目 次 |
年頭にあたって |
2009年1月1日 金融資本優先の新自由主義が世界同時不況の元凶 昨年は、アメリカ発の金融危機が飛び火し、世界中の経済・社会が大混乱に陥った年でした。この深刻な事態を引き起こした元凶が実体経済より金融の利益を最優先した経済政策にあったことは誰の目にも明らかです。金融資本の世界的な投機活動をやりやすくするために、規制を緩和し、金融の横暴がまかり通るようになりました。規制の緩和は危機の伝搬も容易にし、サブライムローンの破綻にみられるアメリカの金融危機が一気に世界中に広がり、世界同時不況へとつながりました。 日本もアメリカに追従して新自由主義的な規制緩和を次々にすすめ、労働者の仕事や生活を守るため企業の横暴を規制する役割を果たしていた労働者保護立法などの規制緩和、さらには輸出や外需依存など海外頼みの経済構造で世界同時不況の洗礼をあびることとなりました。 責任と犠牲はすべて労働者・国民に転嫁された 日本の財界を代表する経団連も今日の事態が「100年に一度と目される危機」(「経営労働政策委員会報告2009年度版」)と認めています。しかし、財界が「100年に一度の危機」で心配したのは労働者や国民の生活や仕事ではなく、みずからが経営する企業の利益確保でした。その大企業が利益確保のためにまず行ったのが従業員の切り捨てでした。不況の嵐の吹きすさぶ世の中に従業員を投げ捨てたのです。14兆円もの内部留保をかかえる巨大企業トヨタも派遣社員・期間社員を切り捨てました。経団連代表の御手洗冨士夫氏が会長を務めるキヤノンも人減らしを実施し、日本のリーディングカンパニーといわれる企業が従業員首切りを率先し、多くの企業もそれにしたがうこととなりました。 最初の犠牲が派遣・期間社員など非正規労働者 こうした中で最初の犠牲者にされたのが派遣・期間社員などの非正規労働者です。非正規労働者は雇用が不安定で、労働者としての権利保障も弱く、社会的な保障も十分受けられない立場に置かれています。権利の弱い人を大企業はまず狙い打ちにしました。 労働法の規制緩和政策である「労働ビッグバン」は、こうした労働者を大量に創出し、大企業のリストラをやりやすくするものでした。なかでも1999年の労働者派遣法「改正」による派遣の原則自由化、2004年の派遣労働の製造業への拡大は、非正規労働者の広がりをもたらした決定的な要因です。こうして大量につくられた非正規労働者が企業利益の拡大に貢献したにもかかわらず、人員削減の最初の犠牲者にされています。大企業の横暴はさらに正規社員の削減、新規採用者の内定取り消しなど、なりふりかまわず従業員を消耗品の如く切り捨てを強行しています。 12月26日の厚生労働省発表によると、「非正規切り」は8万5千人、この中には契約中途の解雇が46%も含まれています。また、内定を取り消された大学生・高校生が769人にもなること、完全失業者数は256万人にのぼること、有効求人倍率は0.76に低下したことなど今日の深刻な雇用情勢が次々に明らかにされています。 今日の不況の犠牲者は、労働者だけでありません。中小業者も下請けへの発注減少や金融機関の貸し渋り横行などで経営危機に追い込まれ、農家も農業資材費の高騰などで経営を続けること自体が困難な状況に陥れられています。 大企業の横暴を阻止し、労働者の雇用と暮らしの保障を 大企業の横暴を抑え、失業者を出さないようにすることがまず緊急の課題となっています。また、すでに仕事を失い、寮から追い出され住む場所も失っている人、ホームレスやカッフェ難民になる人も多く、これらの人々には住居を保障し、生活費を保障するなど命を守る施策が緊急に行われる必要があります。仕事を失った人には、雇用保険などにより失業時の生活を保障することが必要で、長期の失業者には技術習得を保障するなど現行制度の充実もです。このように失業を未然に防止し、失業した人には仕事を保障したり、生活の保障などをすることが必要です。中小業者や農家に対しても経営が安定できるように、きめ細かな施策が必要とされます。 今日、労働者や国民がこうむっている仕事や生活の困難の原因に、歴代の自公政権の悪政があることは誰の目にも明らかです。麻生政権は、国民のこうむっている困難に責任を感じないばかりか消費税の増税など、国民に一層の負担を押しつけて政権の延命を図るのに汲々としています。政府に対する国民の不信は地に落ちています。カジノ資本主義が破綻し外需依存の日本経済の矛盾が深刻化している今こそ政策の根本的な転換をはかり、労働者・国民の仕事と生活の安定にとって有効な政策を早急に打ち立てることが必要となっています。そのために労働総研は全力をつくしていきます。
日本経団連は08年12月16日、09春闘に向けての財界・大企業の方針となる「経営労働政策委員会報告」2009年版(以下、「報告」)を公表しました。その副題は、「労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦を」です。「報告」は、4部構成になっており、「第1章 日本経済を取り巻く環境の変化と今後の見通し」「第2章 今次労使交渉・協議における経営側のスタンスと労使関係の深化」「第3章 公正で開かれた人事・賃金システムの実現」「第4章 わが国企業の活力・競争力を高める環境の整備」となっています。 ここ数年、「報告」は、大企業がバブル期を上回る最高益を更新していることを自画自賛して、「改革の手をゆるめてはならない」(05年版「報告」)、「日本経済が今日の回復をみることができたのは、……なによりもわれわれ民間企業の努力によるところが大きい」(06年版「報告」)「政府・民間による改革が実を結び、わが国企業の足腰は強化された」(08年版「報告」)、などと“豪語”し、みずから推進してきた新自由主義的構造改革路線の正しさを声高に叫んできました。 ところが、今年はそうはいきません。「報告」自身が「100年に一度の危機」とのべているように、「アメリカ発の金融危機」が直撃し、日本経済は深刻な危機に見舞われているからです。 それだけに、財界・大企業は、この危機をどのように打開しようとしているのか、それが「報告」に具体的にどういう形で示されているかが注目されました。ところが、「報告」には、いま、日本経済の矛盾が日々深刻化していることについての分析はいっさいありません。あたかも、“天災”が起きたかのように、危機の事実の断片が羅列されているだけです。いま、日本経済の危機がなぜ生まれたのか、その分析がなければ、危機への“処方箋”をうちだすことはできません。 「報告」は、これまで進めてきた「構造改革」路線が日本経済に何をもたらしたかの分析なしに、この路線に固執し、国際競争力の強化を鸚鵡返しに強調するだけです。 全国革新懇の品川正治経済同友会終身幹事は全国革新懇の席上で「財界はいま、自分でもどうしたらいいかわからなくなっている」とのべていますが、そうした財界の混迷ぶりが浮き彫りにされたのが、ことしの「報告」の最大の特徴です。 「報告」をとおして強調されている国際競争力の強化は、結局のところ、労働者や下請・関連企業、地域経済への企業の社会的責任をいっさい放棄して、それらの犠牲のうえに立って、輸出型大企業の国際競争力を強めよという特異な「国際競争力強化」論です。そうした「国際競争力強化」論は、たしかに、経団連の中核を占める輸出型大企業の利益になるものなのでしょう。しかし、それは、労働者はもちろんのこと、日本経済のなかで圧倒的多数を占める中小企業、地域経済にとって“百害あって一利なし”というべきものです。 ともあれ、「報告」が日本経済の危機打開の“カギ”のように描いている「国際競争力強化」論を中心にしながら、以下、検討していくことにします。 国際競争力強化路線は何をもたらしたか 「報告」では、全体をとおして国際競争力の強化が例年以上に強調されています。国内外の経済動向にふれている第1章を除けば、すべての章で国際競争力の強化に言及されています。その意味で、「報告」のキーワードは、国際競争力といえます。 しかし、国際競争力の強化は、財界・大企業がいまいい始めたことではありません。この間、財界・大企業の経営戦略の中心に位置づけられてきたことです。 財界・大企業はこれまで、「豊かな国民生活は企業活動の活性化を通じてしか実現できない」(2007年“経団連・御手洗ビジョン”(「希望の国、日本」)とのべ、企業活動の活性化のためには、グローバル競争で打ち勝つ国際競争力の強化が必要であり、企業活動が活性化されれば、「豊かな国民生活」が実現できると主張してきました。国際競争力の強化こそ、「豊かな国民生活」を実現する最大の力だといってきたのです。 この間、確かに、財界・大企業が国際競争力強化の大号令をかけるなかで、日本の大企業の国際競争力は格段に強化されてきました。日本の大企業は、強化された国際競争力をバネにして、海外での売り上げを急速に拡大しました。なかでも、アメリカ経済は、新自由主義的構造改革のもとで、金融・住宅バブルが演出され、ローンによる消費拡大で、史上まれに見る好景気を謳歌していました。そのアメリカ市場に輸出を伸ばし、現地生産を拡大するというのが、日本の財界・大企業の経営戦略でした。 たとえば、世界一の自動車企業になったトヨタです。2002年度のトヨタの販売台数は、世界各国で624.6万台です。そのうち、日本は221.8万台、北米は198.1万台でした。5年後の2007年度のトヨタの販売台数は、891.4万台。5年間で266.8万台増やしています。しかし、地域別販売台数には、顕著な変化がみられます。 2007年度の日本の販売台数は、218.8万台と02年度比で3万台減っているのです。逆に、北米は02年度比97.6万台増加して295.8万台になっています。 財界・大企業が、国際競争力の強化を旗印にして、いかに、内需を省みず、外需に依存し、生産を拡大してきたかが、トヨタの販売実績にもよく表れています。 財界・大企業の国際競争力強化の経営戦略は、アメリカ経済に極端に依存する仕組みをつくることになりました。そして、いま、アメリカの金融・住宅バブルが破綻すると、日本経済は坂を転げ落ちるように景気悪化がすすむようになりました。大企業を先頭に「派遣切り」「期間工切り」にいっせいに乗り出し、雇用が一気に悪化しました。それがまた、日本経済悪化に拍車をかけることになっています。 国際競争力の強化を最優先する財界・大企業の経営戦略は、「豊かな国民生活」を実現するどころか、労働者はもちろん、日本経済にとっても害悪をもたらすものでしかないことが、「100年に一度」といわれる危機の中で、浮き彫りにされたのです。 にもかかわらず、「報告」は、この破綻が明白になった国際競争力強化の経営戦略に固執しているのです。それは、日本経済と「国民の生活」をまったく省みない財界の反国民的な姿を浮き彫りにするものといわなければなりません。 「労使一丸」論 「報告」は、現在の不況について「資本主義経済にとっての脅威」「未曾有の危機」「今や政界経済は同時不況の様相」など、最大級の“危機感”を示す文言を各所にちりばめながら、70年代のオイルショック、90年代の「平成不況」につづく「第3の危機」と位置づけています。そして、「報告」の副題にあるように、「今回の難局を乗り切るにあたっては、過去の経験・教訓を踏まえ、労使が危機感を共有して、一丸となって難局を打開していく姿勢が求められる」と強調しています。 「報告」は、「労使一丸」で危機を乗り切った経験として、わざわざ「第一次・第二次オイルショック時の状況とその教訓」というトピックスを掲載して、その“教訓”に学ぶ重要性についてふれています。 このなかでは、70年代の第一次オイルショック時には、「人件費の負担増により、企業収益が悪化し、経済成長がマイナス」になる中で、「労働側の理解を求め」た結果、労働側から「経済発展、雇用安定、企業経営改善などを総合的に勘案し適正な賃金決定をすべきとする『経済整合性論』を提唱する動きもみられた」とのべ、労資協調路線にたつ労働組合の協力を得て、危機を乗り切った経過についてふれています。 そして、「過去のオイルショックや平成不況を乗り越えられたのは、わが国の労使関係が経済状況や企業実態を重視する成熟したものへと深化してきたからこそといっても過言でない」と述べています。 「経済整合性論」とは、生産性を上げて“パイ”をふやせば賃金も上がるという「パイの理論」にもとづく「賃上げ自粛論」ですが、それでも不況をのりきれば、「パイの理論」にもとづいて、合理化容認とは引き換えではありましたが、職場労働者の要求を背景にした賃金への“配分”はありました。第一次ショックの際には、74年不況のときの労働分配率は54.7%だったのが、75年には61.8%に増えました。第二次オイルショックのときも79年の54.6%だったのが、景気が回復するなかで、81年54.8%、82年57.0%と労働分配率は増加し、86年には61.1%にまでなっています。労資協調路線を支える「パイの理論」はそれなりに機能していたといえます。 その枠の中で労資協調主義が「深化」し、大企業の労働組合を中心にして「労使一丸」という特異な労使関係を築いてきたのは事実でしょう。 「パイの理論」の破たんとその矛盾 しかし、この「労使一丸」体制を築いていくうえで、中核的な役割をはたしていた「パイの理論」は、財界・大企業の発表した財界戦略「新時代の日本的経営」のもとで、完全に破綻します。国際競争力の強化を旗印にする財界・大企業自らが「パイの理論」を踏みにじってきたのです。 平成不況を乗り切り、大企業は売り上げを伸ばし、大もうけを続けながら、国際競争力の強化が最優先だとして、労働者の賃金を引き上げようとしてきませんでした。景気回復期に入った2002年以降、大企業の経常利益は、2002年の18.3兆円から07年の32.3兆円へと14兆円も伸ばしているのに、労働者の現金給与総額は月38.8万円だったのが、2007年には37.8万円へと逆に1万円減少しています。労働分配率は、2002年の60.0%から07年の52.3%へと7ポイント以上も下がってきたのです。 「報告」は、このことを棚に上げて、いまも、国際競争力の強化を叫べば、労資協調路線に立つ労働組合の協力も得て、「労使一丸」で現在の危機をのりきることができると考えているようです。しかし、ことはそう単純ではありません。 全労連は、労働者の切実な要求に根ざして、財界・大企業の賃金抑制・切り下げに反対するたたかいの先頭に立ってきました。 これまで労資協調組合といわれた労働組合にも、ここ数年、顕著な変化が見られます。とくに、ことしの「報告」にたいする批判はかつてない厳しいものがあります。 「経済整合性論」を主張してきた労資協調組合の中核といえる金属労協(IMF・JC)は、「報告」にたいする「見解」を発表しています。そのなかでは、「勤労者の懸命な協力・努力によって企業業績が改善し、長期にわたり経済成長が持続してきたにもかかわらず、その成果は勤労者に十分に配分されず、労働分配率は長期的に低下傾向が続いてきた」とのべ、そのことが「内需主導型の経済成長への転換を妨げ、今日の危機をより深めることになった」ときびしく批判しています。 連合もきびしい批判を加えています。「報告」が礼賛する「労使一丸」論について、「この間のなりふり構わぬ企業経営は、その良好な労使関係と労使の信頼関係を毀損させた」と述べ、「ゆがんだ配分を是正し、内需主導型の持続的な経済成長の実現をめざし、責任をはたすべき」と財界・大企業の社会的責任を追及したうえで、「危機感を煽り、自分に都合のよいときだけ労使の協調性をことさら訴えるようなやり方に同調することはできない」とまでのべています。 連合も金属労協もそうした立場から、雇用の維持・安定、賃金引き上げを要求するようになっています。その背景には、国際競争力の強化という経営戦略のもとで、賃金の引き下げと長時間・過密労働をしいられている労働者の不満が広がっているのです。 「報告」のいう「労使一丸」論は、労働者の手厳しい反撃を招かずにはおかないでしょう。 「賃金破壊」「雇用破壊」の基本姿勢に変化なし 「報告」は、国際競争力の強化という経営戦略に固執しています。国際競争力強化の経営戦略は、労働者に犠牲を転嫁することと一体不可分の関係にありますから、これまで財界・大企業が推進してきた「賃金破壊」「雇用破壊」の路線に変化がないのは当然です。 「報告」は、「今次労使交渉・協議に向けた経営側の基本姿勢」で、「雇用の安定を重視した交渉・協議」で、雇用と賃金の問題を取り上げています。 雇用では、「今次の労使交渉・協議においては、雇用の安定に努力することが求められる」と述べています。 景気が悪化しはじめると同時に、日本の大企業は、経団連会長企業であるキヤノンや日本のトップ企業であるトヨタを先頭にいっせいに「派遣切り」「期間工切り」という非正規労働者の大量解雇にのりだしました。厚生労働省の調査では、8万5000人もの非正規労働者の首切りが計画されているとされています。 こうした首切りを強行しながら、「雇用の安定に努力」とはどういうことなのでしょうか。つじつまが合わない話です。実際、日本の大企業の「非正規切り」にたいして、海外のマスコミは、減益とはいえ黒字を見込み、株主配当についても高配当を維持しながら、どうして「非正規切り」をするのかという疑問を投げかけたものです。ヨーロッパなどでは考えられないことだったからです。 しかし、それは非正規労働者の「雇用破壊」はすすめても、正規労働者の「雇用の安定に努力」するということなら、疑問も氷解します。つまり、「報告」のいう「労使一丸」の枠組みの中に正規労働者を組み入れるために、「非正規切り」を強行し、経営状況が大変な状況にあるという意識を正規労働者にたたきこもうというねらいを秘めていたということです。財界・大企業にとって、「非正規切り」は人件費コスト削減と同時に、「非正規切り」を正規労働者の“みせしめ”にするという効果を持つものだったのです。 財界・大企業は、「非正規切り」を強行するなかで、それでも経営が大変だといって、正規労働者のリストラ・首切りさえすすめようとしています。非正規労働者の権利・雇用を守ることができなければ、結局、その攻撃は正規労働者にも及んでくることになるのです。「報告」は、「厳しい経営環境は…競争力を築いていくチャンスでもある」とのべています。「非正規切り」をすすめるなかで、正規労働者もふくめたリストラをさらにすすめようというねらいがすけてみえてきます。 大企業にとっては、まさに“一石二鳥”どころか“一石三鳥”をねらったやり方です。 雇用問題についての「報告」のもうひとつの特徴は、雇用の悪化が景気の悪化を加速させ、地域経済も国民生活も深刻な状況におちいっているもとで、大企業の社会的責任として「雇用の改善」を図る方策はただの一行もかかれていないことです。 自ら「非正規切り」を強行しながら、「雇用対策」は他人事のように述べられているだけです。「わが国企業の活力・競争力を高める環境の整備」が必要だとして、「若年者雇用問題への対応強化」「政策的支援が必要なフリーターへの対応」などなど、すべて政府に“丸投げ”されているのです。 溜め込んだ利益、内部留保は、一銭もフトコロからださないという強欲資本主義の“権化”ともいうべき日本の財界・大企業の正体がここにも示されています。 これが、「報告」のいう「雇用の安定に努力」するということの実際です。こんなやり方は到底許すことができません。 「賃金破壊」への執念 「報告」は、国際競争力を強化するために不可欠な「賃金破壊」にも固執しています。 昨年の「報告」は、マスコミで「経団連、賃上げ容認」(「日経」)などと報じられたように、賃上げ容認を思わせる言葉もふりまかれていました。しかし、ことしは違います。「報告」は、現在の不況を「資本主義経済にとっての脅威」「未曾有の危機」「今や政界経済は同時不況の様相」など、最大級の“危機感”を示す文言で描き出し、その一方で、「総額人件費管理の徹底」による賃下げ方針を前面に押し出しています。 そのために持ち出されているのが、使い古された「支払能力論」です。その上に立って主張されているのが、「仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度」の導入です。 この間、財界は、成果主義賃金の矛盾が広がる中で、成果主義賃金の装いを変えながら、「能力・成果・貢献度に応じた処遇制度」(05年版「報告」)、「能力・役割・業績を中心とした制度」(06年版「報告」)などの導入を図ってきました。07年版「報告」以降、現在のように、「仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度」の導入というようになってきました。しかし、どういいなおしても、これらの賃金制度は、成果主義賃金と同様に、というよりもさらに、労働者間の競争をあおり、賃金の個別化・恣意化をはかることによって、賃金削減をはかろうというものです。 成果主義賃金については、厚生労働省「労働経済白書」でも、成果主義はうまく機能せず、労働意欲が低下するなどの弊害が生まれていると指摘しています。こうした人事・賃金制度の下で、メンタルヘルスが広がり、チームワークが乱れ、「現場力の低下」が引き起こされてきたのです。「報告」では、ことしも「現場力の低下」への危惧が表明されています。職場を荒廃させる賃金・人事制度を導入して、「現場力」の回復をどうしてできるのでしょうか。ここでも袋小路に迷い込んだ財界の賃金政策のゆきづまりが示されています。 労働法制の規制緩和を主張 「報告」は、「貧困」がこれだけ広がり、労働者派遣法の問題点が誰の目にもわかる形で明らかになっているにもかかわらず、「労働者派遣制度は、労働力需給調整機能に加え、就業形態の柔軟性を併せ持つことから、雇用の創出・確保という点において重要な機能をはたしている」といって、「労働者派遣法の適切な運用と見直し」を主張しています。その方向は、「制度改正が過度に雇用の機会を減少させてはならない」というものです。製造業への派遣禁止や登録派遣などを規制していけないということです。 悪名高い残業代ゼロの「ホワイトカラーエグゼンプション」についても、言葉はなくなりましたが、「裁量性の高い仕事をしている労働者に限って、従来の労働時間法制や対象業務にとらわれない、自主的・自律的な時間管理を可能とする新しい仕組みの導入を検討」するなどといって、その導入をねらっています。 また、最低賃金に引き上げにたいしても、「急激かつ大幅な最低賃金の引き上げを行えば、採用抑制や雇用維持にも影響を与え、かえって働く人々の生活の安心が確保できなくなるおそれがある」とのべて、最低賃金の引き上げに反対しています。 どれもこれも、国際競争力の強化に必要な総額人件費が一円でも高くなることは許されないという主張です。そこでは、労働者の生活は一顧だにされていません。 「報告」のいうように、相も変らぬ国際競争力最優先の経営戦略をすすめれば、「賃金破壊」「雇用破壊」がさらにすすみ、景気悪化を加速化させ、国民生活と日本経済を未曾有の危機にさらすことになります。まさに、“亡国の道”をつきすすむことになります。この経営戦略の転換こそがいま求められています。 09春闘の発展を いま必要なのは、雇用や賃金・労働条件を改善し、国民の消費購買力を高めて、内需・生活充実型の日本経済をつくり上げていくことです。09春闘で、そうした方向に足を一歩踏み出す条件がこれまでにない形で広がっています。 第一、日本経済のあり方そのものにメスを入れることの重要性について、全労連、連合ともに強調するようになっています。09春闘に向けて、全労連は、「時代はまさに歴史的転換点にたっている」として、「内需主導の経済への転換、アメリカ追従・依存経済からの転換を求める世論と運動作りを積極的に進める」としています。連合は、「歴史の転換点に当たって――希望の国日本へ舵を切れ」という見解をまとめて、「内需主導型の経済システムや経済・財政運営への転換が不可欠」と主張しています。 そのうえにたって、「派遣切り」「非正規切り」に反対し、非正規労働者の雇用と労働条件を守る、賃金引き上げで内需を拡大することこそ最大の景気対策など、一致する要求が広がっています。 第二、大企業による大規模な雇用破壊という非常事態のなかで、首切り攻撃にさらされている派遣労働者自らが労働組合をつくって立ち上がり、反撃のたたかいに立ち上がっています。このたたかいにたいして人間的連帯の運動が広がり、それらの力が相まって、政治を動かすという新しい事態も生まれています。 第三、後期高齢者医療に反対するたたかい、年金・社会保障拡充のたたかい、消費税増税反対のたたかい、安全・安心の食料を要求するたたかいなど、国民生活擁護の闘争が国民各階層のとりくみとして大きく発展しています。 第四、国際競争力強化の経営戦略のもとで導入された成果主義賃金、非正規雇用の拡大は、『労働経済白書』が「現場力の低下」を招いていると指摘せざるをえないほど、職場に矛盾と亀裂が深まっています。そのなかで、労働者の賃金引き上げ、長時間労働の軽減などの切実な要求を実現しようという声が広がっています。 労働者、国民諸階層の生活擁護のたたかいを大きくもりあげるなかで、日本経済の「内需拡大・生活充実型」経済への転換をめざすことが大切になっています。 ことしは、総選挙の年でもあります。非正規雇用など雇用問題、高齢者医療、食料など国民諸階層が直面する課題が、そのまま総選挙の焦点になっていることが大きな特徴です。09春闘が、総選挙闘争とも連動しながら、労働者、国民の要求を実現し、輸出頼み・外需依存の日本経済から、内需主導・生活充実型日本経済への転換を求める運動として本格的に前進させていくことが期待されています。 (ふじた ひろし・労働総研理事、労働者状態統計分析研究部会)
労働総研は新規の「研究所プロジェクト」(「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」)の論点整理のため、2008年12月12日、全労連会館にてシンポジウムを開催しました。 牧野富夫労働総研代表理事が「経済的ゆとりについて――安心できる雇用・賃金・社会保障をめざして」と題して報告。「人間らしい労働と生活」の実現には、その基礎的な条件として、「経済的ゆとり」、「時間的ゆとり」、「心身の健康」が不可欠であると問題提起しました。 その後、天野寛子昭和女子大学教授が「家族との生活と時間的ゆとり」について、日野秀逸東北大教授・労働総研常任理事が「日本における心身の疲労問題」について、小田川義和全労連事務局長が「人間らしい労働と生活の実現に向けた労働組合の課題」についてそれぞれ報告しました。 牧野代表理事のコーディネーターによる討論では、派遣切りなど雇用・生活破壊の現状や、住宅確保の重要性の指摘などが発言されました。
人間らしい生活の実現をめざし、「最低生計費」を考えるシンポジウムが、2008年12月13日にエデュカス東京にて開催されました。主催は首都圏最低生計費調査作業チーム(神奈川労連・埼労連・千葉労連・東京地評・全労連・労働総研)です。 金澤誠一佛教大学教授・労働総研理事が、最低生計費試算結果をもとに基調報告をおこないました。シンポジウムは熊谷金道労働総研代表理事のコーディネーターで進められ、パネラーとして金澤誠一氏をはじめ伊藤圭一全労連調査局長、水谷正人神奈川労連議長、辻清二全生連事務局長がそれぞれ発言し、試算を力にして、最低賃金引き上げ、ナショナルミニマム実現を目指すことの重要性などについて討論されました。
労働総研2008年度第2回常任理事会は、全労連会館で、2008年10月25日午後1時半〜5時まで、大木一訓代表理事の司会で行われた。 I 報告事項 大須眞治事務局長より、『国民春闘白書』編集委員会の状況、全労連代表との懇談の内容などが報告され、討議の結果、了承された。また、賃金最賃問題検討部会と女性労働研究部会が10月14日におこなった研究交流会について、出席者から報告された。 II 討議事項1)事務局長より、入会の申請が報告され、討議の結果、承認された。 2)事務局長より、研究所プロジェクトの具体化について、論点整理のためのシンポジウムを12月12日に行うことが提案され、内容を含めて討議を行った。 3)研究部会の設立状況、デスカッシションペーパーやアニュアルリポートの提出状況が事務局長より報告され、承認された。 4)研究例会について事務局長より提案され、テーマや時期などを討議した。 5)20周年記念事業について大木一訓代表理事から、またその具体化について事務局長より提案され、引き続き討議をおこなっていくこととした。 6)編集企画について、藤田実編集責任者から提案され、承認された。
目 次 総 論 戦後、女性労働者の要求と運動、主な論点の軌跡〈概要〉 I.女性行政のあゆみ II.裁判闘争をめぐる女性の権利の発展 III.仕事と生活の両立〜いま求められるワーク・ライフ・バランス政策〜 IV.国際規範を活用した女性たちの草の根運動 (36ページ・頒価500円・申し込みは労働総研事務局まで)
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