。
　これだけ貧困と格差の拡大が深刻化し、社会問題化し、政治問題化してきている下で、財界もこの貧困と格差拡大の問題を無視できなくなっています。少子高齢化の労働力不足にも対処せざるを得なくなっていますので、一本調子の労働者攻撃はしにくくなっており、財界の労働政策にも最近若干の変化が出てきているように思います。もちろんその変化の根底には、労働者・国民の批判が非常に強くなっていることがあると思います。
　だからといって、彼らが真に国民生活向上のために労働者を保護する法律を充実する気は全くないのです。彼らの目的はあくまでもグローバル化の中で国際競争力を強化することであり、富裕層の利益をいっそう拡大するために経済成長路線を維持することです。要するに様々なごまかしをしながら、労働者保護法の撤廃、労働分野の規制緩和をさらに進めるというのが、今の財界の労働政策の特徴だろうと思います。
　その１つの明確な表れが、昨年の年末ぎりぎりの12月25日に政府の規制改革会議が出した「規制改革推進のための第二次答申」です。『労働ビッグバン』でも批判したが、これは昨年の５月頃に、規制改革会議の「労働タスクホース」という専門部会がとんでもない「意見書」を出しまして、散々批判され、引っ込めたかなと思っていましが、正式の「第二次答申」に盛られました。お読みになった方も多いと思います。この内容がいかにひどいかは、厚生労働省が「第二次答申」発表３日後に、「規制緩和した結果、労働者の保護に欠けること」になり、「当省の基本的な考え方と見解を異にする部分が少なくない」として、「規制改革会議『第二次答申』に対する厚生労働省の考え方」を発表せざるを得なくなったことからも明らかです。

《本音丸出しの第二次答申》
　「第二次答申」を読むと本当に頭にきますので、簡単に紹介します。「答申」は、労働分野の規制改革は「格差是正のために必要だ」といっています。これはこの20年間に、労働分野の規制緩和が進んだことにより、雇用の階層化や劣悪化が生み出された歴史を無視する暴論です。彼らは、「保護されすぎる人」がいるから「格差」が生まれるのだから、「保護」を撤廃すれば「格差」はなくなると主張します。これは、皆を低い方に合わせて「差」がないように見せるゴマカシです。これが彼らの主張のポイントです。
　そして、「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めるほど、労働者の保護が図られるという安易な考え方は正しくない」というのです。つまり「既に権利を持っている人は幸せになるが、今後そのような権利が与えられにくくなるため、これまでよりも不幸になる人が出てくる」と、彼らは主張するのです。さらに、彼らは、「最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし、同時に中小企業経営を破綻に追い込み、結果として雇用機会を喪失する」ことになるから、最低賃金は引き上げるべきではないと主張します。先ほどから時間給が600円だ800円だという話がありましたが、彼らはそのような低賃金でも使えない人間がいると思っているのです。そういう人たちは最低賃金を1,000円などにしたらますます働けなくなるから最賃は上げてはいけないというのです。
　これを聞けば、高田さんならずともお怒りになると思いますが、「過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果になる」から女性の権利を強化すべきではないと主張しています。女性の権利が強化されると、企業は女性を雇うのを最初から手控える、結果的に女性の雇用機会が減少するから、女性の権利を強化すべきではないというのです。
　「正規社員の解雇を厳しく規制することは、労働者の使用者に対する『発言』の担保になるどころか、非正規雇用へのシフトを企業に誘発し、労働者の地位を全体としてより脆弱」にするから、解雇規制は撤廃しろといい、派遣労働者については、「一定期間派遣労働継続したら雇用の申し込みを使用者に義務付けることは、正規雇用を増やすどころか、派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し、派遣労働者の地位を危うくする」から、やめるべきだというのです。
　長時間労働の問題でもとんでもないことを主張しています。今の労働基準法は、例外はあるのですが、労働時間の上限を１日８時間、１週間40時間と決めています。彼らは、こういう労働時間規制は「自由な意思で適正で十分な対価給付を得て働く労働者の利益と、そのような労働によって生産効率を高めることができる使用者の利益の双方を増進する機会を無理やり放棄させている」から、「長時間労働に問題があるからといって、画一的に労働時間の上限を規制」すべきではない、「もっと自由に働かせろ」と主張しています。
　以前、彼らは、「解雇の金銭解決」法案を出そうとしました。使用者が、解雇をめぐる裁判で負けると、労働者が職場に戻ってくる、これはいやだから、金で解決してしまえという法案です。今回の「答申」は、解雇のためにお金を払う仕組み自体がおかしい、解雇するのは自由である、解雇を制限すること自体を見直せといっている。これは、解雇の金銭解決どころの話ではないのです。
　雇用差別は自由である、女性を保護してはいけない、派遣、非正規とかを保護せずに雇用差別は自由、賃金設定も自由、最低賃金など余計なものを決めるな、時給300円だろうと400円だろうと自由に働かせよ、そうした方が、働きたい人は皆働けるようになるから、雇用も拡大する、などいいたい放題のことをいっています。最低賃金以下の労働があるということを積極的に認めているのです。労働時間の一律の上限規制はいけない、いくらでも働く、長時間無限定労働の自由ということまでいっている。では、彼らがいうようにやれば、格差是正になるのかといえば、いうまでもなくいっそうの格差の拡大、勤労者国民の全体の地盤沈下、貧困化の進行なのですが、彼らは「これが格差是正なのだ」といっているのです。

《日本経団連の労働政策の特徴》
　以上は、政府機関の方針ですが、もうひとつ財界の方針で、日本経団連の「経労委報告」にも簡単に触れておきたいと思います。こちらの方針は、企業財界団体、要するに営利活動をする団体ですから、より直接的に生産効率の観点を重視しています。その観点から少子高齢化で労働力がかなり大きく減ると見込まれていることに、経営者としても注目しています。この観点から、珍しいと思うのですが、言葉のうえでは「長期雇用を基本とする」と１行書いているのです。支払い能力がある企業での「賃上げ」も容認するようなことをいっています。
　しかし、これはまさに目くらましであって、長期雇用を基本としつつ外部労働市場を活用する、結局は外部労働市場の活用で、もっと柔軟に、もっと多様な雇用形態で労働者を使ってくということです。先ほどからワークライフバランスという言葉がでておりましたが、それはまさに柔軟な働き方の推進、時間や場所にとらわれない働き方、短時間勤務であるとかテレワークであるとか在宅勤務で労働者を使って、こういう形態で人材を確保して労働力不足を補っていこうということです。
　これが家で仕事をするとなると、先ほどから議論になっている、「食える賃金」を払ってくれればいいのですが、より細切れで、より不安定で、より安くなるのです。家で仕事しているのだから、労働時間なんて関係ないじゃないかと、家で寝そべったりしながら仕事をやったりするのだから、たくさん賃金を払う必要はないという形になってくるわけです。一部には在宅勤務をもっと増やすべきだという議論があるわけです。人が減るものですから、家にいる人にもっと働いてもらえばいいじゃないかというのです。経済財政諮問会議は、在宅勤務については、思い切って労働時間の規制をはずした方がいいとまでいっているのです。
　今は会社に行かなくて、家で仕事する場合でも仕事の始まりと終わりが管理できる場合には、１日８時間制とか残業代も払わなくてはいけないのです。今では、それがパソコンとか携帯などで管理できるのです。だから時間外労働は、労働時間の規制の適用外にはならないはずなのですが、そんな面倒くさいことをいわずに、家でやる時には労働時間の規制をはずしてしまえというような研究をやっているのです。
　「経労委報告」は、少子高齢化で労働力が不足するなら、家にいる女性、高齢者を活用しよう、それに加えて、日本人の労働力が不足するなら、外国人を使おうといっています。まさに多様な労働力、多様な人達をもっと活用するために、使いやすい、出し入れ自由の不安定な安上がりの労働力をどんどん活用しようといっているのです。
　そうした安上がりの不安定な労働力を背景に、正規の基幹労働者とどんどん置き換えて、正規労働者の労働条件をどんどん下げていく。要するに、労働者・国民の労働条件、あるいは生活条件を引き下げていくという方向が明確に指向されているのだと思います。ですから、私たちは、この目くらましやごまかしを徹底的に暴露し、批判していくことが必要なのではないかと思っています。

　３人のシンポジストの発言から、一方の極における富の蓄積、他方の極における貧困の蓄積、貧富の格差の拡大という実態が非常にはっきりしてきたと思います。さまざまなの格差がありますが、「格差」の拡大というとき、私は資本と労働の「階級間の格差」に目を向けるべきだと思います。この５年間で企業収益は２倍近く、役員報酬は３倍近く、株主配当は３倍以上に急増しています。逆に賃金はマイナス４％です。これは資本家ががんばり、労働者が怠けた結果ではなく、資本家が労働者に対する搾取を強めた結果にほかなりません。ですから、階級間格差の本質は搾取強化なのです。労働者はしこたま搾り取られている、ということです。
　一方が他方を食うという関係は、大企業と中小企業の収益格差・賃金格差としてもあらわれています。これを大企業優遇・中小企業冷遇の政府の財政・金融政策がてこ入れし、増幅させています。ですから、この格差の本質は、国家にバックアップされた大企業による中小企業の収奪だといわねばなりません。しわ寄せが最終的に中小企業労働者にいく、という構図です。
　また、マスコミなどは格差問題として、とくに正規と非正規労働者間の格差拡大など、労働者内部の賃金格差の拡大を取り上げることが多いようです。たしかに、非正規雇用が増え、正規労働者との格差が拡大していることは大問題です。そのさい、あきらかにすべきは本質です。決して正規労働者が能力や成果などの面で非正規と大きな差があるから、大きな格差があるのではありません。真実は企業・資本が雇用形態の違いを口実に非正規労働者を差別しているからです。ですから、男女間の賃金格差もそうですが、これらの格差の本質は差別なんです。
　私も大学生を長く教えてきましたが、男子より女子が学力・能力面で劣っているとか、そんなことは決してありません。強いていえば女子学生の方がテストの平均点などでは若干いいぐらいです。ところが、卒業して就職してしばらくすると出来の悪かった太郎くんが出来の良かった花子さんより高い賃金になる。同じ会社に入ったとして10年もたつと太郎の方が課長になったりして花子より年収で100万円以上もの差がつくなんてザラです。これはズバリ女性差別です。そう断ぜざるをえません。
　さて、「労働ビッグバン」という言葉そのものは2006年から公式に使われています。しかし、2007年になるともう支配層は使わなくなった。これは残業代ゼロ法案だとして労働者・国民から厳しく批判・追及され、棚上げをよぎなくされたホワイトカラー・エグゼンプション問題から支配層が「学習」した結果であると思います。激しい響きをもつ言葉に懲りたのでしょう。そこで、「労働ビックバン」という言い方をやめて、「ワークライフバランス」などと言い換えるようになった、言葉のごまかし戦術にでている、ということでしょう。
　そんなわけで、昨年あたりからワークライフバランス論が花盛りです。いろんな所でいろんな風に使われるようになっていますが、私は労働者保護法制の拡充を主張しないワークライフバランス論は全部ニセモノだと思っています。労資の自治・労使交渉でやれなんていっても、それは勝負の決まった八百長相撲のようなものでしょう。労働法制という働くルールがきちんと整備されなければ、労働者状態は底なし沼状況から抜けだせません。法による最低基準がきちんとあって、それ以上の改善を労資関係で実現していく、めざす基本方向はこういうことでなくてはならないと思います。

《盗まれたものを奪い返すたたかい》
　私たちの本（『労働ビッグバン』新日本出版社）で、つぎのように「労働ビックバン」の時期区分をしています。その攻撃が始まったのは、
　先ほど申しましたように90年代の半ばからです。「労働ビッグバン」の第一段階の攻撃はすでに被害をあたえています。それは歴史上の事実になっていますが、これから10年計画で財界が政府と一体でねらっているビッグバンの「総仕上げ」攻撃に対しては、われわれの運動で潰すことが出来るのです。そして第一段階で盗まれたものも、このたたかいで奪い返すことが出来る。さらに積極的に働くルールづくりに取り組んでいく。そのための運動を強める、これが私たちのめざすところでしょう。先ほど発言でも触れられていましたが、「経労委報告」は、国民の声でつぶされたホワイトカラー・エグゼンプションを自律的な時間管理などと名前を変えて、周到に再トライをねらっています。
　「労働ビッグバン」を考える場合、重視しなければならないのは、2006年に「労働ビックバン」の総仕上げ段階に入ったということです。2006年は、安倍首相が任期中に憲法を改悪すると公言した年です。労働保護法制の根拠法である憲法を改悪する。それと結合して労働保護法制をとことん潰していくということだと思います。ですから、憲法改悪に反対する運動は、「労働ビッグバン」攻撃を本当にはねかえしていくうえでも重視する必要のあることだと思います。
　シンポジウムの後半、「どうはねかえすか」という第２回目の発言では、その辺のことを念頭に入れてお願いします。会場から質問が、各シンポジストに寄せられました。それをも織り込んで、攻撃をどうはねかえすかに力点を置いて発言をお願いします。高田さんからお願いします。

　私への質問は、「女性の場合一番条件が悪い、自分が声を上げると解雇や叩かれてしまうので、我慢する。孤立的分断されている状態である。生活するのが精一杯。どう声を上げはねかえすのか。その場合、組織はどのようなものか。」といったものでした。私のレジュメで「真のワークライフバランスを目指して」ということを書いていますが、牧野先生の攻撃をどうはねかえすかという観点からお話をさせていただきます。
　私たちの願い、国民の願いは真のワークライフバランスの実現です。牧野先生のお話を伺いながら、差別は絶対に許せない、人間は差別に対しては一番怒りが大きいのです。生涯賃金でみて、本当に腹が立つのですが、男性の正社員と女性の非正規を比べましたら１億3,700万円です。１億3,700万円といえば庶民が想像できないような立派な家が建ちます。そういう差別を女性は受け、家庭の苦労を担いながら一身に頑張っています。その意味では私たちのたたかいは正義のたたかいであり、国民の願いと一致しています。
　改めて大阪の女性の「自立と少子化を考えるアンケート」を見ますと、一番多い要求は労働時間の短縮であり、働き続ける諸整備の願いです。レジメにも書きましたが、日本の政府は国連の女性差別撤廃委員会から「パートや派遣に占める女性の割合が高く、賃金が低い、女性の個人家庭生活と職業公的な責任との調和に困難がある」という勧告を受けています。ILOもジェンダー主流化政策を掲げて労働時間を中心とする働き方を、女性の視点から見直すことによって、男性の人権保障と働き方、生き方の人間化を図るということで、真のワークライフバランスを実現する方向を取っています。これが、シングルの人や子どもを持たない男女全ての人間が自分の生活を大事にして、安心して働けることを保障する目的だといっています。国連やILOをはじめとした世界の大きな流れとも私たちのたたかいは一致しています。私たちは、そのことを改めて確認し、連帯して頑張ることの大事さを実感しています。財界は、その政策に正義がないからこそ国民・労働者を分断、孤立化させないと、こんなむちゃくちゃな雇用破壊は出来ないのだという確信を持って前に向かって頑張っていきたいなと思います。
　新婦人では、合同体験会といって、いろんなサークルを紹介しながら、チラシをまきながら仲間を迎えています。その１枚のチラシをみて福島でも首切りされて苦労していた人たちが新婦人に寄り添って、今一緒にたたかいに立ち上がるというような経験もあります。この経験からもいえることですが、１枚のチラシで新婦人の声を届けていけば、頑張れば展望が開ける、頑張って仲間を求めて連帯して前に向かっていきたいという点で、若者も女性も含めて非常に健全だと改めて感じます。
　東京のジャズダンス小組に入ってこられた35歳の方の声ですが、「最初は正規で働いていましたが、セクハラ、パワハラ、男女差別などあらゆる経験をして26歳から現在まで派遣として働き続けてきた、日雇の時には待ち合わせの場所に行くと女性は少なく、くたびれた感じの男性ばかり。こんないい方は申し訳ないが、皆未来への希望を失って絶望感、無力感が漂う人たちばかりだ、自分はそこから抜けたいと、登録派遣になった。今一番困っていることは賃金が低いことだ。働き続けられるのか、生きていけるのか、未来を考えると不安で、その不安に向き合うのに疲れてしまい、死んでしまったらどんなに楽だろうと思っていた。新婦人のジャズダンス小組に誘われて、雲のような存在だった正社員の人達ともここでは正社員、派遣の区別なく交流できる。大らかな肝のどんと据わった先輩にも出会え、良かったなあと思っている。今自分がしたいのは、なぜこんなに派遣が増えてしまったのか、どうすれば将来の不安が無く生きていけるのか学びたいというのが、私の願いだ」といわれています。この彼女の声を聞きながら私たちの手の届くのを待っている人たちが、いっぱいいるのだということに確信を持って、前に向かっていきたいと思います。

《人間らしく生きることが資本への回答》
　レジュメの最後に書いてあります、人間らしく働き続けることが資本への回答です。声を上げ行動する女性たち、輝いて素敵に生きることが資本への反撃です。自分をすり減らすだけではなく本当に、今の社会の中で元気に前に向かって生きていきたいということで新婦人の職場班は頑張っております。大阪の中央支部は民間企業の中で組織化されています。800人の会員が中央支部にはいます。多くが民間の大企業の労働者です。中央支部の合言葉は「アミーゴ1000 ラパス　９条」です。アミーゴはスペイン語で友達です。ラパスは平和です。だから1,000人の仲間を迎えて平和、９条を守っていこうということが合言葉なのです。本当に前に向かって頑張っています。大商社のモンキー班では、会社が10数年前から一般職の女性を一切採用しないので、34歳の正社員の女性が一番若くて、それ以上若い方は派遣社員ばかりということです。派遣社員の人も簡単に首を切られていって、仲間づくりも大変だという中で、20近くのいろんなサークルをつくって、アフターファイブ、あるいは昼休み、休日の小組としてリフレッシュ小組なども組織しながら、今この職場には３桁の会員さんがいて、本当に前に向かって元気に働き続けることがまさに資本への反撃なのだということで、人間性を絶対につぶされてはだめだと、新婦人の中で生き生きと輝いていこうと頑張っております。
　そういう中で目覚めてきて、勤労協の方の力も借りながら学習もすごくしているのです。学習して力をつけた人が組合にも積極的に参加しています。残念ながら連合の職場ですから、組合の活動をやってもなかなか自分たちの要求と結びついていかないので、今後は新しい試みとして、大阪の地域ユニオンとも連携しながら、新婦人が職場の要求そのものを実現できるような活動、ユニオン小組なども研究しながら頑張り始めていますのです。是非皆様のお力で、こういう方法もあるよという知恵もお貸しいただきたいと思います。

　個人請負の形が広がっているのではないかという質問がありました。様々な事例が挙げられていますが、びっくりしたのは、求人広告でホームヘルパーの補助職員が請負で時給600円というのがあるということです。これは一体請負契約でしょうか。時給の請負契約ってあるのでしょうか。請負という形で社会保険や労災保険などを免れようということでしょうが、請負という名前を使おうとも、実態は雇用です。
　私たちの例でいえば、ビクターの家庭電化製品の修理を請負っている請負契約の人がいます。同じ仕事でも雇用契約の人も請負契約の人もいます。実際には出勤して、パソコンで業務指示を受けて「今日は何個やりなさい」ということで労働をしている労働者です。私たちは労働組合を作って交渉をしているのですが、ビクターサービスという会社は「雇用関係のない請負だから交渉には応じない」といっているのですが、大阪府労働委員会にも申し立てをして勝っています。中労委でも間違いなく勝つと思います。このように労働組合法上の労働者であるにも関わらず、一人の事業主であるかのような偽の扱いをするやり方も増えています。指摘されたとおりだと思います。
　もう１つは青年の働かされ方の問題です。正社員でもめちゃくちゃな働かせ方をするわけです。今大学や高校を出て会社に入っても、仕事の仕方を教えてくれないのです。教える方も余裕がない。聞いた話ですが、早稲田大学出の女性労働者が旅行会社に入社してまもなく11時まで残業させられ、半年間でメンタル不全になって辞めざるを得なくなったというのです。そういうめちゃくちゃな長時間労働は非正規の男性労働者にも増えているのです。昔と違って、非正規で賃金が低いから結婚できないというだけでなくて、働かせ方がめちゃくちゃだから結婚できないというのです。
　では、このような現状をどうやったら変えることができるのか。「労働ビックバン」の総仕上げの段階といわれていますが、私は、「労働ビックバン」の中の労働法制を変えていく攻撃はそう簡単に進まなくなりつつあると思っています。それは、労働条件が悪過ぎる、底抜けの労働条件、底抜けの働かされ方に対する批判が強まっているからです。少子化の問題も一向に解決されず、社会問題になり、資本にとっても矛盾となっています。こういう要素があるから、労働法制の改悪はそう簡単に通らなくなりつつあると思います。

《最後は世論が決める》
　それを最初に感じたのは2003年の労働基準法改悪の時です。この時、最初に出されたのは解雇自由です。それをたたかって、たたかってひっくり返しました。その次に、一昨年の年末に、残業代ゼロ法案のホワイトカラー・エグゼンプションの上程を阻止しました。2006年12月27日、厚生労働省の労政審がホワイトカラー・エグゼンプションを通してしまいました。私はその時、厚労省の前にいました。この暴挙を聞いて、私は宣伝カーの上から、こういったのです。「いかに厚労省が強行しようとも、最後は世論が決めるのだ」と。かっこいいですね。その時は半分負け惜しみだったかもしれません。しかし、これはひどすぎると世論に訴えて、どうしても引っ込めさせなければならないという思いがあったのです。
　その結果どうなったでしょうか。労働総研が残業代ゼロになったら労働者一人当たり年間114万円の損をするという試算を出しました。あの時、『夕刊フジ』や『週刊ポスト』などマスコミが、労働総研を民間シンクタンクと紹介し、大いに報道をしました。その結果、ものすごい反響が広がりました。地下鉄に乗って話を聞けば、若い男と女が「残業代がなくなっちゃうのでしょう、どうしよう」と話をしている、というような光景が方々で起きました。
　新宿でのビラの受け取りもすごいものでした。普通の時は、ビラは100人に１人取るか取らないかです。ところがホワイトカラー・エグゼンプションの宣伝ビラは、20人に１人は受け取るわけです。普通の時の５倍の受け取りでした。話しかけてくる人がいる、「残業代で無くなるのですって？あんまりにもひどいよね」とか、「今でももらっていないのですがどうしたらいいでしょう」とかというのです。「今もらっていないのと法律上払わなくていいというのは全然違うのです。たとえば、労働組合をつくって権利を行使すればもらえるようになるのです」。つまり新宿の駅頭で対話が出来たのです。私は80年代以降でこういう経験はしたことがありませんでした。そういう世論の盛り上がりの結果、選挙に負けるという判断で、当時の安部首相は上程しませんでした。この背景には、労働条件、国民の状態がひどすぎるという労働者・国民の認識があると思います。

《資本にとっての矛盾》
　もう１つは資本にとっての矛盾です。『労働ビックバン』にも書き、話していることですが、ある造船会社で船にスクリューをつけ試運転にいったら、スクリューの周りから水漏れがする。何で水漏れがするのか調べてみたら、ボルトで締めた所の鉄板がゆがんでいた。何でゆがんでいるか。ものづくりをする人はご存知でしょうが、ゆがみが出ないようにするには対角線でボルトを締めていくのです。ぐるりと順番に締めていったら絶対にひずみが出るのです。なぜこんなことが起こったのか。それは非正規労働者が仕事の仕方を教えられないで仕事をしていたからです。ものづくりの技術技能の継承の問題が出てきているのです。私はこういう資本の矛盾を捉えてたたかえば必ず勝てると思います。
　また、ワーキング・プアというのは、労働者だけの問題ではないということです。NHKでやっていましたが、自営業者も大変です。秋田の洋服屋さんなんて洋服をつくりにくる人は一人もいないので、カケハギや修理だけやっているという話です。農民も大変深刻です。生活保護の切捨てなど、他の階層に貧困問題が噴出しています。労働者と他の階層が一緒になって共同のたたかいを進めれば、私は財界戦略に絶対勝てると思っています。

《組合をつくって権利を行使する》
　最後に強調したいことは、権利だけ知らせても権利行使は難しいということです。権利行使が出来る条件とは何なのかと聞かれた時、私は労働組合を作り、労働組合に加入することだと思います。それがなければ告発する勇気ある人も職場にいられなくなると思うのです。そういう意味では今は若い人も含めて労働組合が見直されている。そして労働組合に組織すること、労働組合運動の前進、社会的世論、こういうものを結びつけて、このひどい状態を変えようと運動を大きく発展させることができれば、必ず財界の攻撃をはねかえすことが出来ると思っています。

　私には、規制改革会議の「第二次答申」について「今後この政策を立法化あるいは制度化していく方法を財界はどう考えていくのか」、「これがいつどのような形でわれわれとの攻防になって行くのか」という非常に鋭いご質問が寄せられています。この規制改革会議の答申が立法化していく過程が、１つのミソだと思います。
　時期ははっきりしませんが、会議の最終答申がでると、それが閣議決定されることになります。それが各法律に反映していくことになります。この規制改革計画は労働だけではなく、あらゆる国の政策の規制に絡むもので、｢答申｣全体は二百数十ページもあります。この会議は財界代表と財界の要望を支持するカギ括弧付きの学者で構成されています。国民代表、労働者代表はいない組織で、規制改革のプログラムが議論され、ほぼそのまま閣議決定され、ほぼそのまま法律になっていくのです。これが「構造改革」といわれるものです。
　労働分野に関しては、労働政策審議会が厚労省にあって、これは閣議決定した後でも政・労・使の３者構成、労働者代表の入っている審議会で議論をして、そこでの成案を得て法案化するのです。今回の規制改革会議答申の中で、総論的にはすごいことをいっていますが、具体策としては抑え気味で出しています。「解雇は全部自由にしろ」とか「女性の権利はやめてしまえ」とか、そんなことをいうと袋叩きにあうわけですので、本音を一応述べておいて、具体策としては派遣労働の雇用契約申し込み義務の見直しとか派遣と請負の区分をもっと明確にしろといっています。これは逆にいえば請負をもっと使いやすくしろということです。それらが平成20年中に検討され、今年度中に最終答申に盛られ、閣議決定されるという流れになっていくと思われます。
　もう１つ、今回の答申で注意しなければならないことは、労働分野の規制改革の中で労働政策の立案について見直せといっていることです。これはどういうことかというと、厚労省か労働者委員の入っている審議会でぐちゃぐちゃ審議するのはもうやめろ、やめろとは書いてありませんが見直せといっている。これがうっとうしくてしょうがないわけです。他の規制改革は財界代表が議論して閣議決定されてそのまま法律になる。ところてん方式ですが、労働分野だけは労政審があって、労働者の代表が入っていて、そこから世論をつくられる。それで頓挫する。だからそのやり方をやめろ、見直せといっていることは注意しなければいけないと思います。
　先ほどちょっと触れましたが、面白いことには、規制改革会議第２次答申が12月25日に出されたところ、12月28日付で厚労省の考え方といって、反論を公表しているのです。「解雇規制を緩和することは正しくない」とか、「一部の残存する神話などという表現は適切ではない」とか非常にいいことをいってくれている部分もあるのです。これも１つのねじれ現象です。政府・厚労省としてはこれをそのままやられたらたまらんということで、そういう反論のペーパーを即座に出すというようなことにもなっています。ただし本音は財界なり政府改革路線、経済成長路線の側の本音はまさにさっき書かれたような労働分野の規制も全部とっぱらえという所には注意しなくてはいけないと思います。

《世論をひろげていくチャンス》
　質問者の方もお書きになっているように、この規制会議の答申は世論を広げていく点ではたたかいやすくなるのではないかと思います。彼らが今後持っていこうとする世界について、本音があけすけに述べられていますので、これは許されないという世論を積極的に広げていくことが必要ではないかと思います。私は、攻撃をはねかえしていく、反撃の方法は世論に訴えていくということが大事ではないかと思っています。というのは、攻撃をはねかえしていく決め手は、多くの人びとに真実を知らせ、働きかけて、これは許されないという世論を大きくしていくことだと思います。
　一般の国民、中小零細企業で苦労されている方の中には、「構造改革が必要だ」とか、「もっと構造改革しなくてはいけない」とおっしゃる人もおられます。要するに既得権をぶっ壊すとか、官僚制をぶったたくとか、果ては「自民党をぶっ壊す」などといった人がいるくらいで、「構造改革」とは何かいいことをするかのようなイメージがまだあると思います。格差是正をするためには「構造改革」が必要だ、不当に保護されている人がいるから「構造改革」が必要だという、誤ったイデオロギー操作がマスコミを通じておこなわれていますから、その誤ったイデオロギーは間違いだ、このまま行けば現にひどい状態になっている日本は、もっとひどくなる。これは許されないということをもっともっと訴えていかなくてはいけないと思います。
　私たち弁護士の独自の取り組みとしては、裁判闘争はわれわれの本業ですが、裁判闘争も重要だと思います。残念ながら裁判所も政権側のイデオロギーに相当毒されていまして「構造改革」はいいことだと思っているのです。労働裁判でも「会社がやる『構造改革』に反対するけしからん奴がいる、そういう奴らが組合をつくって反対するのはとんでもない」とか、あるいは「『構造改革』をやらないと社債の格付けが下がる恐れがあるから給料を下げていい」という判断をするのです。
　今日も通信労組の方が大勢みえていますが、７兆円という内部留保を溜め込んだ、世界有数の企業であるNTTの「構造改革」・リストラ合理化の主張は、今後固定電話が減るから、将来の経営が悪化する恐れがあるのでリストラをやる必要があるというものです。会社の経営を安定させるためには、そのために行うリストラに反対する人間の権利は制限されてもしかたがないという主張です。このNTTの暴論を裁判所が追認しています。裁判闘争では、このようなNTTのリストラの考え方は間違っているということを積極的に訴える、会社の誤ったリストラ・「構造改革」路線に挑戦していくことが重要だと思います。
　最後に、生熊さんもいわれましたが、ネットワークづくりが重要であるということを強調したいと思います。弁護士の間でも、社会福祉分野、消費者問題、多重債務問題、それから労働問題をやっている人は、それを専門的にやっていて、なんとなくバラバラにやっているわけです。非正規の問題、貧困の問題、生活保護の問題、多重債務問題、過労死の問題などのそれぞれの取り組みを、ネットワークにして取り組んでいく。現に反貧困ネットワークなどの動きがありますが、こうした取り組みは今後ますます重要になるだろうと思っています。

　生熊さんから、権利の行使が本当に大事だと指摘されました。憲法を皆さんも私もよく読んでいるのですが、読み込むほど憲法はわれわれのたたかいの足場になる多くの権利を保障しているのです。権利の宝箱です。それをどう行使するかということで、生熊さんは一言で労働組合をつくるとことだといわれました。その団結権も憲法で保障された権利です。憲法の皆さんもご存知の箇所を改めて確認します。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の不断の努力によってこれを保持しなくてはならない」と書いてある。憲法が保障する自由及び権利はコインを入れれば手に入る自動販売機とは違って、役だてるには「不断の努力」が必要であると書いてある。
　労働組合をつくるというは本当に大変なことだと思うのですが、最近の情勢は段々そういうことが出来る情勢に変わってきているのではないでしょうか。たたかえば、あるいはアクションを起こせば成果が出るという関係がはっきりしてきた。薬害肝炎の問題もそうですが、きちんとたたかえば成果が出るという関係が非常に分かりやすくなってきているように思います。
　今村さんは、規制改革会議に対する厚労省の反論を紹介されましたが、厚労省の反論は当然であって、労働法は資本主義の延命のためにも必要なのです。そうしないと老齢化した資本主義は持たないのです。その杖までもなくしたらとんでもないことになるというので、厚労省は体制延命の立場から対極的に「ちょっと待て」といっている側面があるにちがいありません。
　高田さんが少子化などで非常に具体的に問題点を指摘されました。たしかに労働者は生活する上で低賃金ゆえにいろんなものを節約しています。いまでは結婚を節約したり、出産を節約したりするに至っています。少子化の根本理由として低賃金や雇用不安があることは疑いありません。労働法制の解体をねらう労働ビッグバンはこれに追い討ちをかけるものです。
　しかし、このところ情勢が急変しています。朝日新聞が、10月５日に労働法制をめぐる形勢が逆転したと大きく報道しました。支配層がこれまで10年あまり「労働ビックバン」攻撃をつよめ攻勢的だったのですが、参議院選挙後、形成が逆転したというのが朝日新聞の論評です。逆転はともかく、情勢が大きく変わっていることはたしかです。
　卑近な例で恐縮ですが、私は講義で、学生たちに10数年前から同じ質問をしてきました。百数十名の学生が対象ですから一般化できませんが、まあ聞いてください。「労働組合は大事か」と聞くと、「大事だ」、「組合はなくしてはならない」と８割くらいは手を上げます。次に、「君たちは卒業後、就職して組合に入るか」と聞くと、大体２割くらいしか手を上げないということがずっと続いてきていました。ところが今年初めて「入る」という学生が５割を超えました。学生たちは両親や兄弟、自らもアルバイトして労働現場の厳しさを感じ取っていているのでしょう。変化はその反映ではないかと思います。なんだかうれしくなって、つい紹介しました。
　また最近は、お金はもちろんですが、誇りと未来を取り戻すのだという、本当に純粋な若者の動きもあり、若者の目が労働組合に向いてきています。「パイの理論」がこれほどはっきり破綻した時期はないと思います。高度成長期は労使がけんかせずに一緒になって「パイを大きくしましょう、パイが大きくなれば分け前も大きくなる」という労資協調主義育成の理屈が、ある程度もっともらしく聞こえましたが、先ほど申しましたように、一方の極に富の蓄積が、他方の極に貧困の蓄積がだれの目にもはっきりしてくると、「パイを大きくしたって連中が持っていくだけだ。俺たちの手には入らない」というカラクリが暴露されて、労資協調主義の経済的土台が破綻しました。そういう意味で今度の『経労委報告』はサブタイトルで「日本型雇用システムの新展開と課題」などといろいろいっていますが、これも危機感のあらわれでしょう。
　こんなことも念頭に三人のパネリストに最後の発言をお願いします。本日ご出席のみなさんは「一を聞いて十を知る」ような聡明が方々ですから、時間もないことだし、３分ずつの発言にしてください。それでは最後のご発言を高田さんからどうぞ。

　貧困と格差の広がりに対して、格差は差別ですから、これを許さないという私たちの熱い思いが参議院選挙でも示されたと思います。攻撃でバラバラにさせられていますが、多忙だからこそ人間的な優しさと連帯を求めている国民の思いに私たちが応えるために、一番大変な雇用のところで頑張っていらっしゃる皆さんとご一緒に、労働者の皆さんと連帯して頑張る決意をこめて一言に代えさせていただきます。ご一緒に頑張りましょう。

　１つは労働組合を強く大きくしよう。もう１つは労働者を守る法律をわれわれの力でつくっていこうということです。今日、日本共産党から派遣労働者保護法をつくることで、私たちの労働組合に申し入れがありました。共産党の法案は全労連の政策と基本的に一致しています。そういう面で今日も私はお願いしたのですが、去年の参議院選挙の結果、参議院の状況からどこまで一致できるか分からないが、議員立法で労働者派遣法の抜本改正をめざそうということを提起したいと思います。そう簡単には通らないでしょうが、われわれの側から攻めの法制化要求を行いたい。相手の攻撃を食い止めると同時に、労働者が安心して働ける、国民全体が安心して生活できる、将来の見通しが出来るようにするために一緒になって頑張っていきたいと思います。

　この問題を考えてきて争点が非常に明確になってきたと感じます。要するに今社会は行き詰っている感じです。この先、豊かな人々をより豊かにする自由、豊かになる自由を第一に考える社会にするのか、もっとより多くの人が共に幸せになっていく世の中を最優先に考えるのか、という争点が非常に明確になってきている。その政治的選択を、われわれは、もちろん後者の世の中をつくるということで声を上げていけば、その実現が可能になっていくのではないかと考えています。
　私もレジュメに労働組合への期待ということを書きましたが、今まさに労働組合、労働者が連帯して行動することが求められていると思います。立法闘争にしても大衆的運動にしても裁判闘争にしても、ご依頼がないと私たちも仕事が出来ませんので、是非依頼者になっていただける労働組合の頑張りを、これからネットワークを広げていく点も含めて、一緒に頑張っていきたいと思います。

　牧野　ご協力ありがとうございました。総合司会にバトンタッチします。

　司会　コーディネーター、シンポジストの皆様ありがとうございました。最後大きな拍手をお願います。続いて、ホワイトカラー・エグゼンプションの米国調査について特別報告を労働総研事務局次長の藤吉さんからお願いします。

　時間がありませんので、「ホワイトカラー・エグゼンプション米国調査」の全体については、今日のシンポジウムに間に合わせて、発表しました『労働総研クォータリー』の「『ホワイトカラー・エグゼンプション』米国調査報告書」を是非お読みいただくことをお願いして、今日のシンポジウムのテーマに引きつけて報告いたします。
　労働総研は、労政審の労働条件分科会の｢建議｣に、ホワイトカラー・エグゼンプションが盛り込まれる可能性が濃厚になった06年11月８日、「残業代11.6兆円の横取りを法認するホワイトカラー・エグゼンプション」を発表しました。この試算は、全労連などが主張しているように、ホワイトカラー・エグゼンプションは残業代ゼロ法案・過労死促進法案であることを明確にし、これに反対する運動に具体的な根拠を与え、マスコミでも大きく取り上げられ、07年１月国会に安倍首相に「国民の理解が得られていないと」して上程を断念させる上で一定の貢献をしたと思います。
　しかし、日米財界、自公政権はその実現をあきらめたわけではありません。そうしたことを考慮して、労働総研常任理事会は、ホワイトカラー・エグゼンプションの母国である米国へ調査研究チーム派遣することを決定しました。
　調査チームは、(1)「調査を通じて国際連帯を強化する」という基本姿勢で、(2)現場での実態解明に重点を置きました。調査は、岡田則男、藤田宏、藤吉信博、布施恵輔、松本稔の５人で、2007年３月４日から14日まで11日間行いました。調査で聞き取り・懇談をした団体、個人については別紙の資料を見てください。この中には、連邦労働省はありませんが、報告文には労働省担当官が日本で導入されようとしているホワイトカラー・エグゼンプションはひどい、日本の残業割増率1.25は低いとのコメントを掲載しています。
　本報告書の特色は、(1)米日財界がホワイトカラー・エグゼンプションからワークライフバランス論へと攻撃の仕方を変えてきていますが、その手口を解明していることです。それに加えて、(2)連邦公正労働基準法の全訳と、カリフォルニア労働法典の労働時間規制の全訳を掲載していることです。連邦公正労働基準法の新訳は初公開だと思います。

《米国調査で明らかになった12の問題点》
　調査報告で解明している問題点は、レジメにあるように12点ですが、時間の制約がありますから、特徴的な点だけを簡単に報告します。
　第一に強調したいのは、連合ホワイトカラー・エグゼンプション米国調査が「この制度を我が国に導入すべきではない」と結論付けていますが、この点は労働総研調査チームの結論と一致しているということです。
　第二に、経済財政諮問委員会の八代議員は、米国では４割の労働者が労働時間の適用を除外されているから、この制度を日本に導入することは当然と主張していますが、これはウソだということです。2007年10月の「ビジネスウィーク」は、「１億1500万の労働者人口の86％は連邦残業時間規制により保護されていると、米国労働省はいっている」と書いています。また、民間シンクタンクの経済政策研究所（EPI）試算では、04年の改定以前には21％、改訂後広がることを考えても26％としていますから、エクゼンプト労働者は14％、最大で26％でしょう。連邦公正労働基準法の残業代受給資格の適用除外条項を検討すると、新聞配達、花環製造、綿の種子除去、サトウキビの糖蜜製造など、ホワイトカラー以外のさまざまな職種が適用除外されています。ですから適用除外とホワイトカラー・エグゼンプションとは同一ではないということです。
　第三に、ブッシュ政権が新ホワイトカラー・エグゼンプションの適用範囲を拡大するために、公正労働基準法を改訂するのではなく、公正労働基準法運営規則である労働長官行政規則を改定した経緯を検討すると、改定の意図がコスト削減であることが鮮明になったことです。この行政規則の大改定で、エクゼンプションの範囲が大幅に拡大しました。職務内容基準の解釈が使用者の恣意的解釈によって、ファースト・フードの副店長や製造業のチームリーダーにも拡大される可能性があることも分かりました。しかし、アメリカの現状は､04年改定後も、エグゼンプションの対象は広がっていないことも、米国で入手した調査報告でも明らかになっています。
　第四に、労働組合の組織率が12％に低下している米国で、労働組合の存在意義は決定的に重要性であることを再確認したことです。全労連と友好関係にあるUEやSEIUなど職場労働者のたたかいを重視している労働組合は、労働協約で労働時間も１日７時間とか、残業代も連邦最賃や州最賃の数倍を獲得していることも分かりました。このことと関連して、米国の法体系の特徴を確認しておくことが大変重要です。州の労働法規が連邦法より優位にある場合には、州法が適用されるのです。米国50州で、残業法がない州は18、全州の36%、労働者数で見ると33%です。後の多くの州は、何らかの形で連邦法より優位にある残業規制をもっているのです。SEIUの弁護士は、日本に導入されようとしているワイトカラー・エグゼンプションは、テキサス型の遅れた制度であるといっていました。
　第五に、新ホワイトカラー・エグゼンプションは労働基本権剥奪とセットになった攻撃であるということです。日本でも労働契約法制との関連で労使委員会が労働組合の権能を形骸化させるということが強調されますが、米国では正規登録看護師を監督職務であるからエクゼンプション労働者であり、労働組合への参加権を剥奪するというケンタッキー・リバー事件に示されているような攻撃とのたたかいが、重要な課題になっていました。
　第六に、新ホワイトカラー・エグゼンプションは、大規模な残業代請求代表訴訟の増加によって、広範化することを押しとどめている側面があるということも分かりました。全労連や日本共産党などの不払残業代を要求するたたかいを、もっと勢力に取り組むことはホワイトカラー・エグゼンプション阻止のたたかいでも重要であると思います。
　最後に、８時間労働制の原則を守るたたかいは、労働条件をめぐる基礎条件であり、きわめて重要であるということを痛感したということを強調したいと思います。

《ワークライフバランス論の欺瞞性と資本主義破壊の腐敗したイデオロギー》
　報告書「ホワイトカラー・エグゼンプションの現局面」で詳しく述べられていますが、日本経団連は、手垢のついたホワイトカラー・エグゼンプションという用語を使わず、「専門性や創造性などが高い仕事を行う従業員に限って、従来の労働時間法制や対象業務にとらわれない、自主的・自律的な時間管理を可能にする」「新制度の導入」を主張しています。舛添厚労大臣も「家族団らん法」に言い換えることを指示したといっています。しかし、これらのことは報告書で解明しているように、源流は米国にあるのです。
　共和党は、財界の利益擁護の見地から、今回のホワイトカラー・エグゼンプション攻撃に先立ち、コンプタイム法案を何度も上程しましたが、結果的に実現することができませんでした。コンプタイムとは、残業時間休暇代替制度と呼ばれ、残業代は支払わず、残業時間を1.5割増した時間で休暇を取れというものです。この制度の導入を2004年に厚労省の「仕事と生活の調和に関する検討会」は、在宅勤務とともに提案しています。コンプタイム法は「家族に優しい・family friendly職場法」とも宣伝されていました。つまり、ホワイトカラー・エグゼンプションもワークライフバランス論も、そのイデオロギー的源流は米国生まれのものなのです。
　これらの攻撃は、人間らしく働き、人間らしく生活するための働くルールの土台である、標準労働時間を破壊する、コスト削減・搾取強化の攻撃であって、時代を一世紀半も逆転させようとする反動的な攻撃です。そして、残業しても残業代を支払わないという攻撃は、ホワイトカラー・エグゼンプションだとか、ワークライフバランス憲章などと、さまざまな理屈で美化していますが、資本主義の基本的経済法則を破壊する強盗的な腐敗した反動的イデオロギーです。資本主義の経済法則は、買った商品には対価を支払うというルールで成り立っています。これを破壊する腐敗しきった反動思想にもとづく資本主義破壊のイデオロギーでもあるのです。これらの攻撃を跳ね返すためにご一緒にがんばりましょう。

　労働総研2007年度第２回常任理事会は、全労連会館で、2008年２月14日午後１時半〜５時まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。
　常任理事会冒頭の研究会は、橋本正二郎氏の「日本経済の現局面をどう見るか‐見方のポイントと展望にふれて」の報告を受け、議論した。とくに財政問題で今後研究すべき論点が討議された。

I　報告事項

　藤吉信博事務局次長より、(1)１月22日、全労連会館大ホールで、労働総研・労働法制中央連絡会共催、新日本出版社協賛で開催されたシンポジウム「労働ビッグバンの狙いは何か――それをどうはねかえすか」（『労働総研ニュース』本号参照）には、120名が参加し成功したこと、(2)「ホワイトカラー・エグゼンプション米国調査報告書」（『労働総研クォータリー』68＋69号で特集）が発行されたこと、(3)『2008年国民春闘白書』が増刷されたこと、(4)『世界の労働者のたたかい　2008』の進捗状況、(5)１月25日、「首都圏最低生計費調査」を進めるための会議が、労働総研、全労連、東京労連、埼労連、神奈川労連、千葉労連の５者で行われたこと、(6)全労連から協力要請のあった非正規労働者のメンタルヘルスを含めた健康調査について、(7)草島和幸、小森良夫両氏の解放運動無名戦士の墓合葬を日本国民救援会に申請したこと、などが報告され、討議の結果、了承された。

ＩＩ　討議事項

1）事務局次長より、３名の入会申請が報告され、討議の結果、承認された。

2）大須眞治事務局長より、若手研究者と若手組合幹部の研究会を、「15周年記念『労働組合の活動実態と課題と展望』調査最終報告」の検討を中心に行うことが提案され、討議の結果、承認された。

3）労働総研と全労連、社保協で「社会保障のあり方検討会」(仮称)を設置し、福田内閣が立ち上げた「社会保障国民会議」を視野に入れて、研究を行い、来年７月ころまでに、国民の側にたつ社会保障問題での政策提案を学者・研究者の協力を得て作成することについて、熊谷金道代表理事より提案があり、討議の結果、承認された。

4）事務局次長より、３月19日午後４時から全労連２階ホールで開催する「非正規センター」への協力要請について提案があり、討議の結果、協力することが確認された。

5）事務局長より、「最賃・中小企業の底上げに関する研究交流会」を賃金・最賃問題検討部会と中小企業問題研究部会を中心に、２月15日午後６時から、全労連会館３階会議室で開催することについて提案があり、討議の結果、確認された。

6）事務局長より、プロジェクト・研究部会代表者会議についての提案があり、討議の結果、３月28日午後４時から、全労連会館３階会議室で開催することが確認された。

7）事務局長より、人事委員会について提案があり、討議の結果、了承された。

8）事務局長より、全労連４役との懇談の提案があり、討議の結果、確認された。

9）事務局次長より、労働組合などからの協力について提案があり、討議の結果、協力要

請などに対する定式化が確認した。