鳩山内閣が成立した。選挙の結果、民主党が大勝し、マニフェストに沿って政治を変えたいと張り切っている。しかし、鳩山政権にはいろんな弱点も問題点もある。簡単に報告し、われわれの課題を考えてみたい。
I・「2009年8月総選挙」の意味
1:有権者は「とにかく変えたかった」
今回の総選挙の特徴は、最初からの選挙予測が当たったことだ。これまで選挙では、「優勢」とか「厳しい」とか言う予測で、結果が動くことが多かったが、今回は最初から「民主優勢」がぶれなかった。これは、格差、教育、医療、労働など国民生活のあらゆる部分で問題が続出し、取り繕うことができないさまざまな矛盾が明らかになってきていたからだ。
どうしようもない「閉塞感」が社会に漂い、青年が希望を失った。深い苦しみの中からの犯罪も起き、自殺者は11年続いて年間3万人を超えた。いわば、社会が崩壊していた。その中で「何とかしたい」と投票意欲が高まった。
今回、「期日前投票」は、1398万4968人に達し、全有権者の13.4%に達したことも、選挙への参加意識を示している。
2:同床異夢の投票行動
この社会的矛盾や問題点は、小泉政権以来、ますます露骨になった「新自由主義」がもたらしたものだったが、民主党を大勝させた有権者のすべてが、新自由主義に反対する立場で政策転換を求めていたわけではない。
投票した人たちは「自民党政治には無理が出てきた。とにかく変えたい」ということでは一致していたかもしれないが、民主党はもともと「政権交代可能な保守政権」としてスタートしており、その支持者のかなりの部分は、新自由主義への決別ではなく、新自由主義路線を継続し、進めていく、という立場だったと思う。
その意味で、有権者も民主党の中の人たちも「同床異夢」で、船を漕いでいる。
3:主導権は民主党
今回の選挙は、「マニフェスト選挙」といわれ、「マニフェスト」が注目された。その意味では「政策が語られていた」といえるが、ではそれがどの程度深められ、論じられたか、というと、そうなってはいなかった。このことが、民主党の勝利の性格をはっきりしないものにしている。
つまり、前回2005年の総選挙は、「郵政民営化、是か、非か」というシングル・イッシューで闘われたが、今回は前回の「郵政改革支持」のような「熱狂的ムードの醸成」はなかったものの、「とにかく政権交代」という反自民の「総花的嫌気ムードの醸成」があったのではないか。
本来なら、与党の主張をめぐって議論されるはずの政策論争も、今回、議論の対象になったのは、民主党のマニフェストで、自民党は完全に主導権をとられていた。
また、自民党は民主党に対する「ネガティブ・キャンペーン」に終始し、政策ビラでは、「民主党=日教組に日本は任せられない」とか、「知ってドッキリ民主党・民主党には秘密の計画がある!」「知ってビックリ民主党・労働組合が日本を侵略する日」など、およそ品性を疑う言葉が並んでいた。これは全く「逆効果」で、自民党の「自滅」を示していた。
このほか、今回の選挙戦の特徴としては、(1)選挙戦へのネットの利用と巨大広告(2)小選挙区比例代表並立制の問題点がますます明らかになった(3)幸福実現党という新しい宗教政党の出現―などがある。これらの問題については、それぞれ今後に大きな課題を残している。
II・民主党の勝利と鳩山新政権
1:「チェンジ」と連立政権
このように民主党は、党自身が思っていた以上の勝利をし、候補者が足りなかったり、新人教育が大変だったりした。民主党自身、そういう情勢を認識していたからこそ、事前に「絶対多数をとっても連立政権にする」とし、選挙協力し、社民、国民両党を閣内に抱え込んだ。
社民党は、閣内に入って闘うか、それとも閣外協力か、という選択について、党内で議論した。社民党の場合、村山政権の経験があった。当時社会党は、政権に入るにあたり、それまでの自らの路線を捨て「自衛隊容認」を決めた。本来、連立政権では、連立の綱領と政党の綱領は違っていて当たり前で、当時も社会党が路線を変える必要はなかったが、こうした路線転換で、社会党は壊滅してしまった。
社民党は今回、そうした経験を踏まえ、政権の中できちんとした主張を守りながら、政権をどう動かしていくか、という課題を抱えている。
結果として、今回は3党合意が成立し、福島代表が閣僚になるという選択をし、辻元清美氏まで国交省の副大臣に起用された。彼女のような人物を閣内に閉じこめてしまうのが、果たして得策だったのか。バタバタと決めてしまい、後には戻せなかった。同様のことは、今後、政策でもあり得ることで大きな課題だ。
ご存じのように、民主党はマニフェストで、「議員定数削減」を言っている。民主党や支持者の中には、社民、国民の両党とも抱き込んで、あわよくば共産党を含め消滅させ民主・自民の保守二大政党に、という方向もあるのだから、国会に民意を反映させることを考えれば、重要な問題だと思う。
2:重要な大衆運動
この点、「建設的野党」というスローガンを掲げた共産党がどう動くかは注目されるところだが、大事なことは、さまざまな政策について、これまでと同じように、あるいはこれまで以上に、積極的に運動を広げ、政府に実現を迫っていくことだと思う。
共産党にしても、せっかく部分的ではあるが一致する政策をもつ政権ができたわけだから、もちろん間違った政策を支持するわけにはいかないが、基本的に約束通りの政策を鳩山内閣に実行させることが大切だ。それができるかどうか、は大衆運動にかかっている。
III・鳩山新政権のスタートと課題
スタートした鳩山政権は、既に述べた通り、(1)新自由主義的構造改革路線とどう闘い、どう変えていくのか(2)対米従属関係外交からどう脱却し、新しいアジア外交をどう進めていくのか―という2つの課題を抱えている。
1:組閣と記者会見
鳩山内閣の成立にあたって、政治記事は盛んに、鳩山と小沢の「二重権力論」を書きたて、いかに不協和音が多いかを際立たせ、事実上、足を引っ張る報道が目立っている。また、いろいろな政策に、「これについては問題がある。出来っこない」と書く傾向も強い。メディアが古い体質を持っているためだ。
しかしそれにもかかわらず、閣僚たちが就任記者会見などで、それぞれ自分の言葉で話し、まじめさを示している。これは共感を得ているのではないか。
閣僚の初会見では、これまであった各省からのご進講やメモはなく、代わりに官邸の側で用意した指示文書があったようだ。明らかになっている「鳩山内閣の基本方針」と「官と民の在り方」はそれで、こうしたやり方自身が、内閣の姿勢を示した。事務次官の記者会見問題は、この「『政』と『官』」の文書がもとでの混乱だったが、「チェンジ」を印象づけている。
2:「友愛」とはなにか
鳩山首相は祖父譲りだという「友愛の政治」を掲げてスタートした。「友愛の政治」とは何か明らかではないが、鳩山首相は、就任前、松下幸之助氏が設立したPHP研究所の雑誌「VOICE」の9月号に「私の政治哲学」という論文を寄稿し、その一部がニューヨークタイムズに掲載され、問題になった。この雑誌は同じ号で「アジア10大危機!『60年の平和』が壊れる日」という特集をして、「核武装なくして日本は滅ぶ」などという論文を載せている右派の雑誌だが、そこに論文を載せたわけだ。
その一部分だけが翻訳されて伝わったので、米国では「過激な社会主義者なのか」と受け取られたという話もあった。論文には確かに、「アメリカ的な自由主義的経済がセーフティネットを壊していった」とか、「日本の伝統的な公共的領域が衰弱し、人々からお互いの絆が失われ、公共心も薄弱となった」などと書いているが、ごく当たり前の事実で、彼は社会主義者では全くない。
そこで言っているのも「友愛」だったが、この言葉は、板垣英憲氏がネットで紹介しているところによると、この「友愛」「fraterniteフラタルニテ」という言葉は、もともとは、フリーメイソンの言葉だそうで、鳩山氏は「世界共和国の建設」を目標とするフリーメイソンの言葉を使うことによって、国際的な支持と共感を得たのだ、と指摘されている。
この「友愛」というものの考え方が、どこまで今までの弱肉強食の新自由主義的な世界の流れを克服し、改善するのか。そして米国追随ではなく、世界から戦争をなくす路線に立ち返っていける、見ていかなければならない。
つまり、繰り返すが、この内閣は「弱肉強食・競争主義・市場主義」の「新自由主義」に反対する国民の声と、二大政党による政権交代を実現して、自由主義と自らの階級の延命を図っていこうとする勢力の「同床異夢」、または「呉越同舟」の政権だから、焦点は、「新自由主義との決別」と「対米従属からの脱却」がどこまでできるか、にある。
3:新自由主義・構造改革路線への対決
そこでこの2つの問題のうち、まず新自由主義・構造改革についてみてみよう。
「文藝春秋」10月号の「鳩山政権」の特集で、元大蔵省の榊原英資早大教授が「成長戦略などなくてもよい」と書いている。つまり、日本は「とにかく海外に進出しなければ日本経済がダメになる」という神話を信じてやってきたが、「そんな必要はない」と、榊原氏が語る時代にいま入っていることを認識することが必要だ。
昨年のリーマンショック以後、資本主義の行き着いた先としての新自由主義の誤りがますます明らかになった。新自由主義の「終焉」とも「黄昏」ともいわれたが、この資本主義自体が危なくなっている時代に、新自由主義を超えた、どういう具体的な経済政策を組んで実現していけるか。それは、日本だけでなく、世界全体が抱える本質的で歴史的な課題だ。われわれはそこで、本当に労働者のための政策を提起していかなければならない。
具体的に何から手を付けるべきか。私はやはり、「格差」の問題が第一ではないかと思う。
この格差ができてきた要因の一つとしてあげたいのは、まず税制。80年代以降、日本の税制は、所得税の累進が緩和され、どんどん平準化に向かい、高額所得者の減税は進んだが、課税最低限は引き上げられなかった。
また、国際競争力の強化を理由に、法人税は引き下げられ、大企業は内部留保をため込む一方、銀行の貸し渋り、貸しはがしもあって、中小企業の経営は苦しくなった。
そして、言うまでもなく労働問題がある。派遣法の問題はとにかく4党合意した改正案があるので、これをベースに取りかからなければならないが、基本的には、日経連の「新時代の日本型経営」の思想をどう変えさせていくかの問題が横たわっている。ワーキングプアや若者の生活と労働の問題を含め、幅広い運動を進めていかなければならない。長い間、言われながら進まなかった全国一律最低賃金制の問題などに取り組むチャンスではないだろうか。
4:社会保障再建の課題
そしてここで取り組まれなければならないのは、新自由主義路線の中で崩され続けてきた社会保障の再建だ。医療、介護、障害者、生活保護などいろいろある。「年金」で名をあげた長妻昭氏が厚生労働相になったが、私は老後保障と年金の問題は、結局、生活保護問題や障害者問題などを含め、「ベーシックインカム」について、本格的に議論に取り組まなくてはいけないのではないか、と思っている。
憲法25条は、国民に「最低限度」ではあるが、「健康で文化的な生活」を保障している。お金持ちであろうと、貧乏人であろうと、健常者であろうと障害者であろうと、心静かに寿命を全うし、生活できなければならない。これが「友愛の政治」かどうか分からないが、そのことこそ政治の原点であるはずだ。
社会保障財源が議論され、社会保障の充実のためには、消費税の増税が避けられないような議論がされ、メディアがそれに乗っているが、これはインチキで、消費税は税制を考えるときの1つの選択肢に過ぎない。ここを考えたとき、「税金の使い道」の問題が出てくるわけで、不要不急のダムや道路や、無駄なハコもの建設をやめること、併せてマスコミは見事に言わないが、防衛費の削減がまず行われなければならない。
子どもと教育の問題もある。就学援助を受けなければならない子供が増え、給食費を払えない親が増え、高校を中退する子どもも多い。こうした中で、一律の子ども手当が適当かどうか分からないが、子どもと教育にカネを使わなければならないこともはっきりしている。
日本の公的な教育支出はOECD各国ではGDP比3.3%で、28カ国中下から2番目、27位だった、という。各国平均は4.9%で、日本の公的支出は、アイスランド、デンマークなどの半分以下、といった状況は早急に改善しなければならない。こうしたことが、「格差」を一層社会問題化し、自殺者や、青少年犯罪の増加につながり、社会を壊してしまっている。何とかしていかなければならない。
5:対米従属外交からの脱却
鳩山内閣が抱えるもう一つの重要な問題は外交、特に対米従属外交からいかにして脱却するかだ。鳩山首相は、「対米従属一辺倒ではなくアジアも重視する外交」を主張している。
早速、国連総会に出席し、これを機会に、安保理軍縮首脳会合、気候温暖化問題の会合安保理軍縮首脳会合、ピッツバーグで行われた「G20」の首脳会議などに出席して発言した。
いままでは、日本の首相が出席しても、ありきたりの意見の表明であまり注目されなかったが、首相が、自分自身の言葉できちんと主張をしたことが好感を持たれた。
また、これを機会に中国の胡錦濤主席、米国のオバマ大統領、ロシアのメドジェーエフ大統領、韓国の李明博大統領と会談した。祖父・一郎首相の思い入れもあるのか、ロシアとの間では、「われわれの世代で懸案を解決しよう」と話し合いの道筋を付けた。
6:基地問題から米国へ提言を
対米関係では、インド洋の給油については、やめることで米国も了解している状況だが、基地再編を含め、どういう形で、軍事的な対米従属を改めていくか。難しい問題だ。
そして実は、これは決して軍事面だけのことではなく、既に日本でも一部には軍産複合体が生まれている中で、軍事産業育成路線とどう決別するか、こうした産業の体質をどう改めていくかの問題でもある。さらにこれは、基地経済に支配されている沖縄とか、横須賀、佐世保などで、地域経済をいかにして「基地をなくした経済」に変えていくか、という問題でもある。
時間がかかるが、やはり「基地があることで潤う」という状況を変えるため、これに代替するようなことをきちんと作っていかなくては、やりたいことも出来なくなることを押さえておきたいと思う。
日本総研の寺島実郎氏が、先ほどの榊原氏の論文と同じ「文藝春秋」の10月号で、沖縄や朝鮮半島に兵力を展開している米軍の「前方展開兵力」の必要性について、改めて問い直し、米国には「緊急派遣軍」の維持を求めることを代替に、軍事基地をハワイ、グアムの線まで引き上げるように提案したらどうか、と書いている。
米軍基地は、日本国内どこに持っていっても困るのだから、日本からは帰ってもらう。そういう姿勢をはっきり打ち出し、時間をかけて米国を説得することが求められていると思う。
さらに、新政権は「不用不急の無駄を省く」と言っているのだから、すぐやれることとして防衛費の削減に取り組むべきだと思う。
防衛費は大抵が後年度負担で決められ、身動きできなかったりしてきた。しかし、これを改めていくことが必要だ。
例えば、来年度予算の概算要求で防衛省は、P3C対潜哨戒機とか新型戦車とか、ヘリ空母とか、具体的に装備の増強のための要求を出しているが、このうち1つでも止めることができないか。自衛隊が憲法違反かどうか、といった問題は論じなくても、いま世界有数の実力部隊になってしまった自衛隊を縮小していくことは、軍縮の時代に重要なテーマだ。
最新鋭戦闘機の話が出ているが、地雷も、クラスター爆弾も、「専守防衛」の日本はいらないはずだ。いまは論争を避けたいが故に防衛費が「聖域」になっている。しかし、もっと現実的に、自衛隊に何が必要か、原点に帰って論議しなければならない。
7:構造改革要求と北朝鮮
「対米従属」に関してもう一つ言いたいのは、経済を中心に日本のあらゆる分野について、米国は毎年日本に、「構造改革要望書」を出してきて、これが日本の政策に直接的に関係してきている、という事実だ。これが「日本全体のアメリカ化」を招き、混乱を引き起こしている。
建築検査の規制緩和から、郵政民営化、商法改正まで、ありとあらゆる自由化要求が出て、着実に実行されている。在日米大使館のホームページに載っているので、注目してほしい。郵政民営化も、商法改正もあったが、いまは医療の要求が出てきている。要望されるのはいいとして日本の主体的な判断が求められている。
北朝鮮問題にもひとこと言及したい。自公政権は、「北朝鮮の脅威」を言い立て、そのことで世論を引っ張ってきた。しかし、北朝鮮が日本を攻める必然性は全くないばかりか、危険なのは、北朝鮮の核を口実にした米国の攻撃や、偶発的な戦争だ。「拉致問題」が言われるが、これが「圧力」だけで解決しないことは明らかで、急がなければならないのは、国交の回復と時間がかかるだろうが、自由な往来だ。
6カ国協議は北朝鮮の核問題のために始まったが、出口、つまり到達点は、北東アジア、すなわち朝鮮半島と日本列島、あるいは樺太・沿海州や台湾まで含めた「北東アジアの非核化」でなければならない。
この問題について言えば、日本が非核3原則を確認し、核の傘の思想を脱却し、北朝鮮や韓国を誘って、「東アジア非核地帯」のための主導権を取るくらいの方向性を出していかなければならない。それこそ、「核廃絶」を語り「アジア重視」を打ち出した鳩山内閣への期待なのだ、ということも、この際言っておきたい。
8:大国主義の否定、タカ派との闘い
こうした問題を考えてくると、結局、いまわれわれが抱えているのは、日本の将来をどう描くか、ということであり、実は明治以来、日本が考え、そこから抜けきれない「大国主義」から脱却して、本当に身の丈にあった日本の姿を考えるかどうか、ということだと思う。
そして、そうした「大国主義者」、つまり「タカ派」の勢力をどううまく押さえ、あるいは説得して、本当にアジアの中で共生する日本を創っていくか、だと思う。
「タカ派・大国主義」の勢力は、民主党の党内にも、党外にもいるし、日本国民の多くはそれを意識しないまま引きずっている。従って、こうしたものの考え方をどう変えていくかが重要になってくる。
このことは、「歴史問題の克服」にもつながるし、憲法改正問題にもつながっている。
近代史の問題について言えば、かつて靖国参拝をした中曽根首相が、中国の要求でやめることにした際、中国の胡耀邦主席に出した書簡とか、慰安婦問題での河野洋平官房長官談話、戦後50年の村山富市総理大臣談話など、日本政府は形の上では、戦争責任を認め、その反省の上に立った政治が行われているはずだ。
しかし、少なくともその後の橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生と続いた自公政権では、繰り返し繰り返し、かつての戦争の「正当性」が主張され、その中での日本軍の行動について事実を糊塗する言動が、蘇ってきている。
慰安婦問題を取り上げた国際女性法廷についてのNHKに対する干渉の問題、教科書問題や大江健三郎さんの「沖縄ノート」に関連した沖縄の「集団自決」、──沖縄では0歳とか1歳とかの子どもも死んでいるので「自決」ではない「強制死」だと言っているが──、あるいは核武装論議、敵基地攻撃論、集団的自衛権の解釈変更問題など、すべてかつての夢を追う大国主義の産物だ。
このことは、かつて、戦争の惨禍を繰り返さないことを誓って、日本国憲法を決めた、戦後日本国民全体の思想が、次第に歪められているということであり、今後も続きかねないと思う。
鳩山政権の誕生と、そこに求められている「チェンジ」は、その意味で、国民全体の意識に強い反省を迫る提起だと受け止めなければならない。こうした大国意識と闘ってきたのはいうまでもなく、広範な民主勢力だし、共産党や社民党であり、民主党の良心的部分だった。官僚やメディアも古い体質を持っている。これを確認して、闘っていかなければならない。
鳩山首相は2005年に「新憲法試案―尊厳ある日本を創る」という本をPHP研究所から出し、新憲法制定議員同盟の顧問になっている。私は、少なくとも総理、閣僚の間は改憲団体から抜けるよう要求すべきだと思う。こうしたことから、はっきりさせていくことが必要ではないだろうか。
IV・われわれは何をするべきなのか
1:「チェンジ」の意味の再確認
こう考えてくると、やはりわれわれ自身、つまり運動の側が、いまの日本社会での「チェンジ」=変革の意味を確認して広めていくこと、本当の意味で国民が主人公になった政治を要求し、動かしていく積極性を培い、実行していくことがどうしても必要だ、ということに帰結すると思う。
私たちは、とにかく不十分であるし、問題は多いのだけれど、今回の選挙で、国民の投票行動で、とにかく新しい政権をつくることができた。だから、私たちはこの政権が国民の要求にもとづき、どれだけ日本社会や世界を変えていくことができるか、そこにどれだけ近づけるかという風に見るべきだろう。
もしかして、この選挙と新政権の誕生によって、国民の多くが政治を変えられる、ということに自信を持ち始めたのだとすれば、これは大変大きなことだと思う。今回、事前投票が非常に増えたということをさきほど指摘したが、これは、国民の意識がそれだけ呼び覚まされていることを示している。
2:本当の「政治参加」とは何か
国民が国の主人公として政治に参加するという動きは、既にさまざまな市民運動の中で育てられてきた。市民運動はその中で政治に対して働きかけてきた。しかし一方で、政治権力の側からは、「民衆からの声をくみ上げる」と称して、実は、ニセの国民参加や住民参加をつくり出す仕組みも育ててきた。
各省庁の「審議会」や「懇談会」がそれだし、最近では「パブリックコメント」の募集という手段も出てきた。自治体では地域に分けて「街づくり懇談会」をつくったりして住民を懐柔するような形のものもある。
「国民すべてが裁判に参加すべきだ」といって、それを「義務」づける「裁判員制度」は、この「参加」の強制であり、まさに「国民動員」といっても良いものだろう。
国民の多くは、そうしたことにまだ気づいていないし、むしろ「政治参加」というきれいな言葉で、足をすくわれかねない危険を持っている。いま私たちの周辺には、運動の中から、いろいろな「政策提言」が出されていて、若い人たちが真剣に取り組んでいたりする。こうした発想はすごく貴重だし、尊重されなければならないが、権力に取り込まれ歪められる場合も少なくない。ただでさえ、さまざまな形で国民ひとり一人管理される監視社会が進んでいる。もしかしたらすごく危ない状況にある、ということも、念頭に置いて、権力を意識することも大切だ。
3:運動の自立・活性化と労働組合
社民党の政権参加について述べたが、こういう中で重要なのは、結局は、自立した運動をつくっていくことではないだろうか。
その意味では、やはりさまざまな条件を持った個人が集まった地域の市民運動とは違って、一定の経済的基盤に立ち、生活に占める部分が大きい、職場に依拠した労働組合の役割は非常に大きいと思う。
現在、地域での市民運動や社会運動が広がり、そうした運動をつなぐ形での「九条の会」も広がっている。この地域や職域の「九条の会」の意味は大変大きいと思う。しかし、やはり社会運動の中心には、経済基盤と生活の同質性を基盤にした労働組合があって、全体を支えていく必要があるのだろうと思う。
新しい政治情勢の中で、革新的な労働組合がどうあるべきか、ということは大いに論議し、具体的な方向をつくっていかなければならないのではないかと思う。
4:さしあたって、気付くこと
最後に、政治情勢に関連して、いくつかの動きをあげよう。
(1)参院選は始まっている
実はもう参議院選挙対策が動き出している。小沢民主党幹事長は、完全にそういう動きを始めている。参院で単独過半数を取れば、民主党は何の気兼ねもなく、自民・民主の二大政党を前提とした政治を作れる。自民党の中に手を突っ込んで人を取るということもやりかねないし、「大連立」も視野にあるだろいう。
これを考えれば、参院選で「憲法擁護」「反新自由主義」「日米軍事体制との決別」を求める共産、社民の勢力を大きくしていくということが重要である。
(2)「改憲」を封印させよう
それから先ほども述べたように、鳩山首相は改憲論を自分で書いている。鳩山・前原は内容は少し違うだろうが、「改憲」の急先鋒で、彼は「新憲法制定議員同盟」の顧問。私は、少なくとも任期中は、そういう改憲団体の役員くらいは辞めろ、ということはきちんと言うべきだと思う。憲法99条には憲法擁護義務が決められているので、これは「九条の会」でもいいし、護憲組織でもいい、いろいろなところから発言していかなければならない。
もともと自民党は、憲法改正を綱領に掲げていたけれど、小泉政権より前の政権までは首相は「私の政権では憲法改正を政権課題にはしない」といってきた。それでいいわけで、鳩山首相にも当然のことながら、もう一度確認させるのは大切である。
(3)選挙制度の議論を
選挙結果の中で言い損なったが、今回の選挙で明らかになったのは、やはり小選挙区制の矛盾だ。民主党は小選挙区では、得票47%で議席73%の議席を取り、比例代表の方は得票42%で議席48%を取った。一方共産党は、小選挙区では得票4.22%で議席はゼロ。比例代表では7.03%を取ったが、議席は全体の5%しか取れなかった。小選挙区・比例代表並立制の問題は何回か選挙を実施して次第に明らかになってきている。比例代表の「ドント式」にも問題がある。こうしたことを認識して、変えていく議論をしていくことが大事だと思われる。
民主党は、「無駄をなくす」ということを理由に、「あと80減らす」と議席数の削減をマニフェストに書いている。ますます多様化する国民の多彩な意見が国会に素直に反映する状況をつくらないといけないはずだ。民主主義の理念に逆行する定数削減論は絶対はねのけていかなければならない。
(4)「国会に行こう」
民主党や社民党が政権を執ったということは、運動にとっては、自分たちの仲間、代表が政治を動かせるところまで来た、ということ。それならそれで、運動体は積極的に政治に働きかける努力をしていかなければならない。いろいろな団体が「国会に行こう」とか「議員を呼び出そう」とか言い出している。私は、いろんな議員さんに、いろんな仲間との勉強会を月1回くらいのペースで定期的に開き、それぞれの勉強をしていくことが必要ではないか、と提案しているが、運動の側から、それを働きかけていくことが大事だ。共産、社民だけではなく、どんなつながりでもいいから民主党の議員さんに積極的に働きかけていく、こうした努力が求められている。
いままで、自民党は新人議員は政調の各部会に入るようになっていて、そこで開かれる朝飯会などで、官僚を呼んで勉強会をして、そこで勉強してきた。民主党も社民党も、もちろん共産党もそういうことが大切だ。民主党や社・共の議員にはそれぞれの分野を担っている労組や運動体と一緒に、日本の現状と将来を考えていくダイナミックな運動が求められていると思う。
本稿は、10月3日、全労連会館で行われた、労働総研2009年度第1回常任理事会の研究会での報告から抜粋、加筆修正したものです。
9月3日 |
インド労組センター(CITU)の話を聞く会(国際労働研究部会・全労連国際局共催) |
4日 |
労働時間・健康問題研究部会 |
12日 |
「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト |
15日 |
賃金最賃問題検討部会 |
18日 |
中小企業問題研究部会(公開)
女性労働研究部会
|
20日 |
「地域政策検討」プロジェクト |
9月6日 |
自治労連大会へメッセージ・20周年レセプション |
9日 |
全法務大会へメッセージ |
11日 |
いの健センター10周年祝賀会 |
12日 |
第1回企画委員会
国民春闘白書編集委員会
埼労連大会へメッセージ
|
14日 |
全運輸大会へメッセージ |
15日 |
全労連役員との懇談
事務局会議
|
20日 |
東京靴工組合大会へメッセージ |
25日 |
全損保大会へメッセージ・60周年レセプション |
26日 |
福祉保育労大会へメッセージ |
27日 |
東京地評大会へメッセージ |
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