労働総研ニュース�Y217・218　2008年4・5月

　2007年度労働運動総合研究所のプロジェクト・研究部会代表者会議が、藤田実常任理事の司会で、08年３月28日午後４時から７時まで、東京・全労連会館会議室で開催された。

　司会　2007年度のプロジェクト・研究部会代表者会議を開催します。本日の議事は次のように進めたいと思います。最初に、熊谷金道代表理事から「主催者挨拶」をお願いし、続いて、藤吉信博事務局次長から今回の「プロジェクト・研究部会代表者会議への報告」を行ってもらいます。次に、研究所の調査研究活動の柱である二つのプロジェクトの報告を牧野富夫代表理事と大木一訓代表理事から行っていただきます。この二報告の後、休憩を取り、各研究部会の報告はすでにお配りしてありますので、事務局次長、両代表理事の報告を柱に討議を行います。最後に再び熊谷代表理事の「まとめを兼ねた閉会の挨拶」をお願いします。

　ご苦労様です。今日の会議は諸般の事情で夕方からの開催となりました。今日の会議の基本性格は、事務局次長の報告にあるように、例年の会議と若干異なった性格を持っています。労働総研は06年度の定例総会で、研究諸活動の「新方向」を決定しました。この新方針に基づいて２年間研究活動は行われてきました。今年度はその研究活動のまとめの時期です。例年の代表者会議では、１年度における研究活動についての討論を行ってきましたが、今年度の代表者会議では、06年度と07年度と２年度にわたった研究活動についての議論をお願いします。

　さらに、この２年度の研究活動の総括の上に立って、08年度と09年度の２年度を見通した新たな研究活動の方針をお考えいただきたいと思います。以上に三つの問題を提起しました。

（1）今回の会議の目的

　今回のプロジェクト・研究部会代表者会議の目的は、すでに熊谷代表理事の挨拶にあった通りです。

1）研究所活動の新方針の確認

　今回の会議の前提となる、06年７月29日に開催された「2006年度定例総会」で決定された「2006年度事業計画」の「研究所活動の新方向」を再確認しておきたいと思います。

　今回の会議は、この「研究所活動の新方向」決定最初の２年を修了する時期を前に開催されています。したがって、この会議の目的は、新方針に沿って各プロジェクト・研究部会がどのような調査研究活動を進めてきたのかを中間総括することです。

　まず、（1）と（2）で、新方針とそれ基づく研究活動の改善・再編について確認しておきたいと思います。（3）では、新方針の具体化として再編された各プロジェクト・研究部会の活動状況について、特に２つのプロジェクトの報告を中心に議論していただき、（4）研究活動の成果と問題点を、情勢との関連で明らかにしていただきたいと思います。特に、（4）は08年度方針確定との関連で重要です。情勢との関連で、どのようなプロジェクト研究が要請されているのか、あるいは各研究部会は情勢との関連でどのようなテーマを選択するかなど、活発な議論をお願いします。

2）新研究活動の改善・再編の留意点

　新研究活動の改善・再編に当たって、以下の６つの留意点を確認しました。この点も本日の会議の議論の前提条件となるものです。

1. 情勢の推移・変化に対して鋭敏に反応しつつ労働組合運動が直面している調査・政策上の課題に留意した調査研究を進める。
   
2. 労働総研の主体的諸条件をリアルに認識し、限られた人的・財政的資源を効果的に活用する方法を追求する。
   
3. 労働総研の調査・研究活動は研究者と運動家が共同ですすめる事業である。
   
4. 研究計画を重視し、研究計画にふさわしい人的構成を重視する。特に青年・女性の参加を重視する。
   
5. 可能な限り研究所の会員全体に開かれた研究活動を組織化し、研究成果は会員全体に還元していく。
   
6. 限られた財政は、調査研究・政策提案活動の充実に重点的に充当していく。
   

（2）新方針の具体化：研究活動の3類型

　新方針は研究活動を三つの類型に分けました。

　第一の類型は、常任理事会が決定した「研究所プロジェクト」です。

　第二の類型は、運動の要請にこたえて常任理事会が決定した「共同プロジェクト」です。

　第三の類型は、研究所会員が常任理事会に研究計画と提出し、常任理事会の承認を得た研究計画にしたがって実施する「研究部会」です。同時に、06年の新方針では、研究部会は、できるだけ総合化すること、研究部会は代表１人と10人前後の運営委員で構成すること、２年単位の研究計画を常任理事会に提出し、承認を得て研究活動を行うこと、研究部会活動は原則として公開とすること、などを明確にしました。

（3）現在活動しているプロジェクト・研究部会

i）第一類型「研究所プロジェクト」

　これは、常任理事会が決定した第一の類型のプロジェクトです。現在、大木代表理事を責任者とする「21世紀労働組合の研究プロジェクト」（以下、「労働組合プロジェクト」という）と牧野代表理事を責任者とする「新自由主義的展開に対する対抗軸としての労働政策研究プロジェクト」（以下、「労働政策プロジェクト」という）の二つが活動中です。

ii）第二類型「共同プロジェクト」

　これは、運動の要請にこたえて常任理事会が決定した「共同プロジェクト」で、天野光則常任理事を責任者とする「労働組合トップ・フォーラム」、熊谷代表理事を責任者とする「恒常的政策委員会との共同研究」および、「ホワイトカラー・エグゼンプション米国調査」があります。米国調査についてはすでに、08年１月22日に『労働総研クォータリー』No.68＋69号で『「ホワイトカラー・エグゼンプション」米国調査報告書』を出して終了しました。

iii）第3類型「研究部会」

　これは、研究所会員が常任理事会に研究計画と提出し、常任理事会の承認を得た研究計画にしたがって実施する「研究部会」です。現在、「賃金・最低賃金問題検討研究部会」、「女性労働研究部会」、「社会保障問題研究部会」、「中小企業問題研究部会」、「労働者状態統計研究部会」、「国際労働研究部会」、「関西圏産業労働研究部会」、「労働運動史研究部会」の８研究部会が活動中です。

（4）新方針に基づく2年間の研究活動の成果

　新研究活動方針に基づく06年度から07年度にわたる研究所活動の成果は大きなものがあったと思います。当研究所は、全労連を初めとした日本の労働運動が直面する課題に機敏に対応した調査研究活動に積極的に取り組み、研究所の社会的認知度を大いに高めたと思います。

1）政策の発表

　「労働政策プロジェクト」や「共同プロジェクト」などと共同した政策発表は、マスコミでも大きく取り上げられ、運動の前進にとっても少なからず貢献したと思います。

　06年11月８日に記者発表した「残業代11.6兆円の横取りを法認するホワイトカラー・エグゼンプション」は、ホワイトカラー・エグゼンプションは「残業代ゼロ法案」であり、「過労死促進法案」であるとする全労連を初めとする国民世論に実態的根拠を与え、安倍内閣が法案上程を断念させる上で少なからぬ貢献をしたと思います。常任理事会は、ホワイトカラー・エグゼンプションの母国である米国へ、07年３月に２週間の日程でしたが、全労連と協力して調査団を米国に派遣しました。調査団は、07年９月７日、第１次報告会を開催し、08年１月22日に正式報告書を発表しました。

　06年12月19日には、「労働政策審議会労働条件分科会『報告書』についての見解」を記者発表しました。これも、日米財界が企図する解雇の金銭的解決にたいする運動を激励したと思います。

　さらに、07年２月26日には、「すべての労働者に1,000円以上の最低賃金を保障せよ」を記者発表し、全労連が長年にわたって運動を進めてきた全国一律最低賃金要求に、最低賃金アップが国民生活を土台にした日本経済の健全な発展をもたらすという根拠を与え、この運動を大きく激励しました。

　現在、全労連、東京地評、埼労連、千葉労連、神奈川労連との「共同プロジェクト」として、「首都圏最低生計費調査」が、07年７月の第１次集約、12月の最終集約を目途に進められています。この調査研究は最低生計費と最低賃金制との関連を具体的に論証する上で重要な調査研究となると思います。

　また、「共同プロジェクト」として、「地域政策検討プロジェクト」が進められています。このプロジェクトは、自公政権・政府が地域における医療・福祉・教育の切捨てを強行し、地域住民の生活基盤が破壊されている下で、住民生活を守り、発展させる地域政策を模索するものとして重要だと思います。

2）研究例会・研究交流会

　研究例会や研究交流会も工夫を凝らして開催され、成功させることができたと思います。

1. 06年９月13日、開催した研究例会は、中小企業問題研究部会と国際労働研究部会共同を土台にして行われました。こうした形態での研究例会は初めての試みでした。ドイツのマールブルグ大学教授（当時）のフランク・デッペ氏の講演「ドイツ労働運動の現状と危機克服の展望」（「労働総研ニュース」No.198参照）に基づいて討議しました。研究例会は、討論を通じて、困難な状況にある日独両国の労働運動が、政治革新を展望しつつ、増大する非正規労働者の組織化と最低賃金制確立のたたかいを重視しているという共通性を確認し、困難な中で運動するわが国の運動を激励するものとなりました。
   
   
2. 07年３月31日、シンポジウム形態でナショナル・ミニマムに関する研究例会を開催しました。この「ナショナル・ミニマム大綱をめぐって」のシンポジウム（「労働総研ニュース」No.205＋206参照）は、「ナショナル・ミニマム問題の理論・政策に関わる整理・検討プロジェクト」が、『労働総研クォータリー』No.62＋63で『報告書』を提出したことを受けて行われたものです。この研究例会で、労働者・国民生活の共通の基盤として最低生計費の重要性、最低賃金制確立・最低年金保障確立・生活保護水準の引き上げ・最低工賃の保障など課題との共通性が確認されました。
   　07年６月７日に、労働総研・全労連・全生連・中央社保協共催で行われた「6.7ナショナル・ミニマムシンポジウム」で、金澤誠一理事は、労働総研が提起している「ナショナル・ミニマム大綱案」に基づいて、国民の最低生活の「岩盤」を構築するたたかいと運動が国民共同の重要性な課題であるとする基調講演を行いました。シンポジストは、金澤講演を受け、憲法が国民の権利として保障しているナショナル・ミニマム確立運動の重要性を国民共同の課題として確認されたことは重要です。
   
   
3. 08年１月22日、労働総研・労働法制中央連絡会共催、新日本出版社協賛で、シンポジウム「労働ビッグバンの狙いは何か―それをどうはねかえすか」（「労働総研ニュース」No.215＋216参照）が開催されました。こうした形態での研究例会も初めての試みです。シンポジウムは、牧野代表理事をコーディネーターに、高田公子新日本婦人の会会長、生熊茂実全労連副議長（JMIU中央執行委員長）、今村幸次郎弁護士をシンポジストに行われました。このシンポジウムは、牧野編著『労働ビッグバン』（新日本出版社発行）を契機に行われたものですが、「労働政策プロジェクト」の成果を反映したものでもあります。このシンポジウムは、情勢を反映して120人が参加し、「労働ビッグバン」を跳ね返す運動の展望と発展方向に確信を与える熱気あふれるものとなりました。
   
   
4. 08年２月15日、賃金・最賃問題検討研究部会・中小企業問題研究部会を軸にした研究交流会「最賃・中小企業の底上げに関する研究交流会」を開催しました。
   　この研究交流会では、産業連関表分析に基づき「すべての労働者に1,000円以上の最低賃金を保障せよ」の試算を行った木地孝之研究員、小越洋之助「賃金・最低賃金問題検討研究部会」責任者、藤田信好中小企業問題研究部会メンバー（全商連研究所員）の問題提起を受けて議論し、１時間あたりの最低賃金1,000円以上の持つ重要性を、労働者・国民諸階層の共通課題として確認し合いました。このような研究部会横断的な交流会は、参加者からも好評で、研究部会を横断して焦点となっている問題領域の相互検討の持つ重要性が明らかになりました。
   
   
5. 08年２月22日、長年の課題であった若手研究者の研究会活動がスタートしました。この研究会には、単産幹部も参加し、設立15周年事業で全労連と共同で行った「労働組合活動の調査報告」をテキストに、現時点に立った分析・検討を進めていくことが確認されました。この研究会の発展に常任理事会が協力、支援していくことは、労働組合幹部との共同を進めていく研究所の発展にとって大変重要な意義があると思われます。
   

（5）2年目を終了するに当たっての諸課題

1）ディスカッション・ペーパー

　各プロジェクト・研究部会は、06年度の研究所活動の新方向に基づいて調査研究を進めてきました。この研究期間は、冒頭に申し上げたように、06年度から07年度の２年度です。したがって07年度の終了時に、２年度にわたる調査研究活動を総括する「報告書」あるいは「ディスカッション・ペーパー」を提出いただくということになります。

　その提出時期は、07年度の終了時ということになるのですが、調査研究の進行の度合いがあるわけですから、08年度から09年度の２年度をにらんだ次期の研究計画をも考慮に入れた「ディスカッション・ペーパー」にならざるを得ないと思います。

　ディスカッション・ペーパーの内容は、調査研究で解明された問題点、残された問題点、今後解明すべき問題点などが含まれるでしょう。こうした性格を持つディスカッション・ペーパーは、各プロジェクト・研究部会で取り扱った問題の領域などにも関連して、分量もまちまちになると想像されます。そのようなディスカッション・ペーパーの性格を考慮して、字数など量的制限をあえて設けなくてもいいのではないかと思います。そして、それらは、印刷・製本して公表するのではなく、データとして保存し、必要に応じて活用できるようにしたいと考えています。

　本日提出されている「報告」の中には、ディスカッション・ペーパー作成にあたり、研究部会責任者が過重な労働を強いられるというご指摘もあります。こうした点についても、あわせてご議論いただきたいと思います。

2）ディスカッション・ペーパーとアニュアル・リポートとの関係

　07年９月に第１回目の最初の「アニュアル・リポート」を発行しました。アニュアル・リポートは研究所の年次報告であり、研究所の研究活動を俯瞰できる報告書として好評です。

　２年に１度はアニュアル・リポートとディスカッション・ペーパーがダブるわけですが、ディスカッション・ペーパーは、２年度にわたるプロジェクトおよび研究部会の調査研究のその時点での総括です。アニュアル・リポートは、毎年度ごとの研究所の調査研究活動の年次報告ですから、報告分量もほぼ一定です。

　このように、アニュアル・リポートとディスカッション・ペーパーの性格的な区別と関連をご理解のうえ、両方の報告をいただくということになります。アニュアル・リポートは、今後内容的にも充実・改善して毎年発行していきたいと思っています。

（6）次期研究計画の企画立案に向けて

1）次期計画の提案

　08年度には、08年度から09年度を調査研究期間とする次期の研究が開始されることになります。冒頭申し上げましたように、調査研究活動の第一類型である「研究所プロジェクト」と大に類型の「共同プロジェクト」は常任理事会のイニシアチブで企画立案されますが、第三類型の各研究部会の調査研究の提案は、研究所会員が常任理事会に研究計画と提出し、常任理事会の承認を得た研究計画にしたがって実施することになっておりますので、各研究部会は調査研究の継続をも含めて、新たに次期研究計画を常任理事会に提出していただくことになります。常任理事会への次期計画の提案は、2008年度定例総会方針に反映できるよう、６月20日を締め切り日としたいと考えています。

2）研究活動活性化のための諸施策

　その他、研究活動上の諸施策についてもご議論いただきたいと思います。

3）研究例会・研究交流会

　研究例会は毎年度中２回以上開催することになっています。研究例会は06年度と07年度の例からもさまざまな形態を工夫して開催したいと思います。研究例会や研究部会横断的なテーマを議論する研究交流会などで取り上げるべきテーマは、どのようなものがあるのかについてもご議論いただきたいと思います。

（7）次年度研究計画の検討の素材提供

　次年度の研究計画を考えるうえで、情勢との関係で重視すべきいくつかの調査研究テーマについて、討論の参考にあげてみたいと思います。

1）労働政策の研究

　日雇派遣労働者問題をめぐって、「労働ビッグバン」攻撃で破壊され続けてきた、労働者保護法・制度の規制緩和政策が労働者保護規制の方向へと「潮目の変化」が現れてきています。これは雇用労働者の３分の１にまで増加してきた非正規労働者自身の運動を支援してきた全労連など労働組合の運動と国会での論戦とも結びついて作り出されている大変注目すべき事態だと思います。この問題は牧野代表理事を責任者とする「労働政策プロジェクト」で調査研究されていますが、引き続き重要なテーマとなっていると思います。

2）貧困化の研究

　ワーキングプアとか、貧困と格差の拡大の問題が社会政治問題化しています。これらの問題を、大企業の蓄積構造、生産過程における長時間超過密労働との関連で調査研究、分析し、労働者状態の悪化、今日的な貧困化問題を解明することが求められていると思います。

3）ナショナル・ミニマムの研究

　労働者状態の悪化は、国民生活窮乏化問題と切り離して論じられない問題でもあります。年収200万円以下の労働者が1,000万人以上います。憲法25条がすべての国民に保障している「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を実現していく上で、１時間当たりの最低賃金1,000円以上の実現は緊急の課題ですが、これは同時に、最低保障年金や生活保護基準、最低工賃、農産物価格保障などの引上げなど、国民諸階層の最低生計費保証要求と密接に関連した問題です。ナショナル・ミニマム確立の問題では、労働者・国民諸階層の最低生計費調査研究と結び付けて深化させる必要があると思います。

4）地域政策の研究

　ナショナル・ミニマム実現の課題は、地域住民の生活基盤を確立していく課題と関連している問題です。自公政権・財界は、道州制の問題をにらみながら、三位一体改革と結びつけて、自治体の合併、住民の福祉・医療・教育切り捨て政策を推進しています。地球温暖化問題とも関連して、農業危機が世界的に深刻化し、農産物の自給化が改めて脚光を浴びています。地域政策を考えていく上で、中小零細企業の経営基盤の底上げと同時に、農業の再生をも視野に入れた研究が必要になっていると思います。

5）社会保障政策の研究

　福田首相は「社会保障国民会議」を立ち上げ、消費税問題と絡めて社会福祉切捨て政策を強行しようとしています。労働総研もこうした動きをも意識しながら、全労連、中央社保協とも相談をしながら、国民共同の社会保障政策を調査研究するプロジェクトを実現することが必要だと思っています。

　以上若干の問題を提起しました。

1）研究対象と推進体制

　財界・政府の労働政策の新自由主義的展開として「労働ビッグバン」が進められています。従って、本プロジェクトは、「労働ビッグバン」を直接の研究対象として研究を進めています。

　本プロジェクトは、「労働ビッグバン」を研究、分析するに当たって、労働法・労働経済・労働運動の関連主要３分野から、トータルに解明し、新自由主義的「構造改革」路線による「労働ビッグバン」への対抗軸として「労働分野における民主的規制」の基本視点・具体策を提起すること方向で、研究を推進しています。

　研究成果は、総論、労働経済、労働法、労働運動の分野ごとに、『労働総研クォータリー』で発表し、その成果を再検討・総合して“わかりやすく、力になる”パンフレットにまとめたいと思っています。

2）時期区分

　本プロジェクトでは、「労働ビッグバン」を次のように時期区分しています。

　（１）80年代半ばからの「前史」をへて、（２）90年代半ばから「本格化」し、（３）06年の経済財政諮問会議での「労働ビッグバン命名」以降、その「総仕上げ段階」に入っていると分析しています。

　「労働ビッグバン」をめぐる現在の特徴は、推進勢力にとって、「総仕上げ」をめぐる情勢が険しくなってきているということです。これは、厚生労働省と規制改革会議の「対立」にとどまらず、「労働ビッグバン」の「母体」たる新自由主義・「構造改革」の矛盾が拡大し、「残業代横取り法」・「過労死促進法」として反対が高まり国会上程できなかった「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入反対運動やなど世論が反新自由主義・反「構造改革」へとシフトしているからです。

　いま、「労働ビッグバン」の「総仕上げ」にストップをかけ、「労働分野の民主的規制」の国際水準化をめざす条件が生れていると思います。

3）「労働ビッグバン」の本質

　ここで確認すべきは、〈「労働ビッグバン」とはなにか〉ということです。

　90年代半ばに始動した理由は何かという問題です。それは次のように考えています。（１）バブル崩壊後の日本経済の長期停滞、経済のグローバル化のもとでの「国際競争力強化」の要請があったこと、（２）これへの対応として、90年代半ば以降、新自由主義による「構造改革」が展開されたこと、（３）「構造改革」と一体の「労働ビッグバン」の展開、日経連「新時代の『日本的経営』」の提起とその実践、そのための条件整備としての「労働分野における規制緩和」が推進されたことなどです。

　「労働ビッグバン」の直接のねらいは、企業・産業等のグローバルな大再編に見合う〈雇用の「流動化・多様化」の徹底〉＝「労働市場改革」にほかなりません。そのための条件整備として、労働運動の「懐柔」と「労働分野の規制緩和」、労働法制の解体的緩和を追求することです。

4）対抗軸「民主的規制拡充」の基本点

　「労働ビッグバン」への対抗軸としての「民主的規制の拡充」の基本領域・具体策として、以下のような柱になると考えています。

1. 雇用の「流動化・多様化」・企業風土の「成果主義化」への対応として、正規雇用・直接雇用、生計費原則、ディーセントワーク等の協約化などがあります。
   
2. 労働法制の「規制緩和」への対応として、労働法制の抜本改正＝国際水準化など。雇用・賃金・労働時間などの法的規制の整備などがあります。
   

1　研究の現状と問題点

a）研究計画の策定

　本プロジェクトは、研究領域や枠組みについての議論を重ね、研究チーム全体の合意形成にかなり時間をかけました。

　そして、研究の方向を「組合運動がかかえる主要課題と新たな発展の可能性を明らかにすることにおき、労働組合運動の改革と統一への「政策を提示する」研究計画として策定しました。

　さらに研究成果を最終的な報告書案「21世紀労働組合運動の課題と展望―組織化問題を念頭において―」として具体化するために、検討と研究をつづけているところです。

b）これまでの研究活動の経過

　上記の研究計画を念頭において、これまで次のような事項について研究・討議を積み重ねてきました。

1. 階級構造の変化と労働組合運動
2. 最近の労働組合論をめぐる論点
3. 全労連の組織拡大の取り組み
4. 自治労連の組織拡大運動の経験
5. 「地域」における労働組合運動の到達点
6. 大企業労働組合の現状と問題点
7. 「個人加入労働組合」のとらえ方
8. 総評組織綱領の歴史的教訓の再検討、などです。
   

c）「提言」の検討

　このように、全体の問題意識や各事項の位置づけをはっきりさせるために研究・討議を進めてきました。

　今、中心的に取り組んでいることは、本年７月末に開催される全労連定期大会の前に、「提言：労働組合運動の新たな拡大強化のために（案）」を提起できるように研究を進めることです。全労連大会以前に「提言」の提起を「めざして」取り組んでいるといった方が正確かもしれません。そのため、最終的な「報告書」＝「21世紀労働組合運動の課題と展望―組織化問題を念頭において―」の最後に予定している「提言」を先取り的に検討しているところです。

　目次的な構成からすれば、逆転しますが、討議資料「『提言』作成のために」をまずまとめて、「提言：労働組合運動の新たな拡大強化のために（案）」を作成することを検討してきているところです。

d）問題点

　その点では、研究会構成員相互の討議をいっそう密にすることが求められています。また、運動家からの丹念な聞き取りによって、労働運動が直面している課題を的確に把握する必要があります。さらに、本プロジェクトを「貧困」に対するたたかい全体のなかに位置づけ、他の部会とも連携して研究活動を進める必要があると思っています。

2　ディスカッション・ペーパーの準備状況

　本プロジェクト研究会では、「提言」をまとめることがディスカッション・ペーパーの作成となろうかと考えています。

3　今後の研究計画

　当面は、「提言」をまとめるうえで必要な報告を中心に研究・討議を進めることにしています。「提言」作成後、改めて最終報告書の作成について検討・具体化する予定です。

　司会　３つの報告を軸に、各研究部会から提出されている「報告」に基づいて、議論をお願いします。

1）労働組合論をめぐって

• 労働組合論をめぐって、企業別組合否定論などが、一定の影響をあたえている。これらの議論にたいする、適切な批判は必要ではないのか。
  
  
• そうした議論は、全労連運動にたいする政治的批判、あるいは全労連方針にたいする批判と結びついている。それらの議論は、単に全労連運動にたいする批判というだけでなく、日本の労働運動の発展の障害になる議論でもある。これらの議論についても適切な批判が必要ではないのか。
  
  
• 全労連運動の何処が悪いのか理解できない。そのような議論は、全労連運動にたいする誤認からきているという側面もあるだろう。全労連運動の存在価値を歴史的にもはっきりさせることが重要である。統一労組懇、全労連運動が存在してきたからこそ、「労働ビッグバン」攻撃に抗したたたかい、労働者保護法制の規制緩和の流れから、規制強化の方向へと潮目の変化を作り出しえたのではないのか。階級闘争の具体的実態を歴史的にも正確に評価して行く作業が必要である。全労連運動はすべて正しいという必要はないが、一局面だけを見て、全体を評価するのは誤りである。
  
  
• 非正規労働者の増大と関連して、未組織労働者の組織化問題で、さまざまな動きが生まれている。一側面だけを過大評価して、全労連運動にたいするアンチテーゼ化するような評価もあるが、全労連運動も含めて、日本の労働運動の発展方向との関連で、これらの動きを注意深く評価する必要がある。
  
  
• 日本労働組合運動は一貫して企業別組合であったとする立場からの批判もある。企業別組合宿命論は史実にも反する。戦後再出発した日本の労働組合は、工場代表者会議や産別会議の組織方針や具体的な運動実態から見ても、産業別・個人加盟の組織形態を取っていた。占領軍の反共政策や財界戦略による反共民同育成と産別攻撃、レッド・パージ攻撃などと結びついて、企業別組合化されたという事実がある。さらには、60年代後半から70年代初頭における大企業の大型合併と結びついて、それまで職場にあった団交権を産別中央に引き上げたという点をきちんと見る必要がある。このことからも分かるように、企業組合主義の克服には、資本の攻撃にたいして職場団交権を実現するたたかいと、組合民主主義の確立という二つの課題の追求がポイントになるのではないか。
  
  
• われわれの経験でも、統一労組懇や階級的ナショナル・センターを選択するときには、職場労働者の意見を重視し、一票投票を行い、組合民主主義に基づいて決定してきた。この点は、連合の結成過程と決定的に違う点である。こうした事実を知らないで批判しているのではないだろうか。統一労組懇、全労連の運動が、80年代からの第二の反動攻勢を打ち破り、現在生まれている労働法規の規制緩和路線から規制強化への変化を作り出す上で重要な役割を担ってきたことは明確な事実である、この点を積極的に評価していくことは、日本の労働組合運動の発展という見地からも重要である。
  
  
• そうした実態を積極的に解明する作業は大変重要なことである。｢21世紀労働組合論｣の大きなテーマではないだろうか。
  

2）社会保障論をめぐって

• 社会保障の問題でも、企業内組合主義に規定されて日本では社会保障制度が育たなかったという論がある。日本の労働組合運動は、「構造改革」路線がひっくり返すに値するような社会保障制・構造物を作り出してこなかったという極論もある。
  
  
• 国民皆医療、国民皆年金制度は労働者・国民の運動で実現してきたものではないのか。いま、後期高齢者医療制度問題がホットな社会的、政治の中心的問題になっている。この制度導入に対して、75歳以上の後期高齢者だけでなく、国民が怒っている。それは、国民が運動で作り上げてきた医療・社会保障制度が破壊されることにたいする怒りである。これを守るに値しないといいうイデオロギーは、社会保障破壊攻撃にたいする国民的運動発展の障害物ともなる。
  
  
• 憲法25条はプログラム規定といわれていたが、朝日訴訟はそれを具体化していくうえできわめて重要なたたかいであった。いま、生活保護水準切り下げに反対して、新たな人権裁判闘争が、各地で起こされている。25条は国際的にも先駆的規定であり、25条を基礎にして日本の社会保障闘争は取り組まれてきた。25条を基礎にした社会保障水準は決して高いものではないが、その獲得物も階級闘争の産物であって、守るに値しないなどというものではない。
  
  
• 社会保障闘争では中央社保協が果たした役割は大きかった。労働戦線再編の動きは70年代から始まっているが、総評の右転落と関連して、社会保障闘争が弱体化していったのは事実である。しかし、社会保障改悪には統一労組懇はストライキを組織してたたって、社会保障破壊攻撃から社会保障制度の到達点を守ってきた。連合が結成されて以降、中央社保協運動の中心の一つとして全労連は奮闘し、守るに値する社会保障制度の破壊攻撃に抗して、国民共同の力でたたかってきている。
  
  
• 社会福祉の問題では、福祉国家論をどう見るかという問題と関連付けて評価する必要がある。それらの議論が、個々の社会福祉政策まで否定しているのか、日本の社会保障制度が、全体としての福祉国家に値するものになりきっていないという問題では、問題の立て方が似ているようで違ったものになる。それらの点をも慎重に分別して議論すべきである。
  
  
• 議論は慎重に行うべきであるが、運動の前進を阻止するような議論・イデオロギーについては適切な批判は必要であると思う。
  

3）ディスカッション･ペーパーをめぐって

• ディスカッション・ペーパーを出す意義は分かるが、メンバーの高齢化や労働総研以外の他研究会との重複などもあり、ディスカッション・ペーパーの義務化は、予想以上に部会責任者に過重な負担がかかるというのが現状である。今後は、研究計画・テーマ設定の変更ごとに、部会内部での責任者の交代が望ましいと思う。
  
  
• 全労連より、新たな中小企業政策の策定が委嘱されており、これへの対応をベースにディスカッション・ペーパーを作成する方向で作業中である。それにこたえるため、その不足分を今後の研究で補う方向で準備したい。08年度に向けての研究計画は、ディスカッション・ペーパーの作成とも関連して、各産業別中小企業単産の現状を掌握（必要な訪問調査又は部会での特別報告）することを通じて、具体化していくことにしている。
  
  
• 全体の構成と執筆分担も決まり、執筆者による報告を共同討議しながら、作業を進めている。内容はできるだけ分かりやすいものにするために努力中である。当然残された問題もあるが、それはそれとして記述することにしている。
  
  
• 非正規雇用に関連して取り組んできた光洋シーリング・テクノの偽装請負問題、特にそこにおける労働組合運動の可能性について、これまでの成果をまとめるかたちでディスカッション・ペーパーを作成したい。今後、四国における外国人研修生問題について調査を進めたいと考えている。外国人研修生問題については、徳島県労連および愛媛の新居浜労連が研修生・実習生の保護について経験を蓄積しており、この問題をつうじて、労働組合の今後のあり方を考えてみたいと思う。
  

　司会　本日の議論を踏まえて、最後に熊谷代表理事より、まとめを兼ねた閉会挨拶をお願いします。

　ご苦労様でした。本日の議論については、常任理事会でも検討すべきは検討し、2008年度定例総会方針にも反映させるべき点は反映させたいと思います。06年度・07年度を調査研究期間とする研究年度を終了するに当たり、「報告書」ないしはディスカッション・ペーパーを提出するということは、06年度定例総会で確認された研究所活動の新方向に基づく、新しい挑戦です。是非成功させていただくことをお願いして、まとめを兼ねた閉会の挨拶といたします。

　労働総研第３回常任理事会は、全労連会館で08年４月19日午後１時半〜５時まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。
　常任理事会冒頭の研究会は、アナリストの平田寛一氏の「世界経済危機下の５月政局」の報告を受け議論した。

I　報告事項

　藤吉信博事務局次長より、（１）大江顧問の逝去について、（２）２月15日、全労連で開催された「最賃・中小企業の底上げに関する研究交流会」について、（３）２月22日、全労連会館で開催された「若手研究者研究会」について、（４）３月17日、全労連会館で開催された「労働組合トップ・フォーラム」について、（５）３月19日全労連会館ホールで開催された「全労連非正規センター準備会」について、（６）３月26日、全労連会議室で開催された「首都圏最低生計費調査の打合せ」について、（７）３月28日、全労連会館で開催された「プロジェクト・研究部会代表者会議」について、（８）「労働総研ニュース」２＋３月合併号について、（９）『世界の労働者のたたかい　2008』の進捗状況について、（１０）３月18日、日比谷公会堂で開催された解放運動無名戦士の墓合葬追悼集会に草島前事務局長、小森会員が合葬されたことについて、（１１）４月２日行われた全労連４役との懇談について、（１２）４月25日に予定されている日本福祉大学から委託され産別記念労働運動図書資料室で公開する堀江正規文庫のお披露目について、（１３）企画委員会・事務局・研究部会の活について報告があり、討議の中で、「若手研究者研究会」については永年の懸案であり、常任理事会としてもその活動に協力を惜しまないことなどが確認され、報告案件は承認された。

II　討議事項

　大須眞治事務局長より、2008年度定例総会の方針案の骨格として、（１）2007年度の経過報告は、2006年度総会で決定された研究所活動の「新方向」に基づく２年度にわたる研究活動のまとめの時期に当たるので、２年度を見通した経過報告とすること、（２）研究所をめぐる情勢分析は、情勢一般の分析ではなく、研究所活動との関連で、2008年度の研究所活動を実施していくことに重心を置いて行いたいとして、フリー・トーキングのための柱が提起され、それに基づいて、議論が行われた。

　事務局長より、2008年度定例総会までの日程（５月23日・第７回企画委員会、６月14日・第４回常任理事会、第１回理事会、６月21日・第８回企画委員会、６月28日・第５回常任理事会、７月26日・第６回常任理事会・第２回理事会・2008年度定例総会）が提案され、討議の結果、了承された。

　労働総研と（財）全労連会館とは、産別会議記念労働図書資料室の整備を共同で進めてきました。07年５月、日本福祉大学のご好意により、堀江正規文庫を産別会議記念労働図書資料室に移管し、閲覧が可能になりました。これを記念して、４月25日、当図書資料室で、堀江文庫お披露目の記念式典が、堀江先生の令娘、日本福祉大学、労働総研、（財）全労連会館など関係者出席の下に執り行われました。この会に、柴田政義日本福祉大学名誉教授のメッセージが寄せられた。

　当資料室の利用については、未だ整理中という事情もあり、さしあたり、毎週火曜日を開館日とすることが決定しています。堀江文庫を含む図書・資料の全目録の整備次第、開館日数も増加する予定です。

「堀江文庫」東京移設にあたっての御挨拶

　ようやく木々の緑も色濃くなってまいりましたが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

　さて、急にお手紙を差し上げますのは、故堀江正規先生と生前親しくお付き合いされていた方々にぜひ御報告しておきたいことができたからです。それは、皆様の御理解と御協力を得て日本福祉大学に設置された「堀江文庫」の件ですが、このたび日本福祉大学図書館、労働総研および全労連会館財団のご厚意とご協力により、東京に移設されることとなり、この4月末から東京で閲覧できるようになったというニュースです。「堀江文庫」の設置・作成にかかわり、また今回の移設に協力した者の一人として、私はこの移設を皆様とともに心から歓迎したいと存じます。

　堀江先生が日本福祉大学に在任されたのは、1972年から1975年までの比較的短い期間でしたが、その間に先生は大学の経済学部の創設に尽力され、学生の教育に力を入れられたばかりでなく、研究活動のうえでも多大な足跡を残されました。日本福祉大学では、それぞれの専門領域で新しい道を切り拓き、研究発展に多大な貢献をされた先人たちの業績を記念して特別文庫を設けていますが、「堀江文庫」も、ご遺族からの先生の蔵書の寄贈をいたたき、そうした特別文庫の一つとして設けられたものです。

　今回の「文庫」の東京移設は、ご遺族の了承も得て、従来どおり日本福祉大学図書館特別文庫としての地位はそのままに、新しく創設された「産別記念労働図書資料室」に「文庫」を移管し、広く一般の閲覧に供しようとするものであり、堀江先生の研究活動を引き継ぎ発展させるうえでも、いっそう豊かな環境を整えることになるに違いありません。この計画実現にお力添えいただいた大木一訓日本福祉大学名誉教授をはじめとする関係者の方々に心から感謝を申し上げたいと思います。

　晩年の堀江先生がもっとも力を注がれていたのは、労働運動の主体的力量をいかに強化するかという問題でした。最近の情勢は、日本の労働運動が一大転換点に立っているのではないかという気がします。まさに堀江先生が強調してやまなかった批判的精神を全面的に発揮すべき時機を迎えている、と言ってよいのではないでしょうか。「堀江文庫」の東京移設が労働運動発展の一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

　末筆ながら、皆様の健康と御活躍を祈念しております。