労働総研ニュースNo.253 2011年4月
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労働運動・年功賃金・福祉国家―フランス瞥見…赤堀正成 |
フランスの労働運動は組織率が8%程度にもかかわらず強いという印象がある。日本の労働運動に照らして考える癖のある私はかねてそう思っていたし、いまでもある程度はそう思っている。しかし、フランス人の労働問題研究者にきくと、低い組織率と頻繁な街頭行動の対照は「フレンチ・パラドックス」とも言うべきで、それを運動が強いと捉えれば過大評価であろうとのことである。実際、低い組織率、官公労中心、民間労組の企業中心的性格、ナショナルセンターの権限の弱さ、ボス支配と官僚制を指摘して、フランスの労働運動はむしろアメリカのそれと似ているとする研究もある(D. Andolfatto et D. Labbe, Toujours moins! : Declin du syndicalisme a la francaise, Paris, Gallimard, 2009)。 また、日本の特殊性として悪名高い年功序列賃金などフランスにはあるわけがないと私はあやうく信じかけていたが、これがフランスにもあるようだ。そこでCGT活動家に、では年功序列賃金と同一労働同一賃金が反すると思わないか、と尋ねると「そういうことはきいたことがない」と驚かれた。日本ではそういう考えがあると伝えると「なるほど経営側からはあるかも知れないが……」と瞬間ちょっと気まずい空気が流れた。この点について、ILOの組合役員と話した際に言われたことは、ILO職員は職務評価もなく賃金は年々上がっていく、日本の公務員と同じですよ、と。そこで意を強くして職務給を専門にしているILO研究者に「日本の公務員、大学教員などは査定なし年功賃金という点でILOと同じです」と言うと笑顔で「それはとってもいいこと」という返事が返ってきて、こちらが驚かされた。 さらに、年功賃金なんかがあるから日本は福祉国家を作れないのだとさんざんきかされてきたような気がするが、元CFDT活動家の経歴を持つ政治学者P. ロザンヴァロンによれば、フランス福祉国家を支えてきたものは「年功序列の賃金システム」le system de remuneration al'ancienneteということになる(『連帯の新たなる哲学』勁草書房)。ロザンヴァロンはそれが崩れてきていることを指摘しているが、上のフランス人研究者は、新自由主義を推し進めるサルコジ大統領の時代になって年功序列賃金が官民を問わずに標的にされ壊されてきている、と話していた。 晩年に運動に積極的にかかわった社会学者P. ブルデューはフランスにおいて新自由主義に立つ「保守革命家」たちは組合活動家や古参労働者を解雇し、その「要求あるいは反逆を『特権』の古臭く時代遅れの防衛として糾弾する巧妙な手を使うだろう」と批判している(『市場独裁主義批判』藤原書店)。先頃友人らと『新自由主義批判の再構築』(法律文化社)という本を出したが、「巧妙な手」はフランスばかりでなく、日本でもありふれた常套手段になっているという思いを深くする。 (あかほり まさしげ・会員・労働科学研究所)
はじめに 3月11日午後2時46分頃、三陸沖を震源とする大地震があった。津波による大被害が引き起こされ、東日本大震災となった。被害の規模からすると戦後最大級であり、被災地の食料・水・救援物資の不足が深刻となっている。本稿を執筆している3月16日午前6時半現在、総務省消防庁のまとめでは、死者2142人、行方不明者6591人、合わせて8700人を超え、被害者数は、今後さらに激増することが予想されている。しかも、この大地震で被災した東京電力福島第1原発の原子炉では、炉心溶融の危機に見舞われ、屋外への放射能漏れが起き、深刻な事態が継続している。 この大地震そのものは、まさに未曾有の自然災害だった。しかし、原子力発電事故については、明確に人災の側面がある。地震国日本での原子力発電には、多くの人々が危惧の念を抱いていた。にもかかわらず、日本の電力政策は、つねに原子力発電へと傾斜してきた。CO2も出さず地球温暖化対策にも効果的だといいながら、進められてきた原子力発電の結末が、放射能による深刻な環境破壊だった。日本のこれまでの政策には、その究極を考えないまま、短期の効率性あるいは米日の利益集団を利する政策決定が横行してきたのである。たとえば、この原発に関していえば、それにかかわる米国ゼネラル・エレクトリック、東芝、日立などの原発企業の政策とのかかわりである。 本稿が論じようとする日本のTPP参加問題においても、国民にその重大な内容を知らせず、日米財界の意向に菅民主党政権が一方的に従い、マスメディアが一斉にそれを応援するという偏った危険な流れを感じざるをえない。この流れに歯止めをかけなければ、日本の経済政策が、原子力発電一辺倒という間違った方向に走ってしまった電力政策の二の舞になるかもしれないという危惧感から、私は、本稿の筆をとった。 したがって、まず、このTPP問題がなぜ生み出されたのか。そして、なぜ日本の財界は、TPPに日本が参加することを進めようとするのか。また、それは私たちの日常生活にどのような影響をもたらすのかについて述べ、その危険性について論じたい。 1 TPPは、なぜ浮上したのか TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が、注目されたのは、言うまでもなく、2010年10月1日、菅総理大臣の所信表明演説であった。「TPPへの参加を、明治維新、第2次世界大戦での敗戦に次ぐ第3の開国の機会にする」という内容の総理の発言が、各界を驚かせたのは、TPPの中身が衝撃的だったからだ。つまり、例外品目なしの関税ゼロというのが、TPPの特徴であり、しかも、物品貿易に限らず、サービス貿易、電子商取引、競争政策、税関手続き、投資、衛生植物検疫、貿易の技術的障壁、政府調達、知的財産権はじめ、世界貿易機関(WTO)で定める現代の究極の自由貿易を実現させるというものだからだ。各国にはそれぞれ国の事情というものがあり、それを関税や非関税障壁で守っているわけだから、それらをすべてなくすというTPPによる貿易は、各国の経済自主権を無視したきわめて乱暴なやり方だといわねばならない。 現在、TPPを結んでいる国は、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールの4カ国で、2006年5月に発効している。ここに米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国が参加を希望し、現在、協定作成に向けて協議中である。米国は、今年11月のAPECハワイ開催までには、決着を付けたいようである。日本は、この6月までに態度を明らかにするといい、2010年11月9日の閣議決定によって、準備のための構造改革に乗り出した。 しかし、そもそもなぜ日本の民主党政権は、「東アジア共同体」戦略からTPPに乗り換えたのだろうか。しかも、TPPの最終的目標は、米国が主張する「アジア太平洋自由貿易圏」構想になるのだ。ここには、鳩山由紀夫政権から菅直人政権への交代時に起こった政策変更が存在することに気がつかねばならない。鳩山総理大臣は、2009年9月に政権樹立後、国連総会で演説、「東アジア共同体」創設を主張していた。「FTA、金融、通貨、エネルギー、環境、災害援助など――できる分野から、協力し合えるパートナー同士が一歩一歩、協力を積み重ねることの延長線上に、東アジア共同体が姿を現すことを期待しています」といったのだ。しかし、これは米国の意に沿わなかった。同年11月に来日したオバマ大統領が、次のように述べたからだ。「米国は、広範囲にわたる締約国が参加し、21世紀の通商協定にふさわしい高い水準を備えた地域合意を形成するという目標をもって、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)諸国と関与していく」と。いうまでもなく、「東アジア共同体」とTPPとは、全く性質が異なる。なぜなら、TPPは、米国主導のアジア太平洋自由貿易圏につながるのに対し、東アジア共同体は、アジア諸国が基軸となることはいうまでもないからだ。つまり、アジアから締め出されることを恐れた米国が、日米安保で縛りのかけてある、日本を抱き込み、東アジア共同体構想に楔を打ち込むという狙いがあったことは明らかだ。 米国はそれをどのように実行していったのだろうか。いうまでもなく、米国離れを企図する鳩山政権を普天間基地移転問題で窮地に陥れ、親米の菅総理大臣へと政権を移譲させることによってだ。経済政策では、日本の財界を使って、米国の企図するTPPからアジア太平洋自由貿易圏構想を成長戦略に記載させ、それを菅内閣の『新成長戦略』として閣議決定させることだ。2010年6月18日閣議決定された『新成長戦略』では、21の国家戦略プロジェクトの10番目にそれは、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略」として位置づけられた。また、2010年度中には、「包括的経済連携の基本方針」の策定と明示されたから、11月9日の閣議決定となった次第なのだ。だから、2010年10月1日の菅総理大臣の所信表明演説は、確かに事情の知らない人たちには、寝耳に水だったのだが、それは、日米財界の仕組んだ作戦に民主党がまんまとはめられた結果だった。 2 TPP参加と日本農業への壊滅的打撃 既述のようにTPPは、例外品目なき関税ゼロの貿易協定だ。ここで、日本経済に激震が走るのは、いうまでもなく、まず農業である。コメをはじめ、小麦、豚肉、牛肉、かんきつ類、乳製品、加工食品の関税なしの農産品が大量に日本に押し寄せる。津波は、自然現象だが、TPPによる農産品の来襲は、まさに人為的現象である。しかも、警戒すべきは、農産品に課してある非関税障壁である。米国は常日頃日本の衛生植物検疫措置や技術的貿易障壁を問題視してきた。たとえば、狂牛病にかかわる牛肉の輸入制限措置、冷凍フライドポテトに大腸菌が存在することで輸入を止めさせること、食品添加物の規制、ポスト・ハーベスト防かび剤の使用を理由に輸入を阻止すること、農薬の最大残留基準値が低すぎること、さくらんぼの食物検疫が厳しすぎること、遺伝子組み換え食品の義務的表示、などなど、食品の安全性を考慮し、輸入を制限しているものを非関税障壁としているから、TPP参加によって、日本の食の安全性が脅かされる危険性がでてくることだろう。 さらに、ここで注意しなければならないのが、TPPによる大量の農産品の輸入を自らの儲けにつなげようとする財界の農業支配の経済戦略だ。それは、11月9日の閣議決定には、次のように述べられている。「高いレベルの経済連携の推進と我が国の食料自給率の向上や国内農業・農村の振興とを両立させ、持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じるため、内閣総理大臣を議長とし、国家戦略担当大臣及び農林水産大臣を副議長とする「農業構造改革推進本部(仮称)」を設置し、平成23年6月をめどに基本方針を決定する」。この推進本部は、「食と農林漁業の再生実現会議」となり、6月をめどに基本方針を決定し、10月をめどに行動計画を策定するというのだ。 ここで考えられている構造改革は、財界の農業進出ということだ。一般企業に農地を取得できるように農地法を改正すること、あるいは企業が農業生産法人の経営権を握れるように出資比率を緩める法改正がなされる可能性がある。というのは、菅首相の農業対策とは、農業経営の大規模化・集約化を通じての競争力の強化だからだ。そのためには、何でもやるといっているところをみると、農林水産省では、慎重論があるようだが、これらが実行される可能性、無きにしもあらずということになる。 そうなると、生産性の高い農業地域での農業の集約化は、確かに進むだろう。新潟あたりでは、集約化によるコメの輸出も今まで以上に進むことだろう。しかし、それは、一部の優良地での話に過ぎないのであって、わが国の多くの農地は中山間の劣等地が多くを占める。TPPで安い農産物が大量に入ってくれば、経営の立ち行かなくなった農家は、離農せざるをえない。日本の農地は確実に減少していくだろう。しかし、財界にとってはそんなことはお構いなしだ。大手商社が農産品の国際ルートを押さえ、日本へ大量の農産品を輸入して儲け、また、コメをはじめ多くの農産品を海外へ輸出するだろう。日本の食料自給率が確実に減少する中で、農産品の輸出と輸入が大手商社の手によって増大していくことだろう。 食料がとりあえず何不自由なく確保できていれば、食料自給率が下がろうが上がろうが、多くの人は何の問題もないと思い込み平穏な日常生活を営むだろう。「TPPに参加して、農産品が安く手に入り、結構ではないか。あの時、TPPに反対した人たちの心配は、杞憂にすぎなかったのだ」としてしばらく時が流れるかもしれない。そのとき、これがきわめて危険な綱渡りをしているのだということに人は気づかない。津波でやられた原子力発電所が、炉心を冷却できず、炉心溶解による放射能漏れを引き起こす、原発推進派はこんな都合の悪いことは起こらないとし、これらを無視して事を進めてきた。原子力発電の危険性に警鐘を鳴らした人たちの声は無視されて、東京電力、米ゼネラル・エレクトリック、東芝、日立ら企業が、原発を積極的に進めてきた結果がこの有様だ。経済産業省は、放射能問題などどこ吹く風、次のように言っている。「原子力は供給安定性と経済性に優れた準国産エネルギーであり二酸化炭素を排出しない低炭素電源である」と。しかもついでにいっておけば、あの菅内閣が閣議決定した『新成長戦略』の「アジア展開における国家戦略プロジェクト」の「パッケージ型インフラ海外展開」では、こうした原子力発電を含むインフラの輸出が「悲願の日の丸原発輸出」として推進され、東芝、三菱重工、日立などの重電機メーカーと電力会社との協力体制によって企てられている。ベトナム、トルコ、マレーシアなどがすでに日本からの原発輸入を決定するか検討を進めているというのだ。しかし、原発輸出は、最悪の公害輸出になるということが今回の事態で明らかになった。 さて、日本の食料問題に話を戻そう。今後、明らかに気候変動、地球温暖化から、食料危機が発生することが予測されている。世界各地で異常気象、旱魃や洪水あるいは熱波によって農産物に大きな被害が続出、世界の農業輸出大国も輸出自主規制に踏み込まざるを得ないという事態は、大地震から大津波が引き起こされ原発事故につながる確率より決して低いものではない。だから、各国は、食料自給率を高めるべく様々な取り組みをしているのだ。食料危機が来たときに慌ててもそのときはもう遅い。大地震、大津波も国民生活を大変な苦境に陥れる。今後予想される食料危機はまさに全世界的問題であり、その被害は計り知れないものなのだ。TPPに参加し、その食料危機に日本が襲われたとき、食料自給率が13%になってしまっていたら、これは考えるだけでも恐ろしいことではないか。 3 TPP参加と公的医療制度の崩壊 さらにTPPは、日本に食料危機を引き起こす可能性をもたらすだけではない。われわれの医療分野に深刻な影響をおよぼす危険性があるのだ。なぜなら、常日頃米国は、日本の医療サービスへの市場原理の導入を主張してきたからだ。たとえば「制限的な規制が医療サービス市場への外国からのアクセスを制限している。米国政府は、引き続き日本に対してこのセクターを外国サービス提供者に開放し、商業企業体がフルサービスの利益追求型の病院(日本の経済特区を通じて)を提供できる機会を認めるよう求める」(『2010年外国貿易障壁報告書』より)。 TPPに日本が参加すれば、医療は紛れもなくサービス分野の貿易だから、自由貿易を主張する米国の要求を退けることはできない。混合診療の全面解禁から、自由診療の領域が広がり、公的健康保険に基づく日本の国民皆保険制度が崩壊するだろう。医療法人への株式会社の導入、薬価も自由市場に任せよということになるから、事実上、製薬資本の思いのままに価格設定がなされるシステムの導入が図られるだろう。今でも高い国民健康保険料を支払えず、また診療の自己負担が重いので、適切な診療を受けることのできない人が多いのに、TPPに参加すれば、こうした傾向に拍車がかかることは間違いない。 しかも、こうした米国からの公的医療制度への攻撃に対して、日本の政府は、あの『新成長戦略』において、それに呼応するかのような対応を行なっている。それが、「ライフ・イノベーションにおける国家戦略プロジェクト」において企てられた計画であり、医療分野の市場化である。とりわけ、そのなかでも国際医療交流と銘打たれた戦略は要注意だ。昨年11月9日に閣議決定された「包括的経済連携に関する基本方針」では、看護師・介護福祉士等の海外からの人の移動に関する課題をあげ、『新成長戦略』に掲げる「雇用・人材戦略」の推進を基本にするとしている。外国人看護師・介護福祉士などの受け入れは、当然医師、医療関係職種の国際移動へと進むだろう。クロスライセンスなどといって、医療関係者が国境を超えて活躍するのは一見すると結構のように見える。しかし、医師たちは、当然待遇のいいところへ集中するだろうから、その偏在が起こるし、条件の悪い過疎地の医療は崩壊の危機に遭遇するだろう。 そんなときに、国際医療交流などと称して、海外の富裕層の患者の受け入れを計画するライフ・イノベーションとは一体何なのか。日本の高度医療および健診に対するアジアトップの水準の評価・地位の獲得を目標においているのだが、そんなことを競い合っていれば、保険診療の日本人などは後回しで、儲かる自由診療が優先されることになることは火を見るよりも明らかだ。日本人患者の診療もきちんと行うことが出来ないのに、日本の高度の医療技術で外国人患者を受け入れて何がライフ・イノベーション戦略なのかといいたい。医療の市場化、つまり儲かる医療をめざす、ライフ・イノベーションは、日本の国民皆保険制度を根本から崩壊させる危険性をはらんでいる。それが、米国の医療資本などと結託して日本の財界が考えている医療の構造改革なのである。 4 TPP参加と郵政民営化の完成 さて、日本のTPP参加は、金融・保険の分野にも大きな影響を与えずにはおかないだろう。とりわけ、この分野で米国が最も関心を示しているのは、いうまでもない、日本郵政の民営化である。民主党・国民新党連立政権によって、2009年12月4日に成立した「郵政株売却凍結法」は、現在、郵政関連企業の株式処分を凍結している。それゆえ米国はこの件に関しては何も言う立場にはないとしているが、日本の郵政企業の行く末には並々ならぬ関心を示している。「郵便の金融部門と子会社にかんする改正がなされれば、日本の金融市場における競争に深刻な影響がでかねないので、米国政府としては、日本政府の郵政改革の取り組みをひきつづき注視するとともに、日本政府に対し、日本の銀行、保険、宅配の各業界市場において、日本郵政の各社と民間企業の間の対等な競争条件を達成するため必要なあらゆる措置を確保するよう求めていく」(『2010年外国貿易障壁報告書』より)としているのだ。 日本がTPPに参加すれば、郵政民営化に対して米国が「何も言う立場にはない」などとは決して言ってこないだろう。当然のごとく郵政民営化を要求し、そればかりではなく、郵政民営化委員会に米国民間企業の代表を任命せよといってくるに違いない。 ところで、その郵政の民営化だが、2005年郵政民営化法によって始まったものだ。現在、日本郵政株式会社を持株会社として、郵便局株式会社、郵便事業株式会社、郵便貯金銀行、郵便保険会社の4社体制となっている。郵便局株式会社は、郵便窓口業務を営むことを目的とする会社、郵便事業株式会社は、郵便の業務および印紙の売りさばきの業務を営むことを目的とする株式会社である。郵便貯金銀行は、「株式会社ゆうちょ銀行」となり、日本郵政公社から郵便貯金をはじめ為替貯金業務を継承した。総資産約226兆円、三菱UFJフィナンシャル・グループを抜き、世界最大の銀行である。郵便保険会社は、生命保険業を営む目的で設立された。「株式会社かんぽ生命保険」に改組改称され、日本郵政公社から生命保険事業を継承したのだ。 郵政民営化の基本は、業務ごとに分割民営化を行なうことである。最終的な、郵政民営化は、2017年10月と定められ、それまでに、「株式会社ゆうちょ銀行」また、「株式会社かんぽ生命保険」は、そのすべての株式を処分して完全民営化が行なわれることになる。それが、2005年10月に成立した郵政民営化法案の中身だった。しかし、既述のようにその株式処分は、現在、2009年12月4日成立した「郵政株売却凍結法」によって止められている。 TPPに日本が参加すれば、この凍結は解除されるだろう。なぜなら、金融・保険は、サービス貿易の重要な分野であり、米国がこの凍結をいつまでも認めるはずはないからだ。かつて、クリントン政権期の1995年『米国政府による日本政府に対する年次改革要望書』において米国は、次のように日本政府に要望した。「郵政省のような政府機関が直接民間保険会社と競争する保険業務に携わることを禁止せよ」。こんな、米国政府の主張は、「わが国の保険業務のやり方に口を出す余計なお節介だ」と郵政民営化反対で自民党を飛び出た国民新党党首亀井静香氏が頑張ったところで、TPPに参加すれば、それは許されない。 まとめにかえて ところで、私たちは、この郵政民営化がただ単に米国からの要求によってのみ展開されるのではないことを理解しないといけない。なぜなら、日本の民間金融機関がただ黙って、世界最大規模の銀行株・保険会社株の放出に何ら手立てを採らないとは考えにくいからなのだ。それを狙って様々な仕掛けを考えてくることだろう。まさに、米日金融機関の「ゆうちょ銀行」株、「かんぽ生命保険」株をめぐっての争奪戦が繰り広げられるに違いない。もちろん、この取引を通じて多額のキャピタル・ゲインを獲得したい金融投機筋は、株式市場の活性化が日本経済にぜひとも必要だなどと言って、さまざまな自由化政策を政府に求めてくるだろう。第2のホリエモン、第2の村上ファンドが跳梁する日もそう遠くはないかもしれない。 こうしてみてくると、TPPへの日本の参加は、菅首相が言うような「第3の開国」とか「平成の開国」などではなく、日米財界によって仕組まれた「第3の構造改革」であることがわかる。つまり、第1弾橋本改革、第2弾小泉構造改革において、日米財界がやりのこした分野の構造改革であり、農業、医療、郵政民営化という分野の市場原理主義的改革が狙われているということがいえるだろう。TPP参加によって、電力政策の二の舞を踏んではならない。 (はぎわら しんじろう・横浜国立大学教授)
労働総研2010年度第4回常任理事会は、全労連会館で、2011年3月26日(土)11時から13時まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。 1.報告事項 大須眞治事務局長より地域政策プロジェクトについて、顧問・研究員との意見交換会について報告された。 藤田宏事務局次長より、大企業問題研究会について、労働総研ブックレットについて報告された。また、「東日本大震災救援カンパの呼びかけ」をホームページ、労働総研クォータリー・労働総研ニュースに掲載することが報告された。 中澤秀一常任理事より、若者の仕事とくらし研究会について報告された。 その他、事務局より、前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告された。 報告事項は、それぞれ報告どおり承認された。 2.協議事項
Dear Norio Okada Gabriel Barton (訳) (訳・岡田則男・理事・国際労働研究部会) |