労働組合運動の地域政策発展をめざして

はじめに 地域政策研究プロジェクトの研究活動経過の概要

 労働運動総合研究所は、全労連の三回にわたる地域政策研究集会の開催にあたって研究所内に都度特別のプロジェクトチ−ムを編成し、その成功のために必要な協力を行なってきた。
 その活動の終了に伴い、1999年3月、地域経済の崩壊状況と雇用失業問題の深刻化のなかで、労働組合運動の地域政策活動のあり方を調査、研究するための新たな「地域政策プロジェクト」をスタ−トさせることとなった。
 @プロジェクト活動は、1999年度は、3月以降、新たな体制の確立と活動目標の設定を視野に、暫定的な活動として、以下の研究会を開催した。
 @「北海道における公共事業の雇用、就労実態と改革方向について(北大椎名助教授の報告)」、A「大阪府労連の地域的課題との取り組み(服部大阪府労連副議長の報告)、B「福島県の産業・労働事情と県労連の地域経済と雇用確保の運動(小川福島労連事務局長の報告)、C「都市計画法、中心市街地活性化法等の制定と中小商工業防衛の活動の現状(八幡作新学院大助教授の報告)」、D「地域政策と労働組合運動の今日的意義」(労働総研黒川代表の問題提起)、E「今日の労働組合運動の『地域』に対する認識と地域的課題への方針(労働総研芹沢理事の報告)」、F「『地方自治憲章(案)』の作成意義と基本的内容(中西都留文化大教授の報告)」について討論をおこなった。
 2000年度は、引き続き、G「大垣市の中心市街地活性化の新しい街づくり」(鈴木岐阜経済大教授の報告)、H「埼玉における県労連・地域労連の活動」(原富埼玉労連事務局長の報告)、I「神奈川における神奈川労連の地域活動」(岡本神奈川労連事務局次長の報告)を中心に取り上げた。
 以上のように、地域政策研究プロジェクトの研究会活動は、主に全労連傘下の大阪労連、福島労連、埼玉労連、神奈川労連からそれぞれの地方における労働組合運動の現状と地域経済の再生・発展をめざす運動、緊急雇用対策確立の運動、介護保険問題など福祉充実の取り組み、対自治体要求実現の諸運動、地域組織の拡大の運動などについて副議長、事務局長クラスを招いて、具体的な報告を聞き、それらをめぐって意見交換を行なったことと、研究者サイドから「地域政策と労働組合運動」や「今日の労働組合運動の『地域』認識と地域的課題への対応方針」、自治体労働者の立場から自治体の在り方をまとめた「地方自治憲章」の意義と作成過程などについて、さらに地方の公共事業における雇用、就業実態とその改革方向、中小商工業の存立に関わる中心市街地活性化法など立法政策の問題点、地方都市における市街地活性化のための取り組みなどの具体的報告を受け、その質疑をおこなったことに分けることが出来る。
 そして全体を通して、労働組合運動と住民の要求の解決をめざすさまざまな住民の活動との幅広い対話と共同を発展させ、新たな活力ある「地域再生」をめざす取り組みや問題点などについて研究、討論を行なったが、地域政策研究プロジェクトの研究活動をさらに前進させる上で多くの示唆に富む有益なものであった。
 A地域政策プロジェクトとしては、以上の暫定的活動の成果の上に、今後の「研究計画」として、現代日本の地域社会の階級、階層構造の基本的な認識から地域における労働組合運動をはじめ農民組織、業者団体、中小企業者、その他さまざまな伝統的社会集団、新しい社会運動の特徴的な現状、それらの相互関係も出来るかぎり正確に把握し、今日における労働組合運動の地域政策活動の在り方についての研究討論を行ない、それらをベ−スに、全労連と地方労連の組織、とくに地域政策活動の取り組みの経過と現状、問題点の実情調査も適切な時期を選び、有効な方法で実施していくことを構想として設定した。
 しかし、この「研究計画」の具体化を検討する段階において、「労働総研の研究プロジェクトは、従来からおおむね2年を目途に調査研究活動を終了させ、その成果を対外的に発表して解散することになっている」ことが指摘された。2001年1月の地域政策プロジェクト会合では、プロジェクトの「活動期間2ヵ年」という慣例を遵守してその活動経過と成果をまとめるためには、現在のプロジェクトの体制とメンバ−の活動事情に規定された能力などの各種の主体的諸条件を考慮すると、当初の「研究計画」を大幅に縮小変更して、残余期間は2001年7月末までに纏められる現実的で可能な課題の実施方法に限定していく以外にないのではないかということで基本的に意見の一致を見た。
 この段階で、暫定的に設定したメンバ−から地域政策プロジェクトの正式メンバ−を以下のように確認した。
 黒川 俊雄(労働総研顧問)
 平石 裕一(地域金融問題研究家)
 芹沢 寿良(労働総研理事)
 草島 和幸(労働総研事務局長)
 大江  洸(労働総研代表理事)
 小谷 紘司(政治経済研究所)
 大須 真治(中央大学教授)
 岡本 一(神奈川労連事務局次長)
 八幡 一秀(中央大学教授)
 小川 英雄(福島労連副議長)
 その後、実施に向けて、地域政策プロジェクトとしての活動を締め括る新たな活動をめぐる議論をいろいろと重ね、その結果、@「地域再生をめざす全労連運動における地域政策活動の実践と教訓」をメインテ−マとして、これまで研究会で活動経験や教訓を聴取した全労連傘下の大阪労連、神奈川労連、埼玉労連、福島労連の四地方労連を調査対象にし、より詳細な聞き取り調査・資料調査等を実施して、その活動状況の実態、問題点などを具体的に把握するAその結果は労働総研の報告書としてまとめ公表する−の基本的二点を確認した。
 さらに、労働総研常任理事会との調整、協議を進め、6月下旬に一定の猶予期間の了承を得て、2001年9月からの実施となったのである。 
 @調査対象:
  大阪労連、神奈川労連、埼玉労連、福島労連
 A調査方法:聞き取りと資料調査
 B調査の意義と内容
 今日、わが国は深刻な経済的、政治的、社会的危機が広がるなかで、国民生 活の基盤である地方・地域に、その崩壊につながる数多くの困難や課題が相次いで生じて、打開、解決を求める各種の運動が多様な形で進んでいる。地方・地域の労働組合運動も固有の要求とともに地域的課題を重視し、民主的団体や住民主体の運動団体と共同してその解決をめざす取り組みを積極的に進めている。その現状と問題点をト−タルに調査、把握することは、地域問題解決の運動の前進にとって、また労働組合運動の地域的基盤の新たな構築にとっても今日必要なテ−マである。こうした調査実施に対する関心は高く、期待も大きい。今回の調査は、労働総研としての初めての全労連運動の実情調査ではあるが、時間的な制約のなかで、調査対象は少なく、調査方法も不十分さは免れないものである。そうしたなかでも、可能な限り今後の運動に役立つ問題提起の調査結果となるように取り組みたいと思っている。
 C調査のポイントは、「地方労連の地域政策活動の取り組み」として、四地方労連が特に重視して取り組んだ活動を中心に地域政策の立案決定の過程、運動の組織化(地域住民との関係、社会的な共闘関係)、具体的な展開状況、自治体(議会、行政)・企業、経営者団体との交渉、運動の結果、問題点、取り組み経験からの地域政策活動についての考え方、今後の取り組み方針、計画などの把握とする。
 D調査グル−プ
 大阪労連班:大江 洸、草島和幸、小谷紘司、服部信一郎(特別協力者)  神奈川労連班:黒川俊雄、小谷紘司、岡本 一
 埼玉労連班:芹沢寿良、平石裕一、原富 悟(特別協力者)
 福島労連班:大須真治、八幡一秀、小川英雄
 以上が、地域政策プロジェクトのスタ−トから四地方労連調査の実施にいたる活動経過の概要である。
 なお、各調査グル−プの調査結果に基づく報告書のメインテ−マは以下の通りである。
 @大阪労連の雇用、就業、地域経済を守る運動の推進
 A雇用と地域経済を守るための地域政策−神奈川労連の大企業のリストラ規制の取り組み
 B地方・地域における社会保障運動発展の経験−埼労連と県社保協の「対話・共同」路線による介護保険制度改善の取り組み
 C福島県をめぐる経済・政治情勢と福島県労連の雇用失業のたたかい


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