「閉塞」感の打破へ

　昨年を表す漢字として「暑」が選ばれたが、労働者・国民と日本社会を被っているのは一文字ではないが「閉塞」ではないだろうか。この「閉塞」を打開すべく労働者と国民は民主党政権を誕生させた。しかし、この新政権は後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止、労働者派遣法の抜本見直しや企業・団体献金の禁止など、国民に約束したマニフェストを次から次へと後退させている。また、多くの国民が真相解明を求めている「小沢」問題に自らけじめがつけられないどころか、沖縄県民の基地撤去の切実な願いを弄んだあげく在日米軍基地は「抑止力」として日米同盟の「深化」をうちだし、財界・大企業本位の「新成長戦略」や法人税減税を推進しようとしている。
　ここに至って、新政権に対する国民の期待はうすれ、政治不信と「閉塞」感が以前にも増して広がっている。また、高卒・大卒の就職内定率や完全失業率に象徴されている深刻な雇用状況は未来を担う青年の希望を奪い、労働者を消耗品扱いする大企業の横暴は「人間らしく生き、働く」労働者の権利を踏みにじり、わが国社会の「閉塞」感をより深刻なものとしている。

春闘再生と国民春闘の発展・強化を

　今日のわが国社会の「閉塞」状況打開の展望を切り開くためには、国民的な共同戦線の中心を担うべき労働組合運動が活力を取り戻すことが決定的に重要になっている。その労働組合の活性化の鍵はわが国の労働者が労働組合に最も関心をよせている春闘の再生と国民春闘への発展・強化にある。
　春闘は、労働組合の共同した力を一定の時期に集中することで企業別労働組合の弱点を克服して、財界・大企業など経営側の結束した賃金抑制や企業間競争を口実とする分断攻撃を跳ね返そうというわが国独自の闘争方式である。そしてそれはパターン・セッターである労働組合が企業側から先行して賃金引上げ回答を引き出し、その賃上げ水準を「世間（社会的）相場」として未組織労働者を含む多くの労働者に波及させるたたかいであった。ところが、最近の春闘は財界・大企業の国際競争力強化を口実とする徹底したコスト削減・賃下げ攻撃、これに迎合する労資一体の大企業労働組合の賃上げ要求見送りの自粛路線により、「賃上げなし」の「定昇確保」や「賃金カーブ維持」を「世間相場」とする「管理春闘」が貫徹されている。その結果、春闘は賃上げ闘争の成果をプラスの「世間相場」として社会的に波及させる場から、労資一体化路線の大企業労使による賃上げ見送りや昇給制度見直しなど、マイナスの「世間相場」を広範な労働者と労働組合に押しつける場へと変質してきている。
　労働者の賃金は97年をピークに引き下げられ続け、いまやその平均年収は80年代の水準にまで落ち込んでいる。他方で、この10年間だけでも企業は内部留保を218兆円以上も拡大している。欧米諸国ではこの間も労働組合のたたかいで賃金が引き上げられており、経済もプラス成長を続けている。世界でも異常な国「ニッポン」である。この一方の極の「貧困」と、他方の極への「富」の集中が、個人消費や国内需要を落ち込ませ、わが国経済を深刻なデフレ状態に追い込んでいる。

労働組合の真価を発揮するとき

　労働者や国民の最も切実な要求が生活改善にあり、労働組合への期待で最も高いのが賃金や一時金闘争の強化にあることは、ナショナルセンター所属の違いを超えた多くの労働組合のアンケート結果に共通する結果となっている。同時に、非正規労働者の正社員化、均等待遇、雇用確保や労働時間短縮、労使関係の枠を超えた税や年金・医療をはじめとした社会保障問題など労働者の要求が多様化していることも明らかである。労働組合の最大の力の集中点である春闘について、その原点を振り返り、50数年の歴史的到達点と教訓を明らかにし、今日的意義を問い直しつつ、春闘の再生と国民春闘の発展、一致する要求での共同の拡大などを追求することは労働組合運動の活力をとり戻すうえでも、国民生活改善の展望を切り開くうえでもきわめて重要になっている。また、深刻なデフレや円高を克服し、国民生活の改善と日本経済の安定的発展の鍵は、労働者の賃上げであり、賃上げこそが日本の経済・社会を救うのである。そのためにも、大企業の内部留保を労働者の賃上げや下請単価引上げ、労働時間短縮・雇用拡大などで社会的に還元させるたたかい、国民的世論形成が重要になっている。ここに、春闘再生の今日的意義と社会的・国民的大義がある。いままさに労働組合の真価が問われているのである。
　労働総研としても、様々な政策提言で労働者のたたかいを激励してきているが、今日の「閉塞」を打ち破り、「希望に輝く未来」をめざし「人間的な労働と生活の新たな構築」にむけ、研究所プロジェクトの成果取りまとめに総力をあげることが求められている。

　労働総研の牧野富夫代表理事と木地孝之研究員、労働者状態統計分析研究部会の藤田宏常任理事（事務局次長）は、2010年12月14日、厚生労働省記者クラブと三田クラブにおいて、労働総研提言「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵──企業の社会的責任を問う」を発表しました。以下の文章は記者発表の全文です。

　労働総研2010年度第２回常任理事会は、全労連会館で、2010年11月20日（土）午後１時30分から４時まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

１．報告事項

　大須眞治事務局長より地域政策プロジェクトについて、藤田宏事務局次長より、前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告され、承認された。

２．協議事項