労働組合運動の地域政策発展をめざして
京浜工業地帯を抱えて大企業の生産拠点であった神奈川は、大企業の地方への展開や海外進出などの影響を受けながらも、製造から研究開発拠点、ハードからソフトへと変化は遂げつつ依然として大企業の大規模な事業所が集積した地域となっている。99年の事業所・企業統計調査結果報告(民営)によれば、製造業の従業員のうち41.2%が300人以上の従業員を抱える大企業で働いている。
同上の資料では神奈川で統計を取り始めてから初めて、事業所数も、従業員数も減少している。しかもサービス業も含めほとんどの産業で、ほとんどの市町村で減少している。その後に不良債権の最終処理や大企業の新たな大規模なリストラが始まっているのだから、神奈川の雇用と地域経済はきわめて深刻である。また、同資料によれば雇用者総数に占める正社員・職員は59.8%、パート・アルバイト30.70%、臨時雇用者2.97%、派遣・下請従業者数6.53%であり、不安定な労働者が増大している。
いすゞ自動車の川崎工場閉鎖及び、三菱自工、松下、NEC、富士通、東芝、日立、三菱電機など大規模なリストラを打ち出している大企業の大規模な事業所を抱え、雇用不安が拡がっている。同時に東芝の取引先6750社の半減などによる調達コストの20%削減に象徴されるような、下請け、関連取引企業の再編もすすめられ、中小企業の経営危機の増大も懸念されている。同時に民事再生法を申請して事実上倒産した池貝に見られるように、メインバンクの債権は100%保障されても取引企業の債権は1〜3%しか保障されないなど、取引先の倒産などによる被害も広がり、そごうに続くマイカルの民事再生手続きによる取引企業への影響も心配されている。
神奈川労連は90年1月の結成大会の方針で「大企業と米軍基地の拠点でもある神奈川」「独占資本の生産・研究開発拠点としての神奈川」と規定し、綱領で「神奈川において、中小商工業者、農・漁民と協力して、産業・経済の民主的転換をはかり、県民生活の向上をめざします」としている。これらに基づき諸活動をすすめながら国・神奈川労働局、県や地方自治体、経済団体へ定期的あるいは必要な時期に要請・交渉し、問題ごとに個別企業などにも要請交渉を行ってきている。
特に県に対しては春闘時期に春闘共闘として、予算編成に合わせて「県民要求を実現し、県政の革新を推進する連絡会(略称県民連絡会)」の労働分野を担って要求を作成・とりまとめ交渉している。県民連絡会は多くの団体が参会し、夏季討論集会なども行い、お互いの要求を理解し合いながら、県民生活・福祉切り捨ての県政に立ち向かい,県民要求を実現しようと言うもので、27年の歴史を持っている。これらの中で、自治体や国がリストラの実態を素早く把握し、雇用や地域経済に対する被害を最小限に抑える要求を情勢の進展に合わせて提起してきている。神奈川労連からの要求に対して、特に県は表向きは一切受け入れない姿勢をとっているが、地方労働局新設と併せた労働行政の国への引き上げに際し、雇用対策課を県の商工労働部に新設させるなど成果をあげている。
93年2月に日産が座間工場の自動車生産中止などリストラ「合理化」が発表されたことに対し、それまでに作られていた不況対策の共同実行委員会を事実上日産座間対策に切り替え、多面的な行動に取り組んだ。
この取組は神奈川労連結成以来、初めての力を集中した大規模な取組となり、マスコミでも度々紹介され、行政や日産にも影響を与え大きな成果も勝ち取った。しかし当時は日産が撤退して他の商業施設などが進出してくれた方が市の税収にも役立つ、座間市や近隣の自治体も企業城下町というわけではなく地域経済への影響もそれほどではない、等の意見が浸透するような状況もあり、これらに十分対応できなかったことから不十分さを残した。同時に座間工場の中に連携をとれる労働者が一人もいなかったことや、神奈川労連や現地の厚木地区労の力量から見て力の集中に限度があったことなども有り、日産と直接交渉することなども出来なかった。また、下請け関連企業などへのアンケートも行い、宣伝訪問活動なども行ったが、三次四次の零細下請けなどと十分に接触できず、神商連(民商)などは仲間から自殺者を出したことからきわめて不十分な取組しかできなかったと総括している。
94年にNKKのリストラが発表されるや、直ちに川崎労連やNKKの日本共産党の党委員会や権利闘争をすすめる会などと協力し、「NKKをはじめとする京浜臨海部のリストラ『合理化』対策会議」を立ち上げて取組をすすめた。(資料*参照)
この取組では、日産座間の経験も生かし更には弁護士などの協力も得て、「地域経済の発展と雇用確保に関する条例」案を作成し、署名行動にも取り組んだ。このたたかいでも、京浜製鉄所はスリムにするが残す、高炉も存続させるなど、大きな成果を勝ち取ったが、条例制定署名については関連する組合員の隅々にまで意義を徹底することや、日常的な推進体制が弱く不十分な結果に終わっている。
神奈川では企業倒産、事業所閉鎖などに伴いパート労働者が一方的に退職金や、雇用保険の適用もないまま解雇されるという事態があいついで起こっている。神奈川労連はこれらに対し、相談が有れば当然だが、相談がない場合でも何とか糸口を見つけ、これらの労働者を支援するために奮闘している。日清食品、日本電気電子無線、キャノン化成等は相談を受け、会社とねばり強く交渉し、わずかだが退職金の支給、雇用保険のさかのぼっての適用などさせている。有明製菓の場合は倒産のニュースがマスコミで報道されたことを受け、各方面に手を打って退職させられるパート労働者の名簿を入手し、かなりの労働者に雇用保険の適用を実現させている。これらの取組から、パート労働者の均等待遇を具体化し、すべての労働者が雇用保険と、ボーナスや退職金を受けられる、希望者には年金に加入できるよう要求を掲げて、宣伝し、国や県に要求している。
神奈川労連として、これまで「対話と共同」の取組として京浜大作戦(97.5と11)、湘南作戦(98.5)、横須賀作戦(98.12)、横浜金沢工業団地作戦(99.6と11)、大和地域作戦が取り組まれてきた。さらに最賃闘争として時給800円以下の企業訪問なども取り組まれている。特に99年に2回にわたって行われた横浜金沢工業団地作戦は、1回目は93名が参加し、早朝から駅頭宣伝、8台の宣伝カーによる宣伝とあわせ、26コースで330を超える中小企業を訪問し、労働組合があるところは労組とも懇談している。うち54社からはその場でアンケートを記入・ヒヤリングを行い、後日郵送で送り返された分を加えると61社からのアンケートが回収出来た。2回目は79人が参加し、34コースで341社を訪問しました。これらのアンケートに基づき横浜市に要求を提出し交渉してその結果を地域に返す宣伝も行った。これらの行動により中小企業の経営者の状況もつかみ、自治体要求として交渉も行いったが、地域労連が独自に持続的に推進していくという点では、力量が不足し、不十分さを残している。
リストラ規制条例制定の取組は、大企業が集中し、大企業労組がほとんどすべて「連合」に組織されている下で、雇用と地域経済を守るために自治体の権限を活用しようと、これまで2回取り組まれた。1回目は95年春闘で円高不況打開神奈川県共同実行委員会を結成し、「不況から県民、労働者、中小零細企業・業者を守るために『地域経済の発展と雇用の確保に関する条例』及び、『地域経済と中小企業・業者の振興をはかる条例』の制定を求める請願」運動として取り組まれた。日産座間の取組をふまえ、NKKのリストラに対する闘いをすすめながら、もはや1企業・1事業所のリストラではなく、県内全域、特に京浜臨海部のいたる所のリストラであり、新たな取組が必要と計画されたものである。弁護士や民主商工会などの協力も得て、2つの条例案なども作成した。しかし、大量に署名を集めるという点では、2つの条例の関連がわかりにくかったことや、激しいリストラにあっているところは主に連合職場という状況もあり、成功したとは言えない状況であった。ただ、川崎市への請願提出・条例案の説明などでは市当局が緊張し条例案は受け取れないと対応するなど、この取組の重要性を改めて確認させる結果となった。
2回目はさらに大規模なリストラがすすむ中で、99年から2000年にかけて神奈川労連の重要なたたかいとして取り組まれた。99年7月末に大企業労働者・日本共産党・弁護士などと共同し、「大企業の横暴を許さず、不況打開、雇用確保、地域経済の振興をはかる対策会議」(略称リストラ対策会議)を結成し、そこでも議論しながらすすめられた。前会の教訓もふまえ、学習討議資料なども作り、県宛とそれぞれの市町村宛の請願を左右に附けた署名用紙を大量作成してすすめられた。街頭での宣伝署名行動では女子高校生や茶髪の若者など、老若男女を問わず歓迎された。しかし市町村議会は「企業に対しリストラを規制することは出来ない」「国や県の仕事」などの対応が多かった。中には「リストラ規制は憲法違反」(横浜市議会―公明党)など極端な意見も出された。しかし「今度勉強会をやりましょう」「慎重審議の立場で望みたい」「リストラの実態を調査していないのは問題」など、各政党からの意見も寄せられた。雇用問題に自治体が本格的に取り組んで行かざるをえないという認識は拡がっており、大企業のリストラについても何とかしなければという意識も生まれ始めている。署名数としては、生協労組など組織人員を大幅に上回ったところもあったが、全体としては組織人員の半分程度に終わっている。この時期の重点課題として取り組まれているが、現実には「7大署名」が取り組まれおり、多くの課題が集中している中でそれぞれをどう成功させるか、新たな検討が求められている。
川崎市の地域経済振興条例の直接請求運動は民商や建設労連、川崎労連などを中心に2000年暮れから2001年春にかけて取り組まれた。この取組は前回の2つの条例案制定運動の反省から、地域経済振興に絞った内容とし、これまでの神奈川の運動や、全国各地の経験を学ぶために学者・研究者や各地の経験を積んだ人達をまねいて、全市的、行政区ごと、団体ごとなどに学習会を行いながらすすめられた。神奈川労連も川崎労連と共同で統一行動日をもうけ、比較的取組の弱い地域での宣伝・戸別訪問なども行った。この署名は共感を持って受け止められ、特に商店街ではどこでも歓迎された。市民団体も含め、川崎市内の各団体が今まで取り組んだ署名の中で最高の数を集め、9万3073筆、選管の審査による有効署名数は、8万1751筆となった。
しかし臨時市議会では日本共産党を除く各党が「これまでの市の施策で十分間に合っている」等の口実で条例制定は必要ないとした市長の意見書に賛同し、大企業悪者論だ等の意見を述べ条例案を否決した。
神奈川労連としては、独占大企業のリストラ規制を系統的に追及し、一定の成果もあげてきている。しかし、神奈川労連が追及している自治体等を活用した規制については成功していない。この点では国会論戦なども通じて、解雇やリストラを規制することは、ヨーロッパなどでは既に行われており、資本主義・自由主義経済の下でも当然であるとの世論を拡げていくことが重要である。同時に連合などとの共同、中小企業の経営者、業者、青年、女性、失業者などそれぞれの切実な要求を尊重しながら、雇用と権利を守るために大企業の横暴を規制する闘いを大きく拡げていくことが求められている。
調査チームは、2001年9月上旬から中旬にかけて、川崎地域の中小業者の聞き取り(9月3日)、「リストラを止め地域活性化をはかるシンポジウム」に参加(9月8日)、JMIU池貝支部の聞き取り(9月10日)、県内の中小企業の聞き取り(9月17日)などを行った。これらの聞き取りをもとに地域が神奈川労連に何を期待しているかなどを概略的に示す
川崎市を中心とする電機、自動車、工作機械などの製造業大企業は、今相次いで大規模なリストラ計画をすすめている。そのうち東芝、いすゞ、池貝の状況を紹介する。
東芝は、2004年3月末までに国内外のグループ従業員18万8000人の1割に相当する1万8800人の人員削減、うち国内従業員が1万7000人、国内21工場の3割統廃合、中国などアジア地域中心に海外生産拠点拡大、調達先も現在ある6750社を半減するという計画を発表した(2001年8月28日付『朝日新聞』)。
この間に会社は労働者と何回も面接を行い転籍、退職を強要してきた。初めは反対していた労働者も切り崩されてきている。関連会社、派遣会社の労働者にも大きな影響を及ぼしている。
連合の労働組合は、会社のすすめる合理化に労働組合も積極的に協力していくという立場をとっている。
東芝の活動家は職場内で頑張って闘ってきた。今後は地域や行政にも目を向けていく。争議をやってきた関係でこの間地域向けにも宣伝行動を取り組んできた。地域からもいろいろ声が出ている。東芝の事業所が集中していている堀川工場の周辺では、従業員の地域に与える影響も大きく、2000年10月工場閉鎖、賃金・労働条件切り下げの中で、西口商店街では従業員の人たちが来ないという声が出ている。出向、転籍の中で家も買えない。地域の商店街で飲んだり食べたりということもなくなってきている。このような地域への影響もたいへん大きい。
いすゞは、2100人が働く川崎工場を2005年末に閉鎖、グループ全体3万8000人のうち3年間で9700人(約25%)を削減する(700名の希望退職を含む)という計画を発表した(5月28日付け『いすゞ新聞』(社内報)号外)。
希望退職については、応募期間が7月16日から2週間、午前10時から12時までの午前中に行なわれることになっていたが、1日目のたった2時間で希望退職600人枠に対して640人が応募し、結果は634人が希望退職に応じ、会社の希望通りになった。実際には6月末から希望退職の受付けが始まるまで1カ月間に個別に対象者を面談していた。3回〜5回と面談され、「おまえの仕事はもうないんだから、やめるしかない」としつこく強要され、思いあまって労働組合に来た人もあった。
社長は、自動車もこれからはユニクロ化していくと公言している。川崎でやっている仕事(小型〜中型車、バス、トラック)はすべて2002年4月から中国でやれるようになった、中国でフル生産が可能になったと言っている。世界規模のリストラに対する闘いである。
池貝は2001年4月に民事再生法にもとづく再生計画を申請した。その内容は、@川崎工場、川口工場を売却し茨城工場に集約する、A従業員は550名全員解雇した上で、新たに120名を1年契約で再雇用し、労働条件も見直し時間外手当を30%から25%へ切り下げ、サービス残業を20時間する、B退職金は50%を支払う、C協力会社、下請けの人たちの債権は、1〜3%を支払う、D日本興業などの銀行債権は、100%支払う、などである。
東京地裁が民事再生法に基づいて任命した監督委員も、これはあまりにも酷い、労働債権は優先債権であり100%であるべきだと言っている。監督委員の出した文書では、銀行は池貝の経営状況を分かり得る立場にあり、労働者はそれを分かり得ない中で急に解雇というのはおかしい、銀行のみが100%持っていくのは公平・公正さを欠くと書いている。
労働組合(JMIU)は、日本興業銀行が社長を送り込んできたのだから、興銀が破産と再生の責任を持つべきだと主張している。また、戦前からあるこの工場を残すべきであると主張している。
一般債権者(協力会社、下請企業など)は700数十社あるようだが、川口工場では協力会社10社が反対をしている。協力会社、一次下請けには説明されたかも知れないが、二次以下の下請けに対しては直接取引ではないので説明もされていない。2001年8月の一般債権者説明会でも200数十社しか来ておらず、そこでは質問、意見は一言もなく、会社の根回しが進んでいることと、諦めが広がっていることを示している。
市行政では、下請け関連業者の救済として、50万円以上の負債のあるところに対して緊急融資をするとのことだった。
労働組合(JMIU)は、川崎市から企業が減り労働者が減っていくことは地域経済にも大きな影響を与えるので、雇用と地域経済活性化のために自治体としても企業の再建を要請すべきだと働きかけている。工場の回りの地域にこれまで2回ぐらいビラをまいたが、地域の人々は会社や労働者が今どうなっているかなど全く知らない状態なので、9月にはビラ3万枚をこの地域・幸区にまき、ビラをまきながら地域の人々と話し合う計画である。JAMが会社側の提案が出てすぐに全員解雇に賛成してしまった中で、JMIUは再建を目指しつつ頑張っている。
(注)この調査は2001年9月を中心に聞き取り調査をおこない、報告書は2002年2月にはほぼ終わっている。従ってその後の状況が極端に変化した部分もある。 池貝の争議は今年の3月29日には横浜地裁で職権和解が成立し、全面勝利解決した。解決協定の主な中身は@会社及び前社長の謝罪と前社長の私財の提供。A解雇の撤回と希望者全員15人の再雇用。B労働債権の実質100%保障。C企業再建にむけ労使関係の正常化。など画期的な内容となっている。
この勝利の要因は@職場の団結を基礎に、JMIU、神奈川労連、川崎労連、東京労連、茨城労連等の協力を得て支援共闘会議を結成し、民主的な運営を貫き、全国的なたたかいも含め、 ねばり強いたたかいをすすめたこと。A労働債権のかたに工場の一部を合法的に占拠し、 ここを活動の拠点にするとともに、会社再建のために不可欠な工場用地の売却には労組の 同意が必要な状況を作り出したこと。B優秀で強力な弁護団を結成し、地方労働委員会や 裁判所を有利に活用し、交渉のテーブルを常時もうけたこと。C精力的な調査分析に基づく大規模で当を得た宣伝により、銀行だけが債権を100%回収でき、一般債権者はほとんど回収できず、労働者の退職金などもほとんど保障されないことに対する批判の世論を 作り出したこと。D監督委員などへの働きかけを系統的におこない「金融機関のみ全額を 回収することは、衡平・公正を欠く」との意見書などもださせ、裁判長の共感をも得たこ と。E日本共産党の協力も得て、木島則夫衆院議員の国会質問などにより、金融庁などの圧力や妨害を許さなかったこと。などである。
(詳しい総括は池貝争議の記録集など参照してください。)
大企業のリストラは、関連会社、協力会社、下請企業、納入企業などの労働者、自営業者、さらには商店街などに大きな影響を及ぼしている。「工場をなくさないでほしい」「リストラは止めてほしい」「地域経済の活性化を」などの声が地域に拡がっている。
下請中小業者の多い川崎市中原区では、「仕事が5分の1に減った」「仕事が全くない月が4カ月も続いている」など深刻な状態が拡がっており、倒産、廃業も多数出ている。
下請単価は、グローバル単価、アジア単価が押し付けられている。中国、ベトナム、フィリピンなどへ生産拠点を移し、国内の産業空洞化がすすんでいる。このような状態を続けていけば国内の技能・技術はゼロになってしまうのではないかと懸念されている。いったん仕事が国外に出てしまうと、再び戻ってこない。また、国外に出ていく仕事がどんどん高度なもの(例えば金型など)になっている。川崎の大企業の大規模なリストラと海外移転によって、地域経済がますます大変になるとみんな心配している。
打開策としては、一つは、相手の顔が見える位置でのネットワークづくりで、仕事の受け皿、社会的な受け皿をつくること、また、そのためのシンクタンク組織として全体をレイアウトしコーディネートできる自前のシンクタンク能力を、難しいがつくることを検討している。
二つは、地域経済を担う立場から行政に働きかけることを重視している。「地域経済振興条例」制定の直接請求は否決されたが、これを無視できないという状況をつくり出した。予算措置も行わせ、中小企業が地域経済の中で役割を担える部分を拡大をしていく取組みを重視している。
今後の方向としては、自立化へ向けての意識変革にも取り組んでいく。また、これからは地域循環的な経済をつくっていく上で、具体的な仕事おこし、中小業者の営業にプラスになるものを、行政にも働きかけていく。自治体が地域をもっとよく知るために、実態調査をやることを要求していく。対案を地域中小企業の側からも出していく。
法制の事業協同組合をつくったところもその形態を生かし切れず、組合員から廃業も出ている状況である。
下野毛工業協同組合では、聞き取り調査をした前月末に4軒ほど廃棄した。仕事が出なくなり、全く仕事がない時期が3カ月、半年と続いていた。携帯ウオークマンに使う小さなネジを作っていた引き物屋さんは、その仕事がそっくりなくなったが、これは親会社の生産の海外移転の影響である。協同組合の中で自社開発能力を持っている企業が組合内にも仕事を回してくれていたが、現在はその仕事(半導体のボンディングの装置)がピタッと止まってしまったために規模を縮小、今年6月に社長が交代した。地域の10社ぐらいに下請けの仕事を出してくれていたが、現在その下請の人たちの仕事は全くなくなった。
東芝、NEC、富士通などの相次ぐリストラ計画は、今後いっそう影響を拡げるだろう。東芝は、既に数年前に分社化、リストラをすすめ、NECも既に県内の製造部門がなくなってきている。NEC山形は富士ゼロックスに売却し、静岡日電の電子機器関係を集約している。協同組合の取組みとしては、雇用開発能力事業団から第1種助成金を年間800万円×3年間受け、それが終わって今年からは第2種助成金を200万円×2年間、トータルで5年間の助成を受けて、雇用と労働条件の向上などに取り組んでいる。また、このところ急激に労働法が改定されているので、その啓蒙活動を監督署や職業安定所と提携してやっている。
協同組合として仕事を増やしていく取組みは難しく、ネットワークをつくって仕事をおこしというのも、相手が見えないと大変難しい。
今後の方向としては、例えば、介護用品、福祉機器なども簡単に見えるかも知れないがなかなか難しい。先述の開発助成金は、このような技術・製品開発には使えない。お金の使い方ももう少しフリーにしてほしい。大学の研究室がだいぶんオープンになってきているので、中小企業との共同・提携の道がもっと開けないかと検討している。中小企業は大企業のような資金力にものを言わせた市場づくりなどできない。地域の労働者とも共同・提携して仕事おこしなどを進めていきたいと考えている。ニーズを集め、必要とされているものを作る方向を検討している。
半導体関係、分析装置関係などに携わっている中小企業が多いが、大変厳しい状況になっていて、最盛期の3割、4割の仕事量になっている、ある日突然会社がなくなっているという状況が出ている。そのほか流通関係も大変厳しい状況である。「ものづくり」は、設備投資が冷え込んでおり、仕事量が3割減などの会社が多い。神奈川ではピラミッド型構造の中に組み込まれてきたので、大企業のリストラなどの影響は大変大きい。
神奈川の中小企業家同友会の取組みとしては、産学連携、青年経営者交流会、経営計画づくり、行政との懇談会、小規模経営問題、事例研究などでディスカッションなどをすすめる。運動面では「金融アセスメント法」制定の要求署名運動をすすめている。
自治体との関係では、雇用問題などを中心に取組んでいる。厳しい中でも会員企業で昨年1年間で200人くらいの新卒を採用し地域に貢献した。
大企業がどんどん海外進出し、これからは中小企業考えないと言われる下で、中小企業の経営者は本当に勉強しなければならないと考えている。
聞き取りの中でおよそ次のような要求が出された。
@大企業の工場閉鎖や人員削減を認めないでほしい。その影響は関連会社、下請企業、商店街、地域に広範に及ぶ。
A工場で何が起こっているのか、関連企業、下請企業、地域にも知らせてほしい。関連企業、下請企業、地域でも何かできないのか協議してほしい。
B大企業が下請企業にたいして突然仕事を打ち切ったり無理な単価切り下げを強要しないよう、大企業の経営者に働きかけてほしい。
C大企業が地域にも責任を果たし地域活性化に協力するようすように、大企業の経営者に働きかけてほしい。
これらの要求に対して、県労連は次ぎの様な取組みが必要ではないか。
@工場閉鎖・縮小等にあたっては、関連会社、協力会社、下請企業(二次以下含む)、納入企業、商店街、地域等に与える影響を当該会社に調査させ報告させるとともに、事前説明させ、影響回避策を協議させる。
Aニュース、ビラ等で地域に知らせる活動や懇談・相談などを行う。
B大企業に下請関連二法などを順守させる。
親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、又は大幅に減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間を持って予告するものとする。
取引単価は、取引数量、納期の長短、納品頻度の多寡、代金の支払い方法、品質、材料費、労務費及び市価の動向等の要素を考慮し、合理的な算定方式に基づき、下請中小企業の適正な利益を確保及び労働条件の改善が可能となるよう、下請事業者及び親事業者が協議して決定するものとする。
親事業者は、海外進出並びに事業所の集約化等に伴う移転、閉鎖及び内製化等の合理化について、下請事業者に情報提供しつつ、下請事業者が行う製品多角化及び新規親事業者の開拓等の対応に対して支援をするものとする。親事業者は、短期間における経済情勢の急激な変化により、自らが受ける影響を下請事業者に不当に転嫁しないよう努めるものとする。
上記のような要求にもとづきつつ、労働組合としては地域政策について理論的・実践的にもいっそう深める必要があるのではないか。とりあえず次のような点について検討する。
企業の社会的責任、労働組合の地域における役割について。
(雇用、就業、納税、所得向上、消費、社会保障など多岐にわたるのでは)。
労働債権、下請の債権などについて。
(労働債権の優先、下請代金の内容もほとんどが賃金)。
関連会社・協力会社・下請企業(二次以下含む)、納入企業などとの提携について。(組合のないところもあるのでどのようにすすめるか)。
地域の共同組織について。
(地域の共同組織で地域政策をつくる。地域の諸階層が参加できる運動に)。
川崎市の全産業従業者総数468,140人のうち、従業員(労働者)総数は412,380人で、これが労働組合組織対象数である。個人業主・家族従業者・有給役員総数55,750人は、民商・中小企業家同友会の組織対象となる(表A、1999年7月1日現在)。
従業員(労働者)の産業別分布状況は、サービス業118,016人(28.6%)、卸売・小売・飲食店108,759人(26.4%)、製造業107,840人(26.2%)などで、この3産業で8割を超える。労働組合組織化はそれぞれ産別で行われている。それぞれの産別労働組合の組織率はさまざまである。
全産業従業者(労働者)の就労形態は、正社員・職員が284,439人(60.0%)、パート・アルバイト等116,852人(28.3%)、臨時雇用者11,099人(2.7%)、派遣・下請従業者37,058人(9.0%)である。正社員・職員とその他の不安定就労(計165,009人)の割合は6対4である。
正社員・職員数が最も多い産業は製造業95,757人で、次いでサービス業84,497人、卸売・小売・飲食店42,489人などである。
不安定就労者数が特に高いのは卸売・小売・飲食店69,570人で6割を超える。そのほかの産業でもかなり高い割合を示している。
不安定就労者数を形態別で見ると、パート・アルバイト等が多いのは卸売・小売・飲食店63,271人で、次いでサービス業29,965人、製造業11,282人などである。派遣・下請従業者が多いのは、製造業10,020人で、次いで建設業7,420人、運輸・通信業5,846人などである。
このほかに失業者が約3万人はいるものと見られる。
したがって、労働組合は正社員・職員はもちろんのこと、多くの不安定就労者についても、かつ失業者をも視野に入れて、組織化をすすめる必要がある。それぞれどのように組織化していくのか、一様ではないが、産別労組、産別労組地域支部、地域労組など、適切で加入しやすい形態ですすめていくことが大事であろう。
川崎市では製造業労働者の7割以上を機械金属工業労働者が占める。したがって、機械金属工業労働者の組織化が製造業においては最重要である。
機械金属工業労働者のうち5割は電気機械器具製造業の労働者であり、その組織化は極めて重要である(表B)。しかし、電気機械器具製造業の労働者は6割以上が大企業に雇用されている(表C)。ここは連合が組織しているので、活動家に依拠しつつ県労連・地域労連規模ですすめることになろう。また、電気機械器具製造業では派遣・下請従業者が6,318人(13%)もいるが、協力会社・下請企業の労働者との提携やその組織化に乗り出すことが大事であろう。パート・アルバイト等も3113人(6%)いるので、この組織化の落とせないだろう。電機における組織化の経験は他の業種にも生かせるだろう。
そのほか一般機械器具製造業などの大企業で少数でも全労連産別組合があって一定の影響力を持っているところの取組みも極めて重要である。ここでも県労連・地域労連の取組みと支援が大事であろう。
現在最も激しくリストラがすすめられているのが電機大企業である。この民主的規制が今回の調査(労働総研・地域政策プロジェクト・神奈川)のメインである。これは神奈川(川崎)の製造業の中心であり、地域経済の及ぼす影響も大きい。
上記の組織化と併せて大企業の民主的規制の運動をどのようにすすめるか。上記の正社員・職員はもちろん、派遣・下請従業者、パート・アルバイト、臨時、さらには地域に散らばっている多くの下請中小企業・業者などの要求を全てくみ上げ、それらの人々を運動の主体としながら県労連・地域労連が役割を発揮し地域ぐるみで運動をすすめることが大事である。
政策的課題としては、雇用・就業と地域経済を守ることが中心的課題となるが、実践的・具体的にどのような内容を大企業や政府に迫っていくのか。上記の人々の要求にもとづくが、基本的な方向としては、解雇しない、閉鎖しない、地域の仕事を保障する、地域経済への悪影響を回避する、などであろう。経営者の責任、大企業の社会的責任を追及するとともに、「解雇規制法」制定などの法的措置を求める運動を地域ぐるみですすめることや、背景資本に対する運動、小泉「構造改革」をやめさせる国民的運動、産業振興を求める運動などが必要になろう。
未組織労働者は中小企業・小企業のところに多い。ここではさまざまな形で大企業の圧迫を受けており、そのしわ寄せが労働者に行くことが多い。特に小売業・飲食店、サービス業では事業所そのものが多産多死であるとともに、パート・アルバイトなどの不安定就労が多い。ここの労働者の雇用と生活の安定のために組織化は欠かせない。これをどのようにすすめるか、産別と言ってもない分野もあり、一般、合同、地域労組などあらゆる形で組織化する必要があろう。
同時に、この分野では中小企業・小企業が多いが、これらの人々を大企業の民主的規制、雇用・就業と地域経済を守る運動の共同の輪に入ってもらい、地域ぐるみの大きな運動体をつくることが大事であろう。これまでも県民連絡会を結成して運動がすすめられているが、それを今の情勢に見合っていっそう前進させ、県労連・地域労連がその中心的役割を果たすことが強く求められている。
京浜工場地帯を抱える神奈川県は、長引く「不況」と大企業の地方展開や海外進出などによって、大企業の生産拠点から研究開発拠点に変わりつつあるとはいえ、相変わらず大企業の事業所が集積する地域である。そしてサービス業も含めてほとんどの産業で事業所数と従業員数も減少してきた。その上いまや不良債権の最終処理、新たな「リストラ」と称する大企業の大量解雇、事業所閉鎖、企業倒産に伴う大規模な雇用削減や下請再編・削減がおこなわれてきた。このような「リストラ」を規制する条例の制定に神奈川労連は、大企業労組がほとんどすべて「連合」に加盟している中で取り組んできた。その取り組みは「地域経済の発展と雇用の確保に関する条例」や「地域経済と中小企業・業者の振興をはかる条例」などの制定をめざす請願運動である。そして川崎市の地域経済振興条例の直接請求運動が民商、建設労連、川崎労連などによって取り組まれた。神奈川労連としては「一定の成果をあげている」とはいえ、「自治体等を活用した規制については成功していない」としている。
「リストラ」規制と言っても、具体的には解雇規制、倒産企業に対する労働債権の保護強化、下請関連二法の活用と改善を地域から追及して立法化をめざす全国的な国民共同行動に発展させることが不可欠である。
解雇規制については、日本にも、整理解雇4要件という整理解雇法理があるけれども、それは実態法的な規制ではなく、労働組合運動の成果とはいえ、判例法理であるために、要件上および立証責任上の明確性を欠いている。それゆえ財界・政府は、この整理解雇法理が「終身雇用慣行」を前提としているとし、「バブル」崩壊後「終身雇用慣行」の終焉を口実にして、「解雇の自由」を一層前面に出し、解雇の正当性の立証責任を使用者が負わずに、判例法理の整理解雇4要件を緩和し、さらにその適用そのものを否定するまでになってきている。
もともと「終身雇用慣行」自体が大企業中心の慣行であり、中小企業ではそのまま妥当しない。しかも政府財界が言うように、日本の大企業が「終身雇用慣行」を取ってきているから整理解雇法理が生まれたわけではない。日本の整理解雇法理も、労働組合運動の成果とは言え、ドイツで1951年に制定された解雇制限法や1963年に採択されたILOの「使用者の発意による雇用の終了に関する勧告」(第119号)の影響を受けている。
ドイツでは1920年の従業員代表委員会制度の継続の上に、戦後1951年に解雇制限法が制定されて、これが解雇規制立法の先駆となった。同法は従業員代表に対する使用者の事前の企業情報開示と労使協議を前提にして、「社会的に不当」な解雇は無効として、解雇を「@労働者の行為・態度による解雇」「A労働者の一身上の理由による解雇」「B経営者の必要性による解雇」という三つに類型化して、いずれについても「社会的正当性」を立証する根拠を持たない解雇は無効であるとしている。しかも解雇を「最終手段」としてのみ承認するという立場から解雇回避可能である場合にも解雇は無効であるとしている。そして「社会的正当性」の立証責任は使用者にあくまであるとしている。
「経営上の必要性による解雇」の有効要件は日本の整理解雇四要件と同じように、@緊迫した経営上の必要性、A解雇回避努力を尽くすことの必要性(配転の可能性、職業転換、向上訓練による継続雇用の可能性、労働条件変更による雇用の可能性、他の職場の時間外労働規制や短縮労働による雇用継続の可能性など)、B「社会的視点」(労働者の事業所所属期間、労働者本人と家族の収入・財産状況、労働者の年齢、健康状態、転居の有無など)を十分考慮することの必要性、「C経営組織法(1952年制定、72年全面改正)による従業員代表委員会の事前の意見聴取の必要性と異議申し立てによる訴訟終結までの継続雇用、となっている。
しかし1970年代に、ヨーロッパでも解雇規制が立法化されている国は、このドイツとオランダなど少数であり、フランスでも立法化されたのは1975年であった。それ故1973年に多国籍化学企業であるAKZO社が、ドイツ、オランダを避けてベルギーで大量解雇を実施しようとして大きな問題になった。そこで旧ECは1975年「大量解雇に関する加盟国の法制の接近に関する指令」を出して、労働者に責任のない理由によって30日間企業規模別に従業員の10%相当の人員を解雇するか、90日間に20人以上の従業員を解雇する場合、大量解雇を回避し限定する可能性について使用者は従業員代表と意見の一致が得られるように協議し、従業員代表がこれに建設的提案が出来るように関連情報すべてを適宜提供しなければならない、とした。そして92年に改正して多国籍企業の国外の親企業の決定による子会社の解雇も適用されることになった。
一方、ILOは1982年に63年の119号勧告を発展させた「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(158号)および166号勧告を採択し、「雇用は…妥当な理由がないかぎり、終了させてはならない」とし、「経済的解雇」(=整理解雇)については、従業員代表との雇用終了理由等の情報提供、終了を回避し最小にする措置に関する協議、終了に妥当な理由があることを立証する責任が使用者にあることを規定した。
しかし、日本にはいまだにこのような解雇規制立法はなく、その前提となっているドイツの従業員代表委員制度やフランスの企業委員会制度による事前の企業情報開示・労働組合の枠を越えた協議制度も立法化されてはいない。それゆえILO条約・勧告やEU指令などで国際労働法上常識になっている解雇の正当性の立証責任が使用者にあることを自覚していない日本の使用者に「解雇の自由」があると日本の財界・政府は主張しているために、使用者が事前に企業情報開示もせず、解雇権を濫用しながら、その濫用の立証責任を労働者に負わせるようになってきている。このような流れの中で、大企業のリストラは、雇用労働者に対してだけでなく、中小企業、自営業者に対しても、下請関連二法にさえ違反して、協議もせずに、契約を一方的に無視したり、変更したり、打切ったりしてきている。その結果、失業者・半失業者が激増して「個人消費の低迷」をひきおこして、地域の自営業者、中小企業者、農漁民の営業と生活のゆきづまりや、地域に密着した銀行、金融機関の経営難を生み出してきている。
以上のような流れを変えるためには、地域や企業内の複数の組織系統の労働組合は、労働組合の存在理由の原点に立ち返って団結し、共闘を進め、解雇規制の立法化をめざす国民的共同行動を地域から全国に向けて組織していくことが重要な課題になってきている。
民事再生法を申請して事実上倒産した池貝の場合、連合JAMに加盟するイケガイユニオン(組合員数430名)と全労連JMIU池貝支部(組合員数29名)の二つの労働組合を中心に全員解雇後も多くの労働債権者が行動してきている。
しかし、労働債権者に支払われる退職金は未払い状態がつづいており、これは明らかに労働基準法第24条違反である。
ところが、池貝に経営者を送り込んできている日本興業銀行を中心とする抵当権者などの「別除権者」である金融機関が全額を回収することになっている「再生計画案」が出された。そして池貝との取引企業の再生債権は1〜3%しか弁済されないことになっている。それゆえ裁判所が職権で選任している監督委員も「再生計画案に対する意見書」の中で、「別除権付債権」に対する「労働債権」との関係で「衡平・公正を欠く」と指摘している。この「再生計画案」は東京地方裁判所が2001年10月3日に認可決定するところとなったが、2001年11月7日の衆議院厚生労働委員会で厚生労働大臣は「労働債権保護の観点から十分な対応に努めてまいりたいと考えます」と日本共産党の木島日出夫委員に答弁している。
現在、池貝に見られるように、企業倒産で解雇された従業員の退職金が確保されない事例がふえている。民事再生法では、給与、解雇予告手当、退職金など、従業員の労働債権は、再生手続前は「一般の先取特権」として債務者の一般財産からの優先弁済が認められ、再生手続開始後は、「計画」によらずに随時支払われる「共益債権」とされている。そして再生債務者である倒産企業の従業員の労働債権の弁済に金融機関が抵当物件の売却代金を充てるように、従業員が金融機関と折衝することになっている。
旧労働省の「労働債権の保護に関する研究会報告書」(2000年12月13日)は、労働債権と抵当権、租税債権との優先劣後関係の根本問題を調査している。
ILOは1949年「賃金保護条約」を採択してから、「使用者の支払い不能の場合における労働者債権(Workers’ Claims)の保護を促進した加盟諸国の法令および慣行に著しい進展が見られた」ので、1992年に「使用者の支払不能の場合における労働者債権の保護に関する条約」(173号)を採択した。日本政府は(前述のILOの1982年の「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(158号)も批准していないが)この173号条約も国内法制の現状から批准しがたいと見て採択にあたって棄権しており、いまだに批准してない。この173号条約第8条には「労働者債権については、国内法令により、特権を与えられた他の大部分の債権、特に国及び社会保障制度の債権よりも高い順位の特権を与える」とされている。そしてフランスでは、労働者債権は租税債権だけでなく抵当債権よりも優先されることになっている。
いずれにせよ、労働者債権を最優先させるようになってきているのは、人権尊重の思想の発展にもとづいている。
日本では、労働者債権が保護される度合いが企業形態の違いによって「一般の先取特権」としても、商法第295条に比べて民法第308条では弱くなっている。また、労働者債権が保護される労働者の範囲については、民法第308条で「雇人」、商法第295条で「使用人」となっているように、雇用労働者だけであって、「請負」や「委託」等の契約にもとづいて労務を供給する者を含めてはいない。
しかし、ILO条約で「労働者債権」というのは‘Workers Claims’の訳であって‘Worker’は雇用労働者に限られるものではない。下請関係が普及してきている日本では、企業倒産によって債権者となっている業者も、“売掛け債権”だけでなく、「自家労賃」も保護されるように保護を強化すべきである。そして日本では、中小零細業者・自営業者が「大企業体制」のもとで上下関係となっているピラミッド型下請関係に依存して“仕事が来る”のを待ってきたが、地域で困難ではあるが工夫に工夫をこらして“仕事おこし”をすすめて、「リストラ」・親企業倒産を逆手に取って、対等・平等な取引き関係をつくり出していくチャンスにしていくことが大切である。そのためには、“仕事おこし”だけでなく、“地域づくり”“まちおこし”などと言われる地域振興政策を、雇用労働者の組織である労働組合が中心になって、中小企業者、自営業者、農漁民の団体や市民団体と協力して「対話と共同」によって作成し、実現していくための国民共同行動を、地域から全国に向けて組織していくことが重要な課題になってきている。
2000.11.24:労働総研地域政策研究プロジェクト研究会で岡本が「神奈川における神奈川労連の地域活動」について報告
2001.06.22:調査グループの編成確定。黒川、小谷、岡本が神奈川担当となり、今後のスケジュールなど相談。
08.28:神奈川チームで調査テーマ、方法など相談。川崎を中心に大企業のリストラの影響と民主的規制へのローカルセンターのとりくみ、今後の方向などを中心とすることを確認。
09.03:川崎地域の中小業者の状態について聞き取り調査を行う。(1)有限会社中川製作所代表取締役 中川克之氏(民商)から、仕事の大幅減少、単価切り下げ、地域経済の空洞化の現状、その打開策と今後の方向について聞く。下野毛工業協同組合副理事長・有限会社オリエント精機代表取締役 安藤靖氏から、廃業の現状、協同組合の取り組みと今後の方向について聞く。
09.08:川崎でおこなわれたシンポジューム「リストラを止め、地域経済の活性化をはかる」(主催「市民の会」とともに川崎市長選挙を勝利させる労働者の会)に参加し、終了後大企業の労働者からリストラの実態など聞き取り調査。
09.10:工場の一部を占拠中の池貝(川崎市幸区)を訪問し、JMIU池貝支部の役員等から労働争議、労組の活動等について聞き取り調査。
09.17:神奈川県中小企業家同友会事務局長から、中小企業の状況、同友会の響力、その取り組みと今後の方向について聞き取り調査を行う。
10.01:神奈川チームで報告書の柱立てなど相談
11.29:報告書の検討、補論の内容など意見交換
2002.02.22:報告書の検討、まとめ
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