2010年度、関西圏産業労働研究部会は、計6回研究会を行い、11本の報告について検討をおこなった。
(1)今年度の研究会で取り組んだこと
関西圏産業労働研究部会では、(1)現代資本主義を批判し、今後の経済社会の在り方を展望するための既存の研究成果の検討、(2)若手研究者の養成を目的とした大学院生への報告機会の提供という二つの課題を念頭に研究会をおこなってきた。今年度開催できた研究会は以下のとおりである。
(1)2010年5月29日 a.「アスモ社における外国人従業員の入植過程および労働過程」 b.「宮本太郎『生活保障』を読む」。(2)7月10日 a.「新自由主義とはなにか―D.ハーヴェイの検討」 b.「関西私立O大学における派遣労働者直接雇用化とO大学労働組合の対応」。(3)9月25日 a.「電器産業工場組合の臨時工 X社K工場とX社T工場の事例」 b.「静岡西部地域の自動車部品メーカー・アスモ社における日系人労働者」。(4)11月20日 a.「ジャック・アタリ『金融危機後の世界』を読む」 b.「大阪における若者の貧困問題」。(5)2011年1月22日 a.「書評:橘木俊詔・浦川邦夫『日本の貧困研究』」 b.「書評:三好正巳編『増補版 現代日本の労働政策』」。(6)4月23日 a.「2011年春闘をどうみるか」。
(2)年度期間中に明らかになった論点
毎回の研究会では多様な側面にわたって議論が行われたが、まず(1)a,(2)b,(3)ab,(4)b,(6)aの報告からは現代資本主義のもとでの非正規雇用の現状と増加の背景がそれぞれの事例にしたがって明らかになった。
また(5)abについては、現代資本主義のもとで増大する非正規雇用を捉える方法について議論がなされた。
さらに残りの(1)b,(2)a,(4)a,の検討をつうじては、労働者階級内部における中間的な階層―これはケインズ主義的現代資本主義のもとである程度の状態改善を実現した階層―の崩壊=条件悪化が生じているということ、にもかかわらずこれらの階層が政治的には無党派浮遊層の中心となっており、みずからの条件悪化をもたらす政策を受容していることなどが明らかになった。また、このような現状を前提に、日本およびヨーロッパ各国について、どのような政策提案が検討されているのかについても明らかとなった。
(3)これから解明すべき論点
これから解明すべき論点としては、まず労働者階級の貧困化をその内部構成別に明らかにすることが必要である。このためにはこの研究会で取り組んできた非正規雇用増大の現状と背景などについてさらに深めるとともに、これまで比較的安定的であるとされた正規雇用の貧困化について新たに検討していくことが必要であると思われる。
さらによりましな経済社会を検討するうえで、海外、特にヨーロッパの資本主義の到達点、労働制度や社会保障制度の現状を批判的に検討していくことが必要である。
次年度についても、以上のような問題意識を念頭に研究会を進めたいと思う。
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