日本の戦後労働組合運動の枠組みが大きく再編されて全労連と連合が1989年に結成されてから四半世紀を経過、今年の11月21日には両組織とも25周年を迎える。
　二つのナショナルセンターが誕生した翌日に「朝日新聞」は、「800万人の新『連合』発足」との大見出しでの報道とあわせて中野隆宣記者（2010年逝去）の署名入りの解説記事を掲載した。その解説で中野記者は「今後、二つのセンターに求められているのは、双方が、労働時間の短縮や格差の縮小、未組織労働者の組織化など山積する課題をめぐり、運動の質的な競合を通じて運動全体を活性化していくことだろう。それが結果として、組織の拡大や労働運動の社会的影響力の強化につながるはずだ。」と指摘した。
　しかし、この四半世紀は「労働ビッグバン」による雇用・賃金破壊、社会保障制度の相次ぐ改悪、税・社会保険料、公共料金の負担増などで労働者と国民の生活悪化が深化し、「貧困と格差」が拡大した25年余であった。労働時間はドイツやフランスに比べ数百時間も長い年間2000時間を超え、企業規模間や男女間、正規・非正規間の賃金格差なども是正・改善されていない。また賃金水準も1997年をピークに低下を続けている。1997年から2012年の間に労働者の賃金は29兆円も切り下げられている。
　また、労働組合の社会的影響力を示すバロメーターでもある労働組合の組織状況をみると89年当時の労働組合員は1200万人、組織率は25.9％であった。それが2013年には雇用労働者が850万人も増えているのに、労働組合員は980万人と220万人も減少、組織率も17.7％に低下している。また、増大する非正規労働者の半数を占めているパート労働者の組織率はわずか6.5％にすぎない。しかも、民間労働者の過半数近くを占め、地場企業に多い「100人未満」企業の労働組合組織率は１％に過ぎない。こうした状況は、労働者や国民に対する労働組合の社会的存在感と社会的影響力を著しく後退させている。

問われる労働組合の存在意義

　重要なことは、この組織率にリンクして労働者・国民の権利に関する知識も低下していることである。NHK放送文化研究所の「現代日本人の意識構造」調査によれば、団結権が「憲法に保障された国民の権利」であることを知っている人は、73年の39％（労働組合の組織率は33.1％）から08年には22％にまで低下し、「労働条件に強い不満がおきた場合」に「労働組合をつくり活動する」と回答した人は73年の35％から18％に低下し、「静観する」が37％から50％に増大している。また、労働総研の若手研究者研究会「大学生の労働組合観調査」（2009年）や連合総研「勤労者短観」（2012.10）などでも、「労働組合は必要」との回答は過半数を超えているのに、「加入の意向」については消極的志向が強いことが示されている。これらの動向は、労働者に対する時々の攻撃への抵抗や個々の労働組合の奮闘にもかかわらず、現在の労働運動全体の到達状況が「二つのナショナルセンターの競合を通じた運動の活性化、労働運動の社会的影響力強化」という中野記者の期待に充分に応えきれていないことを示している。
　こうしたもとで「このままでは労働運動の社会的存在意義はますます希薄化」し、「足元から崩壊しかねない切迫した事態に直面している」と警鐘をならし、労働運動の「改革に向けての視点と方向性」「改革の課題」などを指摘したのが、「連合評価委員会」（座長は日弁連元会長の中坊公平氏＝2013年逝去）が2003年９月に公表した報告書であった。これは連合の要請により連合運動の評価と提言、労働組合の社会的評価などを取りまとめたものであるが、そこでの「労働運動の理念・思想の再構築を」などの指摘は連合のみならずわが国の労働組合運動全体に共通する課題を明らかにしたものともいえる。

安倍政権の暴走と労働組合の役割

　民主党政権に代わって登場した安倍政権は、デフレからの脱却を至上命題に「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざし「聖域なき規制改革を進め、企業活動を妨げる障害を解消する」と労働者・国民の生活改善よりも企業利益拡大を最優先にしている。大企業には「異次元の金融緩和」による円安誘導、財政危機下での公共事業の大判振る舞い、「復興特別法人税の前倒し廃止」や各種減税など歴代政権のなかでも最も露骨に財界・大企業本位の政治をすすめている。その一方で、労働者・国民に対しては労働法制大改悪、消費税引き上げ、社会保障改悪、さまざまな負担増を強制させるものである。
　同時に、安倍内閣は改憲策動を公然と強め、「特定秘密保護法」を成立させ、「武器輸出三原則の緩和」と「愛国心」を盛り込んだ「国家安全保障戦略」の閣議決定、さらには自衛隊の海外活動の拡大、「集団的自衛権行使」の解釈改憲、国民への公約を無視したTPP参加、原発再稼動推進等々を労働者・国民の反対世論を押し切ってすすめている。
　しかし、これらの悪政にはかつてないほど広範な国民諸階層による憲法改悪反対、脱原発、TPP反対などの「一点共同」が全国各地で広がり、労働法制の大改悪にも全労連や全労協、中立労組などによる初めての共同たたかいが実現している。「連合評価委員会」は「不条理に対して闘う姿勢を持ち、行動することが労働組合という組織の使命」と指摘した。その意味では安倍政権の大暴走とともに、労働者を貪欲に搾取し使い捨てぼう大な利益をあげ、内部留保をぼう大に広げている大企業の横暴は「究極の不条理」といえる。これとたたかう国民的共同を全国各地で発展させることは、労働者・労働組合の真価が問われる重要な課題であり、情勢の流れを変えるうえでも不可欠になっている。
　労働総研も結成から25年を迎える2014年、このような情勢をふまえ、全労連をはじめとする日本の労働組合運動の前進と階級的強化のために役立つ調査・研究活動、研究成果の公表とそれによる世論生成などを通じて全国各地の会員の皆さんとともに奮闘していく決意である。